2.ネフィル―9
「ありがとうございます。助かります。じゃあ馬車で行きましょう。えーっと…」ノジマが老婆に話し掛けた。
話し掛けられた老婆は一瞬ノジマの出で立ちに目を見開いたが、すぐに表情を緩めて答えた。
「私はアイクラと言います。馬車はありがたい。実は朝から歩き詰めでね、少し膝が痛かったんだ」
「ワイルドだな」リュウは思ったことをそのまま口にした。「じゃあ馬車はいいよな。馬はいねぇけど」リュウは軽口を叩き、ふと思い出す。
「そういやノジマさん、馬車置いてきたのかよ」
するとノジマの表情が曇った。「ああ、それは…」どうにも歯切れが悪い。
「ん?どうしたんだよ。放置してきたんじゃねぇの」
するとその隣からエミが弾けんばかりの笑顔で言った。「それなら大丈夫だよ。見張り役を置いてきたから」
見張り役?エミの言っていることがいまいち分からず、助けを求めるようにノジマを見た。するとその顔が引き攣っている。
ノジマのあんな顔はあまり見たことがない。たまに見るのは物凄く面倒臭い仕事をリュウが勝手に取ってきた時。あとはあの時、リュウを押し付けられたあの時くらいか。
嫌な予感を感じ取りながら、リュウはエミに確認した。
「見張り役も何も、そんな人員居ねぇじゃん。俺とノジマさんと、あとエミだけ。全員ここに居んのに誰が見張ってるってんだよ」
「えっとね、ガブだよ」エミは能天気とでも言えばよいのか、朗らかな声を出した。
「いや、誰だよ」ガブだよ、じゃねぇよ。
「ほら、初めて会ったときに噛み付いてきた子だよ」
「いや、だから誰だよ」エミの笑顔にリュウは戸惑った。
もしかしてコイツ、ヤベーヤツなんじゃねぇのか。そんなことを今更ながらに思う。




