2.ネフィル―2
リュウが飛び上がる。ノジマもさっと身構えた。馬車に急ブレーキが掛かり、リュウと一緒にノジマはつんのめった。馬車に乗せていた衣服類を詰めた木箱や、ヒガシノクニが発行している通貨を入れた布袋、飲み水を貯めたボトルなどが転がる。
体勢を立て直しつつ声の出所を探した。少し遠かった気がするが、と馬車の窓から外を覗く。
馬車は荷台の上に小屋を乗せたような格好をしていた。その両側に窓として穴を開けてある。ノジマはそこから頭を突き出す。
林道のど真ん中。辺りには人家も無さそうだが、こんなところで人の悲鳴がするだなんてのは只事ではない。
辺りを見渡していると、ノジマの右手、馬車の出入り口からリュウが風のように飛び出した。
「あ、おい─っ!」反射的に呼び止める。しかし、リュウは聞く耳を持たなかった。
「あっちだ!」
馬車から身軽に飛び降りると、そのまま明後日の方へ突進していった。ドーロから外れ、またもや森の中へと走り込んでいく。
「ちょっと待てって!」ノジマはそう言いながら首を引っ込めると、リュウに続くように馬車から出ようとした。だがその出入り口に手を掛けたときに、はたと踏み留まった。
「の…ノジマさん…?どうしたの?」未だにハーネスを掴んでいるエミがこちらに振り返りつつ訊ねてきた。リュウの走り去った方とこちらとをキョロキョロと見比べている。
「リュウを追いかけたいんだが、そうするとエミと馬車をここに置いていくことになる」ノジマは頭に浮かんだ問題提起をそのまま口にした。
エミはノジマの言葉を噛み砕くようにぶつぶつと繰り返した。そして妙案を思い付いたというように手のひらをぽんと叩いた。
「じゃあさ、見張りを置いておけばいいんだ?」
「見張り…まぁ、そうだが」ノジマはやきもきしながら返答をする。
とりあえずリュウを一人で行かせるわけにはいかない。だが、エミを行かせるわけにも…。尋常ではない力があるとはいえ、不測の危険があるところに少女を向かわせることはノジマには出来なかった。
「じゃあ一緒に行こっ!」エミはハーネスから手を離すと、ノジマを先導するように森の方へと歩き出した。
「いやいや、だから…」ノジマは分からず屋の問屋の親父を相手にしている気分になる。
「大丈夫っ!ここにこの子置いとくから」そう言いながらエミが右手の手のひらを広げ、それを焚き火に当たるようにかざした。
「この子……?」
何のことか。エミに訊ねようとしたとき、彼女の手のひらから黒い、毬藻のようなものが出てきた。




