【9月30日非公開予定】もう戻れない
……私の復讐は、始まった。とはいっても、この村でできることは知れている。私が目指しているのは、もっとわかりやすいもの。
私を召喚したこの世界を破壊すること……しかし、それだけでは私の気は収まらない。私が救った、この世界に住まう人間すべてへの復讐……これこそが、私の目的だ。
私が救ったのに、私が救われないなんて……そんなこと、あってはならないだろう。
だから……
「うわぁああ!」
「きゃああ、人ごろ……」
「逃げろ、逃げ……!」
村中で血の雨で染まるのは、当然の結果だ。
フードを被り、『英雄』としての姿を消した私……いや、殺人者の出現に、村は混乱の渦に巻き込まれる。当然だろう、魔王が倒され平和になった世界で、こんなことが起きるなんて誰が想像できるだろう。
なんの力も、ない人達。私が『英雄』でなくても、簡単に捻り潰すことのできる人達だ。
「や、やめ……やめてぇ!」
追い詰め、すがる人達を容赦なく殺していく。こんな所業、魔王がかわいく見えるほどだろう。
自らの手を汚さず魔物に村を襲わせる魔王と、自らの手で村人を虐殺する私。その両者に、いったいなんの違いがあるのか。
「……助けて、ほしい?」
「! お、お願い! 助けて! なんでもするからぁ!」
泣き叫ぶ女性に、私はそんなことを問いかけていた。
……そうか、なんでも、してくれるのか。
「なら……返してよ。お父さんを、あこを。お母さんを……」
「……は……?」
「返してよ!!!」
私の主張に、女性はなにがなんだかわからないといった顔だ。当然だと思う。当然、私の……異世界から召喚された『英雄』のプライベートなんて、知るよしもない。
……だから余計に、腹立たしい。
「……っ、あな、たは……」
フードを取り、顔を見せた私と対面する女性の顔は……なんて、滑稽なんだろう。悲しみ、怒り、困惑……どうして、『英雄』がこんなことを、という表情だ。
その女性の顔は、次の瞬間吹き飛んでいた。もう、その顔を見ていたくなかったから。
「……あっけないな」
すべての人間の『処理』が確定し、私以外は誰もいなくなった、無人となった村を見る。
たった十分前までは、みんなが笑顔で歩き回っていた村。だけどあとに残ったのは、村人の無惨な死体だけ。
その中には、勇者パーティーの私達によくしてくれた人達もいた。悪人じゃない……彼らは、ただ今日を楽しく過ごしていただけだ。なにも、悪いことはしていない。
それを、私は壊した……もう、あとには戻れない。引き返せたはずの道は、閉ざされた。
「けど、このままじゃきりがないな……」
今みたいに村や町を、それよりも大きな国を一つ一つ潰していたんじゃ、いつ終わるかわからない。これでは、効率が悪すぎる。
もっと、手っ取り早く……多くを破壊する方法を考えないと。まあ、このままここにいても、人は来るだろう。
村一つ滅んだのだ。この村と交流があった人とか、近いうちに事態が伝わるだろう。だけど、それを待っていたらそれこそきりがない。
結局、自分が動くしかない。
「……考えるのは、あとにしよ。とりあえず、あそこを目指さないと」
考えるのは、歩きながらでもできる。今しなければならないのは、まず私をこの世界に召喚したあの男のところへ行くことだ。
あの男が、あいつが召喚なんてしなければ……いや、あいつはただ形だけの召喚主。それでも、あいつには思い知らせてやらないといけない。
……私の世界を壊した報いを。
「……ん?」
村を出た私は、歩きだす。目的地はわかっているが、方角も位置もまったくわからない。せめて空でも飛べたら、地形を把握できるのに。
もしくは、乗り物でもないだろうか……そう考えていた時だった。視界の端に、四足歩行の生き物が映った。
あれは……ボニーという生き物だ。馬に似ている。というか、馬そのものと言ってもいい。馬と違うところがあるといえば、体の色が青や黄色、それこそ様々あるということくらいだ。
その生き物、ボニーがじっと私を見ている。乗り物を探していたところに、ちょうど移動手段にぴったりの生き物が現れた。
運が、いい。
「よーしよし。こっちおいで」
怖がらせないように呼び掛け、ボニーに手招きする。すると、ボニーはこちらへと歩いてくる。
不思議と私は、動物に好かれる。それが元いた世界でも異世界て、変わらないのが自慢でもある。
「よしよーし。ごめんね、ちょっと付き合ってね」
ボニーの首元を、撫でる。警戒もないし、この子に、乗せてもらおう。
……さっきの村で、皆殺しにしたのは失敗だったな。誰か一人残して、地形を聞いておくんだった。
「ま、しょうがないか。次、行ったところで聞こうっと」
私の復讐心は止まらないが、急ぎの旅でもない。まずは情報を得るために、ボニーに乗った私は、次なる人里へと歩みを進めていく。




