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誤字脱字は後日、確認します。
有言実行できた!わーい!
・・・気まずい。
昼時だからとカルナードに連れられ、大通りではなく小道に入った場所にある隠れ家的なカフェに来たのはいいんだけど・・・。なんでかアルトとリズがそこにいて、手を繋いで来店した私達を見て固まった。あ、そう言えば二人に何も話してない。と気づいたのは同席した時で、どうやら私も突然のことに固まっていたみたい。なんて言っていいのか解らず、視線が落ち着きなく彷徨う。気まずい。
なんでもない顔でメニュー表を開き、「ここのスフレオムレツは美味しいですよ」なんて言うカルナードの余裕が欲しい。でもそれ、食べたい。
男の店員さんが運んできた冷たい水を一口飲み、ちらりと二人を見て・・・そっと視線をそらした。口元に笑みを浮かべているのにアルトは感情のない眼で、リズは冷ややかな眼差しでカルナードを見ている。こわい。気まずい。
あれ、お腹が痛くなってきた。帰っていいかな?
「・・・それで、どう言うことかな?」
「見た通りですけど、判りませんか?リズさん」
でもスフレオムレツは食べたい。・・・メニュー表に煎茶って文字がある。東の大陸の珍しい茶葉だ。飲んだことないけど、美味しいのかな?オムレツに合うか判らないけど、飲んでみたいし頼もう。
「姉弟仲良く昼を食べに来たんだろ?」
「それは貴方の願望ですね、アルトさん。私達はもう、ただの姉弟ではありませんから」
「・・・・・・へぇ、それってつまり」
・・・ん?へぇ、ここのサラダって薬草も使ってるんだ。確かに薬草の中には胃腸の調子を整える物や、美容に良い物もあるけど・・・その発想はなかったよ。いっつもルキに納品して、余った物は欲しいって言う人にあげてたし。今度、育てた薬草でサラダ作ろ。
「ええ、婚約しました。昨日」
「ぅひ?!」
強くテーブルを叩く音が聞こえ、がたりと乱暴に椅子が動く音に周囲が一瞬にして静かになった。驚いた顔でこちらを見る客や店員さん、店長と思わしき人に何でもないですとよく判らないままに伝え、謝罪をしよう・・・まって、私がする必要ある?
音を鳴らした二人が悪いんじゃ・・・・・・・・・あ、私が謝罪します。
ハイライトのない双眸でカルナードを凝視する二人なんて見てない。意識から二人を消し、椅子から立ち上がってすいませんと頭を下げた。
「・・・・・・・・・フィリアが選んだの?」
「へ?」
「フィリアがカルナを選んだのかな?」
リズの言葉に顔が沸騰するほど熱くなった。確かのその通りだけど、改めて言われると・・・・・・しかも私に婚約を申し込んできた二人の前で頷くのは恥ずかしい。
でも・・・。
ちらりと伺うようにカルナードを見れば、期待のこもったきらきらと輝く眼で私を見ている。うう、なんで期待の眼?意味が解らないよ。熱くなった頬を両手で隠し、一つ頷いてそのまま俯いた。顔、上げられない。
「そ・・・か」
弱弱しい声と共に、アルトが椅子に座った。
「フィリアが選んだんじゃ、仕方ねぇな」
泣きそうな顔で、下手な笑顔を浮かべる。・・・そんなアルトに何か言おうと口を開いたけど、結局、何も言えなかった。
「そうだね。フィリアが選んだなら・・・潔く身を引く。そう決めたからね」
「・・・だな!仕方ねぇからここは素直に、幼馴染として祝福してやるよ。・・・けど、少しでもフィリアを悲しませるようなことをしたら容赦なく奪うぞ」
「それは怖い」
さっきまで泣きそうな顔をしていたアルトは不敵に笑い、傷ついた眼をしていたリズはわずかな痛みを残したまま祝福を彩る。そんな二人を真正面から見つめるカルナードは全てを受け入れるように微笑み、二人の言葉におどけながら答えた。
これが・・・男同士の友情?と言うものなのかな?だとしたら幼馴染でも女の私には立ち入れない領域だ。と言うか、会話に参加する隙がない。
ちょっと寂しいんだけど・・・。
「どうかしましたか、フィリア?」
「お!さっそく悲しませたのか、カルナ。駄目だな~、それじゃあフィリアは任せられねぇぜ」
いや、だた疎外感を感じて寂しかっただけだから。と、素直に言えないのでおしぼりを嬉しそうに笑うアルトに投げつけた。・・・ち、流石は騎士見習い。キャッチされたよ。
「安心してフィリア」リズが私の両手を握りしめた。
「カルナが嫌になったら僕が助けてあげるから」
「・・・潔く身を引くはずじゃないんですか、二人共?」
べりっと音がしそうな程に勢いよくリズから離れ、カルナードの腕の中に。やめて、人目を集めてるからやめて!・・・そう言えばこの三人、イケメンだった。美形は無駄に人目を集める存在だった。うわぁ、女性の嫉妬のこもった眼が痛い。あれ?子供がきらきらした顔で何か母親と思われる女性に話しているような。
あ、母親が爆笑した。
何を言ったのか凄く気になる。
「――――ですよね、フィリア!」
「え・・・?あ、うん、ごめん、聞いてなかった」
素直に謝ったら絶望された。なんか・・・ごめん?
「それはそうと」
俯いて肩を震わせていたリズが笑いを耐えるように言う。
「帝国の第三王女が明日、カルナに求婚するために来るって」
「リズさん!」
隣にいるアルトは笑いすぎて呼吸困難になったようだ。ちょっと死にそうになってる。大丈夫かな・・・?
「ん?」
今、リズはなんて言った?なんでカルナードは焦ってるの?
「ていこくのだいさんおうじょ・・・?きゅうこん?」
「そ。第三王女のアルディアーノがカルナに一目惚れしたたんだよ、三年前に」
「さんねんまえ、ひとめぼれ」
「出会った日から欠かさずに熱烈なラブレターを送ってるはずなんだけど、知らない?」
知らない。
衝撃の言葉に思考が停止しかけているけど、首だけは横に触れた。よし、ちょっと頭の中を整理してみようか。
1.第三王女が三年前にカルナードに一目惚れした。
↓
2.本気の恋らしく、熱烈なラブレターが毎日家に届いている。
↓
3.カルナードは私が好き。
・・・あ、これ面倒な三角関係だ。
「姉さん、説明させてください」
しかも相手は帝国の第三王女。
第三とは言え、王族の娘が子爵の跡取り息子に一目惚れしたのは問題だよね。求婚されたら断れないよね、普通。・・・女の子から求婚するものだっけ?
「私は三年前、確かに第三王女と会いましたが別に何の感情も抱いてません。ただ鬱陶しいなと思う程度の気持ちしかないんです。姉さんに抱くような感情はこれっぽっちもありません」
「うわ、必死」
「アルトさんは黙って、笑うな!」
いや、それにしても自分から求婚するなんてよく決意したもんだよ。私じゃ無理だね。ルキなら・・・いや、ルキも旦那さんの前だと花も恥じらう乙女になるから無理だ。漢前に行動できるとしたら・・・ギネアかな?
いや、それよりもどこで会ったんだろう。ちょっと気になるぞ。
「私が愛してるのは姉さんだけです!」
「それよりどこで会ったのか教えて」
「・・・うわ、可愛そう。流石にカルナが哀れだよ、フィリア」
「え?」
首を傾げる私を苦笑し、リズがカルナードを指さした。なに・・・?
「え?ど、どうしたの?」
「それより、それよりって・・・・・・いえ、なんでもありません」
真っ青な顔で眼に涙を溜めて・・・何でもない、って言う表情じゃないんだけど。
えっと・・・おしぼりで涙を拭く?いや、ハンカチの方がいいかな?ポケットからハンカチを取り出し、カルナードの眼尻に押し付けた。これで涙を拭うといいよ。
なんで涙目なのか知らないけど。
「それで第三王女の・・・えっと」
「アルディアーノ」
「そう!その人とはどこで会ったの?第三王女ってことは、リズと一緒に?」
「まぁ、そうだね」
不憫そうにカルナードを見ながらリズは頷き、運ばれてきたハンバーググラタンを食べ始めた。わぁ、ボリューミー。
「三年前って言うと・・・帝国に一か月視察に行った時か。俺は別件で行かなかったけど、カルナは行ったんだよな。とある交易商と話をするために」
オレンジショコラのタルトをホールで頼み、切り分けることもなくそのまま食べ始めたアルトに胸やけが起きそう。・・・飲み物も甘いミルクティ?よく食べられるね。
「・・・ええ、そうです。姉さんが欲しいと言っていた植物の種を手に入れるための伝手を作りに」
水を一気に飲み干し、どこか自棄のようにコップを乱暴に置いた。いつものカルナードじゃしない行動にちょっと吃驚。
涙目の件が堪えてる?・・・ごめん、理由が解らないから何も言えないわ。
「だとしても、そう簡単に第三王女には会えないよね?」
「脱走したんだってさ」
「だっそう?」
「朝からマナーレッスン、ダンス、花、勉強・・・それらが嫌になって城から脱走した所を僕達と遭遇したんだ。しかも面白いことに出会った場所は帝国の外!」
それってつまり・・・。
「魔物とエンカウントして、あわや死にそうな場面に僕達登場!魔物を退治して地面に座り込む第三王女に、カルナは優しく手を差し伸べて・・・と、まるで小説にあるような一幕が僕の眼の前で繰り広げられたんだよ」
行儀悪くフォークを口に加えたまま語るリズに、ぽかんと間抜けな顔をしてしまった。
何その典型的な出会いのフラグ。
王道過ぎてつまらない。と言うか、ありきたりすぎてあり得ない。
でも納得してしまう部分もあり、頭を抱えた。それで一目惚れとか、吊り橋効果みたいなものじゃないか。ちょろくない、第三王女?
▽「婚約はなかったことで」 ×
「面倒な予感がするから、婚約は無効で」
わぁ、選択肢が現れた。
カルナードを選んだから、もう現れないとばかり思ってたのに。・・・まぁ、時間が止まってるからゆっくりと色々、そう、色々と考える時間が出来たのは嬉しいけど。
でもさぁ・・・。
この選択肢、どっちを選んでも婚約破棄じゃない?それっていいの?
いや、でもカルナードに想いを寄せている相手は帝国の第三王女。
子爵令嬢の私とじゃ、地位も権力も知らないけどたぶん容姿も勝負にならない。云々より、私の中の王女様像が我儘で癇癪持ち、世界は自分を中心に回っていると言うイメージしかない。あ、割と酷いイメージ。でも仕方がない。
そんな第三王女に好かれたカルナードと、婚約した私。
これはもう、面倒ごとに巻き込まれる予感しかない。
「面倒な予感がするから、婚約は無効で」
カルナードのことは好きだけど、面倒ごとは勘弁してほしいから。
「カルナードをどれだけ好きか知らないけど、三年も熱烈なラブレターを送るほどなんだから第三王女が何かしらするかもしれない。だから私、第三王女の件が解決してから婚約した方がいいと思うんだ・・・けど、カルナード?」
石が風化したようにさらさらと粒がカルナードから見える。いや、なんで石化?魔法なんて誰も使ってないけど・・・私の発言のせい?
「・・・酷い女だよ、フィリア」
「え?だ、だって私とカルナードが婚約したと知ったら絶対、面倒なことになると思うんだ。アルトだってそう思うでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
だったらこれが最善だと思うんだよね!我ながら名案だと思ったんだけど・・・何が駄目なのかな。
「うんまぁ、婚約届を役所に出してないならそれでも大丈夫だと思うけど・・・・・・さっき、君達の母親が嬉々として役所に行く姿を見かけたんだよね。封筒を持ってたみたいだし、手遅れだと思うよ」
「そっか。流石に破棄は駄目だしね」
「・・・駄目って言うか、それは・・・ちょっと・・・」
だからそれはしないって。
あ、注文したスフレオムレツが来た!美味しそうだなぁ。おお!スプーンを押し返す弾力!さぁて、たーべよ。
「私は・・・面倒だとは思いません」
「んむ?」
「確かに第三王女の相手は面倒で嫌ですけど、邪魔をしてくるなら排除するだけです」
お、おおう。眼に不穏な輝きが・・・。
口にいれたスフレオムレツの味に幸せを感じてる場合じゃないな、これ。
「物騒だから排除はやめようね」
「嫌です。一番手っ取り早い方法ですから殺ります」
「なんか今、ニュアンスが違ったような・・・」
リズとアルトを見るが、素知らぬ顔で料理を食べていた。気のせい?
「と言うか、今更なんだけどね」
周りを見渡しながら、溜息を吐き出した。
「ここで話すことじゃなかったよね、全部」
「そう?世間話なんてどこでやっても一緒だと思うけど」
「いや、周りの人固まってるから。店員さんとか店長さんも固まってるし。と言うか、店長さんの汗が尋常じゃないくらいやばいから。卒倒しそうだよ」
「あの店にはもう行けないな」
「え?なんで?」
「リズ・・・お前、店の態度を見てよく言えるよな。俺は正直、店の前も歩けねぇよ」
「僕は何もしてないけど?」
王族と言う時点で、何かはしているよね。主に立場的に。
普通の神経を持つ人は、王族がそこにいるだけで委縮する。フレンドリーに接することなんて皆無だろう。事実、あの店の店長さんは「王族の方からお金をとるなんて!」と恐縮し、逆にお土産をリズに渡そうとする始末。
笑顔で断わり、気にしないでいいと四人分の料金を払ったリズに余計に恐縮する店長さん。堂々巡りが繰り広げられかけたあの場を治めたのは、カルナードだった。
どう言いくるめたのかは知らないが、無事に店を出ることは出来た。
・・・リズの知り合い、と言うことで顔を覚えられた可能性が高いから、アルトの言う通りもうあのお店には行けない。
スフレオムレツ、美味しかったのに残念だよ。
そんな昼食を終えた現在、不思議なことにアルトとリズも一緒に我が家へ帰還。何故?
母親が二人の姿を見て「まさか略奪?!」とか騒いでいたけど、有能な執事に後は任せて私の部屋――に行こうとしあらカルナードの部屋に連れていかれた。何故?
そして今、カルナードの部屋にあるソファに座ってお茶中。何故?
「フィリアは第三王女のことを気にしてるみたいだけど、気にかける必要なんて微塵もないんだよ?」
「相手は帝国のお姫様なのに?」
小難しい本と法律関係の辞書、それから山のようにそびえたつ書類がある机を極力見ないようにし、メイドが持ってきた紅茶を口に含む。うむ、アッサムだ。美味しい。
壁にずらりと並ぶ本棚と、仕事用の机以外は綺麗に整理整頓されているカルナードの部屋は、私の部屋より物がない。古い年代物の壁時計にシンプルなスタンド、今、私達が座っている黒いソファと黒いテーブル、それに部屋の奥にあるベッドとベッド脇にあるチェスト。たったこれだけ。
ううん、カルナードの部屋に入るのは久しぶりだけど、ここまで物がなかったかな?
「帝国でも王国でも聖国でも、フィリアは気にしなくていいんだよ」
・・・お茶請けのクッキーよりおせんべいが食べたいな。美味しいけど。
「フィリアは神に愛された者なんだから。権力も権威も全て、フィリアが上位だ。神に愛された者と王族を比べることは間違いだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「相手がそれを気にかけず、フィリアに害を与えるようなら聖国が出てくる。あそこは神に愛された者を庇護しているからね、害なんて与えようものなら原因となった王女もろとも国を亡ぼすだろうし。むしろ、害される前に滅ぼすかも」
「楽しそうに言う台詞じゃないな、それ」
もっともだと、アルトの言葉に同意。
「あ、その言葉が本当なら火の賢・・・乙女はどうなるの?リズのお父さんが躾けたって言ってたけど、アレは害にならないの?」
「ならないみたいだよ。むしろ、教育的指導だって認識されたみたいで今、聖国の戒律が厳しい教会に連行されて再教育中だってさ」
興味がなくて知らなかったけど、聖国ってそんなこともしてるんだ。
「でもそれ、帝国の皇帝は何も言わないの?」
「言うはずがない」断言された。
「そもそも、言える立場じゃない。ルグナリア王国もヘルムヴェルド帝国も、聖国から独立を許されて出来た国だ。つまり親である聖国に意を唱えることは難しい」
「へぇ・・・難しいんだね」
「お前、解ってねぇだろう」
何故バレた。
「それより・・・あの悪い顔でなんか物騒なこと言ってる奴、何とかしてくれねぇか?」
「無理」
部屋に戻るなり書類の山を机から払い落し、一心不乱にペンを動かす姿は鬼気迫るものがある。それに小声で呪詛を唱えるように何かを言っているのも物騒だ。
あ、ペンが折れた。
「明日が待ち遠しいですね」
悪人面で言うと、より物騒。
「あ・・・と、私の方が立場が上みたいだし下手なことしなくてもいいんじゃないかな?」
「フィリアに手を出す前に始末するのでご安心を」
「何に安心すればいいの、私」
やだ、笑顔なのに怖い。
心なしか、カルナードの周囲が凍ってる気がする。水属性じゃないのにそんなことできるんだね!寒いから今すぐにやめてくれない?
身震いする私に、原因が自分だと気づいているのか、それとも紳士として行動したのか不明だけどひざ掛けをカルナードがくれた。それより冷気をなんとかして。
「ルグル学園の魔王が降臨したね」
「第三王女も終わったな」
しみじみと呟く二人に、私は頬を引きつらせた。
「あれに何が書かれてるんだろう・・・」
第三王女の安否よりもそっちが気になる。
「――――ところで、どうしているんですか?いい加減、帰ってくれません?フィリアと二人の時間がとれないじゃないですか」
「第三王女のことを教えてあげたのに、酷くない?」
「そうそう、幼馴染は大切にするもんだぜ?なんならその紙に書かれてること、協力してやるよ。善意で」
「結構です。帰ってください」
仲・・・いいね。
少し冷めた紅茶を飲み干し、ぼりぼりとクッキーをかじる。別に寂しくないよ。男同士の友情、大いに結構。普通学科の仲間も「男同士の友情は女同士では得られないモノがあるんです!尊いんです!」とか言ってたし。あ、でも別の仲間が「女同士の友情は男同士とは違い、煌びやかで美しいんです」とか言ってたな。
――つまり友情は尊く、美しいってことだね。
「ああ、そうでした」
自然な流れで隣に腰を下ろしたカルナードが穏やかに微笑んだ。ん?
「家に帰ったら、と約束しましたよね」
髪を一房すくい、指に絡める。んん゛?
「今、それを果たしてもいいですか?
指に絡めた髪を耳にかけ、耳たぶに触れる。んんん゛?
「おい、何やるつもりだよカルナ」
「僕達の前で不埒なことはさせないからね・・・?」
「アルトさんもリズさんも、何を慌ててるんですか」
いや、ピアスのことだよ?・・・とは、とても言える状況じゃない。
意味深な行動をとったカルナードが悪い。全面的に悪い。隣に座った時に腰に手を回して密着し、髪を弄りながら頭に唇を落とし、耳たぶに触れる――って行動も悪いと思うんだよね!
私の心臓的にも!
緊張で心臓破裂とか、洒落にならないよ。
溜息を吐き出して、文句を言おうと口を開いた。
▽「人前ではやめて」 ×
言葉より先に頭突きをする
選択肢の出現により、何を言おうとしたのか綺麗に忘れてしまった。
・・・「人前ではやめて」って、どんなフラグだ。馬鹿でも解るよ、これを選んだらどうなるかなんて!
よって、私は頭突きを選択!
なんだか前にも頭突きをした記憶が・・・・・・アルトか。
あの日から随分と経ったような気がする。実際は違うけど、体感的にそんな気分だなぁ。
「?!ね、姉さん・・・?」
「紛らわしいことを言うカルナードが悪い」
「紛らわしいって・・・本当のことを話しているだけですよ?」
「それが紛らわしい」もう一撃、頭突きを見舞いした。
痛みに悶えるカルナードの腰に回された腕を剥がして何か言おうと顔を上げた瞬間、素早くクッキーを掴んで口の中に放り込んだ。これで喋れまい。
「・・・紛らわしいって、どう言うことだ?」
「どうって・・・ただピアスの穴を開けるって話。それだけだよ」
「そう言えばフィリアって・・・装飾品、何もつけてないですよね」
「壊しそうでつけられない」
胸をはって告げれば、クッキーを咀嚼しながらカルナードに頬を引っ張られた。何故!?
「ひひゃ・・・ひひゃひんへふへふぉ!」
「でも買ったってことはつけるんでしょ、ピアス」
「ふへるひょ、ひょひゃ!」
ええい!上手く喋れないじゃないか!がしりと元凶であるカルナードの両手を掴み、頭突きをしようと顔を近づけた・・・のが間違いでした。
すいません、私が悪かったです!
狙っていたかのように頬をひっぱるのを止め、後頭部と肩を手で押さえながらキスされた。謀られた?!と慌てるより先に、二人が見てる前で・・・!と動揺の方が大きかった。
すいません、私が悪かったからもうやめて!
「ここで盛るなよ、カルナ」
「・・・失礼なこと言わないでくれませんか?」
い・・・息が。
呼吸が出来るって素晴らしいことだよね!・・・恥ずかしくて穴に埋まりたい。
「はいはい、僕達がお邪魔なのはよぉぉく判ったよ。本当、嫌になるよね。僕達にあてつけるようなことばっかりしてさ」
「そんなつもりはありますよ」
「いや、そこは否定しろよ」
うう・・・私もう、お嫁いけない。
人前でなんて本当にもう、何を考えてるんだろう。カルナードは恥ずかしくないのかな?両手で顔を隠したまま、ちらりとカルナードを見ればあれ?アルトとリズがいない。
帰ったの?
私、挨拶してないのに・・・。
「挨拶なんて必要ないですよ」
「ひゃ・・・!」いきなり抱きしめないで!
「あの二人に挨拶なんて、今更でしょう。それより――――」
あ、の・・・耳を甘噛みしないでくれるかな?なんかこう、変な気分になってくるから。
「ピアス、つけましょうか」
「・・・この体勢で?」
「この体勢で」
嘘でしょ・・・。
「痛みは魔法で麻痺させますし、魔法で穴を開けますから一瞬で終わりますよ」
魔法に頼りすぎじゃない?
「だからフィリア――」
「あ、う」
「ピアスの穴、開けていいですか?」
横から覗き込むように私を見るカルナードに、頷いてしまった。
カルナードの顔が好みすぎて辛い。・・・もうちょっと否を言えるように強くなろう。じゃないとこの顔に流されちゃう。