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テンポよく?さらっと現れ、さらっと消える登場人物。
さぁ、あらすじで書いた結婚まであと少し・・・誤字脱字を注意して書いていきます。
朝も早くに招かれざる客が訪れた――。
「ああ・・・漸く会えたわね、アタシのカルナード」
そう言ってエルゥル家に現れたのは、背後に二十はいるであろう従者を引き連れた闇を思わせる黒髪の、派手な装飾品をつけた世間一般的に言う美女。
彼女は確かに美しい。
だがフィリアにしか興味のない私には彼女の美貌も、放つ色気も、見る者を魅了する仕草も、全てが私の心を凍り付かせてしまう。真実、私の心を動かせるのはフィリアだけ。
改めてフィリアに惚れていることを自覚し、その相手と漸く婚約できた事実に嬉しくなり、口元に笑みを浮かべてしまった。
そのせいで勘違いしたらしく、彼女がそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。
吐き気がするからやめてくれませんか?
「今度こそ、良い返事をくれるわよね」
金と銀のオッドアイを三日月のように細め、陶器のように滑らかな肌を細くしなかやな指で撫でる仕草は妖艶・・・なのだろう。年若い執事見習いが息を飲んだ声がした。ああ言うのに弱いのかと眉をしかめる。フィリアの方がよっぽど魅力的なのに。
赤く色づいた唇が蠱惑的に動く。――私の心はまったく動かない。まるで機械のようだ。
それをしたのがフィリアならば胸が高鳴り、その唇に食らいついて何度も愛を囁けるのに。
「アタシ以上に、カルナードの傍にいて相応しい女はいないのよ」
片腕で豊満な胸を強調するようにし、姿をつくるこの彼女こそ三年前、私・・・カルナードに恋した帝国の第三王女――。
彼女は本当に勝手なことばかりを言う。
突然の来訪者に固まる両親はともかく、隣にいるフィリアの反応が気になる。第三王女のせいでまた「婚約はなかったことに」なんて言われたら、立ち直れる気がしないんですが。いえ、そんなことは絶対に言わせません。
そのためにも邪魔物は排除しましょう。
計画はすでにあるのですから。
あとは・・・。
「貴女もしつこいですね、アルディアーノ・ヴェ・ヴァ・ベアトリス」
この女が勝手に転がるだけですね。
ですから母さん、そんな不穏な眼で第三王女を見ないように。後で私が片をつけますから。ええ、それはもう――フィリアとの時間を潰された報復もかねて。
ですからご安心を。
「・・・寒気が」
「胃が・・・」
フィリアと父さんが何かを感じ取ったようですが、肝心の第三王女は気づいていません。気付くどころか当然とばかりに家の中に入り、もてなしを要求してくる始末。馬鹿ですか。
ああ・・・どう教育したらこうなるのでしょうね。
・・・母さん、相手は一応、間違いなく、帝国の第三王女なので中指を立てるのはやめましょう。そうしたい気持ちも解りますが、ばれたら面倒ですからね。
しかしこの第三王女、人様の家で我が家のように寛いでますよ。帰れ、国に。
・・・いえ、国にも帰れなくしてあげましょう。
ピアスを贈る意味を知ったのは、ただの偶然からでした。
〈離れていても自分を感じてもらいたい〉――そう言う意味があるのだと偶々手に取った本にそう書かれており、その内容にある種の独占欲のようだと感じました。
そんな欲はないはずなのに、どうしてだか私の心は激しく高鳴って、私の眼の色のピアスをつけるフィリアの姿にどうしようもない支配欲を抱きました。・・・フィリアとそう言う関係になったら真っ先にピアスを買おう。と、すでに決めていたことは秘密ですが。
しかし・・・実際にピアスを買って、フィリアにつけたらこう、達成感に満ちるかと思えばそうでもなく。
まだ足りないと、貪欲に求める自分がいて呆れました。
それを隠すようにピアスを右耳にだけつけ、その意味を教えればきょとんとした顔が首まで真っ赤になり、私から逃げるように距離をとった姿が可愛くてつい・・・ないはずの加虐を覚えてしまいました。可愛いフィリアが悪いんです。
女性が右耳にピアスをつける意味は〈守られる人〉。
男性が左耳にピアスをつける意味は〈守る人〉。
私だってフィリアを護りたい。
アルトさんのように剣が振るえる訳でも、リズさんのように魔法と剣に優れている訳でもない。それでも――この気持ちは二人に負けず劣らず強いと自負はしています。
拗らせた初恋が漸く、漸く実ったんです。
何があろうとフィリアを失いたくないし、フィリアを悲しませることはしたくない。
私の幸せは、フィリアがいないと意味がないんですよ。
だから。
「アタシに相応しいのはカルナードで、カルナードに相応しいのは私」
こう言う。
「アタシ達が結婚することは家同士の、引いては国同士の幸せにも繋がるの」
女には。
「カルナードはアタシといることが幸せなのよ」
興味とか関心よりも。
「だから頷きなさい。――さぁ、アタシと夫婦になりましょう」
殺意しか抱けない――。
朝から私の右腕に絡みつき、無駄に大きな胸を押し付けるアレは本当に第三王女なのだろうか。貞淑や恥じらいと言う文字を知っているのか是非とも聞いてみたい。あと、香水がきつくて鼻が曲がりそうだから離れて欲しいです。切実に。
学園に行こうとすれば身体を密着させ、「私よりも学業を優先するの」などと馬鹿らしいことを聞いてくる。これがフィリアだったら・・・なんて考えて、何度溜息をついたか。
そもそも第三王女、顔の良い男ならば誰でもいいらしく、学園に着いてからリズさんは当然ながら、アルトさんにもちょっかいをかけてる阿婆擦れですし、顔と身体がよければ問題ない!と言う男子以外からの人気は底辺。女子生徒からは害虫を見るような眼を向けられていることに、果たして気づいているのでしょうか?
別にどうでもいいんですけどね。
フィリアじゃない限り、私の心は微塵も動きませんし。
ああ・・・早くフィリアに逢いたい。あの女のせいでフィリアと会話すら出来てない。
やはり学園に着いて来ようとするのを、何がなんでも阻止すればよかった。
・・・今からでも遅くはないはずですし、不慮の事故と言うことで学園どころかこの国から消えてもらいましょうかね。
「か、カルナード・・・?大丈夫、か?」
「何がですか?どう見ても大丈夫ですよ」
「全然、大丈夫じゃねぇよ!顔!顔が人殺しみたいになってるぞ!!戻せ!いつもの無表情に戻せ!それか姉さんの所に行って笑顔になって来い!」
「煩いですよ、食事は静かにしろと言われませんでしたか」
「はい」
朝からしつこく私にまとわりつき、授業中だろうが移動時間だろうが関係なく耳障りな声でアプローチをかけてきた第三王女から逃げ切った昼休み。
人心地つけた安らぎの時間。
本来ならばフィリアと二人でとるはずの昼食を、何が悲しいのか副生徒会長であるユーディン・ウェンズと生徒会室でとる羽目に。泣いてませんよ。ええ、泣いてませんとも。
これもそれも全て、第三王女のせいで・・・ああ、そう言えば茶髪に碧眼と言うありきたりな色を持つユーディンも、顔が良いために第三王女の獲物にされ、且つ、私と親しいと言うことで何かと情報を探られたそうですね。私のせいではありませんが、迷惑をかけます。
貴方にはもう、結婚を約束した恋人がいるのに。
その恋人にも後日、改めて謝罪をしに行きましょうか。
でも私よりも長身でガタイも、運動神経だって良いのに第三王女から逃げられないユーディンが悪いと思うんですよね。
私、知ってますよ?
第三王女が胸を押し付けた時に鼻の下が伸びていたこと。言いませんけど。
「・・・それ、美味しいか?」
「栄養がとれれば何でもいいです」
第三王女のせいで食欲がないので、簡単に栄養補給できるバランス栄養食品――別名、エネルギーチャージを食べながら答え、濃いめの珈琲を飲む。胃に染みますね。
心はまったく癒されませんが。
「あ、そう・・・。あのさぁ、本当に姉さんの所に行って来いよ。顔こえぇし。婚約者に癒されて来いよ。俺達の精神安定のために」
ユーディンは私がフィリアに恋心を抱き、無事に婚約関係になったと知る数少ない心許せる親友の一人で俺達・・・とは、他の四人のことでしょうね。ここに来る前、何かもの言いたげな眼を向けていましたし、確実にそうでしょう。
心配をかけて申し訳ありませんが、生憎と、その気遣いに頷くことは出来ません。
「アレをどうにかしてからでないと、フィリアに逢いに行けません」
「・・・あー、その、バッドタイミングだ」
ユーディンの視線が窓の外、正確には中庭に向いており、まさか・・・と立ち上がりました。中庭には第三王女と数を減らした五人の従者、それから――――。
「姉さんとそのご友人、捕まってるぜ?どうする」
本当に、不愉快なことばかりしてくれる第三王女ですね。
私は今、困惑している。
いや、混乱している?
もしかしたらその両方かもしれない。だって頭の中で上手く言葉がまとまらないし。
私はただギネアとヴェルナンドと一緒に中庭で昼食を食べていただけなのに、期間限定のベーコンエッグマフィンを美味しく食していただけなのに、何故、第三王女に頬を叩かれなければならないんだろう?
解せない。
何かした覚え、ないんだけど・・・。
「え・・・と?」
呆然と叩かれた右頬を抑え、地面に落ちたベーコンエッグマフィンを眺める。まだ半分も食べてないのに、勿体ない。
「アンタ、目障りよ」
「・・・はぁ、そうですか」
視線だけで人を殺せるならば、この第三王女はすでに私を殺している。それ程に強い眼差しを受けているのに、私の心は恐怖を感じなかった。前なら怖い!と心の中で叫んで怯えてたはずなのに・・・。
心境の変化?
まさか心臓に毛が生えたとか・・・!
「いきなり来て、随分な物言いですね。目障りなのは貴女の方では?」
「そうデスよ。いきなり昼食の団欒に割り込んで、人の親友を叩いて――どう言うつもりなんだよ」
冷ややかな物言いを王女相手にするのは如何なものかと・・・ほら、従者が無礼だの不敬だの、喧しく喚いてるよ?
あ、ギネアが笑顔で黙らせた。強い。
「アタシを誰だと思ってるの?帝国の第三王女、アルディアーノ・ヴェ・ヴァ・ベアトリスよ。アタシが目障りだと言ったのだから、すぐに消えなさいよ!」
そんな理不尽な・・・。
「あら、そちらこそ誰にものを言っているのかしら?」
「たかだか第三王女風情が、偉そうにしないで欲しいデスね」
ああ、火に油・・・!
何故か臨戦態勢のギネアとヴェルナンドに私、冷や汗が止まらないよっ!どうしちゃったの?ねぇ、落ち着こうよ!
「第三王女、風情ですって・・・っ!この、無礼者!」
「無礼者はそちらでは?」
ギネアが優雅に微笑み、食べ終えたクラブサンドの包み紙を丁寧に畳んでいる。
「早朝からエルゥル家に押し入り、招かれざる客だと言うのにもてなせと理不尽に要求する。それだけではなく、通学でも大勢の従者を引き連れて通行の邪魔をし、この学園での授業も妨害しているそうですね。ここは学び舎ですよ?邪魔をするなら消えてくれませんか?」
冷笑と共にそう告げたギネアに冷や汗が止まらない。
「ああ、それから男と見るなり誰彼構わず密着し、媚を売るのはどうかと思いますよ?淑女ではなく、あれでは売女にしか見えませんから。第三王女が実は売春婦だった――なんて噂、もう広まっていますから手遅れですけど」
それ広めたの・・・・・・普通学科二年でしょ。
絶対にそうだ。
ちらりと視線を巡らせば、不自然に揺れる茂み。あ、そこの木の上にもいる。なんで・・・普通学科二年が全員集合してるの?この後何かあるの?いや、何かするつもりなの?相手は帝国の第三王女だけど。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・まぁ、ばれないようにね!
「帝国の皇帝って、親馬鹿なんデスかね?娘がこんなふしだらで、皇族の名を汚す行動ばかりしてるのに何も言わないなんて・・・」
「親馬鹿と言うより、関心がないのでは?聞くところによると、側室の子らしいですから」
「おーと、それってつまり愛情の薄れた側室の子ってことスよね。・・・簡単に捨てられる駒、だから放置されてるんデショ」
第三王女、二人の言葉にワナワナと身体を震わせているが何も言わない。
図星か?図星なのか?
従者だけがなんか叫んでいるけど、保身のために王女を護ろうとしているようにしか聞こえないな。・・・取り巻きですらコレとか、類は友を呼ぶ。ってことかな。
「アンタさえ」
ん?
「アンタさえ、いなければ」
んん゛?
「アタシは幸せになれるのよ!」
私、関係ないよね!?
と言うか私、何も喋ってないよ?八つ当たり?やめてくれないかな・・・。いい迷惑。
溜息を吐き出せば、憤慨した第三王女に前髪を掴まれた。痛い。
「フィリアに何するの!」
「その手を放した方が身のためデスよ・・・?」
二人の声は第三王女の耳に届いていないらしく、前髪を掴む手に力を入れた。
私も抵抗するけどこの第三王女、空いた手で首まで絞めてきた。殺す気か・・・。従者は二人が近づかないようにしてるし、どう見ても殺す気ですか。そうですか!
私を殺して、権力でもみ消すつもり?それでどうにかなるって思ってるのかな、この第三王女。だとしたら馬鹿だ。目撃者がいるのにどうにかなる訳ないのに。
「カルナードをアタシに返しなさい!」
唾が顔にとんだ。汚い。
「アンタには勿体ない男なのよ?!解ってるの?アンタみたいな平凡な女が、アタシの男を取ろうとするなんて・・・おこがましいのよ。分相応を知りなさい」
・・・。
私が・・・平凡だってことは重々理解してる。
私にカルナードは勿体ないことだって、ちゃんと理解してる。
だけどね・・・だけど。
カルナードをモノ扱いするのは、どうかと思うんだ。
「何よその眼」
はて、私は今・・・どんな眼をしているのかな。
「このアタシに盾突く気?アタシは帝国の第三王女よ?たかだか子爵家の娘が、アタシに喧嘩を売るなんて良い度胸ね」
良い度胸?
ああ、本当にそうだね。良い度胸だ。
――私に、喧嘩を売ってるんだから。
こんなに怒りを抱いたのは、大事な植物を燃やされた日以来かもしれない。
「笑うなんて・・・今更、恐怖を抱いておかしくなったのかしら?」
自覚はないけれど、私は笑っているんだ。
へぇ、そうなんだ。
「樹よ、活性せよ」
我ながら、驚く程に冷たい声だ。
どうやら思っていた以上に、私はこの第三王女に怒りを感じていたみたい。わぁ、吃驚。
「汝らの力もふ・・・?」
「フィリア」
背後から口を大きな掌に塞がれ、中途半端に集まっていた力が暴走することなく霧散する。耳元で聞こえた声のせいだ。あんな、あんな・・・愛おしさを詰め込んだような声で名前を囁かないで欲しい。心が揺らいで、怒りもどこかに消えてしまうから。
何より恥ずかしい。
羞恥で力が霧散したことも相まって、余計に恥ずかしい。
穴を掘って埋まっていいかな?
「・・・意外と早い到着ですね。そのまま来なければ、わたくし達で片をつけていたのに・・・ああ、なんて惜しい」
頬に手をあて、本当に惜しいとばかりに息を吐き出すその姿は妙に艶があって、同姓ですら魅了する色気に溢れている。うう・・・ちょっとクラっとした。
恐るべし、ギネア。
平然としているヴェルナンドが羨ましい。
「ああ・・・っ!聞いて頂戴、カルナード!この女がアタシを」
「その手を放せ、害虫」
「カルナード・・・?害虫って、その女のことよね?」
私の口から手を放し、カルナードが前髪を掴む第三王女の手首を掴んだ。ぼきり、と嫌な音がしたのは・・・すぐだった。
「え?あ、あ・・・ぁあああああああぁぁぁぁああああああああああ!!」
「手を放せと、言いましたよね?」
「っあ・・・あ、あああああアタシの、アタシの手が、手がっ!」
「煩いですね、ただ骨が砕けただけでしょう。それよりも早くその汚い手を放してくれませんか?フィリアが汚れる」
心の底から呆れた、とばかりに息をつくカルナードは、痛みに喚くだけの第三王女にしびれを切らしたらしく、乱暴に私の前髪から手を離させた。その時、またぼきりと嫌な音が聞こえたんだけど・・・指、折った?
頬を引きつらせる私の視界で、口笛を吹いて称賛するヴェルナンドの姿が・・・ちょっと、不謹慎だよ。ギネアも、満足気に頷かないの!
「遅くなってすいません、フィリア」
泣きそうな顔で私を見下ろすカルナードが、そっと右頬に触れる。熱を持った頬に、冷たい指先が撫でた。痛みからか、冷たさからか、身体がはねて無意識に眼を閉じてしまう。
「痛い、ですか?」
叩かれた私よりも痛そうな声に、痛くないと眼を閉じたまま首を横に振る。
「嘘ですね」
だと言うのに否定され、空いた手で私の腹部に手を回してぎゅっと抱きしめられた。痛いくらいの抱擁に身を捩れば、逃がすまいとさらに力が加わる。ど・・・どうしたの?
「カル」
「アンタ、アタシにこんなことして許されると思っているの!?」
魔法で砕けた骨を治したらしい第三王女が、脂汗を額に浮かべながらそう言う。
「許される・・・?」
カルナードが不思議そうに第三王女を見た。
「そうよ!アンタは帝国に喧嘩を売ったのよ!馬鹿ねぇ・・・素直にアタシの言葉に従っていればよかったのに。でもアタシは優しいから許してあげる。カルナード、アンタがアタシと結婚するならね。そうしたらお父様にも言わないであげるわ」
私に向けていた眼とは違う、感情をごっそり削ぎ落した双眸は人形のようでぞっとした。今、カルナードが何を考えているのか解らない。
判らないけどこれ以上、その眼を見たくないと強く思った。
▽口づける
「カルナード!」 ×
ここで選択肢が出ることに作為を感じるが、あえてのってやろうじゃないか!でも名前を呼ぶのと口づけって二択はどうなのかな・・・!羞恥に頭を抱えたのは一瞬。息を吸い込み、吐き出す。もう一度、おまけと深呼吸。----よし!
くるりと顔を動かし、女は度胸と眼を瞑り――。
「・・・え?」
視界を奪う、と言う意味を込めてまぶたにキスをしてみた。
これも立派な口づけ・・・だよね?時間も止まってないし、問題ないよね!うん!目論見通り、カルナードの双眸に色が戻ったしね。
「フィリア・・・?」
「カルナード、やりすぎは駄目だよ?」
「・・・やりすぎも何も、まだ何もしてませんよ」
確かにそうなんだけど、そうじゃなくて。
「何もしなくていいよ。だってあの人は私を害そうとしたんだから」
「はぁ?アンタ、何様のつもり?アタシは第三王女よ?帝国の、王女なのよ!アンタみたいな子爵の令嬢如きが害されたから何よ?アタシは骨を砕かれたのよ!」
「火の賢・・・乙女は私のこと知ってたけど、もしかして知らないの?王女なのに?」
「アンタのことなんて知らないわよ。自意識過剰もいい加減にしてくれない?」
その台詞、そのまま打ち返したい。
呆れに息を吐き出すと同時に、ぱちぱちと、どこからか手を叩く音が聞こえた。
その音源を探ろうと周囲を見渡し、嫌そうな顔をしているギネアとヴェルナンドが視界に映る。あの二人がそんな顔をする相手って・・・まさか。
「いっやぁ~、なぁかなかのぉ喜劇ですねぇ!喜劇作家も吃驚な駄作っぷりでぇすよぉ!」
「俺達の包囲網のどこから現れたんデスか、グランドール糞先輩」
「糞とはひどぉい!うっひゃひゃひゃ、先輩はちゃぁんと敬うものでぇすよぉ!」
「尊敬する欠片が一つでもあるなら、そうしますよ」
茂みから勢いよく頭を出し、葉っぱや小枝を髪につけたままこちらに近づいてくるグランドール先輩。今日も変わらず袋で顔を隠してるけど、良い声ですね。
「さてそれで」
テンションが落ち着いた、普通の話し方をするグランドール先輩に第三王女が気味悪いそうに見つめた。気のせいでなければ逃げるように後退している。
「えっと貴女・・・なんて名前でしたっけ?」
「ぶ、無礼者!第三王女であるアタシの名を知らないなんてどう言う」
「これは失礼を」
演技かかった動作でグランドール先輩が頭を下げ。
「何しろ、皇族ではない方の名を存じないので」
声音を変えることなく、そう、静かに告げた。
「・・・は?何を、言って・・・」
「ですから、皇族ではない方の名を存じません――そう、申したんですが?」
「あ、アタシは第三王女の」
「第三王女、とされる方はすでに亡くなっておりますが?そう、この王国に着く前の不慮の事故で」
「不慮の事故って・・・アタシはここにいるじゃない!生きてるのに亡くなったって、どう言うことよ!」
「国としての判断でしょう。何せ――花の乙女に害をなした存在ですから」
あれ、情報が帝国に行くの・・・早くない?
これはカルナードの仕業?それとも聖国?
「聖国を敵に回したくない帝国として、原因となる者を排除したんでしょうね」
「花の・・・乙女、て」
「そこにいるフィリアちゃんですよ。知りませんでした?」
大きく眼を見開き、私を見る第三王女の顔から血の気が引いた。本当に知らなかったんだ。
神に愛された者の情報は公開されてるのにね。興味がなかったにしても、国のためには覚えておくべきだったんじゃないかな?引き抜きとか、友好関係のために。
そう言うのが面倒だから、私もルキもあんまり表に出ないんだけどね。
「私の婚約者であるフィリアを害したんですから、それなりの報いは受けてもらいますよ。ああ、当然ながら貴女を野放しにした帝国には、私達が被った損害賠償金を貰いますので」
あの、カルナード?
「勿論、貴女からも貰います」
もう、その辺で。
「この学園で貴女が起こした損害は、果たしていくらほどでしょうね?一生かかって返せる金額だといいですね」
私、やりすぎないでって言ったよね!
「私とフィリアの時間を奪った罪は重いですよ・・・?」




