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花の乙女は平穏を愛する  作者: 如月雨水
route:??
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2

route:ヴェルナンド(全二話)


「いや、本当にするとは思わなかった」


――とは、世界樹の泉に落ちた私達二人に向けた、魂の管理者の台詞である。

てか、死を司る神ってやっぱり貴方か。思わず苦い表情をした私の眼の前で、地母神がどこからか取り出したハリセンで魂の管理者の頭を叩いた。とても紙で作られた物と思えぬ音を発し、魂の管理者を一発ノックダウンする地母神は強い。むしろ怖い。最強だ・・・!

魂の管理者に制裁を喰らわせる地母神の怒りを買わないよう、ヴェルナンドと安全圏へと逃げた。そしてヴェルナンドに詰め寄る・・・じゃ、なくて。

「さっきはありがと」

「心中して感謝されるとは俺、吃驚デスよ」

「違うから」ヴェルナンドの頭をチョップした。「倒れた時だよ、馬鹿」

「背中、痛くなかった?」

意識が朦朧としていて、はっきりと思い出せないけど結構、勢いよく倒れた気がする。

「背中よりもチョップの方が痛いんスけど」

「なんでしゃがみ込んだのかと思ったら・・・。そんなに力は込めてないよ?」

「俺の眼ぇ見て言ってくれる?」

「それより本当に死んじゃったんだね、私達」

そそっとヴェルナンドから距離を取り、両手を動かす。死んだと言うのに、生きている時と何ら変わらない動作。体温。そして痛み。本当に死んだのかと首を傾げてしまう。

「あ」何となく右手を伸ばして、瞠目。

「魔法、使えない。花の乙女の力も使えない!吃驚!死んだから?」

「それは驚きデスけど、無視はよくないと思うんだよな、俺」

ほっぺを容赦なく引っ張られた。いーたーいーっ!

「それよりもあっち、いつになったら痴話喧嘩が終わるんデショうね」

「いったぁ!・・・うぅぅ、アレは痴話喧嘩と言うより夫婦喧嘩じゃない?」

「どっちも違うから」

突然現れて即座に否定した地母神に、声も出なくて・・・。驚きすぎて腰が抜け、ヴェルナンドの腰に縋りつく形になってしまった。恥ずかしい。

ぽんぽんと、子供を宥めるように頭を撫でないで。余計に恥ずかしい。

「私とアレはただの・・・・・・・・・。それよりも、肉体ごとこっちに来たのは問題よね」

「え?肉体ごと?前みたいに精神だけじゃないの?」

「死んだなら魂だけになるんだけど・・・。動転したあの馬鹿が肉体ごと連れてきたのよ。幸い、人に見つかるヘマはしなかったけど・・・・・・はぁ」

何かしら、問題は起きたようだ。

額に手を当て、憂いの表情を見せる地母神はそれでも尚、美しい。溜息出ちゃう。

「まぁ、それはこっちで対処するから気にしないで」

ひらひらと右手を振る地母神に、苦笑した。丸投げしますけど、本当にいいんですか?

「じゃ、お願いします」

「はいはい、適当にやっておくから安心して。ついでに蒼水帝はさくっと殺して次代を造るから」

「さくっとじゃなく、じっくり甚振りながら殺してくれませんか?出来れば見っともなくもがいて、足掻いて、殺してくれと懇願するように」

こっわ!

暗い笑みを浮かべ、双眸に憎悪の炎を宿らせたヴェルナンドが恐ろしいことを口にする。いや・・・でも、積年の恨み?と言うやつなら仕方ないのかもしれない。とりあえず、触らぬなんとやら、だね。

そっとしておこう。

「二人はもう死んでるから、輪廻することも出来るけど」

え、出来るの?

「その気はないみたいね」

「え゛?」

「え?」

私はヴェルナンドを見た。

ヴェルナンドは私を見た。

きょとんと、瞬くヴェルナンドは童顔も相まって余計に幼く見える。可愛いな、と思ったのがばれたのかデコピンされた。エスパーか、君は。

「俺と一緒にいたくないのかよ」

「・・・や、そう言うことじゃなくて!ただ、純粋に輪廻出来るんだなぁって思っただけで。そもそも、一緒にいたくなかったら死ぬ時に抵抗してるから、私」

「それもそっか」

即座に納得された私って・・・。

「それじゃ、私はアレと一緒に後処理をするから」

「ここ、勝手にいていいんスか?」

「世界樹を傷つけなきゃ、好きに過ごしていいよ。ただし――節度を持って」

「節度?」

「じゃ、またね」

ぱちくり、瞬く私の視界から地母神が消えた。ついでに魂の管理者も消えた。

風もないのに世界樹の葉が揺らめく。

泉に小さな波が現れた。

「・・・えと」

ヴェルナンドを見上げた。

「ん?」

「いや・・・なんかこう、改めて二人っきりだと、その、照れるなぁ・・・と」

顔が赤くなるのが判り、視線を外して俯いた。

うぅぅ・・・今まで私、どうやってヴェルナンドと接してたっけ?むしろどんな顔して話してた?普通にしてたことが出来なくなるなんて、恐ろしいぞ、恋!てか、普通ってなんだっけ・・・・・・・・・。

「あー・・・そんな顔されると、俺もつられちゃうデショ」

「そ、そんな顔って何!?変な顔でもしてた・・・?」

「今すぐ襲いたくなる顔」

「おそ・・・おそ!?」

仰天した。

驚いてヴェルナンドの方を向けば右腕を引っ張られ、体勢を崩した所で肩を押されて地面に座り込んだ。ん?困惑する私に何も答えず、ただ笑って膝に頭を下ろすヴェルナンドに・・・漸く、膝枕の状態だと頭が理解した。瞬間、脳が沸騰。

意味もなく両手がわたわたと動き、誰もいないのに辺りを見渡してしまった。恥ずかしい。いや、現状が一番恥ずかしい。膝枕なんて、膝枕なんて・・・・・・。

「膝がしびれるから嫌!」

「いでっ!・・・その返しは乙女としてどうかと思うスよ」

「花の乙女、ではあったよ」

「過去形」

「だって過去だもん」

思わず笑った。

「私もヴェルナンドも、死んだんだから」

「・・・それも、そうデスね」

ヴェルナンドの右手が私の頬に触れる。

指先が輪郭をなぞり、人差し指が唇で止まった。

「どうする、これから」

「どうしよっか」

ヴェルナンドの右手を掴み、両手で握りしめる。

「時間はいっぱいあるし、のんびり考える?」

首を傾げ、そう尋ねればヴェルナンドが笑った。

「それもいいっスね」

恥ずかしい。という思いも消え、ヴェルナンドに自分からキスをした。

驚いた顔のヴェルナンドが面白くて、嬉しくて、愛おしくなって、もう一度その唇に触れた。







と、言うのが体感時間で計算した三日前のこと。

実際はもっと経っているのかもしれないが、生憎、世界樹の泉(ここ)では時間の経過が判る物は何もない。

あの後、膝枕をしたままのんびりしていれば地母神が現れ、さらっと「君達の記憶を書き換えたから」と告げられた。書き換えたとはどう言うことだろうと首を傾げれば、何でも私とヴェルナンドは五年前の学園の修学旅行で合った事故で死んだ。と言う風にしたらしい。そんなことが出来るのかと驚いたけど、ヴェルナンドと二人して複雑な気持ちになった。それはつまり、私達と過ごした記憶は五年前で途絶えた、ということで・・・。

でも、それが混乱を生まず、最善ならば受け入れようとヴェルナンドが私を慰めてくれた。ギネアとかは執念と意地で覚えてそうだけど、と言ったら吹き出して同意してたけど。

そして地母神の後に現れた魂の管理者は「蒼水帝は要望通りの死にざま」と朗らかに告げた。内容!と絶句しかけた私の膝から、ヴェルナンドが嬉々とした声で感謝を述べて・・・恐ろしい、この恨みっ。と戦慄した。私が好きになった人って・・・人ってっ!

さらに聖国は滅ぼしたと告げられた時は・・・しかも滅ぼした理由が「面倒になった」って言うのがまた、なんとも。理不尽な。心の中で合掌したなぁ、あの時は。

その後も色々あったけど、驚いたのは幼馴染三人が誰も結婚していないこと。

縁談を進められてものらり、くらりと逃げて・・・。自惚れながらも、そこまで私のことを。と感動したら嫉妬したヴェルナンドの逆襲?を受けました。うぅぅ、感動くらいしてもいいじゃないか。とその後に言ったらさらに襲われた。酷い。

「――――暇デスねぇ」

私は何故か、そう、何故かヴェルナンドの膝に座った状態で泉を眺めている。恥ずかしい、という思いは既に彼方に消えた。・・・いや、嘘だ。恥ずかしくて逃げようともがき、体力がつきて諦めただけである。

「泉に見える景色も、あんまり変わりないし」

ヴェルナンドの呟きに眼を見開いた。

「いやいやいやいや、ギネアが変な宗教の教組になったよね?花の乙女を神とする宗教の!」

「あ~、ギネアだし普通デショ、普通」

「普通学科二年の仲間が、ギネアを中心に新しい国を作り出したよね!?」

「仲間意識高いデスからねぇ」

「・・・・・・帝国と王国が戦争しそうな空気なのは?」

「王弟、いや、もう陛下か。陛下に喧嘩売ったんデショ。仕方ない、仕方ない」

「・・・まぁ、それは、確かに」

気が付けば、王は王妃と愛人に滅多刺しにされて殺されていて、殺した二人は速攻で死罪が決定していた。さらに逃げようとした王弟を宰相が死ぬ覚悟で捕まえ、陛下の座に命懸けで座らせていて・・・。

ああ、リズかラズベリス様のどちらかが次期後継者か。

なんて、若干の憐れみを覚えながら泉を見ていたらリズは早々に王位継承権を破棄してラズベリス様に後継を押し付けていて・・・。

「ギネアも普通学科二年の仲間も、あの三人も、なんか私が知ってる顔とは違う顔してたなぁ」

「そりゃ、そうデショ」

さも当然のようにヴェルナンドが言う。

「皆、フィリアのこと大好きだったからな」

ぎゅっと腹部に回された腕に力がこもり、僅かにあった隙間をなくされた。

「五年前とは言え、いなくなった事実から立ち直れないんスよ」

「正確には違うけどね。でも、そんなものかなぁ」

「まぁ、だからと言ってフィリアを手放す気は毛頭にないデスけどね!俺」

「苦しい、苦しい。腕の力、緩めて」

「えー」

可愛い声を出しても駄目!

べしべしと容赦なくヴェルナンドの腕を叩けば、何故か身体の向きを変えられた。どうして横抱き?横にする意味は?・・・背面は駄目なの?

「あんま、現世ばっかり見るの禁止」

「拗ねるから?」

「そうっスね、拗ねます」

「・・・それって、前に地母神が言ったことも原因?」

図星らしく、沈黙した。

私は苦笑し、肩を竦める。まったく、変なことを気にしてるなぁもう。そこが可愛い、と思う私は重症を通り越して重篤だけど。

それにしても・・・まぁ、なんと言うか。早々に処理を終えた地母神が語った言葉を思い出し、頬を書いた。

もし、私がリズを選んでいたら加護は王国全体に行き渡り、アルトを選んでいれば加護は国の垣根を越えた騎士全員に向かい、カルナードを選んでいれば貿易を生業としていることから海をまたいで数多の国に加護がつく。――そう、地母神は言った。

成程と納得すると同時に、宿業の意味ってと頭を抱えた。

そんなあっさりとどうにかなる宿業なんて、無意味に等しいだろう。何でこんな変な事態になってるの?あ、私が三人を選ばなかったからか。よし、理解した。

けれど先代達は?

私はその可能性もあったけど、先代達にはあったのだろうか?恐る恐る先代達はどうなのかと問えば、乙女も賢者も独りを選んで、選んだくせに孤独に耐え切れずに短命だったと告げられた。短命とはつまり、自殺かと率直に問えば沈黙が返って・・・それが答えだと解って絶句したのは記憶に新しい。

私のあり得たかもしれない未来に、眩暈すらした。

顔色を青くさせた私の耳元で、地母神は囁く。

「選択肢が見えなかったら、君は同じ道を歩んでただろうね」

――と。

その瞬間、衝撃が走った。

嘘だろう!と思わず叫び、頭を抱えて絶望した。

私が選び、進んできた道は結局の所、敷かれたレールの上だった訳で。神々の王の掌で転がされていた事実に・・・項垂れた。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・これ、よくよく考えると私、神々の王に感謝しないといけないの?

「フィリア?」

愉快犯に?

私で楽しんでる風がある愉快犯に?

「おーい、フィリア?」

殴りたいと思ってる相手に感謝って物凄く嫌。

「・・・フィリア」

息苦しい。

いや、呼吸が出来ない。その事実に驚いて思考が現実に戻ったら、視界がぶれて眼の前のモノがよく見えない。なにこれ?動転して、とりあえず息をしようと口を開けばにゅるりと入り込んだ何か・・・慣れてしまったそれに熱が一気に上がった。顔が熱い。いや、身体全体が熱い。

何がどうなってこうなってるの?!

「な・・・なにごと?!」

「・・・」

「いやいやいや、待って待って。落ち着こう。何、またキスしようとしてるの!?」

ムッとした、判り易く不機嫌です。と言った表情のヴェルナンドの顔を押しのける。

「私はちょっとの考え事もしちゃ駄目なの?」

「声をかけたら俺を見て」

顎を掴まれ、視線を固定された。

「俺のことだけ考えて、俺だけを意識して」

額に、まぶたに、鼻に、口づけが落ちる。

「流石にずっとなんて無茶振りはしない。けど、声をかけたら俺に集中して欲しい」

瞬く。

それは、なんとも・・・うん。

「拗ねるから?」

「拗ねる」

「・・・・・・頑張る。けど、考え事してる時はすぐに意識をヴェルナンドに向けられないから、ちょっと待っててくれるとありがたいんだけど」

「駄目」

駄目ですか。

そうですか。

可愛らしい不貞腐れ具合に苦笑し、右手でヴェルナンドの頭を撫でた。

「先はまだ長いんだから、ゆっくり慣れていこうよ。それも駄目?」

「駄目」

即答したヴェルナンドに失笑がでた。

「ねぇ、ヴェルナンド」

「何デスか?」

私はヴェルナンドと一緒にいる道を選んだ。

それは死によって得た道だけど、後悔はない。だって死んでも一緒にいられるんだから。・・・だからと言って、愉快犯に感謝はしない。絶対にしない。

けど・・・・・・可能性を与えたくれたことだけは、ありがたいと思う。

「愛してる」

「・・・俺も愛してますよ。殺して一緒になるぐらい」


こんなendもあっていいじゃないか。な気持ちで書いたroute:??これにて完結!三人のrouteが基本Goodendなのに対してbadend風味のroute:??。前のあとがきでも書きましたが人によってはある意味Goodend。Happyendは大円満並みに難しいと思うんですよね、現実でも乙女ゲームの攻略でも。ただただ好感度上げれば即座にHappyend!trueendとか・・・どうかと思う。と言う心境で書いておりました。

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