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花の乙女は平穏を愛する  作者: 如月雨水
route:??
28/30

route:ヴェルナンド

学園へ向かった私の目の前に、夜遊びに行く格好をしたヴェルナンドが現れた。お互いに眼を見開き、驚愕に声も出ない状態で。いや、本当になんで?と頭上にたくさんの疑問符を浮かべていた。

「――何やってんスか?」

先に我に返ったのはヴェルナンドだった。

「何って・・・」

何と、言えばいいんだろう。

ヴェルナンドに告白をしに?でもだからって学園に来たのはおかしい。だって普通、ここにいるなんて解らないはずだし。選択肢のおかげでいるって解る私は、これをどう説明したらいい?下手したらストーカーだよ。訴えられて負けるよ。嫌われる未来しか見えないよ・・・!

「ちょ・・・?!フィ、フィリア?どうしたんデスか!?」

「あ・・・うん、どう・・・した・・・・・・・・・あはは」

「壊れた!?」

「大丈夫正常」

「青ざめた顔で脂汗描いてるのにっスか・・・?」

「うん、ただここで告白していいのかどうか・・・あ」

血の気が引いた。恐る恐るとヴェルナンドを見れば、眼を見開いて驚いている。これは誤魔化せな・・・いや、いける。まだ間に合うはずだ。

「告白って、俺にデスか」

「え、やだ自意識過剰。そうに決まってるでしょうが」

「・・・フィリア、実は混乱してるデショ」

「あはは、そんなことあるに決まってるよ」

やべぇ、混乱状態が酷い。

冷や汗がだらだらと流れ、頬が引きつった。どうしよう。本心が意思に反してぽんぽんと出てくる。怖い。何この状況、怖い。勝手に動く口とか怖いんだけど。

「あー・・・俺のこと、好きなんデスか?」

そうだよと頷きかけて、意地で止めた。だって、ヴェルナンドの双眸は迷惑そうな色を携えていて・・・これ、失恋決定だと即座に判断出来た。・・・いたい。

「そう、友人としてね」流れそうな涙を根性でせき止める。「それ以外に何があるの?」

「告白って言うのは、実はヴェルナンドに言わなきゃいけないことがあったからで、別に好きだとかじゃないから。何々、私が友人じゃなくて異性として好きだと思った?もう、それこそ自意識過剰だよもー」

すらすらと出る、誤魔化しの言葉に胸が痛む。

違う違う違う違う!本心は違うだろう!と叫ぶ心に耳を塞いだ。知らないふりをして眼を背け、意地悪く、普通学科二年の仲間によく見せる笑みを浮かべた。

今だけ。今だけは・・・自分すら欺く、女優になるんだ!

「・・・ふぅん。それで、俺に告白したいことってなんスか?」

ヴェルナンドが不愉快そうな顔をした。・・・普通学科二年には、私には見せたことのない顔を今、向けられている事実に切り裂かれた様に痛み、悲鳴をあげる心が煩い。我慢しろ。我慢、今だけは我慢して・・・笑え。


「私――学園辞める」


失恋したから辞めるのではない。

「私は花の乙女だから、一か所に留まっちゃ駄目なんだって。意味わかんないよねぇ。でもね、繁栄を司る花の乙女の宿業だって言われたんだ。なら仕方ないよね。歴代の花の乙女、ないし、花の賢者は一定の年齢になると旅に出てたって言うし」

私は神に愛される存在で、奇跡のような現象を、加護を与える者。その中で繁栄を司る者だから、その加護を一つに留めて置く訳にはいかない。そう言ったのは・・・ツヴァイン様だったか、ラインハルト様だったか、王弟妃のリィン様だったか。小さい頃の記憶でもう、覚えてはいないけれど。

「他の神に愛される存在はずっと、同じ所にいてもいいのにね。理不尽だよねぇ」

私は今、上手く笑えてるだろうか・・・?

「で、私は学園を辞めるんだ。ギネアに言うと大事になりそうだから、ヴェルナンドが伝えて置いて――って言う告白」

好きな人に想いを告げることも出来ず。

愛する人と一緒にいる未来を見れず。

慣れ親しんだこの国から出ていく。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・はは。

寂しいな。

私の言葉に驚くこともなく、怒りも嘆きも何もない能面のような顔をしたヴェルナンドに涙が出てきた。私は・・・ヴェルナンドに憐れんでも貰えない存在なのか。異性としての好意がなくとも、悪友としての好意はあるって・・・・・・思ってたんだけどなぁ。

自意識過剰なのは、私だったか。

俯いた顔を上げ、息を吐き出した。

「ちなみに今日話したのは、明日、旅に出ようと思ったからなんだ。思い立ったが吉日!と、言う訳で私は明日からいません。――――だから、さよなら」

この場所にも。

この想いにも。

別れを告げよう。

今なら、泣いても大丈夫。別れが辛いだけだと思ってもらえる。無理して笑う必要はない。なのに・・・臆病なくせに変に意地っ張りな私はいびつな笑みを浮かべてしまう。馬鹿みたい。

「それってつまり、あの三人の想いから逃げるってことデスよね」

「・・・ううん。断るからそうでもないよ」

そう言えば、三人から告白・・・告白か、あれ?ともかくされていたことを今、思い出した。あぁうん、でも断るよ?だって好きなのは・・・・・・・・・。

駄目だ、自分で心を瀕死にさせちゃった。

小等学部で、出会い頭に互いの手を取り合って挨拶したの。その邂逅は眼を閉じれば、すぐに思い出せるぐらい・・・ヴェルナンドのことが好きなのに。それを言葉にすることが出来ない。心を重ねることも、出来ない。

痛いなぁ・・・。

嘲笑し、背を向けた。

「私は」

声を震わせるな。

気丈でいろ、普段通りに振るまえ。

「誰も好きにならない」

好きな人(ヴェルナンド)に、迷惑だと思われるのは嫌だから。

「好きになっても一緒にいられないなら、私は独りでいい」

足を動かし、家路に向かう。

ヴェルナンドが・・・その場から動く気配がしない。ま、私に気配なんて解んないんだけど!音がね、私の声以外にしないんだからそうなんだろうね。きっと。

「独りだったら、さ。愛に苦しむことも、悲しむこともないでしょ・・・?」

顔だけを後ろに向けて笑えば、ヴェルナンドは同意するかな?それとも・・・。僅かな希望を持ったのに、そこには誰もいない。

「・・・」

私は。

「・・・・・・っ、は・・・酷い、悪友だね君は」

ヴェルナンドにとって、どんな存在だったんだろう――――?







泣き腫らした眼でこっそり、簡単に荷造りを終えた私は家族に書き置きをして家を出た。あと、三人の告白には丁寧にお断わりの文を書き、追って来たら意地でも逃げるとことを記した。ついでにこれは花の乙女としての宿業だと書けば、王弟が手を打ってくれるだろう。学園長には早朝、自宅を訪ねてあれこれそれでと説明して退学にしてもらった。

なにも退学しなくても、と言われたけどいつ帰るか解らないからと言いくるめて・・・。

「――――どこ、行こかなぁ」

私は慣れ親しんだ王都を出て、王国の地図を片手に街道を歩いている。

珍しい植物を探しに山に行くか、それとも温泉郷に行くか。・・・海、見てみたいな。ここから海がある街までどれくらいだろう。

「・・・西ってどっちだっけ」

王国がここ・・・だからたぶん、今が東・・・で?ん?

「西はこっちデスよ」

穴が開く程に地図を見ていれば、右から聞きなれた声がして息が止まりかけた。ついでに心臓も止まったかと思った。

呼吸をすることを忘れて右を見れば、旅装束のヴェルナンドがいる。・・・なんで?

「な、んで・・・?え?見送り、じゃないよね・・・?あ、ヴェルナンドも旅に出るの?あれ?じゃあ学園は?ギネアへの伝言は?――なんでいるの?」

驚きすぎて地図、どっか飛んで行った。

「フィリアに同行しようと思って」

「なんで?」真顔で聞き返す。

「私、一人旅をしなきゃいけないんだけど」

「それって、誰が言ったんスか?」

「誰って・・・」

「フィリアが自分でそう決めただけデショ」

疑問形ではなく、確信を持った言葉に口を閉ざした。

確かに、一人旅をしろと言われた記憶はない。いやでも私の記憶力なんてザルのようなものだし、聞いたけど忘れた可能性もない訳ではなくて・・・。でも今、一人で旅に出ると決めたのは私だ。

ギネアを誘うことも、三人について来てもらうことも考えずに。

「そうだね。私が決めた。で、それが何?何か問題でもあるの?」

へらりと、何でもないように笑う。

「魔物に襲われそうになっても一人でなんとか出来るし、旅費が尽きても薬草を採取してお金に変えればいい。ほら、私なら大丈夫だよ」

何か問題でもあるかと問えば、また、不愉快そうな顔をされた。

・・・何が、悪いんだろう?私はただ、独りでも大丈夫って言っただけなのに。どうしてヴェルナンドからそんな顔を向けられるのかが解らない。

「俺もさ」

一歩、一歩とヴェルナンドが近づいてきた。

「フィリアに告白することがあるんスよね」

近づく分だけ後ろに下がる。

「告白・・・?」

「そう、告白。フィリアだけに、教える俺の秘密デスよ」

悪戯っ子のように笑う顔とは裏腹に、双眸には不快が見える。そんなに嫌なら、言わなきゃいいのに。私の前になんて現れなきゃいいのに・・・何がしたいのかもう、解んないよ。

付き合いが長いのに、私はヴェルナンドを理解(わか)ることが出来ない。

いや、付き合いが長いから知っていると思っていただけで、何一つ、知っていなかったのかもしれない。だとしたら馬鹿だ。上辺だけの付き合いで、ヴェルナンドを悪友・・・って思ってたなんて。馬鹿すぎて呆れて泣けてくる。

「俺もフィリアと同じで、宿業があるんだ」

「・・・同じ」

「とは言え、七賢人(セプテム・サンクト)程の宿業じゃねぇんスけどね」

七賢人って呼び方、王国でも帝国でもしない。

そう呼ぶのは聖国の、それも王族に近しい者だけだってリズが言っていた。まさか、ヴェルナンドの秘密って・・・。

「人身御供なんデスよね、俺」

「は?」

「どうにも俺、蒼水帝が愛した人間の生まれ変わりらしくて一定の年齢になったら問答無用で龍神と結婚させられるんっスよ」

「・・・は?」

「蒼水帝は番の願いを叶え、共に生きる未来を諦めた。でも、魂だけは諦めなかった。何度、別れを繰り返しても、何度、孤独に苛まれても、愛した人間の魂が現れたらそいつの人生を無視し、自らの元に置こうとする」

がしりと、痛いくらいに右腕を掴まれた。

「意思を無視し、拒否権もなく、一方的な愛を捧ぐ奴に一生を奪われる。全ては蒼水帝が愛した人間と生きたいと願ったせいで」

「生きたいって・・・それ、矛盾してるよ」

「してないんスよ、これが」

嘲笑された。

掴まれた腕に力がこもり、痛みに顔をしかめた。

「愛する人間の願いは叶えた。けど、蒼水帝は一緒にいたかった。だから神々の王と契約したんデスよ。『声を失う代わり、何度でも愛する者と生きられる未来が欲しい』って。だから魂が摩耗することなく輪廻する。はた迷惑だ」

吐き捨てるように告げたヴェルナンドが、痛みに顔をしかめる私に気づいて力を緩めてくれた。けれど放してはくれず、むしろ腕を引いて腕の中に閉じ込められる。瞠目した。

なんで?それ以外が口から出ず、腕の中から逃げることも出来ない。ううん、違う。

私は、好きな人(ヴェルナンド)から離れたくないだけなんだ。

唇を噛み、額をヴェルナンドの胸板に押し付けた。

「聖王は蒼水帝が国の守護を続けるならと、生まれ変わりを探して生贄のように捧げる。一人の人間を犠牲に、国を護れるならば安いもんデスしね」

努めて明るく告げるヴェルナンドの声は、震えていた。

それは怒りか、悲しみかは判らない。判らないけれど、私を抱く腕の力が強まってより身体が密着した。息苦しい程の抱擁を嫌と思えず、胸に充てていた両手を背中に回して。そして背伸びをしてヴェルナンドの頭を右手で撫でた。大丈夫、なんて言えないけれど・・・そうしたい気分になったんだから仕方がない。

「ヴェルナンドは逃げるの?」

「逃げれたら、逃げたいよ」

耳元で囁かれた声は、懇願に聞こえた。

「聖国がどうなろうと構わないけど、俺が逃げたら家族に迷惑がかかる。それだけは阻止したいんスよね・・・。でも俺、魂にしか興味のない奴の元で一生を過ごすなんて御免でして」

「そうなんだ。・・・で、迷惑がかかる、って言っておきながらその、旅装束はどう言う?」

「家族がさ、言ったんだ」

腕の力が弱まり、視線が絡み合う。

こつりと額が重なり、吐息を近くに感じて恥ずかしくなった。視線を下げようとすれば許さない、とばかりに顎を掴まれてまた、眼が合う。頬の赤みが増して、顔全体が沸騰したように熱い。近い距離よりも、熱のこもった真剣な眼差しに射抜かれていることが心臓に悪いっ。

・・・いや、旅装束の説明は?

「『家族の縁は切った』って言って、本当に戸籍から俺の存在を消して縁を切ったんスよ。驚きでしょ?それ知って俺、思わず家を出たんデスよね」

「それ・・・が、昨日?」だから旅装束の説明は?

「そう。その後にフィリアと逢って、八つ当たりした。ごめん」

「八つ当たり」

そうか、そうなんだ。あの眼は、顔は、空気は・・・私に当たってただけで本心じゃ、ないんだ。八つ当たり、八つ当たり・・・・・・いや、八つ当たりでも酷くない?

「私は傷つきました」

「うん、ごめん。本当に申し訳ありません」

「怒ってるんですよ、私。笑わないでちゃんと謝って。誠意を示して」

「すいませんでした」

だから顔、笑ってるんだってば。

「怒ってるフィリアもやっぱ、可愛いなって思ってたらにやけるんデスよ」

「・・・頭大丈夫?」

「真顔で心配しないでくれません?」

頭突きをされた。痛いけど・・・やったヴェルナンドの方が痛そうだ。私は悪くないけどごめん、石頭で。

「で、フィリアが旅に出るって言うから俺、思ったんデスよね」

話を戻した・・・!

「これはチャンスだ、って」

「・・・なんの?」

「フィリアと駆け落ちする。だからこの姿なんデスよ」

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・?

「ごめん、幻聴が聞こえた。今、何て?」

「駆け落ち」

「誰と?」

「フィリアと」

言い終わると同時に、口を塞がれた。

至近距離で視界がぼやけ、ヴェルナンドがどんな顔をしているのか判らない。けれど、唇に感じる感触は暖かくて柔らかくて・・・愛おしさを感じるソレで。

いやいやいやいやいやいや、ちょっと待て。

落ち着こう、私。

「な、んでそうなるの!?」

「だってフィリア、俺のこと好きデショ」

疑問形ではない確信に満ちた言葉に、頭が沸騰した。

確かにそうだけど、そうだけども・・・っ!どこで判った私の感情。ヴェルナンドを異性として好きだって気づいたのは昨日で、それ以前は悪友に対する好意だよ?

「その根拠は」

「昨日の様子を見てたら誰だってわかるから」

そんな馬鹿な!

「上手く誤魔化せたと思ってるようだけど、俺の観察眼を侮らないで欲しいスね」

「ぁ・・・や、う、そ、そんなことは」

「顔真っ赤にしても説得力ないっスよ」

穴を掘って埋まりたい。

顔を両手で隠し、震える声で呟いた。

「なら、あの対応は何?」

「俺に告白かと思ったら、違う告白だし独りで旅に出るって言うからつい」

「ついって何!?いじめ?虐めなの・・・?」

「フィリアの泣き顔が可愛くて、表情に出さないように必死でした」

「無表情だったけど!?」

「一生懸命に誤魔化そうとするフィリアがあまりにも真剣で、空気を壊したらいけないなーと思った、俺の親切心デスよ」

「いらない。そんな親切心はいらない」

ぼかぼかとヴェルナンドの胸板を叩く。

何?昨日の私の涙はいったい何だったの?悲しみは?苦しみは?寂しさは?――腹立つこの悪友!

好きだけど、好きだけどもぉ!!

「――――愛してるよ、フィリア」

「っ・・・!」

「だから独りなんて寂しいこと言わないで」

「っあ・・・ま、て」

「俺と一緒に、いこう」

言葉と共に落ちる口づけに眩暈がする。

酸素が足らなくて、頭がくらくらとした。

「違うな」

ヴェルナンドが右手を掴み、右手の人差し指を噛んだ。

「?!」

「俺を連れていって、デスかね」

「か・・・む意味が分からない」

「いやー、フィリアの指を見てたら美味しそうだなって」

「・・・お腹空いてるの?」

「空いてますね。食べれるなら今すぐ、食べたいくらいには」

妙にヴェルナンドの眼がぎらついてるけど、それだけ空腹ってことなのかな?にしてもなんかこう、背筋が寒いんだけど・・・。体調でも崩したのかな。

「それで、返事は?」

「食べられるようなモノは持ってないんだけど」

「俺はどこぞのお伽噺に出てくる三匹のお供デスか。わざとデショ」

チョップをされた。

酷い。

「いやだって、私と一緒に旅に出ても・・・その、追われるよ?」

「しつこいくらいの粘着質で追うだろうね、蒼水帝は」

「そんでもって、聖王も・・・追ってをかけるよね?最悪、懸賞金をかけて」

「間違いなく。でも、その二つがなければ問題はないってことスよね」

いや、なければって・・・無理でしょ。なにをあっさり、問題を解くように言うのか。そんなに簡単に済ませられるならもう、ヴェルナンドの前世さん達が解決してるって。

呆れ顔を向ければ、何故か抱き上げられた。

まって体重がばれるからやめて!

乙女の夢らしい、お姫様抱っこはやめて!本当にやめて!恥ずかしくて心臓が口から出る!諸々出ちゃうから!

「聖王どころか蒼水帝も干渉出来ない所に逃げればいいんだよ」

「逃げるって・・・どこに?」

「神々のいる場所」

「・・・は?」

地雷原に爆弾を落とされた気分だ。

「なんか俺を憐れに思った死を司る神が、一度だけ助けてくれるって言ったんスよね」

え、嘘だろ?

「だから、その一度を使おうと思うんっスよね!」

屈託のない笑顔で、なんてことを・・・。

「・・・嫌、か?」

頭痛がした。

眩暈もした。

けど、悲し気なヴェルナンドの表情を見たらそんなのは消えて。溜息をついて、困ったように笑う。

「行く」

両手で頬に触れ、容赦なく引っ張った。

「ヴェルナンドが一緒なんでしょ?好きな人に誘われたら、断る理由なんてないよ」

「・・・フィリア」

「で、どうやって行くの?」

「ん?ああ、それは簡単」

私を抱え直し、にこりと笑ったヴェルナンド。

「死ねばいいって」

「・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

「そうしたら肉体ごと、連れて行ってくれるって」

「んん?」

「だから俺と一緒に死のう、フィリア」

「いやなんでそうなるの!?」

え、待ってその右手に持ってるの何?

そのいかにも怪しい色をした液体は何!?

「いや、まっ!」

「大丈夫」蕩けたような甘い声で、ヴェルナンドは言う。

「苦しくないから、俺と一緒に逝こう」

恍惚とした眼を向けられ、仕方ないなと受け入れた私はだいぶ恋と言うモノに侵されて頭がおかしくなってしまったんだ。そうじゃなければ一緒に死ねて嬉しい、なんて思うはずもない。

愛はある。

けど、愛以上に諦観に似ているけれど、違う感情。

それが何か私は知らない。

知らないけど・・・ヴェルナンドと一緒ならいっか。なんて単純に考えてしまう思考が憎い。

薄れる意識の中、どすりと鈍い音を耳が拾った。

どうやら倒れたようだと理解したのは、視界に空ではなく緑が映ったからだろう。倒れたのに私を手放さないヴェルナンドに称賛を贈りたい。・・・あとで、神様がいる世界に行ったら、何か。

なにか・・・。



前にbadend風味、と書きましたが人によってはある意味Goodend。Happyendではないかもしれないけれど、badendでもない。そんなendだったかもしれない。と思いつつ、このrouteも書いてみたり。

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