表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の乙女は平穏を愛する  作者: 如月雨水
route:??
26/30

route:グランドール

公園に行けば誰もおらず、絶望と言う言葉に心が沈みそうだった。だけど選択肢は嘘を言わず、確かにグランドール先輩と逢わせてくれて・・・。月明かりが照らす、絶好のシチュエーションに私は――――想いを告げることが出来なかった・・・!

この臆病者め!

三日前のことを悔やみながら、今日もまたグランドール先輩を探す。今日こそは、今日こそは!そう決意して、貴重な昼休みをご飯も食べずに動き回る。人間、一食抜いても死にはしない!お腹が鳴って恥はかくけどね。そんなの些細なことさ!ギネアに心配されて、ヴェルナンドにからかわれるけど。それは私を気にかけてのことだから怒るに怒れない。でもね、仕方ないんだ。

緊張と羞恥から、「好き」の一文字も口に出来なかったことを後悔しているんだから!

臆病者でも悔やむ気持ちはあるんだよ・・・っ。ああもう、何で言えなかったんだろう。たった二文字なのに・・・。足が止まる。気持ちが沈んで、頭が項垂れた。

「グランドール先輩」

グランドール・レンディス。

私が好きになった、変人奇人と名高いこの学園一の奇術師。

「・・・屋上に、いるかな?」

選択肢はあの夜以降、見えなくなった。

だからどこにいるのか判らない。走り回って、ただ探すしか出来ない。・・・いや、それが普通なんだろう。さんざん否定しておきながら、私はどこかで、あの選択肢に頼っていたんだ。息を吐きだす。

選択肢が見えなくても気にしない。気にかけない。悩んで、迷って、悔やんで、喜んで・・・様々な感情を抱いていく。そこに間違いのない選択肢なんて不要。そうだよ、スキル如きなんていらないんだ。

「よし!」頬を叩いて気合をいれる。「今日こそは言ってやる!」

そう意気込んで、いざ屋上へ!

・・・・・・・・・。

・・・・・・。

・・・おくじょうには、だれもいませんでした。

そりゃそうだよね。すぐに見つかったら苦労はしないよね。はは。

流石に、凹む。

前までなら休み時間や登下校で遭遇したのに、この三日、顔どころか姿すら見てない。もしかしなくても避けられてる?三日前のことが原因?でも何も言ってないよ?私がグランドール先輩の前で焦って、慌てて、何も言えなくて結局泣いたのがいけない?

・・・そうだよね。

いきなり泣かれたら、何かしたかもと思って距離置くよね。私なら置くわ。遠ざかって近づかないようにするね。・・・まじか、まじなのか。

「あ・・・はは」

ふらふらと、足がフェンスの方に向かう。

「自業自得・・・だよね」

世界から色が失せる。輝いて見えたはずの色が、全部くすんで色褪せて、価値のないモノに見えてしまう。重症だ。どうしようもなく重症だ。魔法でも治せないよ、こんなの。

がしりと、右手が強くフェンスを握りしめた。

ああ・・・憎らしい程に空が綺麗だ。私の心は雨模様で、今にも台風が来てもおかしくないくらい荒れているのにね。はぁ。

「ちょっとちょっとぉ、なぁに危ないことしてるのかなぁ~?」

焦った声が聞こえ、振り返ろうとしたらそれよりも早く右肩を掴まれ、フェンスから遠ざけられる。あれ?

瞬き、首を動かして声の主を――この三日、探していたグランドール先輩を見つめる。

ん?グランドール先輩?

「グランドール先輩?!」

「はぁい、グランドール先輩でぇすよぉ」

にこにこと片手を上げるグランドール先輩に、何故だろう。無性に苛立ちを覚えた。一発、殴っても罰は当たらないと誰かが私の耳元で囁く。

「まったくもぉ、屋上のフェンスは老朽化が進んで危険だってHRで聞かなかったのかなぁ。ほらほらぁ、危ないから手を離そう。ね?」

「そうですね」フェンスから手を離し、自然な動きで拳を作る。

「これじゃあ、殴れませんもんね!」

「え?――――――っぐっはぁ!?」

よし、我ながら見事なストレートだ。綺麗にみぞおちに入り、少なからずともダメージを与えることは出来たようだ。・・・私の手もダメージを負ったけど。筋肉、硬い。痛い。グランドール先輩の腹部は鉄か?

じんじんと痛む手を摩り、眼を白黒させているグランドール先輩を睨みつける。

「三日ぶりですね、グランドール先輩」

「あ、う、うん。そぉだねぇ、三日ぶり、かなぁ?」

「かな?じゃなくて、三日ぶりです。お久しぶりです、先輩。で――先輩。この三日・・・私を避けてました?」

猫の着ぐるみの顔部分だけを被ったグランドール先輩から、表情を読み取ることなんて出来ない。が、にじみ出る雰囲気が肯定している。気まずい空気を出して、この場から逃げようとしているのが分かった。

逃がすと思いますか・・・?

にこりと笑い、しゃがみ込んだグランドール先輩の両肩を強く、それはもう火事場の馬鹿力もかくやと言う力で掴む。うふふ・・・骨が軋む音がするけど空耳だね。

「私、探してたんですよ。グランドール先輩のこと、この三日」

「そ、それはご・・・ごめん」

「あれ?どうしたんですか?口調が元に戻ってますよ?おかしいですね。確か先輩、奇術師たるものペースを崩されないって言ってましたよね?ほら、道化キャラに戻りましょ?」

「あ、う、そ、え、や」

「いやだなーもう先輩。言葉になってませんよ」

「ご、ごめん」

いやだなぁ、もう。なんで震えた声で謝ってるんですか先輩。心なしか身体、震えてません?まさかとは思いますけど私に怯えてる?もー、幼馴染三人や普通学科二年と比べたら平々凡々の非力な女子ですよぉ?怖がる必要、ないですよね。

あらやだ、露出してる首部分から大量の汗が。まるで滝みたい。うふふ。

「・・・はぁ」何やってんだ、私。

頭に冷水をかけられたように、感情が鎮静化した。溜息をついた私にグランドール先輩が肩をはねさせる。・・・怯えさせるつもりはなかったんだけど。いや、これはもう自業自得だ。何やってるの、私。嫌われることしかしてないじゃないか。

指先から力が抜けていく。

顔を俯かせ、突き飛ばすようにグランドール先輩の肩を押した。体勢を崩さないのは流石だなぁ、と思いつつ、足を動かす。――もう、やめた。

唇を噛みしめて、背後で何か言おうとするグランドール先輩を無視する。ああ・・・心臓が痛い。でも、もう無理なんだよ。軌道修正も、修復も、全部不可能な自業自得だ。

「グランドール先輩」

屋上の扉の前で足を止め、振り向かないまま名前を呼ぶ。当然、返事はこない。

別に・・・期待はしてませんよ。ええ、期待して傷つくのは私だからね。知ってますよ、そんなこと。だからこの胸の痛みは幻痛だ。自嘲がこぼれる。

「さっきはすいません。なんだか変な誤解をさせていらぬ心配をさせてしまったようで。でも安心してください。先輩を誤解させることも、心配させることもしませんから」

「フィリアちゃん・・・?」

「もう、私の前に姿を見せなくていいですよ。この三日間と違って、私が先輩の姿を探すことを二度としません。声をかけえることもしません。関わることもしません。だから安心してください。先輩はもう、私から逃げなくていいんですよ」

心持ちはゆっくりと、でも実際は素早く後ろに振り返って――私は笑った。


「――――好きでした、グランドール先輩」

根性で声を震わせるな。

意地でも涙を流すな。

口角を吊り上げて何でもないように――笑え・・・笑え、笑えっ!

「さようなら、先輩」


唖然とした様子を見せるグランドール先輩から逃げるため、扉を乱暴に開けて階段を駆け下りた。心臓が痛い。眼元が熱い。硬く閉ざした口から、悲鳴が出そうで・・・怖い。

ぎゅっと、いつからか握りしめていた掌から赤い雫が落ちる。爪が肉を裂き、血を流す・・・まるで私の心のようじゃないか。また自嘲がでる。

昼休み終了を告げる鐘が鳴った。

今、教室には戻れない。戻ったら、普通学科二年の皆を見たら、間違いなく泣いちゃう。泣いたら心配させて、迷惑をかけてしまう。それは駄目だ。それじゃあ駄目だ。ならどうしよう。食堂?食堂に行って何をするの?ご飯を食べるの?確かにお昼は食べてないけど、食欲なんてないよ。そもそも食堂に行ったら先生にばれて怒られちゃう。そしたらやっぱり迷惑をかけちゃう。だから駄目。絶対に駄目。じゃあ、私はどこに行けばいい?

人には頼れない。

人がいる場所にもいけない。

私がいける場所なんて・・・どこにあるんだろう。

「秘密の花園」

一瞬浮かんだ場所に、駄目だと首を横に振る。

今日は学園長夫婦がのんびりと花園で過ごす日だ。私が行ったらお邪魔無視だし、夫婦二人っきりの時間を壊してしまう。――これじゃあ、どこにも行く場所がないよ。

足が止まる。睨むように空を見上げて、唇を強くかみしめた。掌がじんじんと痛む。歯が唇を切り、口の中が鉄臭くて仕方ない。でも、噛んでないと泣き叫んでしまいそうで。それが嫌だから我慢して。

痛みに、悲哀の感情が勝ちそうになる。

「・・・そう言えば、学園の奥に泉があるんだっけ」

学園長がそんなことを言っていた気がする。ふらふらと覚束ない足取りで、情報として聞いただけの場所に向かう。学園の奥ってどこだろう。秘密の花園のさらに向こう側?それとも別方向?文字通り学園の奥?・・・いや、それ以前に。足を止め、空を仰いだ。

「ここ、どこ?」

現在地が解らない。

右を見る。緑しかない。

左を見る。緑しかない。

後ろを見る。緑しかない。

前を見る。・・・変わらない。

「この年で迷子」

これも自業自得、ってやつなのかもしれない。もはや、口からは自嘲しか出て来なくて、情けなさに涙がこぼれた。・・・もう、無理。

「・・・ふっ、ぅぅ」

流れる涙を拭うこともせず、その場にいたくないと言う感情だけで足を動かす。視界がぼやけてよく見えない。暗闇の中を歩くように手を動かし、ここがどこかも解らないのに歩く。歩く、歩く・・・遭難しても、問題ないよね。

私は花の乙女だ。

植物があれば、どうにでもなる。・・・ここから脱することもたぶん、きっと、出来る。それにいざとなれば普通学科二年の皆が助けてくれるだろうし、なんなら幼馴染三人が見つけてくれるはず。・・・はずなのに、気分が上がらない。胸が鉛のように重い。

「グランドール、先輩」涙腺が馬鹿になった。

過去形で好きでしたと伝えたけれど、嘘だ。現在進行形でまだ好きで、愛に変わろうとしている。ああもう、なんて面倒なんだ。恋する乙女って皆こうなの?失恋したらこうなるの?だったらもう、恋なんてしない。誰かを愛することもしたくない!

「ぅあ?!」

足が何かに引っ掛かり、体勢が崩れる。

受け身を取ろうと思うものの実行することはせず、流れに任せて地面に――ではなく、水の中に身体が落ちた。どうやら知らない間に目的地の泉に来ていたようだ。吃驚。

口から気泡を吐き出し、日の光で輝く水面を見上げる。

虹色の鱗を持つ魚が泳ぎ、水質を管理する役目を持つ蝶が不透明な翅を動かし水中を飛ぶ。不透明と言うことは、水質は正常。綺麗な水と言うことか。水底に落ちながら、また気泡を吐き出す。

綺麗だな。と、現実逃避のように幻想的な光景に魅入った。

「・・・」けど、そろそろ酸素が限界。

カナヅチな私が、果たして無事に水面にたどり着けるか。そこが問題だ。とりあえず死に物狂いでやってみよう。まだ、死にたくないからね。

「?」

とりあえず、浮上しようと両手両足を動かすけど一歩も進まずもがいて私の右手を、見知らぬ青年が掴んだ。制服はルグル王立学園のモノだが、見たことのない顔だ。誰?ネクタイの色から三年生だって言うのも解るけど・・・ほんと、誰?

掴まれた腕を引かれ、見知らぬ先輩の腕の中に閉じ込められる。驚いて空気が逃げた。息苦しさに喘ぐ私に、先輩の唇が重なって・・・んん゛?!

驚いて開いた口から酸素が入り、「あ、人工呼吸みたいなものか」と思考のどこかが納得した。いや、納得できるか!知らない人にキスされて平然と出来る人間がいるなら見てみたいよ!

逃げようともがけばまるで「大人しくしろ」と言わんばかりにキスが深くなって、段々と身体に力が入らなくなる。これ、別の意味でやばいんじゃないだろうか・・・?

くたりと力が抜けた私に満足したのか、先輩が足を動かした。

・・・人命救助のためとは言え、いきなりキスしないでよ!と憤慨したいが、とりあえず後でお礼は言おう。そしてその後に殴る。

しっかし・・・。ぼやける視界で先輩を観察する。

蜂蜜色の髪をした、中性的な容貌を持つどこか儚げで危うい雰囲気の先輩。見る角度で黄金にも見える緑柱石(ベリル)、否、ヘリオドールの眼元には色濃い隈があり、顔色も水中にいるからとは関係なく、青白く見える。ストレスによる寝不足?それとも心労?不健康だな。

ぱしゃり、と水音が鼓膜に届いた。

「――――っは」

「ぷはぁ!・・・はぁ、はぁ、はぁ」

新鮮な空気を吸い込み、先輩に掴まったままぼんやりと上を仰いだ。空だ、間違いなく空の色だ。間違っても水の色じゃない。

先輩に引っ張られながら地面に近づき、腕力だけで持ち上げられた。純粋にすげー!

四つん這いで泉から遠ざかり、何故かある芝生まで動く。でももう無理。水に濡れた制服の重さに負け、仰向けに倒れる。近くで呆れた声がしたが、気にしない。あ、そう言えば。気力と根性で起き上がり、隣に座る先輩を見上げた。

「助けてくれてありがとうございまし、た!」

た!と同時に平手をお見舞いした。

ふふん。私は有言実行するタイプなんだよ。油断した先輩が悪い。・・・あの、そんなに威力はないはずなんですけど。なんで、うつ伏せに倒れてるんですか?え、強かった?え?

「あ・・・の、す、すみません」

「・・・」

「ちょっと、力加減を間違えっちゃったみたいでその・・・えっと」

「・・・」

「――申し訳ありませんでした」

東の大陸の奥義、土下座で謝るしかない。

「本当にすいません、グランドール先輩」

「・・・私が追って来てたことに、気づいてたんですか」

「気づいた訳じゃなくて、その・・・なんと言いますか」

「普通、私の顔を見て即座にグランドール・レンディスと結びつけることは出来ませんよ?」

「いや、あの・・・・・・・・・・・・体格とか手の大きさで気づいて」

土下座をしたまま、しどろもどろに言葉を紡ぐ。

ああもう・・・三日前と同じじゃないかこれ。私の精神チキン!ヘタレ!

「最終的には・・・・・・・・・こ、呼吸を整える声で確信しました」

「声?」

恥ずかしい。顔を両手で隠して身体をさらに小さくさせた。

「私・・・グランドール先輩の声が好き、なんです」

何を言ってるんだ、私は!

「見た目よりも声で好きになったみたいで、その後に先輩自身を、変人な部分も含めて好きだって自覚して・・・三日前に。だからえっと、その、顔じゃなくて声と他の部分でグランドール先輩だって判断したんです」

勝手に動く口に内心で動転したのは最初だけで、後はもう・・・なるようになれ!と自棄っぱちに、もう後悔したくない想いで喋る。・・・でも失恋決定だよね。ふふふ・・・ぐす。

心が折れる音がして、より一層、身体を小さくさせる。もう地面と一体化出来るよ。

「フィリアちゃん」

「~~~~~っ?!」

耳のすぐ近くで、しゃべ、しゃべ・・・!?

あまりの衝撃に右耳を抑え、勢いよく顔を上げた。間違いなく私の顔は熟れたトマトよりも赤く染まっているだろう。ついでに言えば頭から小さな噴火が起きたのが見えたはずだ。だってバフンっ!って音が聞こえたもん!

「な!な、な、ななななななななんでそんな楽しそうな顔してるんですか?!鬼畜ですか?変態ですか!?」

「変人な部分も含めて、私のことが好きなんでしょ?」

「変人と変態は違いますよ!・・・あれ、違うよね?違うはず。違う・・・のか?」

んんん゛・・・?

「っそんなことよりも!」

隣にいるグランドール先輩の顔を両手で押し、距離を取る。なんか変な音が聞こえたけど気にしない。そんな余裕は私にないんだからね!

「なんで追ってきたんですか!?三日間私から逃げてたのに、なんで・・・」

「なんでも何も・・・」

両手が掴まれ、ぐっと身体を前に引かれる。

「呼び止めたのに聞く耳持たずで逃げられたら、追いかけるのが本能でしょう?」

「捨ててくださいそんな本能」

「無理です、変人の本能ですから」

「余計に捨ててください」

「そんな私のことが泣くほど好きなくせに?」

ぐうの音も出ない。

この人、いったいどこから見てたんだろう・・・?てか、私の知り合いが本当に隠密行動に長けてて怖いんだけど。何?何を目指してるの?

右手が解放され、グランドール先輩が眼元を指先でなぞった。・・・やめて、胸がきゅんとしちゃうからやめて。うぬ惚れるからやめて。勘違いしちゃうから・・・本当、やめて。

顔を俯かせれば、顎を掴まれて視線を合わせられる。

でも恥ずかしくて、私の眼がうろちょろと彷徨う。無理、直視無理・・・っ!

「まず、勘違いから訂正しましょうか」

「勘違い・・・?」

ちらりと目線を向ければ、くすりと笑うグランドール先輩に・・・本当、心臓が射抜かれる。やめて、その声と微笑みはやめて。致命傷になるから、本当、駄目、無理。

「まず一つ」

人差し指をぴん、と伸ばす。

・・・男らしさをみせる手だけど、爪は綺麗に整えてますね。

「私はこの三日、学園に来てません。なのでフィリアちゃんと逢うことはそもそも不可能だったんですよ」

「え?でも・・・リズがいるって」

「事実、この三日間はいませんでしたよ。・・・まったく、嫉妬で嘘をつくとは王族としてどうなんでしょうね」

「嘘・・・」

あー、そっか。うん、これは確かめないで信じ切った私が悪い。

あーもうー、騙された!

「二つ」

指の数が増えた。

「私は今日、漸く昼から登校出来たんです。なのでフィリアちゃんから逃げてません」

「・・・」

「登校してすぐに見かけたら、ふらふらと屋上に行って・・・気になって後を追いかけたら教師から危険と注意されているフェンスにもたれかかった姿を見て、私がどれだけ心配したと思います?慌てて遠ざけたら殴られるし」

「そ、それはすいません」

穴を掘って埋まりたい。

「吃驚してる間に告白されて、返事をする前に逃走された私の気持ち、解りますか?」

「あ、ぅ・・・す、すみません」

心から反省してます。項垂れる私の耳に、苦笑が届く。

うぅ・・・呆れられた。自業自得過ぎて挽回無理ぃ。

「告白の・・・フィリアちゃんの返事をする前に、私の話をしてもいいですか」

「ど・・・、どうぞ」むしろ返事は聞きたくないんですけど・・・。

本心を隠せていない引きつった顔のまま、グランドール先輩に話を促す。

「私はね、フィリアちゃん。ヘルムヴェルド帝国の皇女の息子なんですよ、実は」

「・・・ん?」

「息子、とは言っても血は繋がってないんですけど」

「ん?」

「そもそも私、人じゃないんです」

「ん゛?」

さっきからグランドール先輩は何を言っているんだろう?ヘルムヴェルド帝国の皇女の息子と言ったり、血の繋がりがないと言ったり、実は人じゃないと言ったり・・・。つまり、どう言うこと?

頭に大量の疑問符が浮かぶ私に、言葉の意味が理解できる訳がない。

「グランドール・レンディスと言う人間は、私が記憶を操作して作り出した仮初なんですよ。とは言え、レンディス家にヘルムヴェルド帝国の皇女が秘密裏に嫁いだのは事実ですし、私と血の繋がりのない親子と言うのもあながち間違いではないんですよね」

「えっと・・・それじゃあ、グランドール先輩はいったい・・・誰、なんですか?」

暗夜帝(ニゲル・ルシファー)

「冗談・・・?」

「龍の中の龍、龍神と呼ばれる七角の一角、常闇を支配者と呼ばれる者ですよ。冗談抜きで」

穏やかな表情をしてるけど、双眸に嘘偽りは見つけられない。からかっているようにも見えないことから、これは真実なのかと愕然とした。え、龍神って人になれるんだ・・・!

「な、なんで龍神が人になって、その、え?」

「簡単に言えば暇つぶし、ですね」

「簡単すぎる・・・!」

「長く生きてると退屈で、たまに適当な所に紛れ込むんですよ。でもね、今回の所が・・・そろそろ面倒なことになるようなので、グランドール・レンディスと言う人間を消そうと思ってたんですよ」

「・・・は?」

無意識に、右手がグランドール先輩の指を掴んだ。

「消すって・・・まさか記憶、から・・・・・・?」

「そうですよ」さらりと肯定された台詞に、鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

「もともと、グランドール・レンディスは学園を卒業した時点で消すつもりでした。それの予定が早まっただけです」

嘘だと言って欲しくて、縋るように見上げても先輩は笑うだけ。否定をしてくれない。

「本当なら、三日前に消えるつもりだったんですよ」

「・・・みっか、まえ?」

「フィリアちゃんは本当、罪づくりですね」

「せ、ん、輩・・・?」

左手を解放された瞬間、抱きしめられた。冷たい体温に身震いする。そう言えばお互い、水に濡れたままだったと今更ながら思い出した。

「貴女を攫って行きたい、誰にも譲りたくないと、思ってしまったじゃないですか」

頬を、グランドール先輩の右手がなぞる。

「私が折角、諦めようと思った矢先に自ら捕まりに来るなんて・・・ね」

滑るように首筋を撫で、シャツのボタンを外された。

「おかげで」

指先が、妖しく鎖骨に触れる。

「ますますフィリアが欲しくなった」

鎖骨に落とされた唇に、心が震えた。

身体は羞恥で熱くなり、自由の利く両手がグランドール先輩の制服を握りしめる。唇が触れる箇所が痛い。思わず息を漏らせば、胸元からくすりと笑う声がした。誰のせいで・・・!

「愛してますよ、フィリア。人でありながら、龍の心を掴んだ稀な者」

涙腺が緩む。

唇が震えた。

「私の番になってください」

「っ・・・!」

「けれど、龍神の番となると言うことは人の理を外れると言うこと」

即座に頷こうとした私を遮るように、グランドール先輩が顔を上げた。人差し指が唇に触れ、沈黙を強制する。

「家族や幼馴染、親友と同じ時を過ごすことは出来ない。必ず、置いて逝かれる。蒼水帝の番は人としての生を終えたいと願い、蒼水帝はその願いのために声を代償にしたようだけど・・・。私は違う」

逆の手が私の頭を掴む。ぐいっと乱暴な力加減で肩口に額を押し付けられた。

「私は、死ですら共にありたい」

耳元で優しく、甘く、願うように呟かれる。

「さっきの告白・・・もう一度考えてみてくださいね、フィリアちゃん。死ですら私と共にあるか、それとも私と離れて人として過ごすか」

「グランドール先輩・・・!?」

身体が、透けていく。

触れていたはずの部分が、幻のように薄れて・・・何、これ。

「返事は、明日まで待ちます。明日、この場所で――」

「グランドール先輩!」

「私を選んだら――一生、捕らえられるのだと理解してください」


泡沫のように、グランドール先輩は私の前から消えた――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ