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樽が一つ、二つと空になる。
そのスピードの速いこと、速いこと。一樽だけでも十分な酒量なのに、飲み続ける三人は一向に酔う気配すらない。・・・アルト、お酒強いんだね。
飲んでもいないのに匂いで酔ったルキの頭を膝に乗せながら、私は溜息をついた。膝がしびれてきたからルキの頭、地面に落としていいかな?
と言うか私、いつまで座ってればいいんだろう。
ルキが寝たように、お酒の匂いで私も寝てしまえばよかったよ。そう思ったのは過去・・・正確には三分前。今は全く違う。
どんだけ飲んだの?――とか。
勝敗つくの?――とか。
お酒足りなかった?――とか。
下ネタ言ってたよね?――とかとか。
色々と言いたいことはあるけれど、まず、これだけは言わせて欲しい。
「和気藹々とした空気はどこへ?」
錯覚?
幻覚?
夢オチ?
そう思ってしまう程に今の空気は殺伐としている。なにこれ。
何度眼をこすっても、頬を抓ってみても眼の前の景色が変わることがない。人の膝で呑気に寝ているルキが涎を垂らしながらゆっくりと起き上がった。「んれぇ?」と言う、間抜けな声と一緒に。
こんな状況になったのは三分前。
結構、派手な音がしてたのによくもまぁ、呑気に寝てられたものだ。流石、自他共に認める図太い神経。心の中で拍手を送ろう。
「なに・・・これ」
舌足らずな声は、妙に危うい色気を醸し出している。しまって!なんかぐらつく!
私にそんな趣味はないけど、グラっと来るからしまって!その色気!むしろ私に頂戴。
「かいじゅう・・・だいせんそう?」
「まぁ、龍と人の戦いだからある意味そう・・・なのかな」
私達の周りの草花以外、綺麗だった草原は焼け野原になっている。
アルト達の周りを囲う様に炎の壁が存在し、空と大地を分ける様に色が異なっていた。吸い込む空気が僅かに熱い。遠く離れた位置にいる私でこうならば、そこにいるアルト達はどうなんだろうか。大丈夫・・・と、思いたい。
「なんで?」
ルキが混乱した声で呟く。
「のみくらべでしょ?」
意識ははっきりしているはずなのに、口調が戻らないのは現実を受け入れられないからかもしれない。私だって受け入れたくない。
でも派手な音が、嫌でも現実逃避をさせてくれない。うわ、砂ぼこりが眼に入った・・・。
「のみくらべだったのに、どうして・・・どうして、たたかってるの?」
「解んないよ、そんなの」
三分前まで、楽しそうにお酒を飲んでいた。それは確か。なのに気が付いたら天空帝は龍の姿に戻り、アルト達は剣を抜いていた。何があったのかなんて、私に解るはずがない。
・・・解る訳ないのに。
「なんで?なんでなの?ねぇ、フィリア!」
「解んないんだよ!何も!・・・私に聞かないでよ」
襟首を掴むルキの手を乱暴に剥がし、その場から立ち上がった。
「何でもかんでも、私に聞かないでよ!私だって混乱してるんだよ?何がなんだか解らないんだよ?聞かれて堪えられる訳ないでしょう!!」
叫んだからか、息が荒くて呼吸が辛い。
吸い込む空気が熱くて、肺が焼けそう。・・・あ、近くで火事が起きてるからか。
「オルデゥアは?オルデゥアは大丈夫なの?!」
「知りたいなら、あの炎の壁を越えて行けば」
苛立ちから、言葉が冷たくなってしまった。
「言ったら確実に死ぬけどね」
気持ちを落ち着かせるように深呼吸して、右手で顔を覆う。乾燥した空気が眼に痛い。
耳を澄ませて聞こえてくるのは剣劇と、炎を吐き出す息吹だけ。天空帝の癖に、炎を使うな。別のモノを使え。まったく。
・・・あ?
視界にぴかりと、稲妻が映ったような。ん?
「あれ、雷撃によって発生した炎?」
いや、そんなことよりも今、気にするのは別のこと。
・・・アルト達は無事かな?五体満足かな?酔いが回って大変なことになってないかな?一つ不安を覚えれば、次から次へと不安が浮かんで胸を締め付ける。悪い未来しか想像できなくなって、吐きそうになった。
ルキは口元を抑え、ぽろぽろと滂沱の涙を流している。
「アタシの旦那になんかあったら、ぶっ殺す」
わ、物騒。
殺気だったルキから眼をそらし、自分が冷静さを取り戻していることに気づいた。おお、いつの間に。
何事かをブツブツと呟くルキの心配は判るけど、何だろう。冷静になったら心配も不安も綺麗に消えた。天空帝が生み出す突風みたいに吹き飛んだ。
だってアルトは「惚れた女の前で無様な姿はさらせない」って確かに言ったんだよ。
私の視界には映らなくても、アルトが言葉を違えるはずがない。確信だってあった。だから大丈夫。何も問題はない。
ないけど・・・やっぱり、心配も不安も綺麗に消えたなんて嘘。
胸にわだかまる感情はアルトの無事を祈り、大丈夫だと信じていても怖がって泣いている。ああ、何かしたい。何か、アルトのために。
でも・・・不安だから何かしら手を出したいと思っても、具体的に何をしたらいいんだろう。判らないから余計に怖くなる。不安になる。下手なことをして邪魔になるのは嫌だし・・・。でも――と、ぐるぐると思考がループするのが駄目なんだ。
ネガティブ思考は消えろ!
今はただ、アルトの言葉を信じるんだ私!
深呼吸をして、頬を叩く。よし、とりあえず、何かしようとしているルキを抑えておこう。
「はいはい、落ち着いて。どーどーどー」
「はぁ?!」うわ、鬼の形相。「落ち着いていられる訳ないでしょう!」
「あの!光景が!見えないの!馬鹿なの!」
「見えてるから。ほらも・・・落ち着いてってば」
「あの龍、ぶっ殺す」
やだもう、本気すぎて怖い。
右手に何やら黒い光を集め、左手に眩い光を集めて何かをしようとしているルキ。もしもし、まさかとは思うけど月の乙女の力を使うつもり?ねぇ、ちょっと。
▽頭を叩く ×
頭突きをする
手刀を落とす ×
唐突に現れた選択肢に、迷うことなく私は頭突きをルキに喰らわせた。
「っ~~~~~~~~~~?!」
両手にあった光が消え、痛む頭を押さえたルキが膝から地面に倒れこむ。声にならない叫びをあげ、悶える様子を見せるルキの傍にしゃがみこみ、つんつんと頬を突いた。
恨みがましい眼を向けられたけど、謝らないよ。
素知らぬ顔で視線をそらし、アルト達がいる方を見る。
・・・まだ、戦闘音が聞こえる。でもさっきより音は激しくない気がするから、そろそろ終盤かな?見えないから嫌な想像ばかりしちゃうんだよ。早く炎の壁、消えてくれないかな。
「大丈夫だから落ち着いて、ルキ」
「何を!」
「アルトが勝つから」
あ、雷が落ちた。
「だから大丈夫」
「・・・・・・ふん!そんなの当然でしょう。このアタシの旦那もいるんだから!勝利するのは決まってるわ!これは、約束された勝利なのよ」
「そうそう、ルキはそうでないと」
本調子が戻ったようで何より。
「でも、不安なのよ」
「見えないから余計に不安になるんだよ。だから見える様にすればいいんだけど・・・問題はどうやって、なんだよね」
「ノープランなのに大丈夫、なんて根拠のないことを言ったの?」
「根拠はあるよ。アルトは負けないって言う根拠なら」
「あら、惚気?」
今の台詞のどこで私、惚気たのか聞きたい。
それよりも・・・うーん。どうしよう。
「ルキの力でどうにかならない?」
「無理ね」
「わぁ、即答。少しは考えてよ」
「だってアタシ、魔法の使い方下手だもん!」
胸を張って威張るな。
や、私も人のことは言えないけどね。でもさぁ・・・う~ん。
「龍神がいると加護がつかない、って言ってたけど・・・本当に絶対なのかな」
「・・・試すだけ試しすわよ!」
「でも加護ってどうやるの?」
「根性よ!根性!」
精神論・・・。
「鎮静、鎮静しろ、鎮静しなさい、鎮静しなさいよね」
命令形だ。
いやいやいや、そんなことで加護が発揮したら苦労はしないって。でも他に方法がないから、私も心の中で繁栄と唱えておこう。
口に出すのはちょっと、いや、かなり恥ずかしいから。
「フィリア見て!見て見て見て見て見て!」
「痛い痛い痛い痛い!頬を叩く必要性あった?!」
「いいから見て!ほら!」
赤くなったであろう両頬を抑えながら、ルキが指さす方を見ればあら不思議。炎の壁が消えていた。
え・・・これってまさか。
「アタシの加護が効いたのよ!」
そう、なの・・・かな?
もしかしたら戦闘が終了して、炎が消えたとかそう言う落ちなんじゃ。疑いの眼を向けて注意深くそこを見た。そして絶句。
「まだ、戦ってる」
と言うことは真実、ルキの加護で炎が消えた?
え、嘘。
冗談でしょ?
信じられない気持ちで瀕死にしか見えない天空帝を凝視し、アルト達に眼を映した。あんれぇ?アルト達の身体がなんかこう、虹色に輝いてるんだけど。
発光するような魔法、あったっけ?
「あれ!あの光ってフィリアの加護でしょ!そうに違いないわ!」
・・・えー。
「オルデゥアー!格好いい、愛してる~!!」
あんな身体に纏わりつくように輝いて、鬱陶しい程に眩いアレが私の加護?冗談ならやめて欲しい。と言うか、違うと誰か否定して。
両手で顔を覆い、泣きたい気持ちをぐっと耐えた。
旦那さんに対して愛の声援を送るルキは気づいてないようだけどあの光、感情によって色の濃さが違うみたい。
ルキの旦那さん――オルデゥアさんは虹色の中で青色が強く輝いていて、アルトは・・・・・・・・・赤い色が激しく輝いている。死にたい。
色の違いがどう感情と関係しているのか、理解したくないけど死にたい気分になってきた。ぐすりと鼻をすする。やばい、泣きたくなってきた。
「きゃー!!オルデゥアー!!!」
黄色い声援が耳に痛い。
「格好いい、素敵、愛してる!!」
隣から駆け出す音が聞こえた。
何事だと顔から手を退ければ隣にルキはおらず、アルト達の方に向かって走っていた。・・・私が羞恥に死にかけている間、戦闘は終結したらしい。
息も絶え絶えに大きな体躯を地面に倒し、荒い息を吐き出す天空帝が何かを呟いている。ように見える。辞世の句?いやまさか。
額から血を流し、左腕を庇う様にこちらに向かってくるアルトを見上げる。
「よぉ、俺には熱い抱擁はなしか?」
ちらりと抱き合うルキとオルデゥアさんを見てなら、にやりと笑うアルトに呆れた。
何を言うかと思ったら。まったく。
「他人は他人。怪我・・・大丈夫?」
「あー、軽傷だし問題はねぇな。それよりもこの光、フィリアの加護か?」
「そんなまさかルキだよきっと」
「月の乙女の加護は鎮静だったよな」
「そう言う演出なんじゃないかな」
「俺の眼見て言えるか」
疑問形じゃないのが憎い。
解ってるなら初めから聞くな!言葉に出来ない代わりにアルトのお腹を叩く。あ・・・と、叩いてから血の気が引いた。
「ご、ごめん!」
怪我人になんてことを・・・っ!
腹部を抑え、しゃがみ込んだアルトは顔を俯かせ、身体を震わせている。わ、私のせいだっ!どうしよう、ルキに頼んで治癒を、いや、それよりも処置?腹部を見る?えと、えとえと!とりあえず患部を見ないと!!
服を捲ろうと手を伸ばして――――首を傾げた。
「アルト・・・?」
服を掴む右手を取られ、身体が前に倒れる。ん?
「ありがと」
短く告げられた感謝の言葉に、何のことかととぼけることが出来なかった。
視線が彷徨う。
何かを言おうと開いた口は、結局、上手く言葉が出なくて閉じてしまった。もごもごと口を動かし、何もしてないと言う様に首を横に振る。身体を抱く腕に力が加わって、痛い。でも・・・。
恐る恐る、アルトの背中にそっと腕をまわす。
「大丈夫って、信じてた」
「ああ」
「でも、怖くて」
「ああ」
「何も出来ない自分が嫌で」
「・・・ああ」
「怪我してても治せないし」
「そうだな」
「ルキがいなかったら私、動転して死んでた」
「それは困る」
腕の力を緩め、私と眼を合わせたアルトが本当に困った顔をした。
背中にまわした腕をずらし、血を流す額や腕、叩いてしまった腹部に指を這わせる。治療したいのに、私は魔方で治すことが出来ない。悔しさに唇を噛みしめ、ポケットに常備している小さな回復薬を取り出した。
でもその小ささと、アルトが怪我をした個所を見るに、超☆回復薬持ってくればよかった。と後悔してしまう。はぁ。こんな小さな回復薬で治る怪我ならいいけど。やっぱりルキに頼んで治してもらった方がいいかもしれない。
「ねぇ、――――」
ルキの名前を呼ぶより早く持っていた回復薬を奪われ、口を何かでふさがれた。視界に映るのは眼を閉じたアルトで、口を塞ぐソレがかさついたアルトの唇だと理解したのは離れた時。
ただ触れるだけのキスに、眼を瞬かせた。
「え?え・・・なんで今、キスしたの?」
本気で解んない。
困惑の眼をアルトに向ければ、素知らぬ顔で回復薬を飲んでいる。あー・・・やっぱり回復薬だと血が止まるだけで、痣とか切り口までは無理か。
「ご褒美くらいあってもいいだろう?」
にやりと口角を上げて笑ったアルトに、絶句した。
ご、ご褒美とはいったい・・・。
「頑張って天空帝を倒したんだぜ?褒美があってもいいだろう。まぁ、ラインハルト様みたいに無傷――は、流石に無理だったけどな」
「それは誰でも無理だと思う」
「リズなら出来るだろ」
否定できない。
王弟に敵わなくとも、無傷で龍神を倒す姿が容易に想像できる。最強の次席に座るのもそう遠くない気がしてきた。
でも最強の座は不動なんだろうな。
「痛くない?」
「フィリアが叩いたところ以外は」
「・・・ごめん」
「フィリアは?」
気まずくてそらした視線を、顔ごと元に戻される。首が痛い。
「怪我、してねぇよな」
答える前に服を捲られ、傷がないか指で確かめ・・・ってちょっと!前線で戦ってたアルト達じゃないんだから服の下に傷なんてあるはずないでしょう!
ぐっとアルトの肩を押して逃げようとするけど、いかんせん相手は怪我人。さっきまで酷い出血をしていたと思うと、どうにも力が出ない。脇腹なんて触っても何もないから!肉を摘まむな、肉を!
「離れた所にいたんだからする訳ないでしょう馬鹿!」
「いや、万が一がある。他の所も見せろ」
「見せるか!」
もうやだ!
何で私、アルトを好きになったんだろう。泣きたい。
「じゃれ合いはそこまでにしとけよ」
呆れた声に救世主!と思った私を殴りたい。
「その台詞、そのまま返しますよ。何してんですか、顔、キスマークだらけですよ」
まったくだよね。
ルージュを乱したルキは何故か満足気な表情。気のせいじゃないなら、ルキの胸元や首筋に赤い痕が見えるんだけど・・・二人して何してんだが。溜息が出た。
「試験は合格ですか、オルデゥアさん?」
「見たとおりだな」
ルキノ肩を抱き寄せたまま、オルディアさんが言う。
「天空帝に多大なトラウマを植え付けたんだから、問題なく合格だ」
いやそれ、問題なく・・・でいいのかな?
ちらりと天空帝を見れば、地面に倒れたままシクシクと涙を流している。何事かを呟いていたのは辞世の句ではなく、恨み事・・・みたい。うわぁ。
何かを呟くたびに天空帝の周りが暗く淀んでく。うわぁ・・・。
((人間なぞに、人間なぞにぃぃぃぃぃいいいぃぃぃぃ!!う゛ぅ゛ぅ゛、他の奴らになんと言えば。あれだけ大見得を切ってこのありさま。う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛・・・お゛ごら゛れ゛る゛))
聞こえなかったことにしよう。
大きな体躯を小さくして、叱られるのを嫌がる子供みたいな天空帝なんて見てない。「嫌だ、怖い」と怯える声なんてまったく聞こえない。
「それにな。試験って言っても、突然の事態に対応できるかどうか試したかっただけだし。天空帝を倒した、なんて言ったら喜んで祝宴を上げようとするから」
「・・・はぁ」
「だから明日、親父に挨拶に行くぞ。アルトはもう俺の弟なんだからな」
慈しむ眼をアルトに向けるオルデゥアさんに、アルトが言葉を詰まらせた。
怯えと困惑、それから歓喜を宿した瞳がオルデゥアさんを見つめ、そして私に向けられた。ぎゅっと縋るように握られた右手を握り返し、空いた手でアルトの頭を引き寄せる。
アルトの頭を受け止めた肩に重みを感じながら、ゆっくりと髪をすく。
「明日オルデゥアさんの実家に行くことは決定事項だとしても、とりあえずアルトとオルデゥアさんはもう、ゆっくり休みませんか?ほら、街にいる第三師団の方にも状況を話さないといけないし、何より・・・この惨状を放っておくことが出来ないんで。私が」
「惨状って・・・焼け野原のことか?」
「花の乙女とか関係なく、正直、あんな気持ちのいい草原を燃やされて腹が立ったので」
((ひぃ!!))
視線を向けただけなのに、そんな怯えた声を出さなくても・・・。
「だから――――ルキ、手伝ってくれるよね」
「了解よ!だからその笑顔、止めて頂戴!」
・・・普通に笑ってるはずなんだけど。
「どんな顔でもフィリアに変わりねぇだろう。気にすんな」
見てないくせによくもまぁ・・・。その言葉通り、気にはしないけど。
「それよりもっと撫でろ」
ぐいぐいと左手に頭を押し付けるな。
わかった、わーかったから!もう。子供か。やや乱暴に頭を撫でてから、何故か、そう、何故か準備体操をしているルキを見て首を傾げた。何してんの?きっと私の眼は、不思議なモノを見たような色をしているだろう。
いや、本当。
「さぁ、やるわよフィリア!」
「わぁ、やる気満々。いきなりどうしたの」
「今こそ!そう!今こそアタシが開発した新薬を使う時が来たのよ!!」
意味が解らない。
「あら?確か持ってきたはず・・・あら?」
何を開発したのか知らないけれど、実験もしていない薬を使う気はしないからね。呆れたように息を吐き出し、アルトの頭を撫でていた手を地面に押し付ける。・・・拗ねた眼で見ないでよ。
可愛いな、って思っちゃうから。
「いつまでもない物を探してないで、ルキは月の乙女の力で魔物がこの場所に来ないようにして」
「はぁい」
ぶうたれるな、美人に可愛さがプラスされるだから。
「こんな焼け野原を戻せるなんて、流石は花の乙女だな」
「それしか出来ませんけどね」
もっと別のことが出来たら、さっきの戦いだって助太刀できたのに。はぁ。
「・・・ねぇ、そう言えば天空帝はどこに行ったの?」
「あ、いつの間にかいない」
さっきまでそこにいたはずの巨体が見つからず、空にもその姿がないことに瞬いた。気配も感じさせずに消えること、出来たんだ。思わず感嘆の声が出る。
「逃げたんじゃない?」
「逃げたんだろう」
・・・かもしれないね。
アルトとオルデゥアさんの言葉に苦笑しつつ、私は眼を閉じた。
息を吸い込み、吐き出す。
左手に意識を集中させ、ゆっくりと眼を開けた。
――――失ってしまった緑を、再びこの地へ取り戻そう。
「緑よ、息吹け――――」
もう一度、この大地を彩りを。




