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ーー……あの出会いは、神様が僕にくれた唯一のプレゼントだったーー。
バルフォア王国の王族を含む貴族は、魔力が使えて当たり前だと思われており、魔力を持たぬ者はそれだけで立場を追われることになる。
「良いですか? アルフォンス殿下、我々の周りには魔力の源がたくさんあるのですーー」
カツンカツン、と音を高鳴らせながら、家庭教師である男は少年の前を行ったり来たりを繰り返していた。
もう何度も何度も……耳にタコが出来るほどに聞いた内容を話す男の口調は、微かに苛立ちが混ざっている。それに気付けないほど鈍くはない少年は、下唇をキュッと噛む。
そして、失敗は出来ない、と両の掌に集中をする。
「ーーそれらを、しっかりと感じ、集め、我が力と同化させるのです……さぁ!」
いつもの説明を終え、男は少年を見た。
だが、そこにあるのは、何も起こらず、ただ少年が両の手を前に突き出しているだけだった。その腕は力を入れているのだろう、プルプルと震えていて、顔にも赤みが差していた。
何も起こらないその様子に、男は溜め息を一つ吐いた。
「……同じ血を引くのに、こうもクレイグ殿下と違うとは……」
ポツリと呟かれたその一言は、少年ーーアルフォンスの耳にも届いた。
そして、キュッと下唇を噛んだ。
クレイグは、アルフォンスの5つ歳上の異母兄弟である。
魔力も多く、学んだその日に魔術を放てた。剣術の上達も早く、既に魔術と剣術を複合した魔法剣にも取り組んでいる。魔法剣は、本来ならば15歳以上の才のある者が学ぶものだが、今年15歳になるクレイグは既に学び始めて3年になる。それだけでも優秀さが分かるものだが、その他の勉学や、馬術でも高い評価を受けている。
アルフォンスとは違って……。
アルフォンスの母親は公爵の娘で、第一王妃だ。
しかし、なかなか子宝に恵まれずに焦りが生まれ始める中、第二王妃が男児を産んだ。さらにその男児が優秀であることが分かると、第一王妃の焦りはますます高まった。
そのような状況で、ようやく子宝に恵まれて誕生したのがアルフォンスだ。
第一王妃はこれに歓喜し、自分の子供こそが後継者であると、アルフォンスをとても可愛がった。愛を惜しむことなく与えられ、すくすくと育ったが、ある日を境にその愛が一転してしまう。
……アルフォンスは、魔術を放つことが出来なかったのだ。
それからは何をするにしても兄と比較され、貶され、嘆かれ、蔑まれ……母親からは以前までの優しさを貰えなくなってしまった。
どうにかしようと勉強に力を入れて理論を頭に叩き込んでみても、魔術を使えなかった。ならば、とその他のことに力を入れてみても、どの面でも兄を上回ることが出来なかった。
「出来損ないっ!」
そう叫ばれることが多くなり、今では己の名前を呼んではくれなくなった。
……だからこそ、明日はアルフォンスにとっては、チャンスなのだ。




