第1話 出会い
「蛍は“発光器”と呼ばれる器官を持ち、オスは求愛行動として約2秒から4秒の間隔で小刻みに点滅を…」
パラパラと生物の教科書をめくりながら
気を抜くと寝てしまいそうになるのを必死に堪える
先生の声を、どこか他人事のように聞いていた
「(プールの後に生物の授業なんて誰が決めたんだろう)」
窓の外で鳴き叫ぶ蝉の声と塩素の匂いが混じった風が心地良い
「教科書23ページから昆虫の生態はテストに出すからね」
先生の一言にこりゃまずいと急いで指定されたページに折り目を付け
意味があるのないのか分からないような線を蛍光ペンで引いていた時だ
ふと、とある図が目に付いた。
図1:求愛行動をとる蛍
そこには真っ黒な体に、赤い模様が浮かぶ蛍の写真が載せられていた。
「(見ちゃった…)」
小さい頃は大丈夫だった虫が
最近はなんだかとっても気持ち悪い
そっとそのページを閉じる
「(生物の授業って最悪だ…)」
心の中で悪態をついてると終わりのチャイムが鳴り響いた。
「それでは今日の授業はここまで」
「起立、礼、着席」
着席と同時に教室がザワつく中
親友のユウちゃんがコソと話しかけてきた。
「ねぇねぇ、ヒナちゃん!明日転校生が来るらしいよ」
「それって引越しのトラックが空き家に停まってやつ?」
私たちの住んでいる地域はすごく田舎だから
噂はすぐに広まって小学生の私にだって話は届いている
「そー!しかも、男の子!」
『都会から来た同学年の男子』たったこれだけの情報で浮き足立てるほど楽しいことが少ない
「へー、カッコいい子だと良いな」
「ねー!」
そんな話に花を咲かせていたのが昨日のことで…
今日の朝礼前。
「転校生を紹介します」
先生に呼ばれて教室に入ってきた男の子を見た瞬間、
女子達が一斉に息を呑んだ。
「ーーーから引越してきました。源ヒカルです。よろしくお願いします。」
教室に入ってきた転校生・源ヒカル君は
最近買ってもらったスマホの中でしか見たことないような
艶のある髪の毛に月の光が反射したみたいな頬の男の子
「(漫画に出てくる王子様みたいだ)」
騒がしくてガサツなうちのクラスの男子と全然違う
物静かな雰囲気にみんな釘付けだった
「はい、みんな仲良くしてね。じゃあ席だけど姫埼さんの隣の席で。姫埼ヒナさんちょっと手をあげて?」
「は、はい!」
「源君、あの子の隣の席に座ってください」
そう、朝から隣に空席ができていたからドキドキしていたが
私の隣が彼の席のようだ
「よろしく姫埼ヒナさん」
物音をほとんど立てず席に着く姿は上品ていうのかな
優しく挨拶をされ心臓がドクンと高鳴った
「こちらこそ、よろしくっ、源くん」
緊張しながらそう言うと「ヒカルでいいよ」と笑顔で言われ
たったこれだけの出来事で私はどうしようもなく
ヒカルくんのことで頭がいっぱいになってしまったのだった。
「よ、よろしく…ヒカル、くん」
その日、ユウちゃんやクラスの女子に囲まれながら
「いいな」「うらやまし」「源くんかっこいいよね」という言葉を浴び
家に帰る間も、なんだか自分がお姫様に選ばれたみたいで凄く気分が良い。
「じゃあねヒナちゃん!また明日!」
「うん、また明日!」
いつもの帰り道、ユウちゃんと別れ
スキップしそうな気持ちを抑えて家につく
「ただいまー!ねぇお母さん!聞いて!」
抑えられない高揚のままお母さんに抱き着くと
優しく私の頭を撫でながら
「あら、どうしたの?なんか良いことでもあった?」と聞いてくれる。
「あのね!すっごくカッコイイ男の子が転校してきたの!」
「へぇ!あそこの家のお子さん男の子なの」
「そう!でねでね、私の隣の席になったんだよ!源ヒカルくんっていうんだけど…」
ヒカルくんが下の名前で呼んでいいと言ってくれたこと
声が静かで品が良いこと
笑った顔が優しくてすごくカッコイイことを大好きなお母さんに報告する。
「ふふ、ヒナったらヒカル君のこと大好きなのね」
お母さんの言葉に顔が熱い
そっか、ヒカルくんのこと好きになっちゃたんだ。




