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第2話

「ねぇねぇきつねさん、きつねさんは何で一緒にいてくれるの。」


(これは…昔の記憶か?)


「そうだなぁ…。『お友達と約束したから』かな。」

「きつねさんってお友達がいるの?」

「いるよ。今はどこにいるかわからないけど。」

「なんで?」

「ツネが大人になったら教えよっかな。」

「えー、けち!」

「けちで結構!」


二人は笑いあった。



◇◇◇



 漆色の天井が広がり、その中央から控えめなシャンデリアが静かに光を落としている。部屋の奥には大きなカーテンが閉められており、外界と遮断しているように感じる。部屋の中央部には大きなソファが置かれており、そこの上で一人の学生服を着た青年が気を失っていた。

 青年の胸元は、血が付いたかのように赤黒く濡れている。

 恒一(つねかず)は頭を抱えながら目を覚ました。


「やぁ、自分の名前がわかるかい?」


 カーテンを背景に重厚な机に両肘を乗せ、両手を組み顎を上にのせた者がそう言った。

 白銀と黒が混じった髪は肩口で揺れ、細く伏せられた瞳には冷ややかな光が宿っている。男か女かわからぬ顔立ちをし、表情は穏やかでありながら、どこか底知れぬナニカを感じる。袖と両肘の間からは軍服が見え、胸には金色の勲章が付けられている。

 先ほどの声から察するに男と思われる軍服の者は恒一に語り掛ける。


「あー、状況が理解できてない感じなのかな?」


 恒一はゆっくりとうなずく。それを見た軍服の男は笑顔を見せ言った。


「私は鳴神なるかみ 御阴みかげ。『陸軍省妖防衛課(あやかしぼうえいか)課長』兼『妖防衛課第一級戦力保持者』…っていってもわからないか(笑)。まぁ陸軍特殊部隊のお偉いさんって認識でいいよ。」


 恒一はあっけらかんにとらわれながら御阴を見つめる。


「さぁて、私は名乗ったから君も名乗ってもらおうかな。」


 恒一は立ち上がり、背筋を正して一呼吸をしていった。


「|世輪(せわ) 恒一(つねかず)!17歳!現在は陸軍士官学校入学を目指して鍛錬しております!」

「はは!若いね君!そう堅苦しくならなくていいよ。」


 恒一はおどおどしながらソファに座った。御阴は恒一に近づき、顎に右手を当てながら恒一を観察する。


「いやぁ、学生服に短髪、美青年と不潔男の中間みたいな顔立ち、身長は…165センチくらいかな?わたしより10大きいくらいな感じだし。それにかなりのやせ形だね。これじゃ士官学校は厳しいねぇ。」

「あの!」


 恒一は声を荒げ、御阴の観察を止めた。


「すみません…。状況がいまだに呑み込めてなくて…。」


 御阴は机の方に戻りながら恒一に話しかけた。


「すまないねぇ。こっちの都合ばかり押し付けて。君が知りたいのは『なぜ君がそこにいるのか』だろ?実は昨晩私の部下が君をここまで運んできてくれてね。そr」

「ちょっと待ってください!昨晩って…今は何時ですか!?」

「今?今は…朝の10時すぎくらいだね。」


 恒一は動揺した。ついさっき起きたように感じるあの夜の出来事からもう数時間経っていることに。


「恒一くん。急で悪いけど昨晩起きたこと、話してくれるかな?」


 恒一は少し戸惑いながらも覚悟を決め、御阴に昨晩の悲劇を語り始めた



◇◇◇



「なるほど…。君の守り神である白い狐が謎の黒い者から君を守って消えてしまったと。」


「はい…。そこからのことはよく覚えていません。」


 御阴は恒一の話を机の上にある書類に書き記していた。

 恒一は書類に目を向ける。殴り書きで書かれており、うまく読むことができない。

 かろうじて『セワツネカズ 推定式神使イ』『白狐 式神デハナイ?』と書かれていたのは何とか読み取れたくらいだ。


「恒一君、白い狐は常に君たち一家のそばにいたって感じ?」

「まぁ、はい。」


「両親が指で何かしらの形を作ったら地面から白い狐が現れた。ってことはあったかい?」

「いえ…。」


「消えた狐が心の中で自分に話しかけてくる。ってことは?」

「特にないです。あっ。そういえば消える直前に黒いやつとの戦いで使っていた紙を自分の胸に当てました。そしたら紙が光ってそれが胸の中にはいっていって…。」


 御阴の目つきが変わった。

 穏やかだった瞳が急に鋭い視線となる。御阴は恒一に真剣な口調で聞いた。


「君は…、物心がついたとき『自分はこういう能力が使えるんだ』って自覚したことはあるかい?」

「ないです…。あの…何を言っているのですか?」


 御阴は恒一の言葉を無視し、天井を見上げ考え込む。しばらくしたのち御阴は立ち上がり恒一の前に止まり言った。


「恒一君。私と…取引をしないか?」


「え…?」


「君を我が部隊に所属させる。そのかわり、君についての身元調査をさせてもらいたい。悪くない条件だろう?」


 恒一は考え込む。

 自分の夢である軍人の夢が今目の前にある。だがこれを答えていいのだろうか。自分は士官学校に落ちた身。そんな人間が所属することが許されていいのだろうか。夢は苦労して掴むものではないのか。

 その様子を見ていた御阴は恒一に優しく声をかける。


「恒一君、君の夢は何だい?」


「それは…立派な軍人になって祖国の人々を守ることです!」


 御阴は頷き、後ろを振り返りながら恒一に話す。


「私の夢はね、『祖国の人々を脅威から守ること。』君と同じだ。でも、その中に私や君も入っていなければならないと思う。守るべきものから、自分を外してしまった瞬間――その夢は、ただの犠牲になる。そうなったとき、夢を応援してくれた守り神はどう思う?」


「それは…」


「この軍の役目は、強力な異形から人々を守ること。でも、それができるのは特別な力を持っているものだけだ。君はそれを持っている。いや、その守り神が渡したんだと思う。あの時守り神が君を救ったように、君が人々を異形から守る存在になれるよう。」


 御阴は恒一の目を見て言った。


「私たちと共に戦わないか。大勢の人々を守るために!」


 恒一は下を向く。しばらくして、顔を上げ御阴に言った。


「一つ教えてください。自分のような非力な人間でも、人を守ることができますか?」


 御阴は笑みを浮かべて答えた。


「安心しな!すぐに現場に行かせるようなことはしない。新人を早々失いたくないからな。」


その言葉を聞き、恒一は覚悟を決め御阴に言った。



「私を…あなたの部隊に所属させてください!」

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