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愛なんです  作者: 蜜ハチ
10/10

08:貴族は怖いです


久しぶりに訪れた侍従騎士時代を送った屋敷は、外見もだったけれど中もあまり大きく変わったところはなく、カジは懐かしく、そして少しうれしかった。


長く窓を大きくとられた廊下は温かいラグが引かれ、転々と花瓶に花が活けられている。

木造建てのこの古い屋敷はカジが住んでいた頃から花々にあふれ、温かな雰囲気がしてとても安らげたものだ。



「カジあんた手土産ひとつ持ってきてないの?相変わらずねえ」



…住んでいる人も変わっていないようだ。



「姉さん、いきなり決まったことなんだから」

「でもできないことじゃないし、常識じゃない」

「まあまあ、あ、姉さんそういえば前に作ってた花菓子あったでしょう?あれ出そうよ、持ってきてくれるように伝えてくれる?」



そう言ってグイグイとユーランの背中を押す、ユーランはしかたないわねえとぶつぶつ言いながら廊下を先に進んでいった。

その背中をみやりながら―――カジはため息をついた。

それをギイは見逃さず―――少し同情する。本当に、どうしてこの男はこういう濃い女性に好まれるのだろうか、運命?



「…カジ」

「…あ、いや、大丈夫、慣れてるからな」



そうか、慣れてるのか…。


とは言わずギイはシューベルツ伯爵の後をついて客間に入った。

運命とはなんと酷いものなのだろうと、カジの少し小さくなった背中を見て思った。



入った部屋はシャンデリアがつるされ、古いが丹念に手入れされているソファーがある。

促されるままに座る、そして隣を見ると目をやる気に満ちさせたシュウが。



「さて、シューベルツ伯、以前いただいたお手紙を読ませていただいたのですが…」



そう言って少し顔をしかめたエーデルは胸元から小綺麗な手紙を取り出した。

蝋で紙留めされていて、いかにも貴族らしい手紙である。

カジはそれを見やりながら前もって用意されていたお茶に手を出す、この館の茶葉は珍しいもので古森で取られる希少な茶葉を使ったものだ。

まだ人間に許されている極小さな範囲でしか栽培できないため、飲めるのはこの館かそれとも献上されている領主の館か、この国の王の城だけだろう。


エーデルは手紙を広げて、もう一度文面に目を通す…が、やはり顔をしかめた。



「伯の希望は森に入ることですが…あの森へはうちの家の者か、何年も教育し、正式な儀式を行った信頼の置けるものしか入ることができないのですよ」



そう、森は人を拒む。少しの部分だけ人は許されているがそれは森を“維持”し、“人を監視”する意味で入れるというだけだ。

そういう意味ではこの栽培されている茶葉でさえ、魔族にとってギリギリのラインだろう。



「ですが、森に入るのは植物の研究らしいですから、我々が森へ入って少しだけ植物を取り譲歩するという形なら―――」

「クロイツ伯、私は森の植物もですが環境も観たいのです」



まあ言葉で納得するような男ではない。

ちらりとシュウを見ると、色の悪い返事だというのにその目は俄然やる気で満ちている。燃えている。なんて面倒な客人だろうか。


ですが、、と言い淀むエーデルにシュウはすう、と目を細める。カジは何故だか嫌な予感がした。ちなみにギイはその前のユーランとの掛け合いの時から嫌な予感がしていたのだが…。



「―――噂。そう、噂ですがクロイツ伯は何か探し物をされていらっしゃるとか」



エーデルがぴく、と体を反応させた。その様子にうっすらとだがシュウは笑む。

…カジのお茶を飲む手が止まる。ギイは、事情は分かっていないが―――この流れがまずいことは分かった。

カジはというの「クロイツ伯は探し物をしていたのか」としか思わなかった。鈍感だ、だから変な女に好かれるのである。


シュウは目を細める、細い顎をさすって窓の外をみやった。よく晴れて蒼い。





「私の希望が通りましたらあなた様の失くしたものらしい物を探す手伝いをしようかと思っていましてね、いやなに、噂ですから、ないかもしれませんが…一度見たことがあるものですから」





その言葉に、エーデルはほんの少しだけ目を細めて―――シュウを見つめる。

何かを探るようにじい、と。切れ長の目が、少しだけ光をゆらめかせていた。



「…それはね、赤い色をして…目の下にほくろが」

「―――伯」



言葉を遮り、エーデルがシュウを呼んだ。

シュウが振り返る、エーデルはまだ顔に少しだけ愛想笑いを含めていたが―――目が据えていた。

エーデルのやたら整った顔のせいか…元から持っていたものなのか、凄みがありあの優しく笑む目の眼光が鋭く光りまるでシュウは射抜かれるような感覚がして、肌があわだつ。

まるで、別人のように彼は―――そう、この「森の番人」にふさわしい威厳でもってシュウを構えていた。


ひとつ、時が止まる。エーデルはシュウの目を探るように射抜き、シュウはその目を見つめ返す、食われまいと。






「―――…わたしは、この森の監視以外に立ち上げた商売がありましてね」



エーデルが口を開く、雰囲気はすっかり元の優しいエーデルに戻っている。



「近々あなたの国の港町に店を広げようと思っていたのです」

「…お力になれるかと思いますが」

「ありがとうございます、そして探し物の件ですがね、いやあ、噂は恐ろしい」



ふふふ、とエーデルが笑う。けれどシュウは笑えない、いや愛想笑いを浮かべていたかもしれない、だができていたかもわからなかった。



「そうなんです、探し物をしてましてね…それも早く見つけないと。申し訳ないですが、すぐにわかりますか?」



エーデルは笑っている、だが―――目が、始め会った時の優しい空気など皆無だ。

シュウは大きく息を吐いた。この人には敵わないとわかって。だがだからといって自分の望みをあきらめることもできない。

シュウも、エーデルに向かってほほ笑んだ。



「―――きっと、そうですね、新しい刺激に触れたらすぐにでもわかるかと」



…そこで、客間の扉が開いた。ユーランが頬を膨らませて花菓子を持ってきていた。

それを見てカジとギイは、重たい息を吐いた。ユーランを見て安心するだなんて思っていなかった。失礼な話だが、本音であった。













「怖えよ貴族・・・!」

「あんなエーデル様初めて見た…」



二人だけで庭を散策している、商売の話に入ったのでシュウに席を立つように言われたからである。

警備をしなければいけないのだが、二人は快く席を辞した。あの緊張感に慣れていない二人にあの部屋は耐えきれなかったのである。平和主義だから。あの城自体緊迫感とはほど遠い所であるから。



「なんだよあの腹の探り合い…観てて怖かった」

「…怖かったな…」



カジは遠い眼をしていた。


いつもユーランにいじめられて(自覚はあるのである)いると助けてくれたエーデル様。

いつもにこにことほほ笑んでいるエーデル様。

美しく、そしてカジにとって大事な人だ。頼れる人だ。神聖視さえしていた。



「失ったものはでかいよ…」



ひとつ、何かを失った気がした…カジは渇いた笑いをあげた。

こんなことで嫌いになんてなれないが…次から見る目が変わりそうな自分が怖い。



「昼飯食べた後に森の入口かー…」



ギイが思いため息をつく。嫌な予感はあたるものだ。

蒼い空を見つめる、できれば飛んでいきたい、そんな空だった。











お久しぶりです^^生きてますよ←

閲覧&お気に入り登録本当にありがとうございます…!

お気に召していただければ幸いですv


そして番外編もやっていますv

エーデルの探し物がらみのお話をアップしました。

シリアスで、すこし雰囲気が違いますが読んでいただけたら!では!



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