7話「空間収納は本当に便利」
女の子が2人、唖然としながらこちらを見ている。驚かせてしまったようだ。
「おい、大丈夫か?」
声をかけ、目を覚まさせる。
やはり感知した通り、黒いアンデットは人を襲っていたようだ。
黒髪美女と金髪少女が腰を抜かして倒れている。
「だ、大丈夫です。あ、あなたは、何者なのじゃ?」
金髪少女は王様みたいな言葉遣いだ。王様口調で、おそるおそる聞いてきた。
何者、確かに俺は何者なのだろう。
異世界から来たが、普通の召喚とは違うらしい。だとするなら勇者でも無いだろう。
ま、そんなこと考えても今は分からない。ここは無難な回答でいいだろう。
「旅人だ」
「旅人、か…。とにかく、助けてくださったこと感謝する。私はミーナ、この子はサチじゃ」
無理やり納得したのか、特に追求はなかった。
この金髪少女はミーナと言うのか、自称神がこの世界の人間は美形が多いと言っていたが、確かに綺麗だ。元の世界でも見たことがない程に整った顔立ちをしている。
黒髪の方はサチと言うらしい。この子も可愛いが、顔立ちと名前、もしかして…。
「もしかしてお前、日本人か?」
「は、ひゃい!」
変な返事だ。これは肯定、なのか?
そんなやり取りをしている間にスゥが追いつき、俺の肩に留まった。
そしてアンデットの残骸を眺め、呟いた。
「粉々ですね」
「ああ。盾を構えたから、手が痛くないように牽制程度の力で殴ったんだけどな」
本当に軽く殴ったのにこの有様だ。今後は力加減に注意して生きなければ、寝返りで宿を破壊なんて事もありえる。
少し訓練が必要かもしれない。
だが、今はこいつらのような雑魚モンスターには勝てることが分かったので良しとしよう。廃都市付近の魔獣より強かったらどうしようかと思ったが、杞憂だったようだ。
「あ、あの!貴方の名前は何と言うのじゃ?」
ミーナがスゥとの会話に割り込んできた。そういえば名乗ってなかったな。
「俺はユージ、こいつはスゥだ。」
「スゥとユージ、殿」
名乗り終えたし、面倒な事になる前に去るとする。
「ま、無事で良かったわ。じゃあなっ」
そのまま駆け出そうとすると、ミーナとサチにしがみつかれた。
すぐさま力を抜く、下手をすると2人が肉片になる恐れがあるからだ。
「ユージ殿。何か事情がおありなのは重々承知なのじゃが、余を王都まで護衛しては貰えないだろうか?」
「私からもお願いします。私一人の力ではミーナを安全に送り届けるどころか、この森を抜ける事すら叶いません。どうか、お願いします」
力を抜いた事をいいことに、二人がぐいっと身を寄せながら頼み込んでくる。
サチに掴まれた左腕は幸せがいっぱいだ。着痩せするタイプなのだろう。
ミーナの方は…きっとまだ成長途中に違いない。
「主様」
スゥがジト目を向けてくる。
話を戻そう。
「警護って、ここまで来れたんなら帰れるだろ」
「先ほどの黒騎士に襲われ、余を警護してくれていた騎士団はサチを残して皆亡くなったのじゃ…」
まじか、全然雑魚モンスターじゃないじゃん。
騎士団とやらの強さは分からないが、それなりの戦士が何人か居たのだろう。その戦士達でも勝てない相手をワンパンという事は、俺はこの世界で相当強いのかもしれない。
洞窟で死にすぎて卑屈になっていたが、もう少し自信を持ってもよさそうだ。
それはさておき。
「警護って言ってもなぁ。したことないからやり方とか分からんぞ?」
「構わぬ、こちらは頼む側じゃ。頼まれてくれるのならユージ殿のやり方に従おう。もちろん、国へ戻れれば褒美は用意するのじゃ」
褒美を貰えるのか。
身なりといい雰囲気といい、やはりミーナは貴族の御令嬢とかお姫様なのだろう。
それに、金はスゥが持っているが、眷属の金をアテにするのもかっこ悪いので丁度いい。
「王都って、どの方向にあるんだ?」
「あちらじゃ」
これから向かおうとしていた『カンナビ』と同じ方向だ。それなら問題はない。
「よし、いいぞ。王国ってとこまでお前ら二人を無事に届けてやる」
「ありがとう!恩に着るのじゃ!」
「本当に、ありがとうございます!」
ミーナの方は緊張が解けたのか、へなへなと腰を抜かした。サチは安心したのか少し泣いている。
そういえば、倒した魔物の素材は売れると聞いた。このアンデットの残骸もさり気なく回収しておこう。
「『空間収納』」
散らばったアンデットの残骸の下に魔術陣が広がる。魔術陣はアンデットの残骸のみを識別し、自動的に異空間へ収納してくれる。
非常に便利だ。
部屋の中で発動すれば、失くしたものを見つける事も出来るかもしれない。
ちなみに、頭の中で意識すれば収納した物のリストを見れる。今はアンデットの残骸と岩が入っている。
洞窟で発動した時に仕舞った岩だ、忘れてた。
「凄いのじゃ…上級魔術を、無詠唱で…」
「魔術陣の展開も一瞬でしたね…」
ミーナとサチが驚いているが、説明も面倒なのでスルーする。
「よし、まず俺たちはカンナビに向かおうと思ってたんだ。それでいいか?」
「う、うむ。方向も同じなのでありがたい。でも、その前に寄って貰いたいところがあるんじゃが、良いか?」
「寄りたいところ?」
ひとまず、二人についていく事にした。しばらく歩くと、壊れた馬車や体を刻まれた遺体が散乱した場所へと辿り着いた。
「これは…」
「余を護ってくれた、騎士達じゃ…」
皆一様に見るも無残な姿となっている。
一般人なら失神確定の光景だ。
俺は幾度も死んだ過程で自分の見えてはいけない部分を嫌という程見たので、このような光景は平気である。
ミーナとサチも失神はしていない。むしろ悔しそうに遺体を見つめている。
このような光景を見慣れているという事なのだろう。
「持てるだけ遺品を回収しようと思うのだ、それまで待ってはくれぬだろうか?」
なるほど、その為に来たのか。きっとここで倒れている騎士達の帰りを待っていた人もいるのだろう。
だが、俺はさっさと出発したいのだ。
「いや、待つ気はない」
「「!!」」
俺の言葉に二人は怒りをあらわにしたが、その後の行動で納得したらしい。
『空間収納』は本当に便利な魔術だ。
「ありがとう…本当に、ありがとうなのじゃ…」
「ありがとう、ございます…」
二人の感謝にむず痒くなりながらも、カンナビへ向けて出発した。
ミーナのセリフが一ヶ所だけ王様口調ではありませんが、ミスでは無いです。
ミーナの言葉遣いは今後のイベントをキッカケに変えようと思っています。
なので、今のほうが良いと言う方には、申し訳ないです。
それでも、今後も暇つぶし程度に読んでいただけると嬉しいです。