8話「いざ、冒険者ギルドへ!」
「あれは下級魔獣の『弾丸蜂』です!単体では弱いですが、あの数では…」
「スゥ、燃やして」
「はい」
拳程もある蜂の軍勢は、巣ごと燃え尽きた。
「あれは中級の『腐毒蛇』です!強力な毒は触れるだけで死に至り…」
「ほい」
大きな蛇は、俺の投げた小石で頭を砕かれ、絶命した。
「森を突っ切ると言われた時はどうなるかと思いましたが…」
「そうじゃな、心配するだけ無駄じゃった…」
ミーナとサチは驚きを通り越して呆れ始めているが、気にしないでおこう。
それよりも街だ。方向は合っている筈なのだが、一向に『カンナビ』に着かない。
「『カンナビ』まであとどれくらいなんだ?」
「えっと…比較的安全な街道を進むよりはこのまま突っ切る方が早いと思います。それでも歩きなので、あと2日はかかると思います」
サチが教えてくれたが…あと2日!?
実はすでに森の中で1泊しているのだ。野営の装備は回収した馬車の荷物にあったので問題はなかったのだが、布団が無かった。
アンデットの攻撃で八つ裂きにされていたらしい。
サチとミーナは平気そうだったが、つい先日まで日本でぬくぬくと平和に暮らしていた俺には耐えられない。
廃墟の埃っぽいベットや硬い地面ではなく、ふかふかの布団で寝たい!
…アンデットめ、もっと痛めつけてやればよかった。
「あと…2日…」
「ぺ、ペースを上げれば1日半で着くかもしれません」
絶望している俺を見て、サチが励ましの言葉を掛けてくれる。
ん?ペースを上げる?
確かに、それは妙案だ!
「よし、ペースを上げよう!もう野宿は嫌だ」
「わかった。じゃが、余には今の速度も厳しい。できればそこまで上げないで欲しいのじゃが…」
「安心しろ、二人とも運んでやる」
「「え?」」
二人の背後へ回り込み両脇に抱える。
「「なっ!?」」
「行くぞ」
軽く跳躍し、大木の上へ着地する。そのまま木の上を足場にして進んでいった。
「『加護』」
スゥが何か呟いたが、気にしないでおこう。
両脇に抱えた二人は口をパクパクとさせているが無事だ。
ちなみに、抱える時の力加減は考えている。
道中の魔獣を狩っていて気づいたのだが、戦いや破壊を意識しなければスーパーパワーは発揮されないらしい。
そんな事を考えながらもぐんぐんと速度は上がる。両脇の二人を見ると、まだ速度を出しても大丈夫そうだ。
「もう少し速度を上げるぞ」
「「!!??」」
二人が顔を青くしているが、構わず速度を上げる。
「「きゃあああああ!!!!」」
二人の絶叫が木霊した。
「も、もう二度とやめてください…」
「ユージ殿のやり方でとは言っけど、余ももう勘弁だわ…」
歩いて2日かかる道のりだったが、小一時間ほどで到着した。
最後は音速を超える勢いが出ていたにもかかわらず二人が無事だったのは、スゥが『加護』という魔術で保護してくれたかららしい。
「スゥちゃん、ありがとうございました」
「余からも礼を言う」
「いえいえ、いいんですよ」
それもあってか、スゥは二人と仲良くなったらしい。
少しやり過ぎたが、きっかけになったのでよかったよかった。
「主様は少し反省してくださいね」
「…すみません」
だいぶやり過ぎたようだ…。
「さてと、それじゃあどうする?」
『カンナビ』は、魔獣の住処と化している『ロード大森林』に面した街だ。なので街の周囲は高い城壁に囲われており、門を抜けて街に入らなければならない。
いま俺たちはその門を遥か遠くから眺めていた。
「入ろうにも、ミーナと私は訳あって素性を隠さなければなりません」
「俺も身分証とか持ってないしな」
「私は眷属ですので、主様が入れなければ無理です」
街に入るには検問所で身分を証明しなければいけないらしい。しかし、俺たちは誰一人身分を明かせない。なので入れないのだ。
「俺が抱えて飛び込めばいいんじゃないか?」
「後でバレると大変なことになるのじゃ」
「もうあんな思いはしたくないです…」
強行策は却下か。
「スゥ、人とか操れる魔術は使えないのか?」
「そういった禁術も存在はしますが、私は使えません」
魔術も無理か。
だが、このままではどうしようもない。
聞くと、この世界の街や都市はほとんどが城壁に囲まれており、入るには検問を抜ける必要があるらしい。
カンナビを避けてもいずれこの問題は解決しなければいけない筈だ。
「スゥ、村人っぽい服とかもってるか?」
「はい、一応ありますが…」
「あるならくれ。ひとまず、やるだけやってみるよ」
「「「?」」」
皆首を傾げているが、説明は後だ。先にミーナとサチには村人の服を格好をしてもらった。
「検問だ、身分を示せるものはあるか?」
「すみません、今は持ってません」
「ふむ…なるほど、開拓民達か」
衛兵は俺たちの身なりを眺め、勝手に納得したようだ。
俺たちはスゥの持っていた村人服に着替えた後、泥や砂で体を思い切り汚した。
『空間収納』は収納する際に意識を集中すると服と汚れを切り離す事が可能である。そのため、スゥの持つ服は綺麗過ぎたのだ。
さらに、黒髪もこの世界では目立つのでスゥの魔術で色を変えている。自分で言うのも悲しいが、驚くほど金髪が似合わない。
ミーナやサチは美人で目立つのでついでに顔や髪も汚しておいたのだが、素が良過ぎて特に変化は無かった。
その点が少し心配だったが、衛兵は開拓民だと思ってくれたらしい。
「はい、私たちは開拓村の者です」
「カンナビへ来る時は衛兵が付き添う筈だが?」
「先日強力な魔獣に開拓村が襲われまして、その際に何名かが怪我を負いました。なので、私達を送る人員が居なかったのです」
スラスラと言い訳が思い浮かぶ、予想通りだ。
魔力感知ができた時のように嘘を上手くつきたいと思えば偽証系のスキルが手に入ると思ったのだが、予想通り手に入ったらしい。
「これがその時の魔獣の素材です」
衛兵に『腐毒蛇』の皮を見せる。
「これは、腐毒蛇か!?衛兵達は大丈夫だったのか?」
「はい。罠にはめ、村人も総出で対処したので致命的な怪我を受けた者は居ませんでした」
「そ、そうか…奇跡だな」
やべっ、『腐毒蛇』ってそんな強い魔獣だったのか。小石で倒せたので雑魚かと思っていたが、見誤った。
「わかった、入街を許可しよう。無事に辿り着けて何よりだ、ゆっくり休んでいってくれ」
「はい、ありがとうございます」
良い衛兵だ。罪悪感が凄い。
だが無事に街へ入れた。嘘がバレる前に旅立つ必要はあるが、今晩くらいは綺麗な布団で眠れる筈だ。
「どうして開拓民だと思ってくれたのでしょう?」
サチが疑問に思ったのか聞いてきた。
「この街へ来るときに遠くの方で木々を切り倒している人達を見つけたんだ。その人達の後方には村のような場所もあった。そしてこの土地は辺境にあるって聞いたから、開拓民なんだろうなと思ったんだよ」
「私も目はいいほうなのですが、気づかなかったです」
当然だ、数キロ先だった上に高い木々で見えるような位置ではなかった。俺のような感知能力がなければ無理だろう。
説明を続ける。
「元の世界の常識と照らし合わせるなら開拓は大変な仕事だし、魔獣がウヨウヨ居るような森に開拓しに来たい人は少ないはずだ。でも、国としては国土を広げるために開拓に勤しんでもらいたい。だとすれば身分がはっきりとしていない人でも働くのが可能なんじゃないかと思ったんだよ。つまり村人の格好をすれば開拓民だと思われて簡単に街に入れるわけだな」
「凄いのぉ、あの一瞬でそこまで考えておったとは…」
ミーナも驚いている。凄いだろう凄いだろう、もっと褒めてくれて良いんだぜ。
「本当に凄いです。まるで詐欺師ですね」
「うむ、息を吐くように嘘を並べておったしな」
二人が感嘆しているが、それは褒めているのか?
「ふふっ、主様なら当然です」
スゥは俺の肩で胸を張っている。まるで鳩だ。
今は炎を消して色も変え、灰色の鳥になっている。本当に鳩だ。
「それじゃあ身分証を作るか」
この世界では『商業ギルド』や『鍛治ギルド』など、各業種ごとに組合が存在しているらしい。
そこでギルドに加入すれば、ギルドカードという身分証が発行されるらしいのだ。
加入するギルドはもちろん決めている。ミーナが俺のやり方に従うと言ってくれたため、最終決定権は俺にあるのだ。
「いざ、冒険者ギルドへ!」
冒険者。それはファンタジーの定番であり、男の夢である。
今日はもう少し投稿します。話数にお気をつけください。




