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12話「いくぞ白虎」




 覗き鼻血噴出事件は大変だった。


 2人は俺の規格外な強さを知っているため、絶望的な強さの敵が襲撃してきたのではないかと驚いていた。ミーナなど、顔が青ざめていたほどだ。

 覗きという理由で2人を不安にさせたのは罪悪感が半端ないので、疲れが出たのだと無理やり言い包め、なんとか不安を取り除くことができた。


 だが、問題はそれだけでなかった。


 覗きの後から2人を見るたびに至極の光景が頭をかすめ、会話がたどたどしくなってしまったのだ。

 心なしか、サチがいつもより胸を強調している気もしないでもない。


「もうあんな事は、やめよう。たぶん」


 緩い誓いを立てつつ、今はカンナビ出発の準備をしている。


「必要なものはこれで買い終わりましたね」

「うむ。それにしても、ユージ殿の『空間収納(ストレージ)』は本当に便利じゃの。普通ならカバン1つ分しか入らなかいと聞いたことがあるのだが…」


 街1つは余裕で入りますよ。


「そいえば、移動は馬車にするんだっけ、買うのか?」

「馬車での移動は停める場所も考えなきゃいけませんから、どこかの商人の馬車に乗せてもらえればと思っているのですが…」

「『空間収納(ストレージ)』に入れりゃいんだから、停める場所は考えなくて良いんじゃないか?」

「え?すでに私達の使っていた馬車の残骸も入っている筈ですが、大丈夫なんですか?」

「全然入るぞ」


 街1つは余裕で入りますよ。


「ユージさんが規格外なのを忘れてました」

「さすがは伝説の勇者レベルじゃ…」


 正確には、伝説の勇者の10倍レベルだけどな。


「だが、馬は入らないからそれ停めるとこは考えないとな」


 『空間収納(ストレージ)』に生物は入らない。なぜか植物は入るのだが、馬などの生き物は入らないのだ。


「主様、それなら召喚魔術を利用してはどうでしょう?」

「召喚魔術?」


 スゥが何やら言い出した。そんな魔術もあるらしい。


「馬の代わりになるのか?」

「代わりになるどころではないですよ!スゥちゃんも何言ってるんですか!?」


 スゥは2人とだいぶ仲良くなったらしく、ミーナからは「スゥ殿」、サチからは「スゥちゃん」と呼ばれている。

 その流れで知った事実なのだが、スゥはメスだったらしい。これを知った時は驚いたが、最初から気づいていた事にした。


「で、召喚魔術ってなんなんだ?」

「召喚魔術とは、この世界もしくは別の世界から魔獣や精霊を一時的に召喚して使役する魔術です」

「それって…」

「そうじゃ。勇者の召喚もこの召喚魔術で行なっておる。通常の召喚魔術とは違って、多数の魔術師が年単位の準備を経て行っているがな」


 サチとミーナが説明してくれた。

 だが、おかしな点が2つある。


「ちょっとまてよ?一時的にって事は、俺やサチは一定時間経てば元の世界に戻るのか?」

「残念じゃが、それはない。お主達勇者の召喚術式は特別でな、期間は無制限なのじゃ」


 サチの表情が暗くなった。この世界にどれだけの期間居るのかは知らないが、やはり元の世界が恋しいのだろう。

 ミーナも罪悪感があるのか、少し俯いている。


「もう1つ質問なんだが。使役って事は、サチや俺は誰かに従わされてんのか?」

「それもないのじゃ。勇者召喚は多数の魔術師で行うため、主となる者が居ない。それと、召喚された者が強力な力を持っている場合は使役できないのじゃ」


 なるほど、安心した。好き勝手生きると決めた矢先に誰かの言いなりなんて勘弁だ。


「じゃが、それが召喚魔術の欠点でもある。召喚獣が術者より強力な場合、術者が殺されることもあるのじゃ。それだけならいいが、消えるまで暴れまわり、大きな被害を生む場合もある」

「なので、召喚魔術は『劇術指定』されている危険な魔術なんです。勇者召喚以外で使われるのは見たことがないですね」


 劇術指定、そんな区分もあるのか。


「スゥ、お前そんな危ない事させようとしてたのかよ」

「主様の強さならどんな召喚獣も使役可能です。なにも心配する事はありませんよ」


 確かに。

 聞いた話だと、この世界の住人が生涯で到達する平均レベルは20程度らしい。

 屈強な戦士であれば40レベルまで到達する者もいるのだそうだ。

 勇者は60レベルまで到達すれば史実として語り継がれるという。


 となると、俺はそこまでビクビク生きる必要がないと言える。なにしろ伝説の勇者の10倍以上のレベルなのだ。

 警戒を怠るつもりはないが、ほとんど敵はいないだろう。

 そして、召喚魔術にも興味はある。

 商人の馬車だが、積荷と護衛が乗るため遅いと聞く。

 俺が脇に抱えるのは既に却下された。

 だが、俺はさっさと移動したい。


「よし、やってみるわ」

「「ええっ!?」」


 色々と文句を言われたが、今回は最終決定権を行使させてもらう。

 先に馬車を買い、街の外で召喚魔術を行う事で決まった。






「通常なら詠唱に条件を示した文章を織り交ぜるのですが、主様は『無詠唱』のスキルがあるので召喚したい存在の条件をイメージしながら『眷属召喚(サモン)』と言うだけで発動できると思います」

「なるほど、条件ね」


 条件とは、強さ、形状、能力などであり、それらを決めておくと条件に見合った召喚獣が自動的に選ばれるらしい。

 術者の魔力に見合わない条件にすると失敗するのだそうだ。


「体力あるほうがいいし、速い方がいい」


 となると獣系で、道中危険があるかもだからそれなりに強いとありがたいな。


「ま、条件はこんなもんか。そいでは、『召喚(サモン)』!」


 俺が魔術名を唱えると同時にサチが剣を強く握りしめ、ミーナを手を掲げた。

 2人は俺の後ろで、出てくる召喚獣を警戒しているらしい。


 そんな中、魔術は問題なく発動し、地面に巨大な魔術陣が浮かび上がる。

 街外れの森の中で行なっているため、周りの木々がざわめいている。


「お、来たか」


 結構な魔力を感じる。

 光る魔術陣から現れたのはーーー全長10メートルほどの、大きな白い虎だった。


「我が名は…」

「どうせ白虎でしょ」

「ほう、我が名を知っているのか」


 見た目からしてそうだろ、絶対スゥの仲間じゃん。

 呼び出してしまう可能性があるかもとは思ったけど…どうしよう。

 助けを求めるように後ろを振り向くと、ミーナとサチは気絶していた。先ほどの魔力に当てられたらしい。


「国取りか?魔王討伐か?四神たる我に、貴様はなにを望む?」


 うっ、言い出しづれぇ。馬車引いてくださいなんて、言い出しづれぇ。


「白虎、久しぶりですね」

「ん?貴様は、朱雀か!」


 スゥ、ナイスだ。


「鳥の癖に穴倉にこもっておると聞いていたが、眷属を連れて旅をしておったのか」

「違いますよ、私がこのお方の眷属なのです」

「なんだと!?」


 スゥが時間を稼いでいてくれる間に適当な命令を考えるとする。

 四神を馬代わりなんて、面倒なことになり兼ねない。


「そういえば、主様は白虎に馬車を引いてもらいたいそうですよ」

「馬車を、引く?」


 あっ。


「我に、馬車を引かせると言うのか…人間!!」


 凄いキレてらっしゃる。


「なにを怒っているんですか、相変わらずプライドが高いですね」

「四神の一柱でありながら人間の眷属に成り下がる貴様はプライドがなさすぎるのだ!」


 ありゃりゃ、この2人は仲が宜しくないみたいだ。

 と言うより、スゥのマイペースさに白虎が振り回されてる感じだな。


「えっと、今スゥが言った通り馬車を引いて欲しいんだけど、いいか?」


 物凄い眼光で睨まれた。

 そりゃそうですよね。


「前に『自分より力ある者が現れれば眷属になるのも悪くない』とか言ってたじゃないですか」

「確かに言ったが、この人間が我を超えるとは到底思えん」


 確かに、今は魔力放出を制限しているので一般人よりも気配は弱い。


「まずは試して見てください、あなたの力など主様に比べればゴミだと言うことが分かりますよ」

「ご、ゴミ!?」


 長い付き合いなのだろう、スゥが少し毒舌になっている。


「貴様がそこまで言うなら、いいだろう。人間よ、我と『魔力当て』を行なうぞ」

「魔力当て?」

「名前の通り、互いに全力で魔力を当て合う勝負です。互いの力量を推し量る勝負方法の1つですね」


 魔力という力を利用したこの世界独特の勝負方法というわけか、面白そうだ。


「全力でやっていいんだな?」

「当たり前だ。全力でかかってこねば死ぬぞ。最後まで我が魔力の奔流に立っていられれば馬車でもなんでも引いてやろう」


 本当は帰ってもらって別の召喚獣を呼び出そうと思っていたが、本人がそれでいいのならそうしてもらうとしよう。


「スゥ、2人を守ってやってくれ」

「分かりました。『加護(プロテクション)』」


 スゥが魔術で2人を守ってくれるなら問題ない。いきなり全力はなにが起こるか分からないので、半分くらいから徐々に増やしていく感じにしよう。


「いくぞ白虎」

「こい!!」


 













「なぜこんなことに…」

「分かりません。衛兵が到着した時には、すでにこのような状態でした」


 カンナビの街長である『ガイナ・アルファンドロ』は、未だかつてない不測事態に驚愕していた。


 街でいつものように公務に励んでいた時、突如として大きな揺れと爆音に襲われたのだ。

 音の発生地点へ衛兵を向かわせ、その後に続き現地へ赴いたのだが、目の前の状況は想像を超えていた。


 カンナビから1キロも離れていない森の中の一部が、まるで濁流に押し流されたように更地となっていたのだ。

 更地ができることはこれまでにもあった。大型の魔獣が縄張り争いで森の木々を薙ぎ倒すこともあるからだ。

 だが、今回は規模が違う。

 カンナビの街域に匹敵する範囲が更地と化しているのだ。それも、ある一点から放射状に。


「ここからなんらかの攻撃が放たれ、森が吹き飛ばされたのだと考えられます。調査した魔術師曰く、この辺りの魔力濃度が非常に濃くなっているため、魔術による攻撃の可能性が高いとのことでした」


 衛兵の報告を聞き、ガイナは絶望に顔を歪ませる。

 これほどの力を持つ魔獣が街を襲えば、城壁都市カンナビと言えどもひとたまりもないからだ。


「冒険者ギルドに依頼を出すんだ。動ける全ての衛兵にも声をかけろ、街周辺の警戒に当たれ!」

「はっ!」


 早急に調査を進め、強大な魔獣の存在が確認できたなら国へ救援を求める必要もある。


「これはこの街の、いや、この国の危機だ!」






 その後。強大な魔獣どころか今までに生息していた魔獣すら発見されず、この事件の原因が解明されることはなかった。

 しかし、そのおかげでカンナビ周辺の治安は驚くほど安定し、街道も安全になり、カンナビが今まで以上の発展を遂げるのだが…それはまた別の話。



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