13話「ナイスファイト」
「ユージ様、乗り心地はいかがでしょう?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
全身ボロボロの白い虎が引く馬車で、次の目的地である商業都市『リザリア』へと向かっていた。
魔力当ては半分くらいの力で行なったのだが、白虎は濁流に飲まれたかのように流されていき、俺の圧勝で終わった。
そのため、今は白虎が馬車を引いてくれているのだ。
体の大きさをある程度は変えられるらしく、今は馬ぐらいの大きさになってもらっている。
「いやー、川に流される落ち葉のようでしたね」
「スゥよ、掘り返すでないわ」
ちなみに、その後の流れで白虎には『コゥ』と言う名前を与え、スゥと同じく俺の眷属となった。
眷属はいらないと言ったのだが、必死で頼んでくるので断りきれなかったのだ。
体の傷は勲章として残したいらしく、自然治癒を待つらしい。
スゥの高度な治癒魔術だと怪我の跡まで消えるので受けたくないと言っていた。
「んっ、ここは…」
「馬車…ですか?」
「おう、起きたか」
コゥの魔力に当てられて気絶していた2人も目が覚めたようだ。事情を説明し、新たな仲間を紹介した。
「余は仕方ないとは言え、勇者であるサチまで気絶させるほどの召喚獣を眷属とするとは、さすがはユージ殿じゃな」
「コゥちゃんって言うんですか、よろしくお願いします」
「うむ。ミーナにサチだな、宜しく頼む」
コゥは眷属にした事で召喚魔術の条件が上書きされたため、一定時間が経っても消える事がない。
馬小屋のある宿を考えなければならなそうだ。
「そう言えば、地図見て勝手に『リザリア』へ向かってるんだけど、いいんだよな?」
「うむ、大丈夫じゃ。リザリアを抜け、学園都市『ジーニアス』を経由すれば王都『フィーレ』へとたどり着ける」
合っていてよかった。
俺たちが旅をしているのは『フレイア』と言う大国らしい。
大国と言うだけはあり、国土は相当大きい。そのため、国の中心にある王都『フィーレ』まではコゥの速度をもってしてもまだ何日もかかりそうだ。
「も少し速度を上げるか」
「そんな事をすれば馬車が壊れますよ。今もあちこちから軋む音が聞こえてきますし」
サスペンションまで備えた一番高い馬車を買ったのだが、コゥの速度には厳しいらしい。スゥに『加護』をかけてもらってはいるが、外部からの衝撃に強くなるだけなので車軸などは傷むのだ。
「馬車を修理できる魔術とかないのか?」
「ありますけど、馬車を停める必要がありますね。『加護』を解かなければいけないので」
なるほど、そしたら途中の村で休憩しつつ爆走する感じでいいだろう。
「この先に村ってある?」
「あるぞ、『リアビ』と言う村がある。特産はマシュリムと言うキノコだったはずじゃ」
特産まで、詳しいな。
キノコには興味ないが、そこで休ませてもらうことにする。
◇
「村長、やっぱりダメだ。こっちの木もやられちまってる」
「こっちもだ。このままじゃマシュリムどころか、俺たちまで餌にされちまう」
「そうじゃな、いったいどうすれば…」
リビア村の村長『リーデン・ケーラー』は、かつてない村の危機に頭を抱えていた。
下級魔獣、『狂猪』が村の近くまで迫っていたのだ。
マシュリムは生きた木の根に寄生し、木の栄養をもらう代わりに近づく虫を追い払う事で共存している。
村人の努力によって、リアビ村の周辺には栄養の豊富な木が多い。そのため、マシュリムが多く採れる豊かな土地なのだが、どこからともなく現れた『狂猪』によってマシュリムが木の根ごと食い荒らされているのだ。
『狂猪』は雑食である。今は木とマシュリムに夢中だが、それを食い尽くせば次は村人が襲われるだろう。
「村の男連中は武器を持つんじゃ。か弱い者たちはわしの家へ集めて周囲を柵と罠で囲め。何もしないよりはマシなはずじゃ」
村の女子供は守りやすいように一ヶ所集め、村の男達で守る。今はそれしか手はない。
リアビ村から一番近い都市はカンナビだが、道中は魔獣が出て危険である。冒険者の護衛なしに行くのは自殺行為だ。
それならば、リザリアとカンナビの街道途中にあるこの村に冒険者が通るのを待つほうが賢明である。
「なんとか、それまで耐えるしかない」
村長であるリーデンは覚悟を決め、行動を開始した。
◇
「ちょっとまずそうだな…」
「どうしたのじゃ?」
「リアビ村が襲われてる」
「「!?」」
村までどのくらいあるのかと思い、何気なく探知で確認すると、リアビ村と思われる地点を魔獣が襲っていた。
村人だけじゃなく4人組の冒険者もいるみたいだが、押されている。
すでに怪我人も出ているらしい。
「相当やばい状況だな。ちょっと先に行くわ」
「ユージさん、私も連れて行ってください!」
馬車から身を乗り出して駆け出そうとした所、サチが頼み込んできた。
冒険者と村人達で抑えられる相手なら、勇者であるサチも大丈夫だろう。
「わかった。スゥ、俺とサチの髪の色を変えてくれ」
「わかりました、『幻』」
俺は茶髪、サチは暗めの赤だ。
金髪はサチに似合っていると思ったが、本人は嫌だったらしく、お互い金髪はやめてもらったのである。
勇者に憧れて黒髪に染めている人もいるので、わざわざ色を変えなくても黒髪のままで言い訳はできるが、勇者に憧れる夢見がちな青年だと思われるのも癪なので変えることにしているのだ。
「急がなくていいから、コゥはミーナを無事に連れて来い。スゥ、サチ、行くぞ」
そう言ってサチを脇に抱える。
「え?これは、もしかして」
「このほうが早い」
サチの絶叫が木霊した。
◇
「アイリア、下がれ!リガードの怪我を治してやるんだ!」
「わかったわ!」
「ファナと村の人たちは2人が空いた穴をカバーしてください!」
「了解」
「「「わかりました!」」」
初級や低級の魔獣には遅れを取らなくなり、地道な努力も実を結び、第7級冒険者にまで昇格した。
これを機に、俺達は前から訪れようと思っていたカンナビへ腕試しに向かっていたのだ。
だが、休憩のために寄ったこの村が下級魔獣に襲われていたため、今の状況に陥っている。
村人達を見捨てることなどできない。
しかし、下級魔獣は今まで戦ってきた初級の魔獣とは明らかに異なっていた。
初級魔獣よりも更に上の段階に位置するのが下級なのだ。冷静に考えれば当然の事実である。
「くそっ、考えが甘かった」
このチームのメンバーは、魔術師のアイリア、大剣使いのリガード、レイピア使いのファナ、剣と盾を用いる俺の4人で構成されている。
12の頃に旅立ち、共に15の成人を迎え、3年も旅をした仲間達だ。
俺たちの連携なら複数の下級魔獣にも対応できる自信はあった。
しかし、初めは数匹程度だった『狂猪』も、今は見える範囲だけで20頭はいる。森の中に潜んでいる数も含めればもっといるはずだ。
家屋内の食料に夢中なため襲ってきているのは5匹程度だが、それでも状況は芳しくない。
完全に見立てが甘かった。敵わないと悟った時点で村人を連れて逃げた方がよかったのだ。
いや、今更後悔しても遅い。ここからなんとか押し返し、食料に夢中な狂猪が加勢に来る前に逃げなければならない。
「アクト!」
「しまっ…」
状況把握に気を取られすぎた。
アイリアとリガードが抜けた穴を村人達では埋められなかったらしい。
その穴から防衛線を抜けてきた狂猪がこちらへ向かってきたのだ。しかし、突進が当たる寸前、ファナが俺を突き飛ばした。
「ファナ!」
俺を庇ったせいでファナは躱しきれず、狂猪の突進を喰らってしまった。
無意識に急いで駆け寄る。だが、それは大きな失敗だった。
「アクトさん!」
村人の1人が叫ぶ。
俺が守っていた場所が穴となり、防衛線が崩れたのだ。
村人達が次々と飛ばされていく。
「あ、あぁ…」
アイリアとリガードも襲われている。
こんなことになるなんて…もっと、うまくやれると思っていたのに…。
「あぁ…」
声が、うまく出せない。
「アクト…」
口から血を流し、腕の中で力なく横たわるファナは、ボロボロになりながらも俺を心配してくれる。
「ファナ…ごめん」
「アクトが、謝る必要は…ないよ」
こんな状況になってしまったのは、俺の判断が甘かったからだ。
だが、ファナはそんな俺を責めずに優しく微笑みかけてくれた。
「大丈夫、アイリアもリガードも…アクトを責めたりなんかしない、アクトは、リーダーとして、たくさん頑張ってくれたもん」
「…ファナ」
呼吸も辛いはずなのに、ファナは懸命に俺を慰めてくれる。そんな彼女に、俺は頼りない笑顔を向ける。
狂猪は待ってはくれない。
周りを見ると、大勢の狂猪に囲まれていた。身を寄せ合っている村人達やアイリアとリガードも囲まれている。
相当な数だ。食料に夢中になっていた個体や森の中に潜んでいた個体も加勢しに来たのだろう。
なぜなら、残る餌は俺たちだけなのだ。
「ファナ、最後まで一緒だよ」
「うん」
盾を捨て、ファナを左手に抱える。
そして、右手に持った剣を狂猪へと向ける。
最後まで諦めない。1匹くらいは道連れにしてやる!
まだ俺は戦える!
「いい根性だ。危ないから、そのままじっとしてろよ」
覚悟を決めた直後、どこからか声が聞こえた。
次の瞬間、俺たちを囲んでいた狂猪は頭部から血を吹き出し、次々と倒れていく。
「な、何が…」
「きゃあああああー!」
上を見ると、暗赤色の髪色をした剣士が悲鳴を上げながら降ってきた。
その剣士は真下にいた狂猪に剣を突き立て、トドメを刺すと同時に着地した。
「ユージさんは、鬼です…」
剣士は何かを呟くと同時に動き出し、周りに居た狂猪を次々と斬り伏せていく。
アイリアやリガード、村人達の周辺を重点的に攻めているため、狂猪はその剣士を標的にし、みんなを襲うのを中断している。
そんな急変する状況を観察していたせいで、隣に立っている人物の存在にに気づくのが遅れた。
「よう、ナイスファイト。間に合ってよかったわ」
その人物は気軽に話しかけてくれたが、状況の変化についていけず、返事をする事ができない。
「スゥ、この子達を治してやってくれ」
「わかりました。『回復術』」
スゥと呼ばれた美しい灰色の鳥が、回復魔術を無詠唱で唱えた。
だが、驚きはそれだけにとどまらない。回復量が尋常ではないのだ。
通常なら長い詠唱の末に1人の対象を徐々に回復させてゆくのだが、俺とファナを同時に、しかも一瞬で完治させた。
「すごい…」
無意識に出た言葉だった。
目の前に立つ青年の眷属なのだろう。その鳥が使う魔術は、美しさすら感じさせる技だった。
相当高位の魔物、もしくは精霊なのだろう。
そして、その眷属を従える青年。
「サチも手間取ってるし、ちょっと手伝ってくるわ。その子達を守ってあげてくれ」
「お任せください」
この人がどれほどの使い手なのかはわからない。だが、その言葉は絶対の安心感を俺とファナに与えてくれた。
緊張の糸が切れ、俺の意識はそこで途絶えた。




