8話 1【裁かれるべきなのは……私】
「希望、今日学校行かないの?」
午前七時。
私を目覚めさせたのは、自室の外から聞こえた姉の声。
悠希と破局した次の日から、私は学校を休み続けていた。
学校では今頃、悪質な嫌がらせをした張本人として私の悪評が広まっていることだろう。
今度は私が嫌がらせの標的になるかもしれない。
悪い結果を考えると、中々学校に行こうという決心がつかないままでいた。
これは当然の報いだ。
私は友達を傷つけてしまった。
人を呪わば穴二つだ。
けれど、このままではいけないと感じていた。
休む日数が増えるほど、復帰は難しくなっていく。いつかは必ず向き合わなければいけない問題なのだ。
「行く。朝ご飯用意して」
「!──分かった!」
学校を休み始めて四日目の朝、私は登校する決心をし、制服に腕を通した。
家族が集まる朝食の席に着くと、私はおもむろに携帯電話の電源を入れた。
学校を休んでいた三日間、私は外部との接触を全て遮断していた。
電源の入った携帯電話には数件の着信。体調を心配するメッセージが寄せられていた。
「大丈夫?」
突然声をかけられ、私はビクリと肩を震わせた。
顔を上げると、心配そうにこちらを見るお母さんと目が合った。
「うん。もう熱も下がったから」
「そう、よかった。無理しないでね」
「分かってる」
私は学校を休んだ理由を姉にしか話していなかった。
親に嘘をつくのは胸が痛むが、本当のことを話す訳にもいかない。
朝食を腹に詰め込むと、私は三日ぶりに外へ出た。
「行ってきます」
朝日を全身に浴び、私は深く息を吸い込む。
私が悩み、苦しんでいた時間も、世の中は何も変わらないままだ。
毎日太陽が昇り、月が顔を出す。
果てしない空論の中では一人の人間の一生など小さなものなのかもしれない。
きっと今、死ぬほど悩んでいることも、世間一般から見れば小さな事柄なのだ。
そう考えると、少しだけ気が楽になった。
三日ぶりに登校した私を待っていたのは、冷たい視線……ではなく、体調を心配してくれるいつもと変わらない優しい友達だった。みんなそれぞれいたわりの言葉をかけてくれる中、私の行いに非難を投げかける者は誰一人としていなかった。
それは口裏を合わせ、意図的にというわけではなく、どうやら彼らは何も知らないようだった。
これは、悠希なりの思いやりだったのかもしれない。
別れ際「ごめんな」と謝ったように、悠希は私に対して罪悪感を抱いているようだった。彼が気にしていたという証拠に、私の携帯電話に悠希からの着信はなかった。
だからこれは、私の一方的な行いの結果に過ぎない。
事実、悠希は何も悪くない。
私が勝手に彼の幼なじみに嫉妬し、逆恨みを嫌がらせという形で表し、大切な友達を傷つけた。ただそれだけなのに。
怒ってもいいのはむしろ悠希の方だ。大切な幼なじみを傷つけられるのは彼からしてみれば家族を傷つけられたことと同じ。それは私が一番よく知っていた。
裁かれるはずの人間があろうことか擁護されている事態に、私は首を傾げた。
放課後、私の教室に訪れたのは、今、一番顔を合わせたくない人物だった。
「希望ちゃん、ちょっといいかな」
「あ……うん。どうしたの?琥珀ちゃん」
私の前に現れたのは、今回の被害者である彼女。
琥珀ちゃんの登場に、私は身を固くする。
彼女が何も知らないハズがない。
もしかしたら悠希は、幼なじみであり、被害者である彼女にだけ本当のことを話したのかもしれない。
様々な憶測を展開させる私をよそに、琥珀ちゃんは恥ずかしそうに口を開いた。
「希望ちゃん……もし良かったら、一緒に帰らない?」
「え?」
予想外の言葉に、私の頭は真っ白になった。
「ダメ、かな」
申し訳なさそうにこちらの様子を伺う琥珀ちゃん。
私は慌てて返事をした。
「ダメじゃないよ!一緒に帰ろう」
満面の笑みを浮かべる。
琥珀ちゃんは嬉しそうに「ありがとう」と頭を下げた。
何が起こっているのかよく理解しないまま、私は琥珀ちゃんと一緒に下校することになった。
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