4202話
「さて、これが最後だな」
そう言い、レイはドワイトナイフを最後の黒い鹿の死体に突き刺す。
すると周囲が眩く光り輝き……
やがてその光が消えると、そこに残っていたのは先程までと同じ魔石、素材、食材だった。
勿論、死体の損傷度合いによって微妙に出てくる素材や食材が減っていたりもしたが、基本的には変わらない。
魔石も含めて手早くミスティリングに収納すると、ここでレイは改めてセトを呼ぶ。
「おーい、セト! こっちに来てくれ! 解体が終わったから、魔石を使うぞ!」
そんなレイの言葉に、セトは嬉しそうにしながら近付いてくる。
セトにとっても、魔石を使って魔獣術で新しいスキルを習得、あるいは既に覚えているスキルのレベルアップをするのは、それだけ嬉しいことだったのだろう。
「グルルルゥ!」
早く早くと喉を鳴らすセト。
そんなセトに対し、レイはまず魔石を一個見せる。
「セトには、まずこの魔石を使って貰う。黒い鹿の群れのリーダーの魔石だ。多分……いや、ほぼ確実に他の黒い鹿と同じモンスターだとは思うが、もしかしたら上位種や希少種といった可能性も否定は出来ない。だから、この魔石を使った後で普通の黒い鹿の魔石も使って貰う」
幸いなことに、黒い鹿はそれなりの数がいた。
その為、魔石を一個くらい無駄にしてもレイにとっては問題ない。
「グルゥ」
レイの言葉に、セトもその辺については理解していたのか、分かったと喉を鳴らす。
そんなセトを確認すると、レイは魔石をセトに向かって放り投げる。
黒い鹿のスキルを考えると、何となく習得出来るスキルは予想出来るなと思いながら。
レイが放り投げた魔石を、セトはクチバシで咥え、飲み込む。
【セトは『空間操作 Lv.二』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
その内容は、レイもやっぱりなと納得出来るものだった。
何しろ、セトのウィンドアローによって放たれた大量の風の矢を、仲間と協力しつつも、空間の歪みに吸い込ませるといったことをしたのだ。
他にもレイに対して、空間を渡って角で攻撃するといったことすらも出来ていた。
そう考えれば、セトの空間操作のレベルが上がるというのは当然だろう。
「グルルルゥ!」
セトが嬉しそうに喉を鳴らしながらレイに近付いてくる。
褒めて褒めてと。
レイはセトの望み通りに褒めてやる。
実際、空間操作のレベルアップというのは、そう簡単に出来るものではない。
そもそも空間操作といった非常に貴重で珍しいスキルを持つモンスターそのものが希少なのだから。
だからこそ、レイにとってはセトが空間操作のレベルが上がったのは喜ばしいことだった。
また、それだけにレベル一でもそれなりに強力なスキルなのは間違いない。
効果範囲そのものはレベル一ということもあってかなり狭いのだが。
ただ、レベル二になったことによってその効果範囲が広がったのは間違いないだろう。
「よし、セト。レベルアップしたスキルを試してくれ」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすとレイから少し離れる。
空間操作がどのようなスキルなのかは当然のようにセトも知っているが、レベルアップしたことによってどのくらい強化されたのかは、レイとしても是非知っておきたかった。
その為、レイはセトにスキルを使うように頼んだのだ。
セトもスキルがどのように強化したのかは知りたかったのだろう。
あるいはレイの頼みだからということで、無条件に頼みを聞いた可能性もあったが。
ともあれ、セトはレイから離れ……
「グルルルルゥ!」
スキルを発動する。
セトの前に現れた空間の歪み。
それは黒い鹿の群れが集団で使った空間の歪みと比べると、かなり小さい。
もっとも、黒い鹿の群れは群れ全体で使っていたのに対し、セトは自分だけで使っているのだから当然かもしれないが。
「グルゥ?」
それでどうやって確認するの? とセトが喉を鳴らす。
「こうして空間の歪みがあるのを見れば何となく分かるけど……そうだな、一応もう少ししっかりと確認しておくか」
呟き、レイは地面に生えている草を適当に引き抜き、セトに近付く。
「セト、いいか? これを投げるぞ」
「グルゥ!」
いいよ、と喉を鳴らすセト。
レイはそんなセトの様子に頷くと、手の中にある草を投げつける。
すると、その草は空間の歪みにぶつかり……
「うん、やっぱりレベル一の時と比べると範囲は広くなってるな。掌二つ分くらい……か?」
レベル一の時が掌一つ分だったことを考えると、レベル二になって空間操作で操れる範囲は倍になったことになる。
……もっとも、倍とはいえ掌二つ分である以上、そこまで広い訳ではないが。
「なるほど、レベルが上がっていけば空間操作出来る範囲が広がっていくのか。レベル五になった時にどうなるのかはちょっと楽しみだな」
「グルルゥ」
レイの言葉に、セトは自分もそうだといったように喉を鳴らす。
そんなセトの様子に笑みを浮かべつつ、レイはもう一個の魔石……先程セトに使った黒い鹿の群れのリーダーの魔石ではなく、普通の黒い鹿の魔石を出す。
「さて、あのリーダーが希少種か上位種だった場合、これでまた魔獣術が発動する筈なんだけど……いくぞ、セト」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らす。
そんなセトにレイは魔石を放り投げ……セトはそれをクチバシで咥え、飲み込む。
「……」
だが、数十秒待っても、脳裏にアナウンスメッセージが響くことはない。
念の為に一分程待ってみるが、やはりアナウンスメッセージはない。
どうやらリーダーだった他よりも大きかった個体は、希少種でも上位種でもなく、単純に個体差で身体が大きかった……あるいは身体が大きいからこそリーダーになったのだろうと知り、レイは残念そうにしながら口を開く。
「……駄目か」
「グルゥ」
レイの言葉に、セトは残念そうに喉を鳴らす。
レイと同じく……いや、実際には自分が魔獣術を使ったのだから、レイ以上にセトはリーダーの個体が希少種か上位種であって欲しかったのだろう。
だが、それは違った。
こうして普通の黒い鹿の魔石を使っても、魔獣術が発動しなかった以上は上位種でも希少種でもない。
(他に考えられる可能性としては……そうだな、黒い鹿の魔石ではそもそも魔獣術が発動しないとか? 無理があるか)
これが例えばただのゴブリンとかなら、モンスターが弱すぎるせいか魔石を使っても魔獣術が発動しない可能性というのは十分にあった。
だが、今回の黒い鹿はゴブリンなどとは比べものにならない程の強さを持っていた。
そうなると、リーダーは他の個体と同じだったのは間違いないのだろう。
あるいは身体が大きいということで、もっと時間があれば、もしかしたら上位種や希少種になっていた可能性も否定は出来なかったが。
ただ、今は他の個体と同じだったのは間違いない。
「ほら、落ち込むなって。多分そうなるだろうとは思ってたんだから」
今回の一件は、最初から駄目元という意識がレイの中にはあった。
だからこそ魔獣術が発動すればラッキー程度の気持ちだったので、レイはすぐに気分を切り替える。
……セトが少し残念そうにしていたのは、やはりセトが試したからこそだろう。
レイは残念そうにしているセトを宥めると、次は自分の番だと魔石とデスサイズを手に持つ。
「グルゥ!」
落ち込んだ様子からあっさりと回復したセトは、レイに向かって頑張ってと喉を鳴らす。
(とはいえ、セトが空間操作のレベルが上がったということを考えれば、デスサイズも何となく予想は出来るんだけどな)
黒い鹿が得意としたのは、空間系のスキル。
そしてレイの……デスサイズの持つスキルの中で転移系のスキルとなると、地中転移斬が真っ先に思い浮かぶ。
もしくは角を突き刺そうとしたことからペネトレイトのレベルが上がる可能性もあった。
(あ、でもペネトレイトはレベル九なんだし、そう考えると初めてレベル十になるという意味で、ペネトレイトのレベルが上がるのもあるのかもしれないな。……もしくは、全く新しい空間系のスキルという可能性もあるし)
どんなスキルであっても、取りあえずデスサイズが強化されることだけは間違いないだろうと判断し、レイはセトから少し離れた場所で黒い鹿の魔石を放り投げ……斬、とデスサイズの刃によって一閃する。
【デスサイズは『地中転移斬 Lv.六』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
その内容は、レイの予想通りだったので驚きはない。
勿論嬉しくないかどうかと言われれば、レイとしては嬉しいが。
(他に空間系が関係しているスキルだと……黒連とかか? いや、それはちょっと無理があるような)
滞空する斬撃を生み出すというスキルだ。
考えようによっては斬撃を空中に留まらせるという意味で、空間関係が影響してるかと言われれば、レイとしてはそうかもしれないと思う。
とはいえ、既に地中転移斬のレベルが上がったのだから、今更そのようなことを考えても意味はないだろうと思えたが。
「グルゥ!」
レイに向かい、セトがおめでとうと喉を鳴らす。
セトの空間操作もそうだったが、空間に関係するスキルのレベルが上がったのは間違いなく喜ぶべきことなのだから。
「ありがとな、セト。……さて、問題なのは地中転移斬がレベルアップしてどこまで強化されたかだな。セト、ちょっとスキルを試してみるから、多分大丈夫だとは思うけど、ちょっと離れてくれ」
「グルゥ」
レイの言葉にセトは素直に分かったと喉を鳴らし、レイから離れる。
それを確認したレイは、デスサイズを手にスキルを発動した。
「地中転移斬!」
明確な狙いがあった訳ではなく、視線の先で最大限遠くに向かってデスサイズを振るう。
地面に向かって放たれた掬い上げるような一撃は、本来なら地面を斬り裂くか……あるいは少し間違えば、周辺に土や砂、草原故に埋まっている草が周辺に撒き散らかされるだろう。
だが、今の一撃はただの一撃ではなくスキルを発動した結果の一撃だ。
デスサイズの刃はそのまま地面に沈み込み、次の瞬間に遠くに……レイが狙ったように、レベル六の状態で放つことが出来る一番離れた場所で地面からデスサイズの刃が飛び出る。
「グルゥ!」
デスサイズの刃が見えた! と喉を鳴らすセト。
レイもデスサイズの刃の出た場所は見えていたので、デスサイズを地中から抜き……つまり、視線の先に出た場所からもデスサイズの刃がなくなったのを確認してから、セトと共に距離を測る。
(一気に伸びたな)
レベル五になったことで、地中転移斬は今まで以上に射程が伸びた。
レベル五で三十m。
だが、レベル六になったことによって、そのスキルは当然だが更に射程は伸びたのだ。
「ここで大体三十mくらいだな」
セトと共に先程デスサイズの刃が飛び出た場所まで移動している中で、レイは三十m程の場所で足を止め、そう呟く。
三十mというのはあくまでも感覚的なものなので、実際には多少のずれはあるだろうが。
それでも大体三十m程なのは間違いなかった。
だが、その三十mも先程レベル六になった地中転移斬で一番遠くまでを狙って放った一撃のある場所までそれなりにある。
その後、先程刃の出た場所まで行くと……
「大体五十mくらいか」
レベル五の時の倍とまではいかないが、それでも倍近くまで射程が伸びていた。
(これ、レベル六の今の時点でも狙撃……狙撃? まぁ、離れた場所からピンポイントで攻撃するんだから、多分狙撃という表現で間違ってないよな? とにかくそんな感じで狙撃が出来る訳で。これがレベル七とか八とか九……そして十になったら、一体どうなるんだろうな?)
今でさえ、五十mといえば結構な距離だ。
木々や岩といった場所に隠れて地中転移斬を使えば、敵を一方的に攻撃出来るだろう。
……もっとも、離れた場所から敵を一方的に攻撃するというのなら、それこそ魔法を使ったり、槍を投擲したりと、他にも色々と選択肢があるのだが。
「ともあれ、このスキルはそれなりに使い勝手がいいな」
「グルルルゥ! ……グルゥ、グルルルゥ」
レイの言葉に即座に同意するセト。
だが、そんなセトはすぐに残念そうに喉を鳴らす。
レイは見て分かる程にスキルが強化されたのに、セトの空間操作は掌一つ分が増えただけだったことを思い出してしまったのだろう。
せっかく空間系のスキルを使うモンスターと遭遇したのに……と、残念に思うセト。
レイはそんなセトの様子から、落ち込んでいることに気が付く。
そして、落ち込んでいる内容についても。
「ほら、セト。そこまで気にするなって、今回の件は別にセトが悪い訳じゃないんだから、今回レベルが上がった地中転移斬だって、レベル一とか二の時は弱かったんだし」
「……グルゥ」
分かったと喉を鳴らすセトを、レイは慰めるように撫でるのだった。
【セト】
『水球 Lv.九』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.七』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.五』『クリスタルブレス Lv.五』『アースアロー Lv.八』『パワーアタック Lv.四』『魔法反射 Lv.三』『アシッドブレス Lv.九』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.六』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.二』new『ビームブレス Lv.四』『植物生成 Lv.三』『石化ブレスLv.三』『ダッシュLv.一』『蛇の尾Lv.二』『超音波Lv.一』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.五』『パワースラッシュ Lv.九』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.七』『ペネトレイト Lv.九』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.九』『飛針 Lv.九』『地中転移斬 Lv.六』new『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.四』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.四』『緑生斬Lv.二』『出血増加Lv.三』『砂礫斬Lv.一』『斬撃加速Lv.二』
空間操作:空間を操作して盾にしたり、それによって敵にダメージを与えることが出来る。レベル一では掌程、レベル二では掌二つ分程の大きさの空間が操作可能。
地中転移斬:デスサイズの刃を地面に触れさせることで、刃を転移させて相手を攻撃出来る。転移出来る距離はレベル一で最大五m、レベル二で最大八m、レベル三で十一m、レベル四で十四m、レベル五で三十m、レベル六で五十m。




