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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4193話

「悪いな、ジャニス。今日の夕食はフランシスの分も頼む」


 厨房で料理の仕上げをしていたジャニスに、レイはそう声を掛ける。

 ジャニスはそんなレイの言葉に、すぐに頷く。


「はい、準備は万端なので、問題ありません」


 フランシスが来ているのを知っている時点で、ジャニスは料理を増やしていたのだろう。

 あるいは最初から多めに料理を作っていたのかもしれないが。

 セトの分の食事もあるので、料理を多めに作るのはいつものことではあった。


「悪いな」


 そう言い、レイはリビングに戻る。

 リビングではソファに座ってフランシスがレイを待っていた。


「それで……前置きはなしに聞くけど、明日はどうするの?」

「どうすると言われても、今日は朝からダンジョンに潜っていたけど、明日からはいつも通りにするつもりだったんだが」


 フランシスはそんなレイの言葉に、呆れたように言う。


「あのね……今日の街中の状況を見れば、とてもではないけど普段通りって訳にはいかないでしょ」

「そうか? 一日経てば、ある程度落ち着くと思うけど」

「……そうね。それは否定しないわ。けど、だからといって今回の一件はちょっと予想以上に多くの人達が興奮してるわ。この様子だと明日になっても落ち着くとはちょっと思えないんだけど」

「それでも、明日も朝からダンジョンに行くよりは、冒険者育成校に行った方がいいと思うんだが」

「いい? 別にレイは冒険者育成校とダンジョンのどちらかに行かなければならないって訳じゃないのよ?」


 フランシスから見て……いや、一般的な冒険者から見て、レイの行動は明らかに異常だった。

 浅い階層を行動している冒険者ならともかく、ある程度の深い階層を探索している冒険者であれば、一日探索したら数日は休みを取る。

 それこそ探索の途中で怪我をした場合は、十日以上休みを取ることも珍しくはない。

 だというのに、レイは毎日のようにダンジョンに潜っているのだから、一般的な冒険者にしてみれば、嘘だろう? としか思えない。

 もっとも、レイにしてみればそれが普通なので自分の行動が異常だとは思っていない。

 そもそも午前中は教官としての仕事をし、ダンジョンに潜るのはあくまでも午後からだ。

 また、ダンジョンを移動する時はセトに乗って移動するので、体力的な消耗も大きくはない。

 そもそもの話、レイの身体はゼパイル一門の技術の粋を込めて作られたのだから、元々の体力も普通とは比べものにならない程にある。

 そして気分転換にいつでもミスティリングから甘いお菓子や果実、もしくはそれなりに食べ応えのある串焼きやサンドイッチといったものを出して食べられる。

 そういう意味では、レイはダンジョンの探索に非常に向いていた。

 ……もっとも、もしこの世界の住人がレイと同じ立場になっていたら、レイと同じように出来たかと言われれば、微妙なところだが。

 この辺はレイの……そう、言ってみれば日本にいた時に読んだり遊んだりした漫画や小説、アニメ、ゲーム……これらに影響されているのは間違いないだろう。

 そういうものでは……特に主人公を自分で動かすゲームでは、それこそ毎日のようにダンジョンに向かう。

 これはあくまでもレイのプレイスタイルなので、人によっては違うのだろうが。

 また、漫画とかでも休みなくダンジョンに向かうといった描写がそれなりに多かった。

 そんな諸々が影響し、また体力的に問題がないということもあってか、レイは毎日のようにダンジョンに通っていた。


「そう言われても、俺にとってはこれが普通だしな」

「……まぁ、異名持ちになるような人なら、私の常識が通じなくてもおかしくはないんでしょうけど」


 若干の呆れ……というよりも、棘を込めてフランシスはそう言う。

 レイとしてはそれに反論したいところだったが、自分のこれまでの行動を思えばフランシスの言葉は決して間違ってはいないと理解出来てしまい、反論出来なかった。

 いや、反論をしようと思えば出来ただろうとは思うが、その場合に反論には説得力がないと、自分でも理解出来てしまう。


「他は他、うちはうちって言葉を知らないか?」


 最終的にレイが捻り出したのは、そんな言葉だった。

 小さい頃から家にいる時、近所――とはいえ田舎なのでかなり離れている家だが――の友人が何か新しい玩具を買って貰った時、レイは両親に自分も欲しいと言えば、決まってそういう言葉が返ってきた。


「一体どこの言葉よ、それ。……言いたいことは分からないでもないけど」


 フランシスはレイの言葉に納得出来るような、出来ないような……そんな微妙な様子でそう言う。


「結局その人がどう動くのかはその人次第ってことだな。他の者にとっては毎日のようにダンジョンに行く俺の行動がおかしいと思えるのかもしれないが、俺にしてみればそれは結局普通でしかない訳だ」

「……言いたいことは分かるわ。けど、本当に今更のことだけど、レイは本当に問題ないの?」

「当然だろう? 俺にとってはそれが普通なんだから。例えば……そうだな、もし俺がダンジョンの中でかなり疲れるとかそういうことがあった場合、それなら俺も次の日は休むくらいのことはすると思う。けど、今のところそういうのはないだろう? つまり、そういうことだ」


 レイはそれなりにダンジョンの中で強力なモンスターと戦っている。

 例えば、十階のリッチなどはその典型だろう。

 ……もっとも、リッチはダンジョンの外から侵入してきたモンスターなので、そういう意味ではダンジョンのモンスターとして数えていいかどうかは微妙なところなのだが。


「まぁ、レイがそう言うのなら構わないけど」


 そう言いながらも、フランシスはレイの様子を確認する。

 もしレイが平気だと言っていても、体調がおかしい場合……例えば疲れが見えたり、怪我をして身体を庇っていたりしているのを見れば、フランシスも何かを言っただろう。

 だが、フランシスがレイの様子を見た限り、特にそれらしいところはなかった。

 その為、レイの行動についてこれ以上何かを言うのは止めたのだろう。


(ポーションとかを使ってるのかもしれないけどね。それでも見た感じだと問題はないようだけど。それに、宝箱で高品質なポーションをかなり入手しているらしいし)


 今日、こうしてフランシスがレイの家にやって来たのは、二十一階についての話を聞こうと思ったからだったが、今日のレイの行動については相応に把握していた。

 特に、宝箱の一件についてはかなり大きく噂されていた。

 当然だろう。

 何しろ二十一階という未知の階層において手に入れた宝箱なのだから。

 それを訓練場で開けるのだから、それを求めて多くの者がやってきてもおかしくはないし、実際にその通りの状態だった。

 そのように多くの者が集まってきただけに、今日の宝箱……二十一階の宝箱から何が出て、それを誰が貰ったのかといった情報は、広く知られている。

 そんな中で巨人の鉄槌に所属するベルギリアが酒とポーションを貰ったというのは、当然のようにフランシスの耳にも入っていた。


「それで、話を戻すけど……いえまぁ、もうギルドから公表されている以上は聞く必要もないんだろうけど。昨日レイが下りた階層は本物の二十一階だったということでいいのよね?」

「そうなるな。今日一日探索をしてみた結果、それは間違いないと思えた」

「……そうなると、明日から久遠の牙や巨人の鉄槌、アイネンの泉も二十一階に下りるのかしら?」

「あー……どうだろうな」


 レイがこのような返事をしたのは、幾つか理由がある。

 例えば、アイネンの泉が十九階に棲息する蜃の討伐を諦めたのか。

 また、巨人の鉄槌もまた十九階で蜃を探していた筈だった。

 その辺の状況を考えると、もしかしたら二十一階に行くのは久遠の牙だけかもしれないと思う。

 また、それを抜きにしても二十一階に行くには遺跡の巨岩を動かす必要があるが、ミスティリングを持っているレイならともかく、他のパーティがレイと同じように遺跡の巨岩を動かして二十一階に行けるかどうかは微妙なところだ。

 力を振り絞ればどうにかなるかもしれないが、二十一階に下りるのに力を振り絞ってしまえば、二十一階で行動するのが厳しくなる。

 そうなると、久遠の牙にとって最善なのはレイが来るのを待って、二十一階に行くことだろう。

 ……もっとも、そうなると午後になるまで二十一階に下りられないということを意味してるのだが。


「久遠の牙とかに何らかの奥の手があって、遺跡の巨岩を動かすことが出来れば二十一階に続く階段を出すことも出来るだろうけど」


 そう言いながらも、恐らくそれは無理だろうなとレイは思う。

 奥の手というのは、あくまでも最後の手段、どうしようもなくなった時に使うからこそ奥の手なのだ。

 二十一階に下りる度に使う奥の手というのは、久遠の牙にしてみれば可能な限り避けたいだろう。

 もっとも、本当にどうしようもないのなら、奥の手を使うという可能性もあるかもしれないが……何しろ昼すぎまで待てば、レイがやって来ると分かっているのだ。


「どうかしらね。ただ……問題なのは、二十階にそういう仕掛けがあって、そして二十一階では……宝箱から鍵が出て来たんでしょう? もしよければ見せて貰える?」

「ああ、これだ」


 別に隠す必要があることでもないので、レイはミスティリングから取り出した鍵……オリーブが宝箱の罠を解除し、鍵を解錠した宝箱に入っていた鍵を取り出し、フランシスに見せる。

 フランシスはその鍵を受け取るものの、レイに若干の呆れの視線を向けていた。


「あのねぇ……この鍵は重要な物なんでしょ? 見せてと言ったからって、そう簡単に渡すのはどうなのよ?」

「フランシスだから大丈夫だろ?」

「っ!?」


 あっさりと自分だから大丈夫と言ったレイに、フランシスは薄らと頬を赤くする。

 これが、例えば少しであっても考えた上でそのような言葉を口にしたのなら、そう考えた上での言葉だろうとフランシスもそこまで深く考えることはなかっただろう。

 だが、今レイは何と言うべきか考えるといったこともなく、普通に……本当にそれが自然であるかのように、フランシスなら大丈夫だと口にした。


「もしフランシスがその鍵を奪おうとしても、すぐに取り返せるから、安心しろ」

「……そう」


 すうっと。

 先程まで薄らと赤く染まっていた頬が、一瞬にして元の色に戻る。

 そして次第にだが、先程までとはまた別の意味で赤く染まっていく。

 だが、レイはそんなフランシスの様子に気が付かず、言葉を続ける。


「地底湖には魚人もいて、それがそれなりに強かったんだよな」

「そうね」

「他にも気配を消している……爬虫類としか呼べないような奴もいたな。まさか俺はともかくセトが気配を察知出来なかったのは驚いた」

「そうね」

「それとカニはまた出てきたな。……何だってあんなにカニが棲息してるのか分からないけど」

「そうね」

「……フランシス?」


 二十一階について話していたレイだったが、ふと先程からフランシスが『そうね』としか言っていないことに気が付く。

 ……あるいはようやくフランシスの様子がおかしいことに気が付いたというのが正確かもしれないが。


「何?」

「いや、何だか……さっきから『そうね』しか言ってないから、何かあったのかと思ってな」

「別にそんなことはないわよ。レイの話は興味深く聞かせて貰ってたわ」


 その割には何だか淡泊な返事じゃないか?

 そうレイが疑問に思って口にしようとしたところで、タイミング悪く……あるいはタイミング良く、厨房からジャニスが料理を持って姿を現す。


「レイさん、フランシスさん、料理が出来ましたので、そろそろ夕食にしましょう」


 そんなジャニスの言葉で、レイとフランシスの間に流れていた微妙に緊張した雰囲気が消える。

 完全に消えた訳ではないが、それでも大分楽になったのは間違いないだろう。


「そうね。じゃあ、食事にしましょうか。今日の夕食にはやっぱり二十一階の食材が使われているの?」

「ああ、さっき話題になったモンスターの肉とかだな。カニもあったが……まぁ、昨日も食べたし。それにかなりの大きさだから、場所を取るしな」


 そう言うレイの言葉にフランシスは残念そうな表情を浮かべる。

 それだけ昨日食べたカニが美味かったのだろう。

 だが実際、カニはかなり巨大だ。

 言い換えれば食べる部位が多いということになるのだが、カニの殻は邪魔なゴミなのも事実。

 ……また、メイドのジャニスにしてみれば、美味いとはいえ二日続けて同じ料理を出すのは避けたいという思いもあるのだろう。

 そんな訳で、レイはフランシスとジャニスと共に夕食を食べるのだった。

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