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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4191話

 サイズ変更を使って小さくなったセトをドラゴンローブの中に隠しながら、レイは家に向かう。

 レイにとって幸いだったのは、レイの家のある場所が街中ではなく冒険者育成校やギルド、ダンジョンからそう離れていない場所だったことだろう。

 もっとも、今は夕方だ。

 ダンジョンの探索や依頼を片付けて報酬を受け取った冒険者達の多くが、街中に向かう時間。

 ギルドにも酒場はあるが、もっと好みの酒場だったり、あるいは娼館だったり、もしくは武器や防具、道具の補充といった具合に、やるべきことがある者は多い。

 今日の仕事が終わったということで浮かれている者も多く、レイを見てもドラゴンローブの効果でレイをレイだと認識出来ない……より正確には普段なら気がつけるのだが、浮かれているので気づけない者も多い。

 ……それは間違いなく幸運だったが、レイにとっての不幸もある。

 レイが二十一階に到達したという発表がギルドから大々的に行われた為、迷宮都市の住人の中でもギルドやダンジョンの前に行って騒ぎたいと思う者がそれなりにいたことは、レイにとって人目が多いという意味で不幸だった。


(これ……やっぱり俺の家に集まっていたりしないか?)


 もしそうだった場合、面倒なことになる。

 お祭り騒ぎということで、普段ならしないようなことをする者も多いだろう。

 それだけに、レイの家の敷地内に勝手に入り……いや、それだけではなく、場合によっては家の中にまで勝手に入ってもおかしくはない。

 そうなると、当然ながら家に残っているメイドのジャニスが応対するだろうが、ジャニスはあくまでもメイドだ。

 非常に優秀な人物ではあったが、それはあくまでもメイドとしてでしかない。

 だからこそ、力で強引にどうこうしようと思う者がいた場合、メイドではどうすることも出来ない。

 世の中には戦闘力を持ち、護衛役も担っている武装メイドという存在もいるらしいが、生憎とジャニスはそのようなメイドではなく、一般的な意味でのメイドでしかない。

 その為、不法侵入者がいた場合はどうしようも出来ない。


(急ぐか)


 万が一を考え、レイは歩く速度を上げる。

 いっそ走った方がいいのでは? と思わないでもなかったのだが、ここで走るようなことをすれば目立つし、ドラゴンローブの中にいるセトにも強い揺れが与えられ、体調に問題が出る可能性があった。

 そうならないように気を付け……それでいながら、出来る限り早く進むレイだったが……


「あれ?」


 遠くに現在自分が住んでいる家が見えたのだが、特に何か騒動になっている様子はない。

 家の前には数人の見物人が集まっているものの、予想していたよりは遙かに少ない。


「グルゥ?」


 レイの言葉が聞こえたのだろう。

 ドラゴンローブの中のセトが、一体どうしたの? とレイにだけ聞こえるように喉を鳴らす。


「いや、てっきり家の前にもっと人が集まっている……最悪、興奮した者達が家の敷地内や、場合によっては家の中にまで入り込まれているのかと思ったんだが、特にそういうことはない。というか、騒動らしい騒動が起きていない。……本当に何があったんだ?」


 もしかしたら、家の敷地内や家の中にまで入ってくるというのは、自分の考えすぎだったのか?

 そう思いながらも、一応慎重に……周囲にいる者達に自分の正体に気が付かれないようにしながら、家に向かう。


「馬鹿だね、もしレイを怒らせるようなことをしたらどうなるか、分からないのか?」

「そういうのを分かってるのなら、最初からああいうことはしないだろうよ」

「だよな。レイは見ているだけなら凄いし、普通に接する分には問題ないんだが、敵に回すとちょっとな」

「ああ、貴族にも普通に攻撃するって話だろ? ……普通じゃねえよな」

「そういうのじゃないと、異名持ちにはなれないのかもしれないが……」

「あ、じゃあ俺は異名持ちにならなくてもいいや」

「いや、お前はそもそもなりたくてもなれねえだろうが。そういうのは、ランクを上げてから言うんだな」


 擦れ違った冒険者達の会話を聞き、家が無事な理由に何となく納得する。

 微妙に嬉しくない理由ではあったが。

 ようは、レイは怒らせると危険だと……つまり、危険物のような扱いをされているのだ。

 その割には、ギルドにレイがいた時は多くの者が接触しようとしていたのだが。


(あるいは、そのくらいならOKだけど、家に行くのはNGとか、そんな認識なのか? ……いや、間違ってはいないけど)


 もしレイの最悪の予想が当たっていた場合、勝手に家に上がってきた者達をレイは敵と認識するだろう。


(とはいえ、そうなるとあそこにいるのは冒険者じゃない一般人な訳で……だとすれば、それこそ冒険者としての俺についてはそこまで詳しくない訳で、祭りのような状態でテンションが上がれば何をしてもおかしくはないと思うけど)


 そんな風に思うレイだったが、視線の先にいる者達は家から少し離れた場所にいるだけで、家の敷地内に入ろうとはしていない。

 何故? と疑問に思ったレイだったが、すぐにその理由が判明した。

 家の前……敷地のすぐ外に、数人の冒険者の姿があったのだ。

 ……というか、レイに見覚えのある顔だった。

 神殿の階層で行動している、オルカイの翼の面々だ。

 レイの記憶が確かなら、パーティリーダーのナルシーナはレイに好意的だったが、それ以外の者達は敵意……とまではいかないが、それでも決してレイを好ましいとは思っていなかった筈だ。

 なのに、一体何故オルカイの翼の面々がレイの家を守るかのように行動しているのか。

 それを疑問に思ったレイだったが、遠くで見ているよりは直接聞いた方が手っ取り早い。

 足を速め、家に向かう。

 するとオルカイの翼の面々も新しく家に向かってきているレイの存在に気が付いたのだろう。

 武器を抜くようなことはしなかったが、睨み付け、威圧する。


「って、ちょっと待って!」


 そんな中、不意にナルシーナが言う。

 他のパーティメンバーが一体どうした? といった視線をナルシーナに向けると、ナルシーナは小声で何かを言う。

 すると他の冒険者達も何かに気が付いたかのように、レイを見て……やがて驚きの、驚愕の表情をその顔に浮かべる。

 そんな面々に、レイの家の前にいた……オルカイの翼の面々がいるにも関わらず、まだ立ち去ることなくこの場にいるという意味では、肝が据わっているのだろう面々も、一体何があったのかといったように家に近付くレイに視線を向ける。

 オルカイの翼の面々は一定以上家に近付くと威圧してくるのだが……


「え? あれ?」


 家に近付くレイを、オルカイの翼の面々が威圧しないことに不思議そうな声を上げる。

 あるいは、その中には贔屓だという思いもあったのかもしれない。

 何しろ、自分達はちょっとレイの家に近付いただけで威圧されるのに、現在家に近付いている人物は何故か威圧されないのだから。

 これでレイがセトを連れていれば、そこからレイだと認識も出来ただろう。

 ……もっとも、その時はレイの家ではなく、レイに直接会って色々と話をしようとしただろうが。

 見物人達の視線を浴びながら、それをスルーしてレイは家に近付く。


「家の護衛についてくれたのは嬉しいが、一体どうしてまた?」

「ギルドからの依頼よ。アニタさんが、レイの家は近くにあるって思いだして。それで丁度ステンドグラスを売りに来た私達に依頼をしてきたのよ。私達も多少はレイに恩返しをしたいから、このくらいはね」


 ナルシーナ率いるオルカイの翼が神殿の階層でかなり稼げるようになったのは、ギルドからステンドグラスを回収出来ないかと持ち掛けられたからだ。

 そしてギルドに最初にステンドグラスを持ち込んだのはレイで、そのお陰でステンドグラスが金に……それもかなり割のいい稼ぎになると明らかになった。

 もっとも、空を飛べるセトや空中を蹴るスレイプニルの靴を持つレイと違い、オルカイの翼の面々は壁を登り、天井を移動してステンドグラスの周辺を斬り裂くなりなんなりして、それでようやくステンドグラスを確保出来るのだが。

 ステンドグラスをギルドに持ち込んで売ると、それだけを聞けば簡単そうに思えるが、実際にやるとなると非常に難易度が高い。

 十八階という、ガンダルシアのダンジョンの中でもかなり深い階層……それもリビングメイルの類が大量に出没する階層だ。

 敵の存在に気を付けながら、天井にあるステンドグラスを確保するのが、どれだけの難易度なのかは、実際にやってみないと理解出来ないだろう。

 ましてや、ステンドグラスは当然ながら地上に持ってきた時に割れてしまえば意味がない。

 完品の状態で持ってくる必要があるのだ。

 もっとも、そういう意味ではナルシーナが持つアイテムボックスの簡易版が大きな役割を持つ。

 中に入れておけば、よほどのことでもない限りステンドグラスが割れるといったことはないのだから。

 そんな訳で、ナルシーナは……そして口や態度には出さないものの、オルカイの翼の面々はレイに恩義を感じている。

 だからこそ、アニタからの緊急の依頼を、ダンジョンから戻ってきたばかりでも引き受けたのだ。


「それにしても、二十一階に到達したって聞いたわよ。少し前までは私達と同じく十八階を探索してたのにね」

「あー……うん。まぁ、色々とあってな。ともあれ、中に入らせて貰うけど、構わないよな?」

「ええ、それはいいけど……セトはどうしたの?」

「さぁ? そのうち戻ってくるんじゃないか?」


 ナルシーナの言葉にそう惚けておく。

 今回の一件については感謝しているものの、だからといってセトの持つスキルについて話そうとはレイは思わなかったのだ。

 ナルシーナもレイが何かを隠しているだろうというのは理解出来たものの、これ以上は聞かない方がいいと判断してそれ以上聞くことはしない。

 ナルシーナが場所を空けると、レイはそこを通って家の敷地内に入る。


「あーっ!」


 見物人の一人がそんなレイを見て叫んでいたが、レイはそんな叫びを無視して家の中に……入る前に、庭に向かう。

 そして、誰も見ていないか気配で確認してから、ドラゴンローブの中からセトを出す。

 すると次の瞬間にはセトは体調三十cmの大きさから、四m程のいつもの大きさに戻る。


「グルルルルゥ」


 サイズ変更を解除したセトは、大きく伸びをする。

 そんなセトの鳴き声を聞いて、家の護衛をしていたナルシーナ率いるオルカイの翼が驚いた気配をレイは感じた。

 通したのはレイだけだったのに、一体何故セトが? とそんな疑問を抱いたのだろう。


「じゃあ、明日までゆっくりしてくれな。……多分大丈夫だとは思うけど、もし夜中に誰かが敷地内に侵入したりしたら、セトが対処をしてくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、任せて! とセトは喉を鳴らす。

 このようなセトになら任せておいても問題はないな。

 そう思いつつ、レイは庭を出る。

 家の中に入ろうとすると、ナルシーナが……いや、他の面々もまた同様にレイに視線を向けていた。

 一体何故セトの鳴き声が聞こえてきたのか? といった物問いげな視線。

 レイはその視線を感じつつも、特に気にした様子もなく家の中に入る。


「お帰りなさい、レイさん」


 するとレイが戻ってきていたことに気が付いていたのか、ジャニスが扉の向こうで頭を下げていた。


「ああ、ただいま。ちょっとうるさくなったみたいだったけど、こっちで問題はなかったか?」

「はい。ナルシーナさん達が、すぐに家の護衛に来てくれましたので」


 ジャニスがナルシーナの名前を出したことに、だよなとレイは納得する。

 護衛をする以上、簡単な自己紹介くらいはしておく必要があるのは当然だろう。

 でなければ、何も知らない相手がいきなり家の敷地の外に立っているという……どこからどう見ても不審人物にしか思えないのだから。

 そうならないようにする為には、前もって自己紹介は必須だった。

 オルカイの翼はガンダルシアにおいてもトップクラスのパーティとして知られており、そういう意味でも誰なのかというのを理解して貰いやすいのは大きい。


「そうか。ならよかった。……俺は正直なところ、二十一階に到達したことでここまで馬鹿騒ぎになるとは思わなかったんだが、この馬鹿騒ぎはどのくらい続きそうか分かるか?」

「そうですね。二十階でかなり行き詰まっていたところで、二十一階に到達したというお話ですから……数日くらいは皆さん騒いでもおかしくはないかと、……ああ、そうでした。レイさん、二十一階の到達、おめでとうございます」


 そう言って頭を下げるジャニス。

 だが、ジャニスは昨日の時点でその件については知っていた筈なのだが……と思いつつも、恐らく公式に認められたからだろうと思い、ジャニスの言葉に頷くのだった。

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