↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4189/4274

4189話

「レイさん!」


 訓練場での宝箱を開ける依頼が終わり、レイはセトと共に武器屋に向かおうとしていた。

 そうして訓練場からギルドの前を通って街中に行こうとしたところで、いきなり声を掛けられる。

 一体誰だ? とは思わない。

 その声はレイにとっても聞き覚えのある声だったのだから。

 振り向いた視線の先にいたのは、予想通りアニタ。

 ぜえぜえと息を切らせながら、レイを見ていた。

 レイがいるのは、ギルドのすぐ側。

 そしてアニタがいたのは、カウンター。

 この短い距離で、一体何故そこまで息が切れているのかと不思議に思う。

 ギルドの受付嬢をやるにも、体力はそれなりに重要だ。

 ……基本的には顔立ちが整っており、その上で優秀な者を雇うのだが、中には冒険者上がりの者もいる。

 実際、アイネンの泉に所属する面々……特にレイと接点の多いオリーブは、受付嬢をやってもしっかりと出来るだろう人材なのは間違いなかった。

 そこまでではなくても、とにかく受付嬢はそれなりに体力が必要である以上、最低限は鍛えている。

 その為、ギルドの中のカウンターからレイのいる場所までやって来るだけで、息を切らすといったことはまずない筈だった。


「アニタ、どうしたんだ?」

「ギルドマスターがお呼びです」

「……ギルドマスターが? 分かった。セト、悪いけど少し待っていてくれ。すぐに……かどうかは分からないが、出来るだけ早く戻ってくるから」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。

 レイはセトをその場に残してギルドに入る。


「うわ」


 ギルドの中に入ったレイは、混雑具合に思わず驚きの声を上げる。

 時間的には既に午後六時前。

 まだ周囲はそれなりに明るい時間ではあったが、そのような時間だけにギルドの中には今日の依頼やダンジョンの探索を終えた多くの冒険者がいた。

 恐らくは早朝と比べればまだ混雑していないのだろうが、それでもレイから見るとかなりの人数がカウンターに並んでいる。

 中には既に酒場で今日の打ち上げを行っている者もいた。


「レイさん、こっちです」

「分かったけど……アニタはいいのか?」


 カウンターの前に並んでいる冒険者の数を考えると、レイはアニタがこうして自分の相手をしていてもいいのかと思う。

 そんなレイの言葉に、アニタは勿論だといった様子で頷く。


「ギルドマスターからの指示ですから」

「……一体何で俺を呼ぶんだ? ギルドマスターもこの時間ならそれなりに忙しいだろうに」


 二十一階に到達した件で何かあるのか?

 そうも思ったレイだったが、その意見はすぐに却下する。

 そもそも二十一階の件についてはアニタを通して知らせていたし、他のギルド職員にもその辺については話している。

 ましてや、未知の階層に到達したからといってギルドマスターに呼ばれるというのは、レイが知ってる限りでは、久遠の牙がそのようなことをされたというのは聞いた覚えがなかった。

 そうなると、レイを呼んだのはもっと別の理由があってのことなのは間違いないが……問題なのは、それが何かレイには分からなかったことだ。


(まぁ、分からなくてもギルドマスターに会えば分かるか)


 深く考えればもしかしたら分かったかもしれないが、もうすぐギルドマスターに会って、それで話を聞けば分かることなので、レイは取りあえず考えるのを止める。

 これでギルドマスターがレイにとって敵対している相手なら、レイもそこまで気を抜いたことはしないのだが、レイにとってギルドマスターは味方だ。

 ましてや、レイはギルドに大量の素材……それも深い階層のモンスターの素材であったり、未知の階層である二十一階のモンスターの素材であったりを売っている。

 また、レイはフランシスに請われて冒険者育成校の教官をやっており、ギルドマスターはそのフランシスに頭が上がらない。

 そのような力関係である以上、ギルドマスターがレイに敵対するといったことはまず考えられなかった。

 勿論それは、レイがそう思っているだけで何らかの理由によって、ギルドマスターの本意ではなくても、レイと敵対することになる可能性というのは決してゼロではなかったが。


「おい、あれ……」

「ああ、やっぱりレイだよな?」

「二十一階に……」

「でも、何でアニタちゃんと?」

「さぁ? あ、けどほら。カウンターの向こうに入っていった。となると、ギルド職員のお偉いさんか、もしくはギルドマスターに用があるんじゃないか?」


 カウンターの前に並んでいる冒険者達が、暇潰しにと近くにいる冒険者達と話してる。

 レイをレイと認識出来ているのは、先程アニタがギルドを出る時にレイの名前を呼んだからだろう。

 ……もっとも、中には歩き方からレイをレイだと認識出来ていた者もいたが。


(当然だけど、随分と注目を浴びてるな)


 そしてレイは自分に向けられる視線を感じつつも、アニタと共にカウンターの中を進み、そして奥にある階段を上がり……ギルドマスターの執務室に到着する。


「ギルドマスター、レイさんをお連れしました」

『おう、中に入ってくれ』


 ノックをしてアニタがそう言うと、中からレイも聞き覚えがあるギルドマスターの声が聞こえてくる。

 アニタはすぐに扉を開き、レイに中に入るように促す。

 アニタは入らないのか? と思ったレイだったが、一階の混雑具合を見れば、アニタがいつまでも二階にいることは出来ないのだろうということは容易に想像出来た。

 その為、レイはアニタに向かって特に何を言うでもなく、ギルドマスターの執務室に入る。


「悪いな、急に」

「まぁ、そろそろ帰ろうと思っていた頃だから、ちょっと驚いたけど……それでどんな用件だ?」


 そうレイが言うと、ギルドマスターに来客用のソファに座るように促される。

 レイが素直にソファに座ると、ギルドマスターも向かい合う場所に座る。


「それで、俺に用件ってのは一体何なんだ? 二十一階については分かってることはもうアニタや他のギルド幹部に話したと思うが」

「ああ、それについてはもう聞いているし、提出された書類も読ませて貰ったよ」


 ギルドマスターの仕事は多い。

 そういう意味では、他にも色々と仕事がある中で、その仕事を放っておいて二十一階について書かれた書類を読んだのだから、それだけ二十一階についての一件が重要なのは間違いなかった。

 その上でこうしてレイが呼ばれたということは……


「書類の内容に何か疑問でもあったのか? もっとも、俺は知ってることを全て話したつもりだ。これ以上のことを聞かれても……」

「いや、勘違いしないでくれ。今回レイを呼んだのは、二十一階について書かれた書類の件で聞きたいとか、そういうことじゃない。二十一階に関係があるかどうかと言われれば、関係はあるが」

「えっと?」


 結局のところ、一体何故自分を呼んだのかというのが分からない。

 何か緊急の要件でもなければ、アニタにわざわざ俺を呼ばせるようなことはしなかっただろう。

 何より、明日にもレイはダンジョンに潜る。

 明日は午前中には冒険者育成校で教官の仕事をやって、午後から潜ることになるだろう。

 その時にレイを呼べば、夕方の今のように忙しい中でわざわざ呼ぶようなことをしなくても、ゆっくりとした時間の中で話せた筈だ。

 そのようなことをしなかったということは、つまり何か緊急の要件があってのことなのは間違いないだろう。

 だが、その最有力候補であった二十一階についての書類で少し聞きたいことがあるといったようなものでないとしたら、一体何の為にレイを呼んだのか。

 そう疑問に思ったレイに、ギルドマスターは口を開く。


「宝箱の件だ」

「宝箱の? 何かあったか?」

「ああ。今日、宝箱から対のオーブが出ただろう? 出来れば、それをギルドに買い取らせて欲しいと思ってな」

「あー……なるほど」


 そこまで言われ、レイはようやく納得する。

 ギルドは国に所属していない、独立した組織だ。

 その為、何かあった時は最悪国を頼れなくなってしまう可能性もある。

 ……もっとも、国にとってギルドは重要な組織なので、普通に考えれば国がギルドにちょっかいを掛けるということは、余程のことでもない限りないのだが。

 ただ問題なのは、その余程のことというのが普通に起きる可能性はあるということだろう。

 そのような時、ギルド同士で連絡を取り合うのに使われるのが、対のオーブだ。

 他にもガンダルシアのギルドが最近使っているように、未知の素材について他のギルドで情報を持っていないか聞いたりといったことも出来る。

 そんな訳で、国という後ろ盾のないギルドにとって、情報ネットワークとでも呼ぶべきものは非常に大きな意味を持つ。

 持つのだが、それはあくまでも対のオーブがあってこその情報ネットワークだ。

 だが、当然ながら対のオーブというのはそこまで大量にある筈もなく、大きなギルドには対のオーブがあるが、住人の少ない村や街のギルドには、対のオーブが置かれていないギルドも多い。

 いや、規模の大小を別として、純粋にギルドの数だけで見た場合、対のオーブが置かれていないギルドの方が多いだろう。

 そもそも、対のオーブというのはマジックアイテムとしても相応に貴重な物だ。

 あるいは腕の立つ錬金術師なら作れるのかもしれないが、そうなると当然ながら結構な……いや、かなりの金額となる。

 そんな訳で、ギルドが対のオーブを入手出来る一番の手段は、レイが今回見つけたようにダンジョンから見つかるものだった。

 そのような中で、レイが持ってきた宝箱の中から対のオーブが出たという知らせがあったのだ。

 つまり……


「悪いが、今日出た対のオーブは俺の方で使う予定があるから、売らないぞ」


 ギルドマスターが口を開くよりも前に、レイはきっぱりとそう告げる。

 実際、この対のオーブはギルムに戻ったら領主のダスカーに渡し、臨時で連絡を取れるようにしておきたいとレイは考えていたのだ。

 それこそ、他にも出来ればトレントの森にある妖精郷にも対のオーブは置いておきたいと思っている程だ。

 つまり、もう一組の対のオーブが出ても、レイとしてはそれを売るつもりはない。

 ……いや、それ以降に対のオーブが出たとしても、対のオーブは離れた相手ともすぐに連絡が出来る非常に便利なマジックアイテムだ。

 そうである以上、レイとしては他に幾つか手に入っても、ギルドに売るようなことはせず、自分で持っておきたいと思うのは当然だった。


「……そうか、分かった。残念だが仕方ないな」

「あれ?」


 レイの言葉を聞いたギルドマスターは、あっさりとそう言ってくる。

 レイはそのことに驚く。

 まさか、こうもあっさりと諦めるとは思ってもいなかったのだ。

 ギルドとの関係を考えると、強制的に買い取るといったことをするとまでは思わなかったが、もう少ししつこく売って欲しいと言ってくるのだろうと思っていた。


「どうした?」


 レイの口から疑問の声が出たのが気になったのか、ギルドマスターがそう尋ねる。

 レイはそんなギルドマスターに対し、素直に疑問を口にする。


「いや、まさかこうもあっさりと諦めるとは思っていなかったしな。それこそどんな手段を使っても買い取る……とまではいかないが、それでももう少し粘るのかと思ってたから」

「現在のギルドとレイの関係は非常に良好だ。それこそ、レイが売ってくれる素材だけではなく、神殿の階層のステンドグラスであったり、夜の砂漠の階層の蜃の貝殻の中に入っていた真珠であったりといった具合にな」


 つまり、現状でもかなりギルドに利益があるのに、下手にレイと敵対することによってその利益を失うのはごめんだと、そう言いたいらしい。


「……まぁ、俺にとってはそっちの方がいいから構わないけどな」


 レイにしてみれば、現状のままでいいと考えているギルドマスターの判断は好ましいものだ。

 感謝こそすれ、不満はない。


「ただ、そうだな。無理にレイから対のオーブを買い取ろうとは思わない。思わないが、もしレイが売ってもいいと思ったらギルドに売ってくれ。相応の値段で買い取るからよ」

「分かった」


 ギルドマスターの言葉にそう返すレイだったが、実際にギルドに売るかどうかは微妙なところだ。

 そもそもの話、ギルドマスターも絶対に買い取りたいとは思っておらず、あくまでもレイが売ってもいいと思ったのならと考えている。

 そういう意味では、言葉だけではなく本気でレイと上手くやっていきたいと思っているのは明らかだった。

 ……もっとも、レイがギルドにもたらす利益の他にも、レイを呼んだのがフランシスで、そのフランシスは領主とも繋がりがあるというのも、この場合は大きいのかもしれないが。

 ともあれ、無事に話は纏まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。