↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4187/4270

4187話

「いやぁ、今回の依頼を受けてよかったよ。ありがとな、レイ。またこの手の依頼があったら、次からは出来るだけ受けさせて貰うよ」


 ご機嫌な様子でベルギリアがレイに言う。

 その手には宝箱から出たポーションが三本と、同じく宝箱から出た酒が四本握られていた。

 ベルギシアにしてみれば、ダンジョンを攻略する上でポーションは非常に大きな意味を持つし、酒は個人的な楽しみ用だ。

 そういう意味では、本人が口にしたように今回のベルギリアが受けた依頼は大きなプラスだったのは間違いない。


「喜んで貰えて何よりだよ。次からもよろしく頼む」


 レイとしても、ベルギリアにこのように言われたのならそれを拒否するつもりはない。

 今まではオリーブがメインとなって宝箱を開けてきてくれたのだが、だからといってオリーブだけに頼る必要はない。

 別にオリーブと専属の契約を結んでいる訳ではないのだから。

 ……もっとも、ベルギリアの言葉が聞こえたオリーブは、不満そうにしていたが。

 元々、オリーブの所属するアイネンの泉とベルギリアの所属する巨人の鉄槌は、久遠の牙に続く地位No.2の座を争っているパーティだ。

 現在はまだどちらが上かというのははっきりと決まっていないが、それだけにお互いがお互いの上に立とうと張り切っている。

 そういう意味では、ベルギリアが今回二個の宝箱を連続で開けたというのは、見物人達が巨人の鉄槌を評価するという意味では大きかっただろう。


「レイ、次は私でしょ。早速やるわよ」

「おお、やる気満々だな。じゃあ、オリーブが無事に宝箱を開けられるか、楽しみに見学させてもらうとしよう」


 オリーブの言葉に真っ先に反応したのは、ベルギリアだった。

 ただ、こっちはパーティの地位がどうとかそういうことを考えている様子もなく、本心からオリーブがどうやって宝箱を開けるのか、楽しみにしているように思えた。

 それは表向きの話であって、実際にどのように思っているのかはレイにも分からなかったが。

 オリーブはそんなベルギリアに向け、自分は絶対に負けないといった視線を向ける。


「大人しく見てなさい。私が挑戦するのは、レイが見つけた中で最も難易度が高いと思われる宝箱なんだから。レイ、お願い」


 そう言われたレイは、少し……本当に少しだけ心配に思う。

 いつもならオリーブに宝箱の罠を解除して貰っているのだが、そのいつもと比べて今日のオリーブはやる気が漲っている……いや、漲りすぎているように思えるのだ。

 それが空回りして、宝箱の罠の解除に失敗してしまうのではないかと、そのように思えてしまう。


「レイ?」

「いや、本当に大丈夫か? 何だかやる気が空回りしてるように思えてな。……一応言っておくが、オリーブがやるのはベルギリアに勝つことじゃなくて、あくまでも俺が持ってきた宝箱を開けることだぞ?」

「それはっ!」


 レイの言葉に反論しようとしたオリーブだったが、すぐに自分の状況に気が付いたのだろう。

 数秒の沈黙の後、不意に両手で自分の頬を叩く。

 パァンッ、という甲高い音が周囲に響き渡る。

 それを見ていた見物人の何人かが、きゃあっと悲鳴を上げたり、ざわめいたりしていた。

 オリーブの美貌は、多くの者が美人と認めるところだ。

 そんなオリーブが自分でとはいえ、頬を叩いたのだから、悲鳴やざわめきが上がるのも当然だった。

 ……とはいえ、オリーブはそんな周囲の悲鳴やざわめきを全く気にした様子もない。

 オリーブは自分の美貌に自信はあるが、それ以上に自分が冒険者であるということに誇りを持っている。

 それこそどちらを重視するのかと言われれば、少し悩んだ末に冒険者と言うように。


「……ごめんなさい。ちょっと気が逸っていたみたいね。もう落ち着いたから、問題ないわ。改めて、宝箱を出してくれる?」


 その言葉通り、先程と比べても明らかに落ち着いた様子を見せて言うオリーブに、レイもこれなら大丈夫だと思ったのだろう。

 しっかりと頷き、ミスティリングから宝箱を取り出す。


「オリーブがさっき自分でも言っていたが、この宝箱は恐らく今日ここで開けたどの宝箱よりも開けるのが難しい。……だからこそ、今まで何度も俺の依頼を受けてくれたオリーブがこの宝箱に挑むのは俺にとっても頼りになると思う。そんな訳で、頼んだぞ」


 ドラッシュやベルギリアが罠を解除したり鍵を解錠する技能について高いものを持っているのは間違いないだろう。

 レイもそれは理解出来る。

 理解出来るが、オリーブは今まで何度もレイの依頼を受けて、宝箱を開けてくれたという実績があるのだ。

 その実績を考えれば、ドラッシュ、ベルギリア、オリーブの三人の中で、誰を一番信頼出来るのかと言わた時、レイは真っ先にオリーブを選ぶくらいには信頼している。


「ええ、任せてちょうだい」


 レイの言葉に真剣に頷くオリーブ。

 レイはそんなオリーブをその場に残すと、セトやドラッシュ、そして先に向かったベルギリアが待っている場所まで移動する。


「レイ、本当にオリーブで大丈夫なのか? 俺が言うのもなんだが、俺が開けた宝箱の罠の解除もかなり大変だったんだぞ?」


 近くまでやってきたレイに、ドラッシュがそう声を掛ける。

 ドラッシュが開けた宝箱は、地底湖の中州という普段は行きにくい場所にあった宝箱。

 当然ながらそんな場所にあった宝箱だけに、ドラッシュが言うように罠の解除はかなりの難易度だったのだろう。

 そしてオリーブがこれから開けようとしている宝箱も、ピラミッド状に通路が重なっているうちで、一番高い通路にあった宝箱だ。

 中州という特殊な場所にあった宝箱と同様……あるいは、場合によっては更に罠の解除の難易度が高い可能性があった。


「分かってる。けど、俺は今までオリーブに何度も宝箱を開けて貰ったしな。……それに、三人で話し合って、それでそれぞれ自分の開ける宝箱を決めたんだろう? なら、オリーブも全てを承知の上で、あの宝箱を選んだ筈だ」


 誰がどの宝箱を開けるかといったことを決める時、レイは特に隠すこともなく、どの宝箱がどのような場所にあったのかということも説明している。

 それだけに、オリーブがあの宝箱を選んだのは全てを知ってのことだ。

 ドラッシュやベルギリアに、自分達では難しいからといって押し付けられた訳ではない。

 寧ろ、オリーブが真っ先にあの宝箱を選んだのだ。

 レイもそれを見ていたからこそ、オリーブを止めるといったようなことをするつもりはなかった。


「そうか。レイがそう言うのなら、俺からは何も言わない。……レイからそこまで信じられているオリーブを羨ましいとは思うけどな」


 ドラッシュにしてみれば、レイとの繋がりというのはあればあっただけいい。

 対のオーブの件で大きな貸しを作りはしたが、それでも貸しは貸しであって、信用ではない。

 その二つは、似ているようでいて内容は大きく異なる。


「静かにしてくれるかしら?」


 レイとドラッシュに対し、オリーブがそう言う。

 薄らとその頬が赤くなっているのは、レイが自分をどのように思っているのか、どれだけ信用されているのかというのを、ドラッシュとの会話という形で聞かされてしまったからだろう。

 レイはドラッシュと共に黙り込む。

 そして手慰みに、隣にいるセトの身体を撫でながら、ふと思う。


(そういえば、ベルギリアが静かだな)


 レイがドラッシュと会話をしている間、ベルギリアが口を挟むことはなかった。

 ベルギリアの性格から考えて、レイに向かって何かを言ってきてもおかしくはないと思っていたのだが。

 それを不思議に感じてベルギリアを見たレイは、少し驚く。

 真剣な……本当に真剣な表情で、ベルギリアはオリーブを見ていたのだ。

 オリーブの美貌に目を奪われていたのではなく、罠の解除についての技術を一瞬でも見逃さないようにという真剣な表情。

 ベルギリアとの付き合いは今回の件が初めてだが、それでも多少なりともベルギリアの性格を知っていただけに、今のベルギリアの様子はかなり意外だった。


(いや、でも考えてみれば巨人の鉄槌もアイネンの泉とNo.2を争っているパーティだ。そのパーティメンバーだと考えれば、ベルギリアの今の様子は、寧ろ当然といったところなのかもしれないな)


 レイは自分がベルギリアを見誤っていたかもしれないと思いながら、オリーブに視線を向ける。

 オリーブもまた、今はまだ宝箱をしっかりと観察をしているところだった。

 ベルギリアは観察する時間はかなり短かったものの、オリーブは寧ろドラッシュと同じようにそれなりに時間を掛けて宝箱を観察していた。

 普段よりも慎重なのは、やはりこれが二十一階という……オリーブにとっても行ったことのない階層の宝箱だからだろう。

 あるいは、ピラミッド状になった通路の一番上にあった宝箱だけに、中に何か重要な、もしくは貴重な何かが入っているかもしれないからこそ慎重に調べているのかもしれなかったが。

 そんな中で、やがてオリーブは観察を止めて宝箱に触れ始める。


(ベルギリア以上、ドラッシュ未満といったところか)


 それは、宝箱の観察に使っていた時間。

 これが普段からそうなのか、今回の宝箱が特別だからなのかは、レイには分からない。

 ただ、いつもオリーブが宝箱の罠の解除をする時間と比べると、少し長いか? といった思いがそこにはあったが。

 そんな風にレイが思っていると、オリーブは素早く宝箱に触れていく。

 その手つきは慎重でありながらも、一種の慣れがあり、見ている者もどこか安心してオリーブを眺めることが出来ていた。

 レイ達のやり取りを聞いていた見物人達も、オリーブの宝箱が一番難易度が高いというのは理解しているのだろう。

 それが無事に開けられるかどうか、静かに見守っている。

 ……中には、何を思ったのかいきなり大声を出そうとした者もいたが、そのような者は即座に周囲にいる者達の手によって鎮圧されていた。

 訓練場が、不思議な程に静寂に包まれる。

 ギルドの方からか、あるいは他の場所からか、何かの声が微かに聞こえてくる。

 太陽も既に夕日に変わっており、それに気が付いたレイはどことなくノスタルジックな気分になり……


「成功したわ!」


 そんなレイの気分を破壊するかのように、オリーブの声が周囲に響く。

 会心の笑みといった様子の表情は、見物していた者の多くを引き込むだけの魅力があった。

 オリーブ本人は、そのように見られていると気が付いてはいなかったが。

 あるいは気が付いていても、単純にそれをスルーしているだけなのか。

 ともあれ、オリーブが無事に宝箱の罠の解除に成功したのは間違いなかった。

 嬉しそうな笑みを浮かべたオリーブだったが、再び宝箱に向き直る。

 罠の解除は成功したが、まだ鍵の解錠が行われていない。

 その為、今は少しでも早く鍵の解錠を行い、実際に宝箱を開けたいと思っての行動だろう。


「罠の解除に成功したか」


 ドラッシュが、感心した様子で呟く。


「そうだな。一体どういう罠だったのか、ちょっと気になるけど」


 レイが気になったのは、モンスターを召喚する罠があったのではないかということだ。

 他の罠……例えば毒を周囲に噴出するとか、強酸を周囲に撒き散らすとか、周囲を燃やしたり、氷や風の刃を放ったりといったような罠であれば、解除されるのはレイにとって非常に嬉しい。

 しかし、そんな数々の罠の中で唯一違うのが、モンスターを召喚する罠だ。

 召喚という形である以上、レイにとって未知のモンスターが出てくる可能性は十分にある。

 そうなれば、その魔石は当然のように魔獣術に使える訳で……モンスターを召喚する罠に関しては、寧ろ発動して欲しいとすら思う。


(いっそ、今度からモンスターを召喚する罠の場合は意図的に発動させるようにギルドに注文するか? もっとも、罠がそういう罠だと、調べる前に分からないとどうしようもないけど)


 普通なら意図的に罠を発動させるというのは、ギルドにとって許容するのは難しいだろう。

 だが、これがレイからの……ギルドに対する貸しが多くあり、何よりその実力を知られているレイなら、もしかしたら受け入れられる可能性もあった。


(アニタには苦労を掛けるだろうけど……まぁ、その分ギルドにも利益をもたらしてるんだし、多少の苦労くらいは構わないよな)


 そうレイが思えるのは、実際にこれまで多数の素材をギルドに持ち込んでいるからだ。

 ましてや、昨日と今日は二十一階という未知の階層の素材も持ち込んでいるのだから、ギルドにとってはそれは大きな利益だろう。

 その利益と交換する形で、レイが罠の件で話を持ち掛ければ……難しいことではあるかもしれないが、それでも十分出来る可能性はあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。