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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4178話

 ジャッシュはレイに向かって頷いてから口を開く。


「そうですね。私もレイさんが魔石を集める趣味を持っているというのは聞いています。ですから、魔石は無理に売って欲しいとは言いません。勿論あれば高く買い取ろうとは思いますが」


 ジャッシュがあっさりと自分の言い分を認めた……それどころか、大量に入手して余った魔石は高く買い取るとまで提案してくれたことに、レイは少しだけ驚く。

 今までのパターンからすると、多少無理をしてでも魔石も売って欲しいと言われるかと思っていたからだ。

 だが、ジャッシュの口から出た言葉は、レイの予想とは違った。

 勿論、レイとしてはそれはありがたいことではあったが。


「分かった。そっちがそれでいいのなら、こっちも構わない」


 レイがジャッシュにそう言うと、話の成り行きを見守っていたアニタは安堵する。

 ここに来るまでの間に、レイがどのような性格の相手なのかというのは、前もって知らせておいた。

 その為、レイに無理を言ってそれを強要し、結果としてギルドとレイの関係が悪くなるようなことはないと思っていたが、それでもやはり思うところはあったのだ。


「では、話は決まりですね」


 アニタの言葉にレイは頷き、ジャッシュに視線を向ける。


「それで、今ある分の素材はどうすればいい? ここで出せばいいのか? それとも一階か……もしくは倉庫か」


 このギルドにも、当然ながら素材を保管しておく為の倉庫はある。

 勿論、ギルムの倉庫に比べれば数も規模も劣るが、それでも迷宮都市にあるギルドの倉庫なので、普通のギルドの倉庫と比べれば、明らかに上だ。


「では、レイさんが面倒でなければ倉庫の方でお願いします」

「分かった。じゃあ、行くか。……ああ、それと、宝箱の依頼の件を頼む」


 立ち上がったレイがアニタに向かってそう言うと、言われたアニタの方はそれがあったかといった表情を浮かべる。

 実際、この宝箱の依頼の件はギルドにとってもそれなりに大きい。

 依頼を行う際の料金がギルドにとってそれなりの利益になっているし、それ以外にも宝箱を開けるという行為によって冒険者の技術を鍛えることが出来るのだから。

 ……ただし、罠の解除に失敗した時、その冒険者が大きなダメージを受けてしまうといった可能性も否定は出来ないのだが。

 一応レイやセトがいるので、何らかの致命的な被害が起きたりといった心配はしていないのだが、それでも絶対に安全だとは限らないのは間違いない。


「宝箱の件ですが、二十階までは一応まだ到達した人もいましたが、二十一階となると……まだ、レイさんしかそこには行ってないので、また報酬を引き上げる必要が出て来ますが、構いませんか? 具体的には……」

「ああ、構わない」


 アニタが実際に金額について口にするよりも前に、レイはそれで構わないと言う。


「……相変わらず、レイさんの判断は早いですね」

「金については、それこそ稼ごうと思えばいつでも稼げるしな。今日も素材を売るから、相応の稼ぎにはなるだろうし」

「それでも、一応は報酬の値段を聞いてから決めた方がいいと思うんですけど」

「アニタのことは信じてるからな」

「……え?」


 レイの口から出た予想外の言葉に、アニタは一瞬動きが止まる。

 だが、レイにしてみれば自分の思っていることをただ口にしただけでしかない。

 これまでの付き合いから、レイはそれなりの……結構な信頼をアニタに抱いている。

 そんなアニタが自分を嵌めるようなことをするとは思えなかったし、もし本当にそのようなことをされたら、その時はその時で自分の人を見る目がなかっただけだと思えばいいというのが、レイの素直な気持ちだった。


「えっと、その……ありがとうございます」


 アニタは照れた様子でレイに向かってそう言う。

 アニタにしてみれば、レイとはそれなりに友好的な関係を築けていたとは思っていた。

 だが、それはあくまでもそれなりにの話であって、ここまで信頼されているとは思っていなかったのだ。

 だからこそ、少し照れた様子でレイに向かってそう感謝の言葉を口にする。

 レイはそんなアニタの様子に、何故自分が感謝の言葉を言われたのかが分からない。

 それでも何らかの理由でアニタが感謝をしてくれたのなら、レイとしてもそういうものかと頷くしかなかったが。


「気にするな。……それでだが、今日の宝箱は四個だ」

「……多いですね」


 数秒前の、レイから信頼されているといったことに対する喜びが一瞬にして消え、四個の宝箱というレイの言葉を聞き、驚きと共にそう言う。


「二十一階の探索を本格的に行ったのは今日だしな。ただ、その中の一個はかなり強力な……いや、凶悪な罠が仕掛けられている」

「どのような罠でしょう?」

「罠を解除しようとした訳でもなく、ただ宝箱に触っただけで宝箱の表面から刃が生える」

「それは、また……レイさんが凶悪と称するのも分かりますね」


 これが罠の解除をしようとしているところで何らかの罠が発動するのなら、アニタもまた納得出来る。

 だが、罠を解除しようとした訳ではなく、ただ宝箱に触れただけで刃が生えるというのは、少し凶悪すぎるようにアニタには思えた。


「だろう? まぁ、だからこそ中身にはそれなりに期待してるんだが」


 ここまで凶悪な罠が仕掛けられているとなると、その中身に期待するなという方が無理だった。

 もっとも、レイとしては罠のある宝箱の隣に置かれていた、もう一つの宝箱についても気になってはいたが。

 そんな凶悪な罠が仕掛けられた宝箱の隣に、これ見よがしに置かれていた宝箱だ。

 そのような宝箱の中身を気にするなという方が無理だろう。


(あるいは、どっちかが当たりであっても、もう片方は外れなのかもしれないな。……外れは外れで、何が入ってるのか気になるけど)


 二十一階の宝箱である以上、外れの宝箱でも中身はそれなりに期待出来るような気がするレイだったが、それでもあまりに期待しすぎないようにした方がいいだろうとも思っておく。

 期待しすぎれば、それが外れた時に大きなショックを受けるのだろうから。


「ともあれ、二十一階の宝箱が四つ。そのうちの一つには触れただけで刃が出てくる凶悪な罠、と。……分かりました。ただ、こうなるとそれこそオリーブさんを含めて二十階に到達出来るような人くらいしか、宝箱の解除は出来ないように思いますが」

「だろうな。ただ、オリーブだけに頼るのはどうかと思わないでもないし」


 レイにしてみれば、オリーブ以外にも二十階や二十一階といった深い階層の宝箱を開けられる者が出て来て欲しいとは思う。

 これは別にオリーブを信用していないという訳ではない。

 信用という意味では、オリーブは十分それに値する人物なのは間違いなかった。

 ただ、それでも……オリーブだけに頼るのは、後々のことを考えると不味いだろうと思えるのだ。

 レイが何人か知っている、久遠の牙のメンバー。

 あるいはまだレイが接触はしていないが、二十階に到達している他のパーティ。

 もしくは、まだ二十階には到達していないものの、そちら方面に才能を持つ者を見つけ出すという意味でも、宝箱の依頼を受ける人物は多ければ多い程にいい。

 ……もっとも、目立ちたがりだったり、自分の実力を過信している者達は避けて欲しいとは思うが。


「……大変そうですが、受付嬢としてしっかりとそのような仕事をする必要があるだろうとは思います」

「頼む」


 レイが面接をして、きちんと実力のある者達を選ぶといった方法もあるのだが、そうなるとかなり時間が必要となるだろう。

 また、単純に受付嬢の方がレイよりも多く他の冒険者達の情報を持っているので、そういう意味でもやはりレイとしては受付嬢に任せたいと思う。


「はい。ただ、この前の一件もありますので、依頼を受けた人が持っている書類についてはしっかりと確認して下さいね」


 この前の一件と言われたレイは、狸の獣人の男の件だろうと納得する。

 今のところ、まだ狸の獣人の男の件については解決していない。


(裏の組織が探してるらしいけど……さて、どうなるだろうな。裏の組織にしてみれば、ここで自分達が狸の獣人の男を見つけることが出来なければ、役立たずと判断される。……場合によっては、俺に攻撃されるかもしれないと思ってもおかしくはない)


 裏の組織にしてみれば、レイに……深紅の異名を持つランクA冒険者のレイに襲撃されるというのは、絶対に避けたいことだ。

 もしそうなれば、それこそ組織が潰されてもおかしくはなかったのだから。


「そうだな。以前のようなことがないよう、注意する必要があるしな」

「ちなみにですが、一人で四つの宝箱を開けるのは大変でしょうから、数人……出来れば宝箱の数と同じ四人を雇いたいと思うのですが、どうでしょう?」

「その辺の判断は、アニタに任せるよ」

「ありがとうございます。他の受付嬢にもこの話をして、腕の立つ希望者を集めますね」


 そうして話が終わったところで、ジャッシュが口を開く。


「どうやらそちらの話は終わったようですし、倉庫に行きましょうか」

「分かった。……ちなみにグレイナーは……ん? いなくなってるな」

「グレイナーさんなら、ミスリル鉱石の鑑定が終わってから、さっさと部屋を出ていきましたよ。それなりにお偉いさんですから、仕事があるかと。……まぁ、今日は更にいつもより仕事が多いのは間違いないでしょうけど」


 アニタが何を言いたいのか、レイにも理解出来た。

 レイがこうして二階で話をしている間にも、既にレイが二十一階に到達したという件についてはギルドが公表している筈だ。

 そういう意味では、レイはギルドの二階に避難していると見ることも出来るのだろう。

 だが、レイはそんなアニタの言葉を理解しているのか、いないのか。

 特に気にした様子もなく、そうかと返し……その視線はジャッシュに向けられる。

 アニタから聞いた話によれば、ジャッシュもそれなりの地位にいる人物の筈だ。

 自分でそう言っていたし、アニタもそれを否定していないことから明らかだった。

 だというのに、グレイナーと違ってジャッシュはこの部屋を出ていく様子はない。

 それどころか、レイの持つ二十一階のモンスターの素材に強い興味を抱いており、素材を出すまではレイから離れる気は全くないらしい。


「何か?」

「……いや、グレイナーは仕事に戻ったのに、ジャッシュは戻らなくてもいいのかと思ってな」

「ええ、私の仕事はモンスターの素材についてですから。特にレイさんの持っている素材は、二十一階という、今まで誰も行ったことがない階層に棲息するモンスターの素材です。場合によっては、どこのギルドにも情報がないモンスターの可能性もありますしね」


 ジャッシュの口調からは、ギルドの為にといったような言葉が漏れるものの、レイを見る視線の中にあるのは強い好奇心だ。

 その好奇心を思えば、ジャッシュの言葉が表向きのものでしかないだろうというのは容易に予想出来た。

 とはいえ、だからといってレイはそれを責めるつもりはない。

 ジャッシュがそのような好奇心旺盛な性格だとしても、それでレイに何らかの不始末がある訳ではないのだから。

 あくまでもそういうものだと認識し、対応を間違えないようにすればいい。

 例えば、素材を勿体ぶって渡さないといったように。


「なら、倉庫に行くか。……とはいえ、このままギルドの一階に下りると、間違いなく囲まれそうなんだよな」


 何だかんだと、二階で話をしていた時間はそれなりに長い。

 懐中時計をミスティリングから出すまでもなく、既に夕方になっているのは、外を見なくても明らかだ。

 つまり、ダンジョンの探索を終えた者達がギルドにやって来て、討伐証明部位や素材、魔石の換金であったり、あるいは達成した依頼の報酬を貰いに来たり……ギルドに併設されている酒場で打ち上げをやる為に多くの者が集まっていてもおかしくはなかった。

 ましてや、今日一番の話題は恐らく……いや、間違いなくギルドが公表した、レイが二十一階に到達したというものだろう。

 そんな中でレイがギルドに姿を現せば、どうなるか。

 間違いなく騒動になる。


(あ、でもセトがいないし、ドラゴンローブの隠蔽の効果で……いや、無理か)


 ドラゴンローブの隠蔽の効果によって、ドラゴンローブの外見はどこにでもあるようなローブに見えるようになっている。

 そんなローブを着ているレイだけに、その実力を見抜ける者でもなければ大丈夫か。

 そう思ったレイだったが、現在二階にいるのは自分達だけで、レイが二階に上がったというのは、レイがギルドに来た時にいた者達は知っている。

 そうなると、やはり自分の正体を隠すのは難しいだろうなと、レイは思うのだった。

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