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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4173話

 レイが見て、思わずマジかと口にしてしまったのは、目の前にある光景を見てのことだった。

 そこでは先程のY字路どころではなく、二十……いや、三十、あるいは四十程に通路が分かれていた。

 当然ながらそのように通路が分かれているとなると、今までのような細い道の先にある訳ではない。

 大きなドーム状の空間があり、そこに……その向こう側に、幾つもの通路がある形だった。

 ここまで一本道だっただけに、レイが驚きの声を上げるのも当然だろう。


「グルゥ……」


 レイの横では、セトもまた予想外の光景に喉を鳴らしていた。

 そんなセトの鳴き声で我に返ったレイは、困った様子でセトに声を掛ける。


「なぁ、セト。これ……どこにどう行けばいいと思う?」

「グルルルゥ」


 レイの言葉に、分からないと喉を鳴らすセト。

 セトにとってもここは初めて来る場所なので、どちらに行けばいいのかというのは分からなかった。

 あるいはレイやセトよりも前にここに来た者がいたら、その誰かが通った道をセトの嗅覚で知ることも出来たかもしれない。

 だが、このダンジョンの二十一階に最初にやって来たのは、レイとセトなのだ。

 他の者達は、まだ二十階で探索を続けている筈だった。

 ……あるいは、十九階で蜃を探している可能性もあったが。

 ともあれ、今のところ二十一階にいるのはレイとセトだけである以上、セトの嗅覚を使って正解の道を選ぶことは出来ない。


(というか、正解……二十二階に下りる階段のある通路以外にも、それこそ宝箱のある通路とか、そういうのもありそうなんだよな)


 大量の通路を見ながら、レイは迷う。


「グルルルゥ、グルゥ」


 ここで考えていても仕方がないから、まずは行動してみようと喉を鳴らすセト。

 そんなセトの鳴き声に、レイもなるほどと頷く。

 結局のところ、いつまでもこうしている訳にはいかない。

 行動を起こして、通路に何があるのかを確認する必要があるのは間違いなかった。

 もっとも、それならどの通路から行くのかと言われるとレイも困るが。


(というか、上の方にある通路とか……結構入るのが大変そうなんだけど。俺やセトなら問題はないが、他の冒険者の場合はどうなるだろうな)


 複数の通路はその全てが地面にある訳ではない。

 下にある通路もあるが、その上にも、更に上にも、その更に上にも……といった具合になっている。

 形はかなり歪ではあるが、ピラミッド状に近い形だ。

 だからこそ、レイは自分ならいいが他の冒険者の場合、上の通路を進むのは難しいと思ってしまう。

 縄梯子の類を使うといった手段もあるが、そうなると下の通路の邪魔になる。

 ……いや、邪魔になるだけならいいが、ここがダンジョンである以上は中にいるモンスターや罠によって命の危険もある。

 それらから逃れてきたところで、縄梯子に引っ掛かった結果、逃げ切れずに死ぬといった可能性は充分にあった。

 そのような可能性を考えれば、やはり縄梯子は避けた方がいいだろう。


「取りあえず……そうだな。やっぱり一番上の通路に向かってみるか?」


 レイが最初に探索を決めたのは、通路の中でも一番上。

 歪ではあるが、ピラミッド状になっている中でもその頂点にある場所だった。

 一番上というその場所から、正解の可能性もあるだろうと考えたのだ。

 あくまでも何となくそうではないかと思っただけなので、それが合っているかどうか、レイには分からない。

 ……分からないが、それでも可能性としてはそんなに間違ってはいないようにレイには思えた。


「グルゥ!」


 そんなレイの考えに、セトも何かを感じたのだろう。

 分かったと喉を鳴らす。

 そうしてレイはセトの背に乗り、通路のピラミッドの中でも一番上に向かう。

 レイがスレイプニルの靴を使えば、空中を蹴って移動するのも難しくはない。

 難しくはないのだが、どうせならセトに乗って移動した方がいいだろうと判断したのだ。

 セトはレイを背中に乗せるのを嫌がる筈もなく、レイを背中に乗せると数歩の助走で翼を羽ばたかせ、空中を駆け上がっていく。

 そうして一直線に……それこそ空中で進路の調整をしたりもせず、真っ直ぐ一番上の通路に飛び込む。

 だが、そんなセトの行動にも、レイは特に驚いたりする様子はない。

 レイにしてみればセトを完全に信じている。

 セトが突っ込んだところで、それでどうにかなるとは思っていなかったのだ。

 通路の中に突っ込んだセトは、そこでようやく翼を羽ばたかせて速度を殺し、地面に着地する。

 ふわり、と。

 先程までの激しい動きが嘘のように、セトは音もなく地面に着地した。


「よっと」


 レイもまた普通に……セトの行動については何も驚いた様子もなく、地面に着地する。


「通路の広さは……まぁ、当然だけどそこまで広い訳じゃないか。それでも一応俺とセトが並んで歩けるくらいはあるけど」

「グルルゥ」


 レイの言葉に、セトは残念そうに……そして少し狭いといった様子で喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、翼を全開に出来るかどうかといった程度の広さしかないので、不満そうなのは仕方がないのかもしれなかったが。

 何しろセトの体長は四mだ。

 当然ながらその巨体を自由に飛ばす為の翼も大きく、この通路では翼を完全に伸ばす事が出来ない。


(セト、不機嫌そうだな。いっそ、俺とセトが別々に通路の探索をした方が……いや、それだと突発的なトラブルがあった場合に対処出来ないか)


 ここがダンジョンである以上、いつ何があるのか分からない。

 そうである以上、やはりレイとしてはセトと一緒に行動した方がいいだろうと思えた。

 この通路の仕組みを理解し、それで別行動をしても問題ないと分かった後なら話は別だったが。


「セト、どうする? 一応並んで移動は出来るが、こうして並んで行動していれば、何かあった時の対処が難しい。そうなると左右じゃなくて前後に分かれて行動した方がいいんだが……セトは前衛と後衛のどっちがいい?」

「グルゥ? ……グルルゥ」


 レイの言葉に、セトは少し考えた後で前衛がいいと喉を鳴らす。

 レイにしろセトにしろ、スキルや魔法、マジックアイテムによって双方共に前衛も後衛も出来る。

 そうである以上、レイとセトのどちらが前衛に、あるいは後衛になっても問題はない。

 その為、レイはセトが前衛をやりたいと言ったのなら、それを受け入れても問題はないと判断していた。


「分かった。じゃあ、セトが前衛な。セトの五感があれば、もし何か罠の類があったり敵が隠れたりしていても、前もって察知出来る可能性も高いしな。……まぁ、罠については俺の魔法で心配する必要はないと思うけど」

「グルルゥ」


 レイの言葉に、セトは分かっていると喉を鳴らす。

 そんなセトの様子を見て、レイはセトの背後に回る。


(さて、この通路……一体何があるんだろうな。一番上に存在する通路だけに、何かあるとすればここだとは思うんだけど)


 場所が場所だけに、もし何かがあるのならここだろうと思いつつ、セトの後をついて移動する。


(見た感じ、洞窟そのままの形といった感じか。まぁ、ダンジョンとしても多数の通路を作るとなると、凝った作りには出来なかったとか、そんな感じか?)


 ダンジョンが具体的にどのような判断で階層を作っているのか、レイには分からない。

 ただ、それでもこうしてダンジョンを作っている以上、何者かがこうして作っているのは間違いなかった。

 ……ダンジョンの核なのか、あるいはダンジョンの核を守っているボスなのか、

 これまでレイが幾つかのダンジョンを攻略してきたが、ダンジョンを構成している者……レイの知識、日本で楽しんだゲームや漫画、アニメでいうところの、ダンジョンマスターといった存在については、遭遇したことがない。

 元々ダンジョンマスターという存在がいないのか、それともレイの存在を察知して逃げたのか、はたまたいてもダンジョンにいる訳ではなく離れた場所にいるのか。

 その辺りもまだはっきりとはしていなかったが。


「グルゥ!」


 そんな中、前方を歩いていたセトが不意に喉を鳴らす。

 ただ、その鳴き声にあるのは、警戒ではなく嬉しさだった。


「となると……」


 レイは前方にいるセトが足を止め、何かを見ている……そして今の嬉しそうな鳴き声を発していることから、何を見つけたのか何となく予想出来た。


「セト、宝箱か?」

「グルゥ!」


 確認を込めたレイの問いに、セトはその通りと喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に、レイは笑みを浮かべる。

 そうだったらいいなとは思っていたが、まさか本当に宝箱が通路にあるとは思わなかったのだろう。


「グルルゥ、グルゥ」


 レイはセトに対し、宝箱を収納してと喉を鳴らしながら場所を空ける。

 ……少し狭い道ではあったが、それでもレイはセトの隣まで移動し……前方にある宝箱を見た。

 通路は行き止まりになっており、その行き止まりの壁の前に宝箱が一個置かれている。


「なるほど、これは本当に宝箱だな。……後は、あの二個並んでいた時の宝箱のように、触っただけで発動するような罠があるかどうかだけど……」


 多分ないだろうというのが、レイの予想だった。

 罠のあった宝箱は、二個並んでいた。

 そして中州にあった宝箱は特に罠がなかった。

 勿論、この場合の罠というのはあくまでも触れた瞬間に発動する罠のことで、宝箱を開けようとした時に発動するような罠ではない。

 その手の罠は、ギルドで宝箱を開ける依頼をした時、それを受けた者に任せているのだから。

 なので、今の問題はレイが触れた時……ミスティリングに収納する時に何の問題もないのかどうかだ。

 本来なら問題はないだろうとレイにも思える。

 思えるのだが、実際にそのような罠があった以上、レイとしてはもしかしたらと警戒しない訳にはいかなかった。


「まぁ、こういう意味ありげな場所にあったと考えると、多分大丈夫だとは思うけど。いや、でもこういう場所にあるからこそ、敢えて罠が……という可能性もあるのか? ……セト、悪いけど後ろに移動して貰えるか?」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは素直に後ろに下がる。

 ここが通路の一番奥で、行き止まりとなっている以上、自分がここにいても意味はないと理解したのだろう。

 それなら、レイが宝箱をミスティリングに収納するのを後ろから見ている……そして万が一敵が後ろから来た場合、それに対処するべきだと、そう判断したのだろう。


「悪いな」


 素直に後ろに下がってくれたセトに感謝しつつ、レイは宝箱の前まで移動する。

 そして若干の緊張を抱きながら手を伸ばす。

 もし触った瞬間、以前の宝箱のように刃が生えてきたら即座に距離を取る。

 そのように思いながら、レイは宝箱に触れるが……


(罠の類はなし、か)


 これはレイにとっても少し予想外だった。

 あの罠のあった宝箱の印象が強かった分、やはり今回もと、そのように思ったのだろう。

 罠がなかったことに安堵しながら、いつものようにミスティリングに収納する。


(さて、この宝箱の中身はなんだろうな。……この幾つもある通路の一番上の通路にあった宝箱と考えると、何となく……本当に何となくだが、重要なアイテムが入ってる気がするんだよな。いわゆる、『それを捨てるなんてとんでもない』系の)


 レイは日本にいる時に遊んだゲーム……その中でもRPGについて思い出す。

 貴重なアイテムの類は、基本的に売ったり捨てたり出来ないようになっており、捨てようとするとそのようなメッセージが出る。

 あるいは売ろうとした時も、重要なアイテムだから買い取れないといったように店員に言われるのだ。

 ゲームについて考えながらも、実際に宝箱を開けてみないと中に何が入っているのかを確認することは出来ない。

 結局のところ、今ここでこうして悩んでも仕方がないのだ。


「よし、じゃあ取りあえず宝箱は収納したし……他の場所だな。全部の通路がこうして中の距離がそこまで長くないのなら、全部を調べるのもそこまで大変そうじゃないな。……いやまぁ、通路の数を考えると、ちょっと面倒臭いどころの話じゃないけど」

「グルルゥ……」


 レイの言葉を聞いたセトが、微妙そうな様子でそう喉を鳴らす。

 セトにとっても、ピラミッド状になっている通路を全て探索するのは面倒だと思ったのだろう。

 ……また、今日は早めに地上に戻るとレイが言っていたこともあるので、とてもではないが今日中に全ての通路を探索するのは無理だと思ったらしい。

 レイもそんなセトの様子を見て、落ち着かせるように前にいるセトを撫でる。


「別に今日だけで全ての通路の探索を終えようとは思っていないよ。そうだな……この頂上の下にある二つの通路の探索を終えたら、今日はもう帰ろう。多分大丈夫だとは思うけど、上の方の通路に俺達が入ったことによって、下の通路が重量に負けて潰れる……なんて可能性もあるかもしれないし」


 レイの言葉にそうなった時のことを想像したのか、セトは怖そうに喉を鳴らすのだった。

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