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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

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3897/4071

3897話

連休なので2話同時投稿です。


こちらは2話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。

「では、レイさん。いってらっしゃいませ」


 そう言い、ジャニスは頭を下げる。

 いつもより少し……いや、大分早い時間。

 初夏らしく、雲一つない青空の中、降り注ぐ朝日に頭を下げるジャニスが照らされる。

 それは、レイにとっても不思議と印象深い光景だった。


(意外と……俺もガンダルシアに思い入れが出来ているのかもしれないな)


 そんな風に思いつつ、レイは口を開く。


「ああ、行ってくる。暫く……具体的にどのくらいになるのかは分からないけど、とにかく暫く留守にするから、ジャニスもゆっくりとしてくれ」


 レイがギルムに行く間、ジャニスは家に残る。

 レイとしては、その間は少し長い休日として自分の実家なりなんなりに戻ってもいいのでは? と思っていたのだが、メイドとしてのプライドなのか、もしくは他に何か理由があるのか。とにかくジャニスはこの家に残ると言っていた。

 レイとしては休日をと思っていたのだが、本人が残りたいと言っている以上、それを断る理由もない。

 ……唯一心配なのは、ライグールやギランの一件だが、その辺についてはギルドの方に任せるしかないだろうと思っている。

 また、この家は冒険者育成校にも近い場所にあるので、そんな場所に襲撃をするようなことは恐らくしないだろうという思いもある。


「ありがとうございます。ここは私が守りますので」


 そこまで覚悟を決めなくても。

 そう思いながらも、レイはジャニスに向かって頷く。


「グルゥ」


 レイの隣では、セトもまたジャニスに向かって行ってきますと喉を鳴らす。

 このガンダルシアでも多くの者に愛されているセトだったが、セトの方から好きな相手となると、上位にくるのがジャニスだ。

 一緒に暮らしており、朝と夜の食事を作って貰っているし、セトが庭にいる時は一緒に遊んでくれるのだから、セトが好意を持つのは自然なことなのだろう。

 それを聞いたセト好きの面々がどう思うのかはともかくとして。

 もっとも、セト好きの面々も……いや、セト好きだからこそ、セトの好きな相手に危害を加えるといったことはしないだろう。

 勿論、全員が全員そうだとは限らないが。


「セトちゃん、またね。ギルムまで行くのは大変だろうけど、頑張ってね」


 喉を鳴らすセトに、そう言いながら撫でるジャニス。

 セトは撫でられるのを気持ちよさそうにし……そのまま数分。


「じゃあ、この辺で。レイさん、気を付けて行ってきて下さいね」


 セトを撫でるのを止めたジャニスが、最後にそうレイに言う。

 レイもまた、そんなジャニスの様子に笑みを浮かべ、頷く。


「そうだな。じゃあ、また」


 そう言葉を交わすと、レイはセトと共に冒険者育成校に向かう。


「分かっていたけど、やっぱりまだ誰も歩いていないな」


 冒険者育成校に向かいつつ、レイは周囲の様子を見てそう言う。

 当然だろう。今の時間は、まだ午前六時くらいなのだから。

 そうである以上、この時間から冒険者育成校に向かう者はいない。

 ……いや、あるいは訓練場で訓練をしたいと思えば、いわゆる朝練的な感じでこの時間から登校する者もいるかもしれないが、レイが周囲を見た限りだと、そのような者はいなかった。

 何人か、ギルドに、あるいはダンジョンに向かう冒険者の姿はあったが。


「グルゥ」


 レイの言葉に頷くようにセトが喉を鳴らす。

 セトから見ても、今のこの状況は人通りが少なくて寂しいと思えるのだろう。

 いつもセトが歩いていると、多くの者がセトを見るし、愛でようとして近付いてくる。

 そういうのがないのは、セトにとっても新鮮だったらしい。


(冬なら、まだ暗い時間なんだけどな。まぁ、今はもう夏なんだし、その辺は気にしなくてもいいのか)


 空を見上げつつ、そんな風に思うレイ。

 同時に、自分はドラゴンローブを着ているので温度についてはそこまで気にしないが、初夏とはいえ日中になればそれなりに暑くなるのだろうなとも思い……


「どうやらもう集まってるみたいだな」


 冒険者育成校の正門の前に、何人もの人影があるのを見つけ、そう呟く。

 レイも約束の時間より少し早めに来たつもりだったのだが、どうやらそんなレイよりも早く来ている者達がいるらしい。

 遅刻でもすれば大変だと思ったのか、それともギルムに行くのがそれだけ楽しみだったのか。

 その辺はレイにも分からないが、とにかく早めに来たというのは悪くない。

 いや、それどころか褒められるべきことだろう。


「よう、レイ」


 近付いてくるレイを見てそう声を掛けたのは、生徒達の引率となるニラシス。


「ニラシス、随分と早いな」

「まぁ、ギルムに行けるなんて機会があるとは思わなかったしな」

「つまり、それだけ楽しみだったから、早く来てしまったと」

「そうなる」


 からかうような口調で言うレイだったが、ニラシスはそれに対して特に怒るでも照れるでもなく、あっさりと頷く。

 ニラシスにしてみれば、それだけギルムに行くのを楽しみにしていたのだろう。


「レイ教官、おはようございます」


 ニラシスに続けて、イステルも近付いてきて、そう声を掛ける。

 イステルの周囲にはザイードとハルエスもいて、少し離れた場所にはカリフとビステロの姿もあった。


「来てないのは、アーヴァインだけか。……フランシスはいるし」


 レイがセトの方に視線を向けると、そこにはセトを愛でているフランシスの姿があった。

 レイに声を掛けるよりも、セトを愛でる方が大事らしい。

 セト好きのフランシスにしてみれば、今までは毎日……いや、セトがダンジョンに行ってる時は無理だったが、レイが教官として働いている時はセトを愛でることが出来ていたのに、レイがギルムに行くとなると、セトを愛でることも出来なくなるのだ。

 だからこそ、ここでセトを愛でる機会を逃すというのは絶対に有り得なかった。


「何よ、いいじゃない。セトちゃんとは暫く会えないんだから。……イステルはいいわよね」


 レイの言葉にフランシスがそう言い、流れ弾を受けたイステルはどう反応すればいいのか迷う。

 実際、イステルもフランシス程ではないにしろ、セト好きなのは間違いない。

 そしてこれからギルムに行くまで……そしてギルムでも、更にはギルムからガンダルシアに帰って来るまでの間、ずっとセトと一緒なのだ。

 もっとも、ギルムにいる間はレイとセトはイステル達とは基本的に別行動になる可能性が高いのだが。


「えっと、その……でも、セトちゃんが厩舎にいる時は、学園長は頻繁に可愛がりに来るじゃないですか」


 何とかカウンターの一撃を放つイステル。

 実際、その言葉は間違っていない。

 昨日、レイとギラン達が睨み合ってるところにフランシスが来たのも、セトを愛でたいと思ったからなのだから。

 そういう意味では、フランシスはイステルよりもセトを愛でる機会は多い。

 ……もっとも、レイがセトを冒険者育成校に連れてくるようにしたのは、模擬戦において生徒達をセトと戦わせる為だ。

 つまり、模擬戦の授業中はセトも訓練場にいるということになり、イステルが思っている程にはフランシスがセトと遊ぶことは出来ないのだが。


「その辺にしておけ。それより、アーヴァイン以外は全員揃ってるな。それで荷物は?」

「あ、それでしたら門の内側に置いてあります。あまり見せるようなものではないですし」


 レイの言葉にそう返したのは、カリフだ。

 まだ視線を向け合っているイステルとフランシスのいる場所から少しでも離れないといけないと思ったのだろう。

 それはレイも同じだったので、取りあえず荷物をミスティリングに収納することにする。

 カリフの案内……という程に大袈裟なものではないが、とにかく冒険者育成校の敷地内に入ると、そこには荷物が置かれている。

 武器や防具は勿論、普段の生活に必要な諸々であったり、テントの類もある。

 ガンダルシアからギルムまで、セトに乗って空を飛んでいくものの、それでも今日中に到着出来る訳ではない。

 数日、場合によっては十日前後かかってもおかしくはない。

 何しろ、空には街道のようなものはないのだから。

 一応地上にある街道を目印に進むことも出来るものの、それもまた絶対ではない。

 街道は森や丘、川……そのような場所を避けて作られているので、空を飛んで移動する時は真っ直ぐに移動すればいいのに、地上では曲がりくねっているのは珍しくない。

 そんな諸々について考えると、空を飛んで移動するのは決まった時間でという訳にはいかないのも事実。

 もっとも、それでもガンダルシアからギルムまで地上を移動するのには年単位の時間が掛かってもおかしくはないのに比べると、圧倒的な……それこそ、比べるまでもない速度なのだが。

 ともあれ、それなりに野宿をする必要がある以上、テントは必須だ。


(いやまぁ、今は初夏で夜もそこまで寒くないから、テントじゃなくて寝袋とかでも……いや、寝袋はやっぱり駄目か)


 これがモンスターや野生動物、盗賊といった者達のいない場所であれば、寝袋でもいいだろう。

 だが、敵対する……あるいはその可能性の高い相手がいるのであれば、寝袋は自殺行為でしかない。

 敵が襲ってきた時、寝袋であれば手足を自由に動かせず、敵の攻撃を受けるしかないのだから。

 ……あるいは幸運に恵まれれば、転がって回避することも可能かもしれないが。

 そんな訳で、寝袋は冒険者が使うには不向きだろう。

 実際、用意された道具の中にも寝袋の類はなかったのだから。


「さて、じゃあ収納していくか。ここにある物は全部収納してもいいんだよな?」

「はい、そのように聞いています」


 カリフがレイの言葉に頷く。

 セトに乗って移動するのは間違いないが、その時、本当の意味でセトに乗って移動するのはレイだけだ。

 他の面々はセト籠の中に乗っての移動となる。

 そうなると、セト籠の中で何か必要な物があっても、それがレイのミスティリングに収納されている状態では、そう簡単には取り出せない。

 その為、セト籠の中で使う物……例えば、軽く食べる物であったり、飲み物であったり、もしくは時間を潰す為の何らかの玩具であったり。

 そういうのは、前もってセト籠に乗る面々が持っておく必要があった。

 もっとも、昼食や夕食の時は地上に降りるので、その時まで我慢をしてもいいが。


「遅れました。すいません、レイ教官」


 カリフと話をしていると、そんな声が掛けられる。

 声のした方を見ると、そこにいたのはアーヴァイン。

 まだ来ていなかった最後の一人が到着したらしい。

 ただ、遅れたと口にするアーヴァインだったが……


「別に謝る必要はないと思うぞ。時間的に、まだ遅刻したって訳でもないし」


 そうレイが言う。

 実際、待ち合わせの時間まではまだ少しあり、アーヴァインが遅刻をしたという訳ではない。

 そんなレイの言葉に、アーヴァインは困ったように口を開く。


「それでも、俺が最後でしたから」

「まぁ、アーヴァインがそう言うのならそれで構わないけど。荷物は?」

「これです」


 そう言うと、アーヴァインは背負っていたリュックや持っていたバッグを下ろす。

 どうやらテントの類も含めて纏めてきたらしい。


「さっきカリフに言ったが、移動している間は俺がミスティリングから荷物を取り出したりは出来ないぞ。だから、セト籠の中で何か使う物……もしくは食べたり飲んだりするようなら、それは前もって出しておいてくれ」

「それはこっちにあるので大丈夫です」


 そう言い、小さめのバッグを見せる。

 どうやらそっちにすぐに使う物は入れられているらしい。

 準備がいいな。

 そう思いつつ、レイはアーヴァインの荷物も含めてミスティリングに収納していく。

 するとそれを見ていたアーヴァインとカリフはしみじみとレイを見る。

 レイがミスティリングというアイテムボックスを持っているのは知っているし、使っているのを見たこともある。

 だが、それでもこうして実際に大量の荷物が次々に収納されていくのを見るのは、初めてだったのだろう。

 それだけに、一体何がどうなってこのような事になるのか。

 それが理解出来ないといった様子だ。

 レイも当然ながらそんな二人の視線には気が付いていたものの、この件についてはここで自分が何かを言うよりも、自然に見慣れるまで我慢しておいた方がいいだろうと判断し、黙っておく。

 そうして荷物は数分もせず、全て収納される。


「さて、これで取りあえず全員分の荷物は収納したな。……後は門の騒動が一段落したかどうかだけど、どうだった?」


 尋ねるレイに、アーヴァインはそっと視線を逸らす。

 それこそがまだフランシスとイステルの騒動が続いている証であり……レイは思わず空を見上げるのだった。

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