3866話
なろうチアーズプログラムが明日から始まるということで、試しに1週間投稿してみます。
「八十本か。……それなりに使えるスキルになってきたな」
ゴーレムの魔石でレベルアップした飛針のスキルの効果を確認したレイは、満足そうに呟く。
長針を放つ飛針が十分使えるスキルだと判断した為だろう。
「取りあえずスキルの確認も出来たし他の場所に行くか。……セト、また頼める……いや、二回連続でセトに頼んだし、今度は俺がやってみるか」
セトの野生の勘によって、ドワーフのジャーミ達が採掘をしている場所や、球形のゴーレムのいる場所に来ることが出来た。
そうなると、いつまでもセトに頼るのではなく、自分も挑戦してみたいと思うのはおかしな話ではない。
「グルゥ?」
大丈夫なの? と喉を鳴らすセト。
元々セトが野生の勘で飛ぶ方向を決めたのは、レイがどこに向かえばいいのか分からなかったからというのが大きい。
そうである以上、レイが勘で進む方向を決めれば、一体どこに行けるのかというのが気になってもおかしくはない。
もっとも、この十四階に出てくるモンスターはレイやセトにしてみれば油断さえしなければ苦戦する相手でもない。
であれば、レイに任せても問題はないだろうと、そうセトは考える。
「任せろ……とは言えないけど、それでも今日はこの階層を探索する予定なんだし、何かあったらラッキー程度に思っておけばいい。……幸いなことに、それなりに魔石を入手したし、宝箱も一個だが見つかった。……で、でもそうだな。宝箱を開けて貰う相手を雇わないといけないから夕方よりも少し前くらいには地上に戻った方がいいか」
そう言い、レイはセトに乗って空から周囲の様子を観察する。
(勘……勘か。勘だとすると、自分で言うのもなんだが、こうしてどっちに行くとか、そういうのを考えている時点で間違ってるんだろうな)
本来なら……いや、より正確にはレイがそのように思っているということなのだが、どちらを選ぶのかと考えて、すぐにこっちと選ぶのが勘というイメージがレイの中にはある。
そう思っているだけに、こうして考えているのは勘ではなく考えた末での結論になるだろうと。
「さて、そうなると……こっちだ」
結局少し考えた末にレイが選んだのは、南の方だった。
「グルゥ」
レイの言葉に、セトは特に反論をしたりする様子もなく、あっさりとそちらに向かって飛ぶ。
元々、どちらに向かって飛べばいいのかというのは分かっていないのだ。
そうである以上、そちらに向かって飛ぶべきとレイが言ったのなら、セトとしてはそれに素直に従うということになる。
そうしてセトは素直に飛び始めるのだが……
「うーん、俺の勘も外れたか?」
十分程経過したところで、レイがそのように呟く。
レイにしてみれば、もしかしたら何かがあるかもしれないと思っていたのだが、生憎と特に何かがあるようには思えない。
だとすれば、このままこの辺りを探すのではなく、もっと別の何か……もっと具体的には、他の方向に進んだ方がいいのではないかと、そうレイには思えてしまう。
「セト、えっと……あっちの方に行ってくれるか?」
「グルゥ」
レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らし、今まで飛んでいたのとは別の方向に向かって飛ぶ。
これで、もしセトに何か目的があるのなら、こうしてあっさりと進行方向を変えるのを不満に思ってもおかしくはない。
だがセトもまた、特に目的があってこの辺りを飛んでいる訳ではないのだ。
そうである以上、レイの指示に従って空を飛ぶのは、そう悪い話ではない。
そうして暫く空を飛んでいると……
「グルゥ」
不意にセトが喉を鳴らす。
ついに敵を見つけたのか?
そう期待したのだが、セトの視線を追ったレイは、微妙な表情になる。
セトの鳴き声からして、未知のモンスターを見つけたという訳ではないのは半ば予想出来ていた。
出来ていたのだが、それでももしかしたらという思いがあったのも事実。
だが、セトの視線の先にいたのは、見覚えのある三人のドワーフ達……ジャーミ達だった。
崖と地上を繋ぐ細い坂道を、三人で登っている。
自慢げに変形させた荷車も、上手い具合に坂道を登っていた。
「色々と飛んだ結果、こっちに戻ってきたのか。いやまぁ、ジャーミ達が移動しているから、ここで遭遇したというのもあるのかもしれないけど」
「グルルゥ?」
どうするの? とセトが喉を鳴らす。
セトにしてみれば、ここでジャーミ達と遭遇したのだから、話をするくらいはしてもいいのではないかと、そう思ったのだろう。
レイはどうするべきか少し考え……近くまで来たのに、声を掛けないのも薄情かと思ってセトの首を軽く叩く。
するとその合図だけでセトはレイが何をしたいのかを理解し、翼を羽ばたかせてジャーミ達のいる場所に向かう。
ジャーミ達も、自分達に近付いてくるセトの姿に気が付いたのだろう。
最初は即座に武器を手にし、戦闘の準備をするが……近付いてくるのがセトだと、そしてセトの背にレイが乗っているのを知ると、安堵した様子で武器を下ろす。
「何じゃい、レイか。……一体どうしたんじゃ?」
これもまた荷車の機能なのだろう。
坂道だというのに、道の途中でしっかりと固定されると、ジャーミがそう声を掛けてくる。
レイは、そんな荷車の性能に驚きつつ、口を開く。
「セトに乗って飛んでいたら、ジャーミ達を見つけたからな。こうして見つけた以上、声を掛けないでどこかに行くのもどうかと思って声を掛けた」
「ふむ、なるほど。義理堅いことじゃのう。……もっとも。儂もそのような者は嫌いではないのじゃがな」
はっはっはと、周辺にジャーミの笑い声が響く。
他の二人のドワーフも、そんなジャーミに負けないように笑い声を上げていた。
「おい、笑うのはその辺にしておいた方がいいんじゃないか? でないと、モンスターが襲ってくるかもしれないぞ? まぁ、俺にしてみればモンスターが襲ってくるのは大歓迎なんだが」
「おっと、そうじゃったの。この状況でモンスターに襲われるのは勘弁して欲しいところじゃ。……それで、レイはこれからどうするのじゃ? もう少し見て回るのか?」
「そうだな。未知のモンスターをもっと見つけたいし、宝箱もまだ一個しか見つけてないしな」
「ほう? 中身は何じゃ? この階層の宝箱には罠があることも多いのじゃが、よく無事じゃったな」
「いや、分からない。まだ開けてないしな。……グラース・ワームの死体を収納したのを見れば分かるように、俺はミスティリング……アイテムボックスがあるから、宝箱をその場で開ける必要もない。だから、宝箱はミスティリングに収納して、ギルドで宝箱を開けるのを得意な奴に依頼しているんだよ」
「ほう……そのようなことを。便利じゃのう。しかし、そうじゃな。レイが見つけた宝箱は一個だったか?」
「は? ああ、うん。一個だけど」
一体何故そのようなことを聞いたのか、レイは分からないが素直に答える。
そんなレイの様子にジャーミは笑みを浮かべて口を開く。
「では、その宝箱は儂が開けよう。勿論報酬はいらん。こう見えて、その手の技術は得意なんじゃよ」
「だろうな。……けど、いいのか?」
そうレイが聞いたのは、宝箱を開けるという作業を無料でやるとジャーミが言った為だ。
レイはつい先程、ギルドで宝箱を開ける者を募集していると口にした。
そう考えると、普通なら報酬を支払うべきだろう。
だが、ジャーミは報酬はいらないと口にしたのだ。
レイが疑問に思ってもおかしくはない。
しかし、ジャーミはそんなレイの言葉に頷く。
「ああ、構わんよ。レイにはグラース・ワームを倒して貰った恩がある。儂らがあのグラース・ワームと遭遇すれば、下手をしたら殺されていたじゃろう。勿論無事に逃げられるといった可能性もある……いや、そちらの方が高いが、とにかく強敵なのは変わらん。それを倒してくれた礼としては、寧ろ足りないじゃろうて」
「そう言われてもな。俺にとっては、寧ろグラース・ワームの存在はありがたかったくらいだし」
未知のモンスターの魔石を手に入れたのだから、レイとしてはジャーミ達には感謝すらしている。
グラース・ワームを倒したのはレイ――正確にはセト――だったが、そのことで感謝されるというのは予想外だった。
「それでもじゃよ。それに、宝箱を開けるのはレイにとっても悪いことではないじゃろう? わざわざ報酬を支払って誰かに開けて貰うよりも、儂が無料でやった方がいい。違うか?」
「……まぁ、そこまで言うのなら。セト」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトはもう少し崖に近付く。
セトの背中から下りて坂道の空いている場所に到着したレイは、荷車に触れるとミスティリングに収納する。
「取りあえず報酬はいらないって話だったけど、この荷車をこの崖を登って下りた場所まで運ぶくらいならいいだろう?」
「……すまぬな」
しみじみとレイの言葉に感謝するジャーミ。
ジャーミにしてみれば、宝箱を開けるどころか、結構な金を支払っても構わないと思ってすらいる。
しかし、レイにそれを言っても恐らく断られるだろうというのも容易に予想出来た。
その為、宝箱を開ける程度のことはしたい……させて欲しいと、そう思ったのだ。
その上で、グラース鉱石が大量に入った荷車を地上まで運んでくれるというのだから、ジャーミにしてみればレイには感謝の気持ちしかない。
……レイにしてみれば、別にそこまで感謝されるようなことではなかったのだが。
ジャーミを含めた三人のドワーフは、荷車がない状態で坂道を進み、崖の上に到着すると、すぐに別の坂道を使って地面に向かう。
「うーむ……知ってはおったが、荷車がないとこれだけ楽だとは思わんかったな」
ドワーフの一人がそう言うと、ジャーミともう一人のドワーフがそれに頷く。
荷車はジャーミ達が改良したことで、大分使いやすくなっている。
それこそもっと上の階層で行動しているポーターの中でも、荷車を使っているポーターであれば、売って欲しいと言ってもおかしくはないくらいに。
しかし、それでも荷車は荷車。
当然ながらそれを運ぶのには相応の労力が必要になる。
その労力がいらない状態でこうして崖を移動するのは、ドワーフ達にとっても非常に楽なのだろう。
そうして特に何らかのモンスターに遭遇したりといったようなことはないままに移動を終える。
「さて、では宝箱を出してくれ。早速試してみよう」
地面に到着して一段落したところで、ジャーミがそう言う。
レイはその言葉に素直に従い、巨大な岩に隠されるように置かれていた宝箱を……ついでに先程収納した荷車を取り出す。
心なしか、ジャーミ達はその荷車を見て安堵した様子を見せる。
レイが荷車を奪うとは思っていなかったのだろうが、それでも万が一というのを考えてしまうのだろう。
……冒険者の中には初心者狩りであったり、冒険者狩りをするような者もいるので、ジャーミ達の様子にレイも特に不愉快に思ったりといったとことはない。
実際にそのような冒険者を目にしているだけに、それも仕方がないだろうと思えるのだ。
例えば、これがそれなりにレイと付き合いのある冒険者であれば、また話は違うだろう。
だが、レイとジャーミ達は今日……それも少し前に会ったばかりなのだ。
そうである以上、どうしても完全に信頼するというのは不可能だった。
それでもレイは深紅の異名を持つ、このガンダルシアにおいても最高ランクの冒険者だ。
だからこそ、レイが横暴なこと……それこそ荷車をそのまま奪うとか、最悪ジャーミ達に直接的な危害を加えるとは思わなかったのだろう。
「じゃあ、頼む」
「うむ、任せておけ。ドワーフはこの手の技術も得意じゃからな」
自信満々といった様子で宝箱を調べ始めるジャーミ。
しかし、他の二人のドワーフは特に何かをする様子はない。
「ジャーミだけでいいのか?」
「うむ。ジャーミは儂らの中で一番優れておる。ジャーミがやる以上、儂らの出番はない」
「まず有り得ないが、もしジャーミが失敗したのなら、儂らではどうにもならんじゃろう」
二人のドワーフは強くジャーミを信頼しているのが、その言葉からも分かる。
そこまで信頼出来るのなら……と、レイもそれ以上は何も言わずにジャーミの様子を見守っていたのだが……
「うむ、開いたぞ」
ガチャンという音と共に、ジャーミがそう言う。
宝箱を調べ始めてから、五分も経っていない。
今までレイは何度かギルドで宝箱を開ける人員を募集して開けて貰ったが、その時は十分、あるいは十五分から三十分くらい掛かっていたりもした。
それを考えると、ジャーミの技術は間違いなく一級品だった。




