3585話
【デスサイズは『幻影斬 Lv.二』のスキルを習得した】
【デスサイズは『幻影斬 Lv.三』のスキルを習得した】
続けて脳裏に響くアナウンスメッセージ。
ウィスプの魔石を続けてデスサイズで切断した結果、幻影斬のレベルは三まで上がった。
あるいは全ての魔石を使えばスキルが一気に強力になるレベル五にもなるかもしれないが、ウィスプの魔石を全て使うのは、セトに悪い。
そう思い、半分だけ魔石を使った結果が幻影斬のレベル三までのアップだった。
「とはいえ……幻影斬!」
スキルを発動すると、生み出された三つのデスサイズの幻影が、レイの振るった一撃と全く同じ軌道を描きながら振るわれる。
そう、デスサイズの側に現れるのは、あくまでも幻影なのだ。
幻影である以上、振るわれたその幻影に触れても特に何もない。
(そう言えば、目隠しした相手に焼けた金属の棒だと言って接触させると火傷をするってのを何かで見たか聞いたかしたな。他にも目隠しをして、水の垂れる音を血液の垂れる音だと言って失血死したとかなんとか。あれ? 後者は失血死したと思って死んだんだから、正確には失血死じゃないか?)
そういう意味では、デスサイズの幻影に斬られても、それによって相手がダメージを受ける、もしくは最悪ショック死するという可能性は否定出来ない。
出来ないが、そのようなあやふやな結果に頼るのはどうかとも思う。
(となると、デスサイズを振るう一撃のフェイント……いや、表現が違うか? だとすれば、誤魔化し? ともあれ、多数のデスサイズの幻影に本命の一撃を混ぜて、敵に回避を難しくするとか? けど……本物のデスサイズは普通に俺が持ってるしな)
これでデスサイズだけではなく、それを振るうレイの幻影が生み出されるのなら、使い道も多いだろう。
だが、今の幻影斬は、レイが振るう以外のデスサイズはデスサイズだけが幻影を生み出すのだ。
レイが持っているデスサイズが本物であると認識すれば、回避するのは難しい話ではない。
……レイの振るうデスサイズを回避するのが容易なのかどうかはまた話が別なのだが。
(まぁ、初見殺しとしてなら、それなりに使い道があるか?)
レイの振るうデスサイズが、突然多数生み出されるのだ。
何も知らない者にしてみれば、いきなりそのような攻撃をされた場合、間違いなく混乱するだろう。
そういう意味では、最初の一度のみは大きな効果を発揮するスキルなのは間違いない。
「使えないスキルって訳じゃないんだし、いいか」
そう言い、レイは残っている魔石を全てミスティリングに収納する。
魔石を全て集めると、もうこの部屋でやるべきことはない。
部屋の中に何か気になる物がないかどうかを確認する。
しかし、こうして改めて見ても特に何かが残っている様子はない。
「残り二つか。……ウィスプがいるとは思わなかったけど、他の部屋はどうだろうな」
レイにしてみれば、廃墟の二階という場所にいるアンデッドだ。
てっきり強力なアンデッドがいるだろうと思っていたのだが、その予想が外れた形だ。
ウィスプを大量に倒せたのは悪くない結果だ。
しかし最初の部屋は何もなく、次がウィスプ。
レイとしては、強力な敵がいて欲しいと思う反面、ウィスプのように倒すのが楽なモンスターもいて欲しいという思いもそこにはあった。
「ともあれ、確認するべきか」
そう言いつつ、次の部屋に向かったのだが……
「取りあえず、この部屋は後回しだな」
四つ首のゾンビの部屋にあったのと同じように、鍵を掛けられた扉を見て、そう判断する。
四つ首のゾンビの時のことを思えば、この部屋の中にいるのは間違いなく凶悪なアンデッドの筈だ。
それこそ、他の部屋にいるアンデッドのように、部屋の外にいる限りは認識されないし、攻撃してこないといったようなルールが適用されないような。
四つ首のゾンビの件でそれを理解しているだけに、レイとしてはわざわざ今この部屋に入る必要はないと判断した。
最後の一つの部屋……そこにいるだろうアンデッドを倒して、それでまだ余裕があるのなら、最後に鍵のある部屋に挑めばいいだけだと、そのように判断したのだ。
「そうなると、こっちの部屋だな。……さて、どんなアンデッドがいる?」
最後に残された部屋の扉を開けると……そこには、巨大なリビングアーマーの姿があった。
「えっと……リビングアーマーでいいんだよな?」
部屋の中にいるリビングアーマーを見て、思わずレイがそのように言ってしまうくらいには、その相手がリビングアーマーだとは思わなかった。
レイが知ってる限りだと、基本的にリビングアーマーというのは人と同じくらいの大きさだ。
勿論、人と一口に言っても色々と大きさに違いはあるので、平均よりも小柄なレイと比べると、リビングアーマーは大きいが。
だが……部屋の中にいるリビングアーマーは、身長四m以上はある。
少し前に遭遇した、スノウオークキングが巨大だった印象のあるレイだったが、それと比べてもリビングアーマーは明らかに大きい。
その手は盾と長柄の先端に斧がついている、いわゆるポールアックスと呼ばれる武器を持っている。
「マジか」
リビングアーマーで、あそこまで巨大な個体というのはレイも初めて見る。
あるいはリビングアーマーの上位種か希少種ではないかとも思うが、とにかく普通のリビングアーマーでないことだけは間違いない。
そしてレイにとって何より重要だったのは、部屋に鍵が掛かっていない……つまり、部屋の中に入らない限り、動く様子がないということだ。
「となると……黄昏の槍か魔法だな」
レイは幾つかの遠距離攻撃手段がある。
ネブラの瞳で生み出した鏃を使った攻撃も出来ない訳ではないが、リビングアーマーの巨大さからすると、効果があるとは思えない。
そんな中で効果があると思われるのが、黄昏の槍と魔法だった。
デスサイズの飛斬といったスキルもあるが、こちらもあのような巨大なリビングアーマーに効果があるかどうかは微妙なところだ。
「となると、やっぱりまずはこれだな」
レイが選んだ攻撃手段は、黄昏の槍の投擲。
魔法では、場合によっては魔石までもが燃やされてしまう可能性があるというのが大きい。
黄昏の槍も、魔石を貫いた場合は魔石を破壊してしまいかねないという危険はあるのだが。
それでもレイの使う魔法と黄昏の槍の投擲のどちらが魔石を傷つける可能性が低いかと聞かれれば、レイは素直に黄昏の槍と答えるだろう。
「はぁっ!」
鋭い吐息と共に、レイの投擲した黄昏の槍は部屋の外から中にいるリビングアーマーに向かって飛ぶ。
そのまま真っ直ぐ、空気を貫きながらリビングアーマーに向かう黄昏の槍。
今まで……一階で戦ったアンデッドや、二階のウィスプの時は外からの攻撃は命中するまで……いや、命中しても、部屋の中にいるアンデッドが動くことはなかった。
しかし、ここでレイの計算外な出来事が起きる。
投擲された黄昏の槍に対し、リビングアーマーは対応すべく動いたのだ。
(マジかっ!?)
部屋の中にいて、動かないアンデッドは外から攻撃をしても何も動かず、一方的にやられるだけ。
それがこの廃墟におけるルールだとレイは思っていた。
四つ首のゾンビのように、例外があるのは理解していたが。
しかし、その四つ首のゾンビも鍵の掛かった部屋という、分かりやすい目印がある。
そういう意味では、この部屋にいたリビングアーマーの行動はレイにとってかなり予想外だった。
……とはいえ、それでも投擲された黄昏の槍を完全に回避出来る訳ではない。
レイの力で放たれた黄昏の槍の速度を考えれば、手に持つ盾やポールアックスで防ぐといったことは勿論出来ず、出来るのは精々が身体を少し横に動かすだけ。
一階にいたリビングアーマーとは違い、その身体を構成している鎧は明らかに厚みを増している。
また、単純に鎧の素材となっている金属も質の良い物なのは間違いなかったのだが……それでも、レイの投擲した黄昏の槍の一撃を防ぐことは出来ず、僅かに身体を動かしただけで鎧を貫通する。
投擲された黄昏の槍の一撃は、その身体を貫いても動きを止めず、後ろにあった壁をも貫き、どこかに飛んでいく。
リビングアーマーが一歩、二歩と動いたところで足を止めたのを見ながら、レイは黄昏の槍の能力を使って手元に戻す。
(投擲した俺が言うのもなんだけど、こんなに簡単に貫通するとは……トラペラって一体どれだけ頑丈なんだろうな)
トラペラに投擲した黄昏の槍は、その身体に突き刺さったものの、今のように完全に貫通することは出来なかった。
それはつまり、トラペラの鱗は今レイの視線の先にいるリビングアーマーの鎧よりも強固ということになる。
(さて、どう出る?)
黄昏の槍を手元に戻したレイは、次の動きを見せずリビングアーマーに視線を向ける。
部屋の外から攻撃した場合、敵はダメージを受けても動く……反撃をするといったことはない。
しかし、それはあくまでも普通の場合だ。
部屋の中にいる巨大なリビングアーマーは、四つ首のゾンビのように即座に部屋の外にいるレイを攻撃するといったことはなかったが、それでも部屋の外から攻撃したところ、反応した。
それはつまり、今までのこの廃墟での常識は通用しないということを意味している。
そんなレイの予想を裏付けるように、リビングアーマーは胴体に穴を開けたまま一歩を踏み出す。
レイのいる、この部屋の扉のある方に向かって。
「駄目か」
デスサイズと黄昏の槍を手に、レイもまたリビングアーマーに応えるように部屋の中に入る。
リビングアーマーが、明らかに部屋の外にいた自分を認識していた為だ。
遠距離からの一方的な攻撃が出来ない以上、レイとしても正面から戦って勝利する必要があった。
(それに、これは悪いことだけじゃない。あの鎧はともかく、ポールアックスと盾は入手したい)
元々、レイがこの廃墟にやって来た目的は、リビングアーマーがいるというのを妖精郷で聞いたからだ。
リビングアーマーの持っている武器は、マジックアイテムであることも珍しくはない。
そういう意味では、レイにとってポールアックスと盾は興味深い。
……ただし、ポールアックスはともかく盾はレイが使うには少し大きすぎるが。
レイの身体能力を考えれば、持てない訳ではない。
だが、身長四m程のリビングアーマーが使う盾だ。
重量は問題ないものの、嵩張って動きにくくなってしまう。
それに対して、ポールアックスであればリビングアーマーが使っている柄の太さから少し掴みにくいが、それでも持てない訳ではないし、振り回すのにも特に問題はないだろう。
唯一にして最大の問題は、同じ振るうという武器であれば、ポールアックスよりもデスサイズの方が圧倒的に高性能だということか。
レイがもしポールアックスを入手しても、それを使う機会はない訳ではないだろうが、そこまで多くはないだろう。
それでも、入手出来るのならしておいた方がいい。
いつ使う機会がくるのか、分からないのだから。
(斧か。……アーラに使わせてもいいかもしれないな)
そう思いつつ、レイは前に出る。
やがてレイとリビングアーマーの間合いは縮まり……デスサイズの間合いの外であるにも関わらず、リビングアーマーはポールアックスを振るう。
ぶおん、と。
空気そのものを破壊するかのような音を立てながら、横薙ぎに振るわれる一撃。
レイはリビングアーマーが攻撃をしたのを見ても歩みを止めない。
それどころか、軽く……本当に軽くだが地面を蹴り、少しだけ一歩を速めた。
ポールアックスのような長柄の武器において、最大の破壊力を発揮するのは当然ながらその先端部分だ。
ましてや、身長四m程のリビングアーマーが振るうポールアックスともなれば、その先端の威力が一体どれだけのものか。
だからこそ、レイは前に出てデスサイズを振るったのだ。
相手の懐に飛び込む……という程に近くはないが、デスサイズの一撃なら容易に相手に届く、そんな距離。
その距離でレイはデスサイズを振るう。
ただし、リビングアーマーに向けてではなく、自分に振るわれたポールアックスに向けて。
デスサイズの柄にポールアックスの柄がぶつかる。
だが、もしリビングアーマーに五感があれば、長柄の武器同士がぶつかったにしては全く衝撃がないということを疑問に思っただろう。
この世界の平均よりも背の低いレイと、身長四m程のリビングアーマー。
当然ながら、そのような身長差で横薙ぎの一撃を振るうとなると、どうしてもリビングアーマーは万全の状態で攻撃出来ない。
そしてデスサイズはポールアックスの攻撃を受け流し……その隙を突くかのように、黄昏の槍による突きを放つのだった。
【デスサイズ】
『腐食 Lv.七』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.六』『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.六』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.六』『飛針 Lv.二』『地中転移斬 Lv.一』『ドラゴンスレイヤー Lv.一』『幻影斬 Lv.三』new
幻影斬:デスサイズを振るった時、デスサイズの幻が生み出されてレイが振るう一撃と同じ軌道で振るわれる。ただし、それはあくまでも幻影で、触れてもダメージはない。レベル一で生み出される幻影は一つ。レベル二で二つ、レベル三で三つ。