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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬

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3584/4266

3584話

 地下空間から出たレイは、一階でセトとニールセンと別れる。


「じゃあ、俺は二階に行く。何度も言ってるように、何かあったら即座に脱出するから気にするな」


 レイのその言葉を聞いて、本当に大丈夫なのか? という思いを抱くニールセン。

 しかし、それでもレイがこのように言った以上、何を言っても余程のことがなければ話は聞かないだろうと思う。


「分かったけど……なら、このゴーレムを返した方がいい? 防御用のゴーレムなんでしょう? なら、何かあった時は役に立つんじゃない?」


 そう言ってくるニールセンは、自分の座っているゴーレムに視線を向ける。

 この建物の中では、空中を移動する際にニールセンはずっとこのゴーレムに座っていた。

 ニールセンにしてみれば、このゴーレムは座り心地のいい場所だったのだろう。

 しかし、そのゴーレムもレイの所有物である以上、レイが一人で行動するのなら、このゴーレムを返した方がいいのではないかと思ったのだ。


「あー……いや。まだニールセンが使っていてくれ。外に出ても、本当に安全なのかどうかは分からないしな」


 そうレイが言うと、ニールセンは心配そうな表情を浮かべる。


「ねぇ、本当に大丈夫なの? このゴーレムがいたら、何かあっても対処出来るんでしょう?」

「そうだな。けど、俺のスキルにはマジックシールドというのもある。これがあれば、ゴーレムと同じような防御力を発揮出来るし」


 その説明は必ずしも正確ではない。

 確かにマジックシールドはどのような攻撃であっても防げるが、その回数は一度だけだ。

 一度攻撃を防げば、それで消える。

 もっともマジックシールドで生み出される光の盾は、現在で三枚ある。

 それはつまり、レイは三回までならどのような攻撃を食らっても無傷ですむということだ。


「うーん……レイがそう言うのなら……」


 ニールセンもレイの――正確にはデスサイズの――スキルであるマジックシールドについては知っている。

 それでもレイがこうも自信満々に言うのならと、素直に退くことにする。


「グルゥ……」


 ニールセンとは違い、セトは素直に退くということはせず、心配そうにレイを見て喉を鳴らす。

 レイもニールセンを相手にした時とは違い、セトについては嘘を言ったりはしない。

 ……そもそも、セトはレイがどのようなスキルを持っているのか、ニールセンよりしっかりと理解している。

 また、ニールセンよりも圧倒的に長くレイと一緒にいる為に、レイの性格を十分に理解しているというのもあるだろう。


「大丈夫だから、待っていてくれ。セトが喜ぶようなお土産も持っていくから」


 この場合のお土産というのは、当然ながら未知のモンスターの魔石だ。

 この廃墟にいるアンデッドの存在を考えれば、未知ではなく既知のモンスターの魔石であっても魔獣術に使えるのだが。


「グルゥ!」


 レイの言葉で、二階に行くのは任せても問題ないと判断したのだろう。

 あるいは魔石という言葉に反応したのか。

 ともあれ、セトもレイが二階に行くのを納得したので、レイはここでニールセンとセトと別れる。

 外に出るには、天井に穴が空いているところもあるし、セトがアシッドブレスを使って壁を破壊した場所もあるので、どうやって出ればいいのかと困るようなことはないだろう。

 もっと単純に、入ってきた場所から出るといった方法もあるが。

 レイはセトとニールセンの後ろ姿を見送ると、すぐに階段を上がっていく。

 通路と同様の広さを持つ階段だけに、レイがミスティリングからデスサイズや黄昏の槍を取りだしても特に窮屈さはない。

 勿論、周囲に壁も何もない外でデスサイズや黄昏の槍を使う時と比べると、相応に扱いにくいが。

 それでもこのくらいの広さがあれば、デスサイズや黄昏の槍を使うのは難しくない。

 そもそもの話、レイはダンジョンの中やもっと狭い場所でもデスサイズや黄昏の槍を使いこなす。

 当然ながらそのような場所では斬撃や薙ぎ払いといった攻撃方法は出来ないが、突きに関しては問題なく使用出来る。


(そういう意味では、この廃墟は俺にとってはかなり使いやすい場所なんだよな。後は、二階がどのくらい壊れやすくなってるかだけど……どうだ?)


 二階は当然ながら一階よりも壊れやすくなっているだろう。

 レイにしてみれば、二階にいるだろうアンデッドとの戦いにおいて、戦っている最中に床が崩壊したり、それどころか二階そのものが崩壊するといったことは可能な限り避けたい。

 だからこそ、出来れば廃墟となった二階があまり壊れやすくなっていないで欲しいと思う。

 もっとも、それを言うのならセトとスキルを試す為とはいえ、壁をアシッドブレスで溶かしたり、衝撃の魔眼で破壊したりとしている時点でレイの考えと反対のことなのだが。

 もっともそのどちらも二階のある部分ではなく、一階部分だけしかない場所だったのだが。

 ただし、一階部分しかない場所であっても、建物全体として考えれば二階を支えているのは間違いのない事実。

 そういう意味では、レイも少し短慮だったか? と思ってしまう。

 もっとも、それは今更の話だろうが。

 この廃墟のアンデッドの魔石が色々な意味で特殊ということで驚いてテンションが上がっていたり、アシッドブレスにしろ、衝撃の魔眼にしろ、スキルのレベルが五になったことが嬉しかったということもあり、そのまま成り行きでそのような行為をやってしまったのだ。

 こうして二階に向かう途中、今更ながらにそれが失敗だったと、そのように思ってしまう。

 とはいえ、それはもう今更の話だろうが。

 やってしまった以上、ここでそれを後悔しても意味はない。


「さて」


 そんなことを考えながら階段を上り続けると、やがて最後の一段となる。

 階段を上がり切ると、そこは既に二階。


「取りあえず……スケルトンの類はいないか?」


 建物の作りそのものは、一階と違わない。

 広い通路があり、扉がありといったように。

 しかし、その通路にスケルトンの姿はない。

 一階にいたスケルトンは全て倒したのだが、もしかしたら一階にいたスケルトンのうち数匹が二階に来ている可能性もあるのではないか。

 そう思ったのだが、幸いなことにそのようなことはなかったらしい。


「けど、これは……スケルトンロードがそういう風に命令したのか? あるいは、スケルトンが本能で二階に上がらないようにしたのか。もしくはそれ以外に何らかの理由があるのか」


 その辺はレイにも分からなかったが、取りあえず通路にスケルトンがいないのはレイとしては助かる。

 ……同時に、スケルトンの魔石を手に入れることが出来ず、残念にも思ったが。

 何しろスケルトンの魔石でも複数使えば何らかのスキルを習得出来る可能性はあるのだから。

 そうである以上、魔石は多ければ多い程にいい。


「まぁ、今更ここでそんなことを考えても仕方がないか」


 スケルトンがいない以上、それについて考えても意味はない。

 なら、出来るだけ早く二階にある他の部屋を見て回った方がよかった。

 一階で破壊した壁の件もあるのだから、どうしても急いで回った方がいいと思えてしまう。


(戦闘の時も、なるべく建物……特に床に衝撃を与えないような戦い方をした方がいいな。戦いの最中に二階が潰れて廃墟が壊れたら、洒落にならない。ダスカー様が調べるにしても、かなり苦労する事になるだろうし)


 レイはギルムに戻ったら、この廃墟についてダスカーに報告しておくつもりだった。

 この辺りがどのような貴族の領土なのかは分からないが、強力なアンデッドを生み出す研究をしていた以上、そうしておいた方がいいだろうと判断した為だ。

 また、もしかしたら……本当にもしかしたらだが、この廃墟で行われていた研究成果によって、魔石を多数入手出来るかもしれないという思いもそこにはある。

 もっとも、それは本当にレイにとって都合のいい展開になったらの話で、普通に考えればそのような結果はまず無理だろうとレイ本人も思っていたが。


「ともあれ、まずは扉だな。……四つか」


 二階は一つの通路がずっと延びていて、左右に二つずつ扉があるだけだ。

 これがもっと部屋が狭いのなら、より多くの部屋が揃っていただろう。

 だが、アンデッドのいる部屋ということを考えてか、一階と同じ……あるいはそれ以上に部屋は広い。


「急ぐか。あまりセトとニールセンを待たせるのもどうかと思うし」


 廃墟の外で待っているセトとニールセンは、レイのことを心配している筈だった。

 そうである以上、出来るだけ早く二階での用事を終わらせ、外に出て自分は怪我をしていないと知らせた方がいいだろう。

 そんな風に思いつつ通路を進み、最初の扉の前で足を止める。


(一階と同じなら、部屋の中に入らない限りアンデッドがこっちを認識するようなことはない。セトがやったように、部屋の外から攻撃をすれば楽に倒せる)


 そう思って扉を開けるのだが……


「うわ、スカか」


 レイは残念そうにしながら言う。

 その言葉通り、部屋の中には何もいなかった。

 一階でもスケルトンのいたのだろう部屋には一匹もアンデッドはいなかった。

 そう考えると、やはりこの部屋にもアンデッドがいないのはそれと同じスカなのだろうとレイは思う。思うのだが……


「けど、この部屋にいたアンデッドはどこに行ったんだ?」


 ふと、そんな風に思う。

 スケルトンロードやスケルトンが一階の通路にいたので、それらがいた部屋が空だったのは分かる。

 しかし、二階には通路を見てもアンデッドがいない。

 なら、この部屋にいたアンデッドはどこにいったのか。

 レイが知ってる限り、廃墟の中を歩き回っていたのはスケルトンとスケルトンロードのみ。

 だとすれば……


(思いつく可能性は二つ。一つは、実はスケルトンロードとスケルトンは違う部屋にいて、スケルトンロードが最初に自由になってから一階に行ってスケルトンを従えた。もう一つは、そもそもこの部屋の中にいたアンデッドは既に廃墟の外に出て、どこか別の場所に行った)


 どちらが理由であっても、結局レイは新たな魔石を入手することが出来ないのは間違いない。

 それを残念に思いつつ、レイは次の部屋……残り三つある部屋のうち、空の部屋の向かいにある部屋に向かう。


「さて、ここはどうだ……お、いるな」


 扉を開けたレイの視界に入ったのは、ウィスプの群れ。

 希少種の個体はトレントの森の中央にある地下空間にいるのだが、さすがにここにいるウィスプは通常種だろう。

 ……もっとも、研究者によって何らかの改良がされたのだろう存在を通常種と評してもいいのかどうかは、レイにも分からなかったが。


「とはいえ、二階にいるからもっと強いアンデッドかと思ったんだけど」


 それこそこれなら、一階にいたデュラハンや四つ首のゾンビの方が注意すべき存在だろう。

 そんな風に思いつつ、レイはデスサイズを振るう。


「飛斬」


 放たれた飛ぶ斬撃は、数匹のウィスプを容易に斬り裂き、魔石だけを床に落として本体は消滅する。


「うん、やっぱり希少種とかでもなくて普通だな」


 特に注意することもないだろう。

 そう判断すると、連続して飛斬を放ち、次々とウィスプの数は減っていき……ものの数分もしないうちに全滅するのだった。


「さて、後は……魔石を拾うのが面倒だよな。……ああ、そうだ。ついでに」


 ここにニールセンがいないので、遠慮する必要はないだろうと判断し、レイは拾った魔石を空中に放り投げ、デスサイズで切断する。


【デスサイズは『幻影斬 Lv.一』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 恐らく外にいるセトも自分と同じアナウンスメッセージを聞いて驚いているのだろうと思いつつ、新たなスキルを習得したことを嬉しく思う。

 レイとセトが離れていても、どちらかが魔獣術によってスキルを習得、あるいはレベルアップした場合、アナウンスメッセージを聞くことが出来る。

 これは以前……レイがランクアップ試験をやるのにセトと離れていた時に、実際に経験している。

 そうである以上、今のアナウンスメッセージもセトにはしっかりと聞こえている筈だった。


「ともあれ……」


 まずは習得したスキルを試してみることにする。

 名前からして、セトが壁に使ったように建物に被害を与えるスキルではないだろうという思いからの行動だ。

 ニールセンと合流したら、スキルを使いにくいという思いもそこにはあったが。


「幻影斬!」


 スキルを発動しながらデスサイズを振るうと、不意にデスサイズの横にもう一本のデスサイズが現れ、レイの振るった軌道と全く同じ軌道でレイが持ってる訳ではなく、空中に浮かんだデスサイズが振るわれるのだった。

【デスサイズ】

『腐食 Lv.七』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.六』『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.六』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.六』『飛針 Lv.二』『地中転移斬 Lv.一』『ドラゴンスレイヤー Lv.一』『幻影斬 Lv.一』new



幻影斬:デスサイズを振るった時、デスサイズの幻が生み出されてレイが振るう一撃と同じ軌道で振るわれる。ただし、それはあくまでも幻影で、触れてもダメージはない。レベル一で生み出される幻影は一つ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >それはあくまでも幻影で、触れてもダメージはない フェイント用のスキルですね、レイの戦闘力ならあまり使いどころが無さそうなスキルですけど、強敵を相手にするには良い手段が手に入りましたね。
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