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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3370/3865

3370話

「ふぅ」


 どこかすっきりとした様子で、レイは魔剣を手に周囲の様子を眺める。

 レイが意図的に魔法で消滅させずに残った穢れは、結局その全てがレイの持つ魔剣によって消滅させられた。

 実際にはまだ消えたのが本当の意味での消滅なのか、実は転移なのかはレイにも判別出来なかったが、取りあえず消滅ということにしておいたのだ。

 穢れが目の前から消えた以上、取りあえずそういう風に認識してもほぼ間違いはないだろうと。


「凄いわね、その魔剣」


 いざとなったらレイを助けるつもりだったニールセンだったが、結局その機会は一度もなかった。

 何しろ穢れは相手に攻撃されない限り自分から意図的に攻撃をするといったことはないし、そして魔剣は少しでも触れば穢れを消滅させてしまう能力を持っているのだから。

 結果として、レイが一方的に穢れを攻撃するということになっていた。

 まさに穢れに対して特効を持つという表現が相応しい……いや、特効などという言葉ではなく、理不尽なまでの優位性を持っている。


「そうだな。素直に凄いと思う。思うけど……何だってオーロラはこの魔剣を隠し持っていたんだ?」


 穢れにとっては、まさに天敵の魔剣。

 これが、例えば穢れの関係者に敵対している個人や組織が持っているのなら、まだレイにも納得出来た。

 だが、レイが知ってる限りでは、オーロラは真面目に世界の滅亡を望んでいる。

 そんなオーロラが、何故穢れの天敵たる魔剣を隠し持っていたのか、レイには分からない。

 例えば穢れの関係者と敵対する者から奪い取ったのなら、そのまま魔剣を隠し持つようなことはせず、それこそ折るなりなんなりするだろう。


(つまり、オーロラには何かこの魔剣を廃棄出来ない理由があった? 具体的にそれがどういう理由なのかは分からないけど)


 そんな疑問を抱きつつ、レイは改めて魔剣を見る。

 触れただけで穢れを消滅させるというのも影響してるのか、魔剣の刀身に汚れの類は一切存在しない。

 レイのデスサイズはともかく、普通の武器というのは使えば相応に損傷する。

 目に見えない小さな傷がついたり、倒した相手の血や体液が刃に付着したりといった具合に。

 それは実戦で使う武器である以上、仕方のないことだ。

 しかし、レイの持つ魔剣の刀身には何の汚れもない。

 穢れが一種の気体のような存在だからなのか、あるいはもっと別の理由からなのか。

 生憎とレイにはその辺は分からなかったが、とにかく穢れに対して使っている時に限っては、この魔剣の刀身が摩耗するといったことはないのだろう。


「後は、俺以外の者が使っても同じ結果になるか知りたいところだけど」


 自分が圧倒的な魔力を持っていると知っているレイは、自分以外の者がこの魔剣を使った時にも同じようになるのかどうかが知りたい。

 とはいえ、それを試せる人物はここにはいないが。

 ここにいるのは、レイ以外にニールセンとセトだけだ。

 ニールセンは妖精で小さいので、魔剣を持って敵を攻撃するのは難しい。

 セトは可能かもしれないが、セトはレイの魔力から生み出された存在である以上、別の誰かの区別には入らない。


「野営地に行って試してみたら?」

「それしかないか。そもそも、穢れについて知っていて戦う機会のある者は少ないしな。ただ……野営地の冒険者達に貸したら、この魔剣を返してくれるかどうか分からないのがちょっとな」


 ブルーメタルで穢れを近付かせず、ミスリルの釘で穢れを捕らえることは出来る。

 そうして捕らえれば、やがて餓死する。

 だが、餓死させるにはある程度の時間が必要となるのがネックだった。

 それに対して、この魔剣は少しでも穢れに触れれば、それで消滅させることが出来るのだ。

 野営地の冒険者にしてみれば、そのような魔剣があるのなら是非とも自分達で使いたいと思ってもおかしくはない。

 レイもその気持ちは分かるが、だからといってこの魔剣を野営地の冒険者に貸し出す訳にはいかなかった。

 この魔剣はエレーナが……もしくは、ビューネが使う予定になっている魔剣なのだから。

 そうである以上、もしこの魔剣を貸して欲しいと言われてもレイは断るしかない。

 レイにとって幸いだったのは、野営地にいる冒険者は能力的には勿論、性格的にも善良な者達を選んだということだろう。

 ……ニールセンがそれを聞けば、大きく反対の声を上げるだろうが。

 ともあれ、野営地にいる冒険者はそのような者達だけに、魔剣をレイから奪おうとはしないだろう。

 恨めしい視線を向けられたりはするかもしれないが。


「けど、野営地に穢れが現れていると思うか?」


 そう言い、レイの視線が向けられたのはブルーメタルが置かれた場所だ。

 そこには今はもう何もないが、今朝ここに来た時は百匹以上の穢れが存在していた。

 この場所にこれだけの穢れが集まっている以上、他の場所に穢れが現れたかどうかは微妙なところだというのがレイの予想だ。

 それでも野営地に寄るのは特に面倒なことでもないので、今日これからギルムに行く前に寄ってみようと、そうレイは考える。


「ギルムに行く前に野営地に寄るか。……とはいえ、昨日の今日で妖精郷をそのままにしておくのはちょっと心配だけど」


 昨日の雷蛇の襲撃では、長による結界で妖精達の被害は少なかった。

 狼達の中にも、そのお陰で生き残った個体がいる。

 だが、そこまで頑張った為に長は魔力を殆ど使い果たし、今は回復している最中だ。

 そんな中、再び雷蛇と同じ……とまではいかないが、それでも高ランクモンスターが姿を現したら、どうなるか。

 最悪妖精郷は滅亡、どんなに幸運でも大きな被害を受けるだろう。

 本当に幸運なら、そもそも敵に襲われるといったことがないのだろうが。


「それは心配よね。辺境だから昨日みたいなことが起こるんでしょう?」

「そうなる。さすがに昨日の雷蛇のようなモンスターはそう頻繁には現れないと思うけど、それも絶対ではない」


 辺境だからこその危険。

 だが同時に、辺境だからこその資源でもある。

 レイが昨日解体した雷蛇の素材は、それこそ一般人なら十人以上が一生遊んで暮らせるだけの金額になってもおかしくはない。

 辺境以外の場所で、そのような高ランクモンスターと遭遇することは絶対にない……とまではいかないが、辺境に比べて高ランクモンスターと遭遇するのが圧倒的に難しいのは間違いない。

 だからこそ、辺境のギルムには腕利きの冒険者が集まるのだ。

 ……最近はギルムの増築工事で弱い冒険者や、そもそも増築工事の仕事をする為に冒険者として登録した一般人も多いのだが。


「じゃあ、どうするの? セトを残していく?」

「グルゥ!?」


 ニールセンの言葉に、セトは慌てたように喉を鳴らす。

 セトは自分がレイと別行動となるとは思ってもいなかったのだろう。

 置いていかないよね? といった、円らな瞳をレイに向けるセト。

 レイはそんなセトに笑みを浮かべて、撫でる。


「セトを置いていくつもりはないから安心しろ。そもそも、セトに乗って飛ばないとギルムまで一体どれだけ掛かるか分からないし」


 セトに乗れば、トレントの森からギルムまで数分程度だ。

 それに対して、セトに乗らずに地面を走るなり歩くなりして移動するとなると、数十分……あるいは一時間以上は掛かってもおかしくはない。

 レイにとって幸運なのは、もう冬ということでギルムに入る手続きをする際に人が少ない――いない訳ではないが――ことくらいか。

 それにしたって、セトに乗って移動すれば領主の館に直接降りられるので、手続きの手間も必要ないのだが。


「結局のところ最適な行動はセトに乗って移動して、素早く用事を終えて戻ってくるってことなんだろうな。セトとニールセンもそれでいいか?」

「グルルゥ」

「それが一番早そうだし、それがいいと思うわ」

「一応、またブルーメタルで罠を作っていくか」

「引っ掛かると思う? もう二回も使った罠なのよ?」


 ニールセンは同じ罠に何度も引っ掛かるのかと、そんな疑問を抱く。

 だが、レイは数こそ今日よりも少なくなるかもしれないが、それでも明日の朝には再び穢れが集まっているのは間違いないと思えた。


(問題なのは、穢れ以外のモンスターが実はこの辺りで死んでいるかもしれないって事だが……どうだろうな?)


 穢れに触れると、問答無用で黒い塵となって吸収されてしまうのだ。

 もしモンスターがやって来て、ブルーメタルの周囲に集まっている穢れに興味を抱いて近付いて触れた場合……あるいは喰い殺そうと攻撃した場合、そのモンスターが死んでしまうのは間違いない。


(そう考えると、もし雷蛇が穢れと遭遇したら……)


 妖精郷に大きな被害を出した雷蛇だったが、穢れと遭遇しなかったのは幸運だったのだろう。

 もっとも、穢れに遭遇しない代わりにレイ達と遭遇して殺されてしまったのだが。


「よし、一旦妖精郷に戻って、長に事情を説明してから野営地に向かうぞ。……とはいえ、野営地に穢れが現れているのかどうかは分からないけど」

「ブルーメタルにここまで集まっていたしね。そう考えると、野営地の方には全く穢れがいない可能性もあるんじゃない?」

「かもしれないな。けど、ブルーメタルに集まってくる穢れの数が減れば、野営地の方でも穢れがまたやって来るかもしれないし。そうなったら試して貰えるだろ」


 そう言い、レイはセトとニールセンと共に妖精郷に戻るのだった。






「やっぱり狼の数が少ないのはちょっと問題じゃないか?」


 妖精郷の中に入ったところで、レイはニールセンにそう言う。

 レイが昨夜セトに雷蛇の魔石を使ってから戻ってきた時も思ったが、霧の空間とそこに住む狼は、妖精郷を守る最後の砦とも呼ぶべき存在だ。

 だが、その狼の多くが雷蛇に喰い殺されたり、生きてはいるが怪我をしている。

 その怪我の治療が終わるまで、狼達が霧の空間に戻ることはないだろう。

 いや、霧の空間には戻るかもしれないが、侵入者を防ぐという仕事はまず出来ない。

 つまり、妖精郷の防御力そのものが落ちているのだ。

 勿論、トレントの森の奥深くにあるこの妖精郷に辿り着くことそのものが、そもそも難しい。

 誰でも好きな時に来られる訳ではない以上、そう簡単に何者かに襲撃を受けるといったことはないだろう。

 だが、それでも万が一ということがあるのは、雷蛇の件を見れば明らかだ。


(ダスカー様に兵士か騎士を送って貰うか、冒険者に護衛を依頼するか? いや、けどそれは……そもそも野営地のように、拠点になる場所がないしな)


 妖精郷を守るというだけなら、護衛を置けばいい。

 だが、セトに乗って移動出来るレイではないのだから、まさかギルムから妖精郷まで毎日通う訳にはいかない。

 野営地から妖精郷まで通うのも大変だろう。

 ましてや、今のトレントの森は多くの動物やモンスターが集まっており、それぞれ自分の縄張りを得る為に日々激しい殺し合いをしているのだから。

 それに穢れの件もある。

 ある程度の対処法が出来たものの、だからといって穢れは決して油断出来るような相手ではない。

 その辺の危険性を考えると、わざわざ通いで妖精郷の護衛をするというのは現実的ではないだろう。


(妖精好きの連中なら、その現実的ではないことを平気でやりそうなのが怖いんだけど)


 野営地にいた妖精好きの面々を思い出しながら……ふとレイは思いつく。


(妖精好きの連中なら、一日に何度か妖精郷から妖精が姿を現して会話をするだけで報酬代わりになるんじゃないか?)


 妖精好きの面々なら平気でここまで通いそうで怖いと思った次の瞬間には、その妖精好きを利用するのを考えている辺り、レイらしいのだろう。


(もしくはいっそ妖精郷を拠点に使わせて貰えば……けどそうなると、冒険者とかは駄目か? 幾らギルドが性格的な問題がないと保証しても、結局個人やパーティで動いてるんだし。その場合は、ダスカー様の兵士……いや、場所の重大性を考えると騎士だな)


 妖精郷を守るのだから、妖精郷にいるのが最善なのは間違いない。

 そう思いつつ、レイ達は妖精郷の中を進む。

 長に会って魔剣について説明し、領主の館に行くと話し、そして霧の空間の代わりに何らかの護衛を用意出来ないかと、そう提案する為に。

 もっとも、その場合は何故護衛を用意するのかをダスカーに説明しなければならず、なし崩し的に雷蛇の件も説明しなければならなくなるのだが。

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