3318話
このライトノベルがすごい!2023が始まりました。
レジェンドも投票作となっています。
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回答期限は9月25日23:59分ですので、是非レジェンドに投票お願いします。
「あーあ、負けちゃった」
最後まで生き残った妖精……そしてレイに一緒に遊ぼうと誘った妖精は、自分が捕まったことで残念そうに言う。
「ありがとな、いい気分転換になったよ」
「そう? 別に私はそういうつもりじゃなかったんだけど。それでもレイが楽しかったのならいいわ。また遊びましょうね」
そう言い、妖精は他の妖精達のいる場所に向かう。
レイはそんな妖精の姿を目で追うと、その場を後にする。
レイを相手に追いかけっこをした他の妖精達は、既にレイのことは忘れたかのように話をしていた。
レイにしてみれば、妖精の様子に妖精らしいという思いを抱く。
(缶蹴りについては……まぁ、今は特に教える必要はないか。空を飛べる妖精が缶蹴りをしたら、一体どうなるのか全く分からないし)
空を飛べるということは、三次元での行動が可能だということだ。
レイの知っている缶蹴りは普通に地面を走って移動する、言わば二次元での缶蹴り。
二次元が三次元になったことで一体どうなるのか。
少し興味があるのは事実だが、妖精達に詳しいルールを教えることの大変さを考えると、迂闊に缶蹴りについて教えるようなことはしない方がいいだろうと予想出来た。
「気分転換は出来たし、いいか」
妖精と追いかけっこをして、それによってレイも十分に気分転換が出来たのは間違いない。
それで満足をしたレイとしては、これ以上妖精達と一緒にいても、また何らかの遊びに巻き込まれるだけだと判断して、その場を離れる。
(そう言えば、ボブはどうしたんだ? いつもならこういう時は真っ先に連れてこられてもおかしくはないと思うんだが)
ボブは妖精達に好かれている。
それこそ妖精郷から出る時に、一緒に妖精達がついていくくらいには。
……もっとも、それは妖精達がボブに好意を抱いているというのもあるが、それと同等に……あるいはそれ以上にボブを妖精郷から出る為の理由として使っていたりもするのだが。
(狩りにでも行ったのかもしれないな)
ボブは腕利きの猟師だ。
雪が降って、これから春までそう簡単に妖精郷から出られなくなるかもしれない以上、何かあった時の為に食料を用意しておくというのは不思議な話ではない。
寧ろボブの性格を考えれば、当然だろう。
「まぁ、ボブのことだ。俺が妖精郷に戻ってきたと他の妖精から聞けば、すぐに顔を出すだろうけど」
レイが穢れの関係者の件で洞窟に向かったというのは、ボブも知ってる筈だった。
そしてボブは、穢れの件については一番の被害者ですらある。
だからこそ、レイが今回洞窟に行った件で何か分かったのなら、それを知りたいと思ってもおかしくはない。
ダスカーからは出来るだけその件について話さないように言われているが、ボブはこれ以上ない関係者だろう。
また、もしボブが知ったところで、それを一体誰に話すというのか。
妖精郷で暮らしている以上、妖精以外の者達と会うのはそう簡単な話ではない。
あるいは今のように狩りをする為に妖精郷から出ている時に誰か……可能性として一番高いのは野営地にいる面々かリザードマン達だろうが、そのような者達に会ってもわざわざ穢れの本拠地がベスティア帝国にあるといったことを言うとは思えない。
また、その本拠地に冬の間に奇襲を仕掛けるといったことを言っても、意味はないだろう。
(いや、そうでもないか?)
リザードマン達の中でもガガのように強者との戦いを求める者も多い。
もっとも、冬に奇襲を仕掛ける。セト籠で移動。敵は基本的に穢れを使ってくる。
リザードマンにとっては、悪条件が整いすぎているので、向いていないが。
ヴィヘラのように、何らかの手段で穢れを倒すことが出来れば、また話は別だったが。
残念ながら、レイはガガが穢れを倒せるようになったとは聞いていない。
その時点で、ガガを連れていくというのは選択肢になかった。
「あ、レイ。どうしたの、こんな場所で?」
先程追いかけっこをしたのとはまた違う妖精が、レイを見つけると声を掛けてくる。
そんな妖精に対し、レイは少し困った様子を見せる。
先程は自分でも気分転換をしないといけないと思っていたので、追いかけっこに参加した。
だがその追いかけっこも終わり、それによってレイはもう十分に気分転換が出来たのだ。
今ここで妖精達に遊びたいと言われても、生憎とそれに参加をするつもりはなかった。
「ちょっと疲れたからな。いつもの場所で少し休もうと思って」
「ふーん、そうなの。あれ? ニールセンは?」
レイが妖精郷にいる時はニールセンと一緒にいることが多い。
なのに今のレイは一人だけなので、妖精はそれが気になったのだろう。
「長と一緒にいるよ」
「ああ」
レイの一言ですぐに納得出来たらしく、妖精は納得した表情を浮かべる。
……その納得の表情の中には、ニールセンに対する哀れみが多分に混ざっていたが。
妖精の中では、恐らくニールセンは長にお仕置きをされていることになっているのだろう。
実際には少し違うのだが。
ただ、ニールセンにしてみれば勉強もまたお仕置きに近い。
そういう意味では、妖精の考えも決して間違っている訳ではないだろう。
「じゃあ、私が一緒にいてあげようか?」
「一緒にいるって言われてもな。別に妖精郷に案内とかはいらないぞ?」
何だかんだと、レイは妖精郷で寝泊まりをしている時間は長い。
それこそレイにとって妖精郷の中でもう知らない場所などないと言ってもいいくらいに。
……実際には長の住んでいる場所の付近についてはあまり理解出来ていないのだが。
それでもそれ以外の場所……普通の妖精のいる場所では、わざわざ案内して貰う必要はない。
「いいじゃん、いいじゃん。ほら、私が一緒に行動してあげるから」
「……もしかして、暇なのか?」
「それもあるわ」
あっさりとレイの言葉に頷く妖精。
そんな妖精に呆れつつ、レイは口を開く。
「さっきも言ったけど、俺は疲れてるんだ。いつも俺が寝泊まりしてる場所に行ったら、後はゆっくりとするつもりだ。それでいいなら一緒に来てもいいぞ」
「えー……妖精郷の案内をするって言ったじゃない」
「そう言われても、この妖精郷について俺の知らないところがない……とは言わないけど、かなりの場所を知ってるんだぞ? それに、雪もいつ降ってくるか分からないし」
地面には少しだが雪が積もっている。
今日これから他にも雪が降るのかどうかは、レイにも分からない。
だが、もしかしたらということを考えると、あまり歩き回りたくないというのが正直なところだった。
マジックテントの中にいれば、雪が降ってきても全く問題ない。
(いや、焚き火が問題か)
雪が降ってくれば、それによって焚き火も消えてしまう。
薪を用意しておいてセトに焚き火が消えないようにして貰うという手段もあるので、セトに頼めば問題はないのだが。
「雪が降ってきたからじゃない」
レイは雪がいつ降ってくるか分からないから、マジックテントでゆっくりしたいと思った。
だが、妖精にしてみれば雪が降ってきたからこそ遊びたい、はしゃぎたいと、そう思っているのだろう。
(子供か? ……妖精の性格を考えると、そう違いはないか)
雪が降ってきてテンションが高くなり、はしゃいでいる妖精。
もしかしたら、追いかけっこをやろうとレイを誘った妖精も、雪が降ってテンションが高くなっていたのかもしれない。
今更ながらにそんな風に思うも、あの時はレイも気分転換をしたかったので、その件について何か思うところはない。
「悪いけど、ちょっと疲れていてな。ボブでも誘ってみたらどうだ? それともやっぱり狩りにでも行ってるのか?」
ふと、レイは先程気になったボブについて妖精に尋ねるが、そんなレイの問いに妖精はあっさりと頷く。
「そうよ。ちょっと食料を多めに用意しておきたいって。妖精郷に来てから、結構食料は貯め込んでいたのに」
「貯め込んだ先から、お前達が食べたからじゃないのか?」
「う……そういうこともあったような、なかったような……ただ、それでも十分に干し肉とかは残しておいたわよ!」
しっかりと自分で罪を自白する妖精に、レイは呆れの視線を向ける。
「つまりボブが狩りをしに行ったのは、冬の間にお前達に保存食を食べられてもいいようにってことじゃないか。……ボブも食料がないと生きていけないんだぞ? やりすぎれば、長のお仕置きが待ってると思うけど」
「そ、それは……」
妖精達にとって、やはり長のお仕置きというのは怖いのだろう。
ニールセンがお仕置きされている光景を何度も見ているだけに、自分があのような目に遭うと思うと、やはり怖いのだろう。
「やりすぎればお仕置きされると思うから、程々にしておけよ」
「わ、分かってるわよ。言っておくけど、別に私達だってボブの食べ物を貰ってばかりじゃないわよ。私達が採ってきた野草とか果実とかキノコとか、そういうのを渡してるんだからね」
「なら、いいんだけどな」
妖精の言ってることが、どこまで真実なのかはレイにも分からない。
もしかしたら誤魔化す為に嘘を言ってるだけという可能性もあるが、長のお仕置きの件を考えると、ここでレイに嘘を言っても意味がないのは間違いない。
……いや、それどころかレイに嘘を言ったということで、余計にお仕置きが厳しくなる可能性すらある。
「じゃあ、そういう訳で俺はマジックテントを設営してくるから……って、結局一緒にくるのか?」
レイは妖精と別行動をするつもりだったが、何故か妖精がレイと一緒にやってくる。
一体何を思ってそんなつもりになったのか、生憎レイには分からない。
分からないが、それでもこうして自分のいる方にやってくるのをわざわざ追い払ったりはしない。
「うーん、何となく? そう、何となくレイと一緒にいたらいいような気がして」
「別に構わないけど、何も面白いことはないぞ?」
妖精にしてみれば、このままレイから離れると何となく嫌な予感でもしたのだろう。
だからこそ、その勘に従ってレイと一緒に行動することにしたのだろう。
レイは別に妖精が一緒に行動しているからといって、特に何か不都合がある訳でもないので、そのまま妖精と一緒に行動する。
「それより、ニールセンと一緒にどこか遠くに行ってたんでしょう? 何か美味しい料理とかあった?」
「うーん、そういうのはなかったな。基本的に野営だったし。一応村にも泊まったけど、小さい村で何か特産品の類がある訳でもなかったな」
敢えて収穫となると、盗賊達から奪った小粒の宝石くらいだろう。
だが、妖精が欲しいのはあくまでも食べ物だ。
宝石についてはそこまで興味がないのだろう。
(妖精でも宝石とかは綺麗なんだし、興味を持ってもおかしくはないと思うんだが)
そんな疑問を抱き、一応といったようにレイはミスティリングから小粒の宝石を取り出す。
「その代わり、こういうのは手に入れたぞ」
「え? 何々?」
レイの言葉に興味を抱いた様子の妖精だったが、それが小粒の宝石だと知ると、すぐに興味を失う。
「なーんだ、宝石か。何か美味しい料理とかだと思ったのに」
「一応聞くけど、宝石とかには興味がないのか?」
「うーん、妖精によるんじゃない? 私は宝石は綺麗だとは思うけど、それだけだし」
「そういうものか」
宝石を売れば結構な金になり、その金を使えばギルムでも色々な料理が食べられる。
そう教えようと思ったレイだったが、もし妖精がそれを知ったら、間違いなく面倒なことになるだろうと予想出来てしまう。
そうである以上、わざわざここでそんなことを話す必要はないだろうと判断する。
大人しく宝石をミスティリングに収納し、妖精郷の中を歩く。
「ん?」
いつもマジックテントを設営している場所に近付くと、そこから何らかの気配を感じたレイだったが、すぐに安心した様子を見せる。
その気配の中には、レイにとっても馴染み深いものがあったからだ。
そして事実、レイの視線の先には馴染み深い相手……セトの姿が見えてくる。
ピクシーウルフ達と走り回って遊んでいる様子は、遊びであると同時に狩りの練習でもあるのだろう。
必死になって走り回っている様子に邪魔をするのも悪いかと思い、レイは少し離れた場所で様子を見る。
とはいえセトがレイの気配に気が付かない筈もなく、ピクシーウルフ達に追われながらもレイの方を見る。
そんな真似をしても、ピクシーウルフ達はセトに追いつかない。
必死になって走る様子は、愛らしさもあるがやはり真剣な思いの方が強い。
「あのピクシーウルフ達も、いずれは妖精郷から出ていくのか?」
「うーん、どうかしら。もしかしたらずっと妖精郷の中に棲み着いて、妖精郷が移動する時も一緒にくるかもしれないわね」
妖精の言葉に、レイはそういうものかと納得するのだった。