3317話
このライトノベルがすごい!2023が始まりました。
レジェンドも投票作となっています。
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回答期限は9月25日23:59分ですので、是非レジェンドに投票お願いします。
洞窟の件での情報の共有が終わると、レイは早々に長のいる場所から立ち去ることになった。
これは長が言っていた妖精の秘術についてニールセンに教えるからだ。
その秘術がどういうものなのか気になったレイだったが、それを無理に聞こうとしてもそれこそ問題となるだけなのは理解出来ているので、素直にその場から離れる。
「こうして本当の意味で一人になるのも珍しいな」
妖精郷の中を歩きながら、レイは呟く。
セトはピクシーウルフ達と遊んでおり、ニールセンは長と妖精の秘術について話している。
マリーナとヴィヘラはギルムにいる。
こうしてレイが一人になっていると……
「あ、レイだ! ねぇ、ねぇ、一人なの? 暇なら一緒に遊ばない?」
「だよな……」
レイの姿を見つけた妖精が即座にそう声を掛けてくる。
レイが久しぶりに一人だといったような気分に浸っていたのだが、その気分は一瞬にして消えてしまう。
果たしてそれを喜んでいいのかどうか、レイは分からなかったが。
「どうしたの?」
そんなレイの気分など読める筈もなく、レイに声を掛けてきた妖精は不思議そうに尋ねる。
「ん? いや、何でもない。それより遊ぶって何をして遊ぶんだ? 俺には妖精の遊びとかそういうのは分からないぞ?」
「うーん、そうね。追いかけっことか?」
「……妖精とか?」
妖精の追いかけっこは、レイもこの妖精郷で何度か見たことがある。
妖精である以上当然だが、基本的に空を飛んで行われていた。
そんな追いかけっこにレイが参加するとなると、スレイプニルの靴を使ったりする必要があるだろう。
それによって、一体どのようなことになるのか……間違いなく普通の追いかけっこにはならないだろう。
レイに声を掛けてきた妖精は、そのような普通ではない……妖精同士とはまた違った追いかけっこをしたいと考えたらしい。
妖精もレイがスレイプニルの靴を持っていると知ってるかどうか、レイも疑問ではあったが。
「そうよ。どう? やってみない?」
「……そうだな。ちょっとやってみるか」
普段なら面倒だと断ったかもしれないが、今日はたまたまそのような気分になったのだろう。
「え? 本当?」
「いや、何で誘ってきたお前が驚くんだよ」
「だって本当に追いかけっこをやってくれるとは思わなかったもの」
妖精にしてみれば駄目元でレイを誘ったのだろう。
しかし、レイは断ることなく妖精の頼みを引き受けたのだ。
「じゃあ、止めるか?」
「やるやる! ちょっと待ってて。他に追いかけっこをするって妖精達を呼んで来るから!」
そう言うと、妖精はレイの前から素早く飛び去る。
そんな妖精の様子を見ていたレイは、特に何をするでもなく妖精を見送る。
(妖精との追いかけっこ……つまり鬼ごっこか。たまには気分転換もいいよな)
洞窟の件が終わり、それによって少し気が抜けたレイにとって、少しくらい気分転換をするのは悪い話ではないと思える。
とはいえ、妖精と追いかけっこをする以上、かなり大変なのは間違いなかったが。
特にやることもないので、ぼーっと妖精郷を見ていたレイだったが、不意に自分の方に向かってやってくる妖精達の存在に気が付く。
「マジか」
思わずそう声を発したのは、先程の妖精以外に三十人近い妖精がいたからだ。
話の流れから、恐らく連れて来ても十人くらいではないかとレイは思っていた。
だが、そんなレイの予想が完全に外れた形だ。
最初は疲れて幻覚でも見ているのではないかとすら思ったものの、改めて妖精達の方を見ても、やはり妖精の数は減っていない。
「お待たせ、レイ。レイと追いかけっこをやりたいって妖精はこのくらいいたわよ」
「……多すぎじゃないか?」
「それだけレイが人気だってことなんだから、いいでしょ?」
「嫌われているよりいいのは間違いないけど」
レイにしてみれば、自分が妖精達から嫌われていないというのは悪い話ではない。
だが、だからといってこれだけの人数と追いかけっこをやるのかと言われれば、正直微妙な気持ちだった。
しかし、このまま考えていても意味はないと頭を切り替える。
(元々俺が妖精達と追いかけっこをやるのは、気分転換が目的だった。だとすれば、ここで多数の妖精と追いかけっこをするのは、気分転換をするにはちょうどいい筈。なら、今回の件は寧ろ喜ぶべき)
それは半ば自分に言い聞かせるかのような言葉ではあったが、それでも効果はあったのか、それなりにやる気に満ちてくる。
「よし、じゃあ追いかけっこをやるぞ。ただ、これだけ人数がいると俺も追い掛けるのは難しいから三つの組みに別れてくれ」
レイの指示に素直に従う妖精達。
もしここで素直にレイの言葉に従わなければ、追いかけっこが出来なくなると理解しているのだろう。
あるいはレイを困らせたということで長に叱られるかもしれないという思いもあるのか。
レイとは遊びたいが、そこには怖い思いも十分にある。
そんな妖精達だけに、レイの言葉を素直に聞いていた。
(こんなに素直に俺の指示に従うのは、ちょっと驚きだな)
レイは何故妖精がここまで素直に自分の指示に従うのか、全く分からなかった様子だったが。
ともあれ、妖精達は十人くらいずつにそれぞれ別れる。
「よし、じゃあ……そっちの組から順番に追いかけっこをしよう。俺が触れたら、その妖精は捕まったということにする。逃げられる範囲は、俺達がいるこの辺ってことで」
妖精郷全体で追いかけっこをするとなると、それこそ他の妖精達と一緒に行動されると、その相手が追いかけっこの対象かどうか分からないので、レイは逃げられる場所をそう宣言する。
「後は、こっちは当然だが木の中に入るのはなしで。もしそれが許可されたら、俺は木を切断するしかないし」
妖精同士の追いかけっこなら、木の中に入って隠れるというのはルール的に問題ないのだろう。
何しろ追う方も木の中に入ることが出来るのだから。
だが、レイにはそのようなことが出来ない。
もし木の中に逃げられてしまったら、それこそレイが口にしたように木を切断するといったことをしなければ、妖精を見つけることが出来なかった。
妖精達もそれは分かっているのか、木の中に隠れるのを禁止されても反対する者はいない。
「よし、じゃあ始めるぞ。まずは俺が十数えるから、その間に逃げてくれ」
普通に考れば、十秒というのは非常に短い。
しかし妖精の場合は空を飛べるので、十秒もあれば逃げるのに全く問題はなかった。
「きゃあああああ!」
「逃げろ、逃げろ!」
「ちょっと、こっちは私が行くから、あんたはそっちに行ってよ!」
「嫌よ、私はこっちに逃げるんだから!」
若干の言い争いはありつつも、逃げていく妖精達。
レイはそんな妖精達の様子を気にせず、数を数えていく。
「八、九、十……よし、行くぞ!」
素早く叫ぶと、レイはすぐに駆け出す。
雪が降った為に地面が少し濡れているが、そのくらいのことはレイにとって何の問題もない。
素早く地面を蹴って、まずは一番近くにいた妖精との距離を縮める。
「え? ちょ……」
レイに狙われた妖精は、まさか真っ先に自分が狙われるとは思っていなかったのか、驚きの声を発して何とか逃げようとする。
しかし、妖精が飛ぶのとレイが地面を蹴って距離を縮める速度では、圧倒的に後者の方が上だった。
レイの伸ばした手が妖精に触れる。
そのまま鷲掴みにしたりといったようなことはなく、レイは伸ばした手で妖精に触れるだけだ。
もし妖精を鷲掴みにしてしまえば、相手を怪我させてしまうかもしれないのだから。
「あー……」
「ほら、捕まった妖精は向こうの方で待ってろ。次、行くぞ!」
『きゃあああああ!』
レイの言葉に、妖精達は一斉に逃げ始める。
別々の方向に逃げる妖精もいれば、同じ方向に逃げる妖精もいる。
そんな妖精達を、レイは次々と捕まえていき……
「最後だ!」
素早く九人の妖精を捕まえ、残りは最後の一人となる。
レイから必死に逃げようとする妖精。
高度を取ればレイでもそう簡単に追いつくことは出来ないだろうと判断し、上に逃げるが……
「甘い」
元々妖精がレイを追いかけっこに誘ったのは、レイと遊びたいという思いもあるが、同時にレイがスレイプニルの靴によって空中を蹴って移動することが出来るからというのもあった。
レイはスレイプニルの靴を発動し地面を蹴り、二段、三段といった様子で空中を蹴って上昇していった妖精を追う。
「え……?」
最後に残った妖精は、レイがスレイプニルの靴というマジックアイテムを持っているのを知らなかったのか、それとも逃げるのに必死で忘れていたのか。
自分を追ってきたレイから必死に逃れようとするが、妖精の飛行速度とレイがスレイプニルの靴で空中を蹴る速度では後者の方が上だ。
最後に残った妖精も呆気なく捕まり、最初の組みとの追いかけっこはレイの勝利で終わる。
「さて、次だ。どっちから来る?」
残っている組は2つ。
どちらからでも来いというレイの言葉に真っ先に一人の妖精が反応する。
「私達が行くわ! いいわよね?」
「えー……私達がやりたかったのに……」
一歩遅れた妖精がそう言うものの、早い者勝ちなのは間違いない。
結局素早く自分がやると主張した妖精達と追いかけっこを行う。
(これ、改めて考えるとやっぱり鬼ごっこじゃないよな?)
スレイプニルの靴を使って空中を自由に跳び回り、次々に妖精達を捕まえながらレイはそう考える、
鬼ごっこというのは、相手に触れる……タッチすれば、その相手が鬼となる。
だが、この追いかけっこは最初から最後までレイが鬼で、レイに触れられた相手はそれで捕まったことになって退場となるのだ。
レイが知ってる遊びで一番近いのは、缶蹴りか。
ただし、缶蹴りは相手を見つけたと宣言した上で缶のある場所まで戻って缶を踏まないといけない。
また、逃げている者達が缶を蹴ることに成功すると、捕まっていた者達は全員解放される。
それに比べると、レイ達がやっている追いかけっこはレイが触れればその時点で相手は退場となるし、一度退場となった者は一旦終わるまで追いかけっこに再度参加することは出来ない。
(妖精独自の遊びと考えれば、そんなにおかしくはないか。寧ろ缶蹴りとか妖精達に教えたらどうなるのか、ちょっと楽しみだけど。……あ、でも缶がないか)
缶がないのならコップか何で代用すればいいかとレイは思っている間に、最後の一組が出て来る。
「レイの行動は見切ったわ。速いけど、決して逃げられない訳じゃない。私達が勝ってみせるからね」
そうレイに言ったのは、レイに遊ばないかと誘ってきた妖精だった。
何だかんだと、三番目に回ってしまったらしい。
「そうか。けど、俺もそう簡単には負けないぞ。……ルールはさっきまでと同じだ。じゃあ、十数えるからな。一、二、三……」
レイが数え始めると、妖精達は一気に逃げ出す。
前の二組の追いかけっこを見ていたからだろう。
逃げる妖精達はそれぞれが別の場所に向かい、複数の妖精達が一緒の方向に逃げるといったことをしていない。
一緒の方向に逃げているとまさに一網打尽といった様子でレイに捕まると学習したのだろう。
「けど……それなら、一人ずつ捕まえればいいだけだ。行くぞ!」
レイは鋭く叫び、地面を蹴ってスレイプニルの靴を発動し、空中を蹴って少し離れた場所にいた妖精との距離を一気に縮める。
「うきゃっ、嘘でしょ!? 何でこっちに来るのよ!」
まさか自分が狙われるとは思っていなかったのか、妖精が叫んで逃げようとするものの、生憎とレイはそんなことを許さない。
急速に妖精に近付くと、一気にその身体に触れる。
「まずは一人目!」
「きーっ!」
自分が最初に脱落するとは思っていなかったらしく、悔しそうに叫ぶ妖精。
だが、ルールはルールと理解しているのか、大人しく前の二組の妖精がいる場所に向かって移動する。
何人かの妖精達に慰められているが、レイはそんなのは気にした様子もなく移動し、妖精達を次々に捕まえていく。
やがて気が付けば、残っている妖精は一人……それこそレイに遊ぼうと声を掛けてきた妖精のみ。
その妖精は自分が最後だというのを十分に理解しており、レイが来たらすぐに逃げられるようにとしっかりと準備をしていた。
だが……それでもただの妖精が、レイから逃げるのは難しい。
レイが地面を蹴ったと思った次の瞬間には妖精のすぐ近くまでやって来ており、妖精は必死になってレイの手を回避するが……次の瞬間、スレイプニルの靴を続けて発動させて空中を蹴ったレイが妖精に手を伸ばし……捕まえるのだった。




