3316話
このライトノベルがすごい!2023が始まりました。
レジェンドも投票作となっています。
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回答期限は9月25日23:59分ですので、是非レジェンドに投票お願いします。
野営地からセトに乗って飛び立ち、レイ達は妖精郷の近くにやってきた。
いつものように霧の空間を通り、妖精郷に到着する。
(あ、今更だけど……長はマジックアイテムに詳しいんだから、オーロラが隠していた魔剣の鑑定は長にやって貰えばよかったのか?)
そう思うも、すぐにそれはどうかと思う。
具体的には、妖精の作るマジックアイテムと錬金術師が作るマジックアイテムはかなり違うところがある。
そうである以上、マジックアイテムを作るのを得意としている長であっても、オーロラが持っていた魔剣の性能については分からないかもしれない。
(いやまぁ、結局のところ実際に使ってみるのが一番手っ取り早いんだろうけど)
今更そんなことを思っても意味がないだろう。
そう思いつつ、レイは妖精郷の中に入ると自分達に……いや、セトに向かってくるピクシーウルフ達を発見する。
「グルルルルゥ?」
セトはレイに、遊んできてもいい? と喉を鳴らす。
セトにしてみれば、ピクシーウルフ達は自分が何度も遊んでいる以上、こうして自分と遊びたいとやって来た相手とは一緒に遊びたいと思ったのだろう。
「いいぞ、遊んできて」
レイはセトにあっさりと許可を出す。
実際、今日はこれ以上どこかに行く予定はないので、セトがピクシーウルフ達と遊んでいても問題はない。
もしどこか他の場所に行くことになっても、妖精郷の中にいるセトを呼べばそれでいい。
「あ、じゃあ。レイ。私も他の妖精と遊んできていい?」
「いい訳ないだろ。お前は俺と一緒に長と会うんだ」
「えー……」
もしここで長に会うのをレイに任せられれば、自分は長に会わなくてもいいと、そう思ったのだろう。
だが、レイはそんなニールセンの考えを読んで却下した。
(今回の件では、別にニールセンが長と会うのを拒む理由はないと思うんだけどな)
ニールセンが長に叱られる、もしくはお仕置きをされるようなことは特に何もしていない。
少なくてもレイはニールセンが何かをやらかしたといったことに覚えはなかった。
そうである以上、ニールセンが長と会っても問題はないだろうとレイには思えた。
もっとも、ニールセンは単純に長を苦手としているので、出来れば会いたくないと思っているのだが。
「ほら、行くぞ」
「はーい」
レイの言葉に、ニールセンは渋々といった様子で答える。
もしここでレイの言葉を無視した場合、それこそ長から一体どんなお仕置きをされるか分からない。
それなら大人しくレイについていった方がいいのは間違いなかった。
最善の行動は、レイが自分に一緒に行くと言わないで、長に対する報告は自分だけでやるからニールセンは遊んでいてもいいと、そう言うことだったが。
しかし、残念ながらそういう道はなかったらしい。
「あー! ニールセンだ! レイもいる! 二人とも久しぶり。どこに行ってたの?」
妖精郷の中を歩いていると、レイとニールセンの姿を久しぶりに見た為だろう。
一人の妖精がレイの名前を呼ぶと、そう言って近付いてくる。
すると最初の妖精以外にも、何人もの妖精がレイとニールセンに向かって集まってくる。
「ねぇねぇ、お菓子ちょうだい!」
「えー、私は串焼きがいい!」
「干した果実が一番だよ!」
久しぶりに見る二人と話をしたくて集まってくるのではなく、レイがミスティリングの中に持ってるだろう食べ物を目当ての行動だったのは間違いないが。
多数の妖精がレイの周囲に集まってくるが、レイはそれを見ても特に動じることなく口を開く。
「悪いけど、これから長に会いにいくんだ」
さっと。
レイの口から長に会いにいくという言葉が出た瞬間、レイとニールセンの周囲にいた妖精達は素早く下がってレイの行動の邪魔をしない。
「うんうん、そうなるわよね」
そんな妖精達の様子を、ニールセンは納得した様子で見ていた。
この妖精郷の中で、一番長からお仕置きをされ続けてきただけに、色々と思うところがあるのだろう。
そんなニールセンをレイは呆れたように眺めているのだった。
「よく無事で戻ってきましたね。おかえりなさい、二人とも」
妖精郷の奥にある、いつもの場所。
レイはそこでニールセンと共に長と会っていた。
「色々大変だったのは間違いないけど、穢れの関係者の本拠地についての手掛かりが入手出来たのは大きい。……出来ればニールセンの見つけた洞窟が本拠地だったらよかったんだけどな」
「そうね。それだったらレイの力でどうとでも出来たと思うもの。……けど、そうなったらあの洞窟にはもっと護衛がいたんじゃない?」
「だろうな。あの洞窟にいたのは、基本的には戦闘能力がない連中だったし。その分だけ暴走しやすかった一面もあったけど」
きちんと戦闘訓練を積んでいれば、レイがどれだけの力を持っているのか分かっただろう。
自分達ではどうあっても勝てないと。
とはいえ、相手は世界の崩壊を望んでいる者達だ。
レイがそれを邪魔をするのなら、自分達に勝ち目がなくてもレイを殺そうと行動してもおかしくはない。
自分がレイに勝てなくても、多少なりともレイの動きを鈍くさせて、それによって誰か他の者がレイを殺せればそれで十分だというように。
「それで、レイ殿。穢れの関係者の本拠地はどこに?」
「ベスティア帝国だ。……と言っても、分かるか?」
ニールセンはベスティア帝国と言ってもピンとこなかったようなので、もしかしたら長もそうなのではと思ったレイだったが、長はレイの言葉にすぐに頷く。
「なるほど、ベスティア帝国ですか」
それはレイにとって予想外の事だった。
てっきりニールセンと同じくベスティア帝国は分からないと思っていたのだ。
しかしこれは長と長の後継者の違いといったところなのだろう。
あるいは妖精の中には知的好奇心の高い者もいるので、絶対に全員が全てを理解していないという訳でもないのだろうが。
「知ってたか」
「ええ、当然でしょう」
レイの言葉にそう言う長だったが、その後レイが何故そのようなことを聞いてきたのかということに気が付き……
「ニールセン?」
ニールセンの名前を呼ぶ。
レイの様子から、ニールセンがベスティア帝国について全く知らなかったということを理解したのだろう。
ビクリ、と。
長に名前を呼ばれたニールセンは空中で硬直するという器用な真似をする。
それでいながら地上に落下するようなことがないのは、妖精の不思議な力の問題か。
「えっと、その……」
「勉強が必要ですね」
「ひぃっ!」
長の口から出た言葉に、ニールセンはそんな悲鳴を漏らす。
勉強という言葉に何を想像したのか、生憎とレイには分からなかったが。
それでも今のこの状況を思えば、ニールセンが決して好んでいないことだけは理解出来た。
(お仕置きじゃないんだな。ニールセンは長の後継者という扱いだから、相応の知識が必要になるのは理解出来るけど)
レイにとっては、お仕置きではなく勉強なのだから、そこまで厳しい訳ではないのだろうと思う。
そう思うのは、レイが本を読むのが嫌いではない……いや、寧ろ好むからこそだろう。
……とはいえ、レイも日本にいた時は学校の勉強が得意という訳でもなかったのだが。
赤点を取ったことはないが、トップクラスの成績という訳でもなく、平均より少しいいくらい。
テスト間近に面白いゲームが発売すれば、平均より点数が落ちる時もあった。
それでも元々本を読むのは好きなので、エルジィンにやってきて残念だと思うことの一つには本が非常に高額だというのがある。
「ニールセンには今後のことを考えると、しっかりと知識を蓄えて貰う必要がありますので」
うげぇ、と。
長の言葉を聞いたニールセンはそう表現出来るような表情を浮かべたものの、長が視線を向けるとすぐいつも通りといった表情になる。
長はそんなニールセンの様子に気が付いていたが、レイがいるということで今はその怒りを静めておく。
「そういうものか。話を戻すけど、多分……いや、実際に行うことになるかどうかは分からないが、もしかしたら冬の間に穢れの関係者の本拠地に奇襲を掛けることになるかもしれない」
「奇襲ですか。それが実現出来たら効果が大きいでしょうが、ベスティア帝国まではどうやって移動を?」
「セト籠を考えている。あれなら雪道を馬車で移動するよりずっと速いし」
「セト籠ですか。ですが、それだとあまり人数を運べないのでは?」
セト籠について詳しい様子の長に、レイは意外な気持ちを抱く。
ニールセンからの報告を受けているのか、それともトレントの森にセト籠でやって来た時に何らかの手段で確認したのか。
それはレイにも分からなかったが、長にセト籠について知られても特に問題はないので特に突っ込むようなことはしない。
「そうだな。セト籠はそれなりに広いけど、十人ちょっとか?」
実際にはもう少し余裕があるのだが、セト籠で移動する時間はそれなりに長くなる。
そうなると長時間身動き出来る隙間もないくらいに詰め込むようなことになれば、かなりのストレスになるだろう。
そしてストレスから怒りやすくなり、場合によっては奇襲するメンバー同士で喧嘩沙汰になってもおかしくはない。
少数精鋭での奇襲だというのに、その少数精鋭同士で争っていては意味がない。
それどころか、怪我の度合いによっては戦力が低下するのは愚の骨頂でしかないし、その喧嘩で死者が出てしまえばさらに最悪だろう。
また、それを抜きにしても奇襲を行うメンバーの中にはエレーナ、マリーナ、ヴィヘラ、アーラ、ビューネといった女がいる。
レイの仲間は不思議な縁から女ばかりだが、冒険者全体で考えればどうしても男の方が多い。
つまり、奇襲に参加することになるかもしれない者達にも男が入ってくる可能性は十分にあった。
身動き出来ない場所でエレーナ達と接触したままになる……するとどうなるか。
我慢出来ずに襲い掛かって撃退されるか、緊張のあまり倒れるか。
どちらにせよ、問題しかない。
その辺を考えると、やはりここはある程度セト籠に余裕をもたせた方がいいのは間違いなかった。
「その人数で穢れの関係者の本拠地に奇襲するのは……少し難しいのでは?」
「奇襲だし、冬ということで相手もかなり油断していて、戦力も別に本拠地に全て集まってる訳じゃない。そう考えると結構いけそうな気がするけどな」
「……レイ殿がいるのなら上手くいくかもしれませんが、失敗する可能性もあります。そう考えると、もう少し慎重になった方がいいかと」
長にしてみれば、レイに死んで欲しくないからこその助言。
それは純粋に戦力としてレイの力が大きいというのもあるが、個人的な感情もそこにはあった。
もっとも長はそれを極力表情に出さないようにしているので、レイが長の気持ちに気が付くことはなかったが。
「そうかもしれない。けど上手くいけば冬の間に穢れの件が片付く。何だかんだとあの連中との付き合いも長くなったからな。出来ればそろそろ終わらせたい」
実際にはレイと穢れの関係者の付き合い……接触してからはそこまで長くない。
しかし、接触してから今まで色々なことがあったので、それによって長く感じるのだろう。
だからといって、本当に長い付き合いには絶対になりたくなかったが。
「そうですね。私も出来ればそうして貰えると嬉しいと思います。……ニールセン」
「はい、何ですか?」
「レイ殿達が穢れの関係者の本拠地に奇襲に行くのなら、ニールセンも一緒に行って協力しなさい」
「え……私もですか?」
ニールセンも、もし奇襲を行うのなら自分が行くのだろうというのは予想していた。
予想はしていたが、それでもこうしてきっぱりと自分も行けと言われると、それに対して色々と思うところがあるのも事実。
「そうです。穢れの関係者の件については、妖精が参加しないということは有り得ません」
そう言い切る長に、レイは疑問を抱く。
だが同時に、恐らく妖精達にだけ穢れの言い伝えがあったのはその辺に理由があるのだろうと予想する。
「それに……もしかしたらですが、ニールセンが向こうに行けば私達も手助け出来るかもしれません」
「え? 長が? 一体どうやって? 妖精郷の外の森くらいならともかく、ベスティア帝国って遠いんですよね?」
「その辺は妖精の秘術ですので、ここでは話せません。レイ殿には申し訳ありませんが」
その言葉通り、申し訳なさそうな様子で自分を見る長に、レイは気にするなと首を横に振る。
「妖精の秘術なら、そう簡単に他人に話すようなことは出来ないだろう? なら、別にそれはいいさ。気にするな」
そう言うレイに長は頭を下げ、洞窟の一件で入手した情報の共有を進めるのだった。