3314話
このライトノベルがすごい!2023が始まりました。
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回答期限は9月25日23:59分ですので、是非レジェンドに投票お願いします。
光学迷彩は調べたところ、大体以前よりも百秒程増えている……恐らく五百秒の間、セトが消えることが出来るようになっていた。
セトのような強者が八分程もの間、姿を消して戦場の中で行動出来るのだ。
それが実際に戦っている者達に対して、どれだけの恐怖を与えるのかは考えるまでもない。
少なくても、レイがもし敵対している相手にセトと同じような能力を持つ者がいて、姿を消して戦闘に参加しているといったことになれば、それは非常に危険になると思うだろう。
飛斬の方は、マリーナの家や中庭を破壊する訳にもいかないので、まだ試していなかったが。
ただし、今までの経験から飛斬の威力が増しているのは明らかだった。
今は無理でも、トレントの森に向かったらそこで試すことは出来る。
そう判断し、次に魔剣を取り出す。
マリーナがオーロラの家から見つけてきた魔剣だが、当然ながらこれもまたここで試すことは出来ない。
具体的にどのような能力の魔剣なのかは分からないが、魔剣である以上何らかの攻撃に向いた能力を持っている可能性は高い。
……中には、持ち主を回復させる能力を持つ魔剣というのもあるし、直接相手を攻撃するのではなく、身体能力を強化する魔剣というのもある。
だがそのような魔剣よりは、何らかの攻撃的な能力を持つ……具体的には風の刃を放ったり、地面を操って土の槍を放ったり、刀身が炎に包まれるといった能力を持つ魔剣の方が多いのは間違いなかった。
そしてマリーナが見つけた魔剣も、可能性としてはそちらの方が高いのは間違いない。
「うん、やっぱり専門家に任せた方がいいな。とはいえ、あまり時間に余裕はないかもしれないけど」
「グルゥ?」
レイの呟きにセトはどうしたの? と喉を鳴らす。
レイはそんなセトと……そして興味深そうな様子のイエロに、自分の持っている魔剣を見せる。
「この魔剣をビューネに使わせようと思ってるんだが、この魔剣にどういう能力があるのか分からなくてな。なので近いうちにマジックアイテムを売ってる店か、錬金術師の工房にでも行こうと思って」
レイとしては、出来れば錬金術師の工房に行くのは気が進まない。
何しろ未知のマジックアイテムを見た錬金術師が、どういう反応をするのか想像するのは難しくない為だ。
魔剣の能力が普通には使えない……いわゆる外れであれば、錬金術師もそこまで気にするようなことはないだろう。
だが、レイはこの魔剣がそういう外れの能力ではないと予想していた。
洞窟を任されていたオーロラの寝室に隠されていた魔剣なのだ。
かなり強力な能力があってもおかしくはない。
だからこそ、出来れば変人の割合が多い錬金術師達ではなく、マジックアイテムを売ってる店の商人に見せた方がいい。
他にも錬金術師達はミスリルの釘や、研究者達が見つけた穢れが侵入出来ず、その場所では呼び出すことも出来ないような場所を作る為の魔法金属の加工にも協力している筈だった。
ここで下手に魔剣を持っていけば、そちらの作業に遅れが出る可能性は十分にあった。
「とはいえ……俺が直接行くと騒動になるかもしれないしな。マリーナとかに頼んだ方がいいかもしれないけど。この魔剣を見つけたのはマリーナなんだし」
そう言いつつも、レイは魔剣の能力が気になる。
出来れば自分が直接鑑定を頼みたいと思うくらいには。
この辺、使えるマジックアイテムと限定されてはいるが、それを集める趣味を持つレイの嗜好だろう。
なお、レイはマジックアイテム以外にも魔石を集める趣味を持っていると認識されているので、何も知らない他人から見た場合、レイは魔石とマジックアイテムを集める趣味を持っているということになる。
どちらか片方だけでも、集めるには結構な資金が必要になるのだが……レイの場合、盗賊狩りをしたり、ダスカーから直々に依頼を受けていたりと、十分に資金的な余裕があるように思われているので、そんなレイならマジックアイテムと魔石の両方を集める趣味を持っていてもおかしくはないと考えられていた。
「じゃあ、魔石についてはもういいし、この魔剣は後で鑑定して貰うから、俺の用事はもう終わった。俺は家に戻るけど、セトとイエロはどうする?
「グルルルルゥ!」
「キュウ!」
レイの問いに、セトとイエロはそれぞれに鳴く。
言葉は分からないが、それでも今の鳴き声の様子で、もっとここで遊んでいくと態度で示しているのはレイにも十分に理解出来た。
その為、レイは魔剣をミスティリングに収納した後で二匹を軽く撫で、そう言えばとニールセンに渡すように言われていた干した果実を渡してから家の中に戻るのだった。
「レイ、戻ってきたのか。随分と早かったようだが、もう用事は終わったのか?」
居間に入ったレイに真っ先に声を掛けてきたのは、エレーナだ。
笑みを浮かべてそう尋ねるエレーナに、レイは頷く。
「ああ。セトとイエロは元気に走り回っていたよ。干した果実も喜んで食べていたし」
「ふーん、そう。甘いし当然よね。……ちょっと甘すぎる気がするけど」
「紅茶を飲みながら食べるんだから、少し甘くてもいいんじゃないか? それが紅茶の味を引き立てると考えれば」
「む……そう言われるとそうかもしれないわね。アーラ、私にも紅茶をちょうだい」
今まで紅茶は飲まず、干した果実だけ食べていたニールセンはアーラに紅茶を淹れてくれるように頼む。
アーラはそんなニールセンに紅茶を淹れる。
ニールセンにしてみれば、紅茶のカップはかなり大きい。
掌くらいの大きさしかないニールセンだけに、その状況で紅茶を飲むのは難しそうだとレイは思うのだが……カップを僅かに傾けることによって、上手い具合に紅茶を飲んでいる。
(とはいえ、かなり危なっかしいのは間違いない。紅茶もそれなりに熱い以上、下手をすればニールセンがそんな紅茶を被ったり、紅茶のカップを割ってしまったりとかしそうだな)
マリーナの家にある食器は、その多くがそこまで高価なものではない。
だが、だからといって食器を壊されていい気分はしないだろう。
弁償をしろとまでは言わないだろうが、迫力のある笑みを向けるくらいはしてもおかしくはない。
「それにしても……もし奇襲をするのなら、私が行っても役に立てるのかしら?」
「マリーナなら十分に役に立つだろう? 実際、洞窟で穢れの関係者の本拠地がどこにあるのかを見つけたのはマリーナなんだし。穢れの側で精霊魔法が使えないのを気にしてるのかもしれないけど、別に精霊魔法で穢れと戦わないといけない訳でもないんだし、大丈夫だと思うけどな」
レイにしてみれば、それはお世辞でも何でもない。
本当に心の底から思っていることだ。
もし洞窟でマリーナがいなければ、洞窟の中にいる者達を全員殺す……もしくは絶対にレイに勝てないと思わせるように力で服従させてから家捜しをする必要があった。
ただし、ヌーラやオーロラから聞いた話によると、洞窟に住む全員が世界の破滅を願っているということだったので、力で従えるといったことが出来るかどうかは難しいところだったが。
しかもどこにオーロラの家があるのか分からない以上、服従させた相手がいない場合は自分達で洞窟の中にある建物を全て調べる必要がある。
そのようなことになったら、それこそどれだけ時間が掛かるか。
もしくはオーロラからその辺の情報を聞き出すことになったかもしれなかったが。
とにかくマリーナがいたお陰で、あそこまで早く――それでも陽動役のレイにとっては結構な時間と思えたが――本拠地の場所が書かれた書類を見つけることが出来た。
そう考えれば、穢れの関係者の本拠地を奇襲する時にマリーナがいるのといないのとでは、大きく違うというのがレイの考えだった。
「そう? レイがそう言うのなら、少し頑張ってみようかしら」
「そうしてくれ。それとマリーナが見つけた魔剣だが、マジックアイテムを売ってる店で鑑定したいと思うんだが、誰が行く?」
本来ならレイが行きたいところだが、良い意味でも悪い意味でもレイはギルムで目立つ。
特に今は、まだクリスタルドラゴンの件についてレイと接触したがっている者もいるだろう。
実際にマリーナの家の周辺には見張りと思しき者達が何人もいたのだから。
(それでも雪が降る前と比べると、多少は楽になったんだけど)
雪が降る前……より正確には冬になる前には、かなりの数の商人達がギルムにいた。
そのような者達は何とか伝手を使ってレイと接触しようとしたり、雇った相手にレイが来たら知らせてくれるように見張りを頼んだりとしていたが、そのような商人達も冬になるということで既にギルムを出ている。
その分だけ、レイを捜している者達の数は減ったのだ。
だが、それはあくまでも秋に比べると減ったということで、ギルムに住んでいる者達はまだレイとの接触を諦めていない以上、結構な数の者達がいる。
「いっそ、正面から堂々と接触して、クリスタルドラゴンの素材を売るつもりはないとはっきり言った方がいいのかもしれないな」
「レイの気持ちは分かるが、止めた方がいいだろう」
レイの呟きを聞いたエレーナが、紅茶をテーブルに置いてそう言う。
「何でだ? 今のこの状況は、正直鬱陶しい。普通に出掛けることも出来ないし。それをどうにか出来るのなら、多少の面倒は……そうだな。正面から破壊するつもりでやってもいいと思うが」
「レイに接触しようとしている者達にしてみれば、別にレイと戦うつもりなどないのだ。そんな中でレイが強引な方法を採れば、それこそレイの評判は悪くなる」
今以上にと言わないのは、レイのことを思ってだろう。
実際、レイの評判は貴族の間では決して良好という訳でもない。
勿論レイの性格を気にしない……いや、それどころか好ましいと思う者もいるが、貴族とは特権階級で平民を自由にしてもいいと思っている者達や、血筋だけが自慢のような者達にしてみれば、レイは危険人物でしかない。
普通の冒険者なら貴族と敵対するのは絶対に避けるべきと考える。
しかし、レイはそのようなことを考えず、敵となった以上は平気でその力を……それこそ異名持ちのランクA冒険者としての力を振るってくるのだから、特定の貴族にとっては決して好ましい存在ではないだろう。
それでも表立ってレイを非難したりしないのは、ダスカーやエレーナが後ろ盾になっているのもあるが、それこそ自分達がレイをどのように思っているのかをレイが知った時、自分達にその力を振るうのではないかと心配しているからだろう。
実際には、レイもただそういう噂を聞いただけでどうこうしたりはしないのだが。
「評判か。今更のような気もするけど」
「今更だろうがなんだろうが、何の意味もなくわざわざ自分の評判を落とす必要はないだろう」
「……そこで評判が落ちて、クリスタルドラゴンの件で俺に接触してくる奴がいなくなるのなら、それはそれで悪くないような気がするが」
レイの言葉にエレーナは困ったように笑う。
普通に考えれば、レイの言ってることは無謀でしかない。
だがレイはやると言えば本当にやれるだけの力を持つのも事実。
「出来れば止めて欲しい。私からの頼みを聞いて貰えないだろうか?」
「……分かった。止めておく」
エレーナからそこまで言われれば、レイもさすがにそのような事は出来ない。
レイにとってもどうしても退けないようなことならともかく、今回の件はそこまでして絶対にやらなければならないといったことではないのだから。
「さすがね」
「羨ましく思うのは私だけじゃない筈だけど」
マリーナとヴィヘラがエレーナの行動に感心したように言う。
ヴィヘラの方は感心と同時に羨ましさも込められていたが。
「そうなると、魔剣はどうする?」
「一応レイが、まだ持っていてちょうだい。こっちで鑑定の用意が出来たらレイに声を掛けるから」
元ギルドマスターだけあって、マリーナは多くの伝手がある。
その中には錬金術師や、マジックアイテムを売っている商人もいるので、そちらに話を回す気なのだろう。
そんなマリーナに、レイは頷く。
出来れば自分で魔剣がどういう性能を持っているのかを聞きたかったので、自分が魔剣を持ったままなのは丁度いいと判断したのだろう。
オーロラがベッドの下に隠してあるような魔剣だ。
恐らくは何か特別な効果を持つのだろうと予想するのは難しい話ではない。
とはいえ、レイが自分で調べるのが難しい以上、マリーナの人脈に頼るしかなかったのだが。
「さて、じゃあここでの用事もすんだし。いざとなったら対のオーブもあるから、その辺は心配する必要もないし、俺はそろそろ妖精郷に行くよ。いや、その前に一度野営地に寄ってみた方がいいのかもしれないけど」
レイの言葉に、干した果実を食べていたニールセンは残念そうな様子を見せるのだった。