3313話
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エレーナが奇襲作戦に参加するというのは、アーラが反対しないことであっさりと決まった。
アーラ以外の者達も、エレーナが奇襲に参加するのを反対はしない。
「とはいえ、奇襲が行われるかどうかはダスカー様がブロカーズと話して、それで王都に連絡をする……いや、ブロカーズは結構な権限を持っているって話だったし、そっちの心配はいらないのか? とにかく却下される可能性がある以上、絶対に行われるとは思わない方がいい」
レイの言葉に、ダスカーとの話を聞いていたマリーナが同意するように頷く。
「そうね。ただ、ダスカーの様子を見た限りだと、それなりにブロカーズを説得する自信があるように思えたから、恐らくだけど問題はないと思うわ」
「ふむ、では準備をしておいた方がいいか」
「そうね。本拠地ともなれば強敵がいるのは間違いないでしょうし」
やる気満々といった様子のエレーナとヴィヘラ。
そんな二人の様子を見ていたレイが不意に口を開く。
「ビューネはどうする? 一応戦力という事なら、オーロラの家で見つけた魔剣があるけど。……そう言えば、まだどういう効果があるのか試してなかったな。いっそマジックアイテムを売ってる店にでも持っていって調べて貰う方がいいのかもしれないな」
「ビューネは……どうだろう。魔剣の性能によっては戦力になるだろうが。それに私が行く以上、アーラも行く。だとすれば、ビューネだけを置いていくのは少し心配だな」
エレーナの言葉に、そっちの問題もあったかとレイは唸る。
ビューネを一人で置いていくようなことになれば、誰もビューネの世話をする者がいなくなるのだ。
一時的にメイドを雇うことも出来るが、そのメイドが信頼出来る相手かどうかを確認する必要がある。
マリーナの家は精霊魔法によって守られているものの、場合によってはそれをどうにかしようと考える者がいないとも限らないのだから。
……とはいえ、そのようなことをした場合、それこそ精霊によって痛い目に遭うだろうが。
また、ビューネの人見知りを考えると、メイドを雇っても問題を起こす可能性は十分にあった。
そんな諸々を考えると……
「やっぱり連れていった方がいいのかもしれないな」
「本気?」
ヴィヘラがレイに向かってそう言う。
ビューネと親しいヴィヘラだからこそ、現在のビューネがどのくらいの強さを持つか知っている。
そんなビューネの強さを知っているヴィヘラにとって、ビューネが穢れの関係者を相手に勝利出来るとは思わない。
いや、相手が穢れを出す前なら何とかなるかもしれないが。
しかし相手が穢れを出してきた場合、ビューネにその対処はまず無理だった。
穢れに対する対抗手段がないのはマリーナも同様だったが、マリーナは海千山千の冒険者でもある。
穢れの攻撃を回避しながら、穢れの関係者を弓で狙うといったことも普通に出来るだろう。
だが、ビューネに同じようなことが出来るかと言われれば……純粋な技量なら、恐らく問題はない。
だが、穢れという自分にはどうしようもない相手に追われながらとなると、微妙なところだ。
「ヴィヘラの心配も分かる。だから連れていくけど、戦場となるだろう場所からは離しておくというのはどうだ? 後方に避難……いや、何かあった時の予備戦力であったり、後方を守って貰うという形にすればいい」
途中で言い換えたように、レイが口にしたのはビューネを戦場から遠ざけようというのが狙いの発言だ。
素直にそう言うと、それを聞いたビューネが不満を抱くだろうから言い直した。
他の面々もそんなレイの言葉は理解出来たが、特に不満を言う者はいない。
実際にビューネが穢れの関係者と戦うのは危険だと、皆がそう思っている証だろう。
「後方の警戒ね。……私はそれでいいと思うけど、他の皆はどう?」
ヴィヘラにしてみれば、もしビューネを連れていくのなら今のレイの意見が最善だと思ったのだろう。
他の面々に視線を向けて尋ねる。
ただし、その視線にはまさか反対はしないでしょうね? といった意思が込められていた。
そんなヴィヘラの問いに反対する者は誰もいない。
もしここで反対しても、それで代案を出せと言われてすぐに出せるようなものではない。
(あ、でもこの家に一人で残すのが不味いのなら、誰か他の家に預けるといった手段なら……駄目か)
レイは自分の思いつきをすぐに却下する。
もしそのようなことになっても、それこそ預けられた先とビューネが上手くやっていけるとは思えなかったのだ。
最悪の場合、ビューネが追い出される……もしくは飛び出すといったことになってもおかしくはない。
そのようなことを心配するのなら、最初からビューネも連れていった方がいい。
これでビューネが戦闘力も何もなく、冒険者ですらない本当にただの一般人なら、穢れの関係者の本拠地に連れていくのは自殺行為でしかないが、ビューネは違う。
盗賊として相応の技量を持っているし、戦闘能力という点でも盗賊の中では間違いなく強い方だ。
そのように相応の能力を持っているのだから、連れていっても心配はないというのがレイの考えだった。
「どうやら他に誰も反対はいないようだし、もし奇襲が行われることになったらビューネも連れていくということで決まりだな」
レイの言葉に、話を聞いていた面々はそれぞれ頷く。
ビューネは何だかんだと、ここにいる者達の多くに可愛がられている。
そうである以上、奇襲に連れていくというのも色々と思うところがある者はいるのだろうが。
そうして居間で話をしていると、不意にニールセンが中に入ってくる。
「お腹減ったぁっ! 何かない?」
「ほら、これでも食べろ」
テーブルの上に着地したニールセンに、レイはアーラがお茶請けとして用意した干した果実を渡す。
以前にも食べたことがあるのか、レイが渡した干した果実に目を輝かせたニールセンは、自分の顔よりも大きなそれに齧り付く。
砂糖が凝縮したかのようで、中はネットリとした食感のそれは、レイの感想としてはどこか干し柿に似ている。
(そう言えば、ここ最近干し柿は食べてないな。……というか、この世界に柿があるのかどうかも分からないけど。ただ、これまでの経験から似たような果実はあるとおもうんだけどな。渋柿でも干し柿にすれば関係ないから、出来ればどうにか入手したい)
日本にあったレイの家の庭には、柿の木が植えてあった。
それは渋柿だったが、それでもヘタの部分を焼酎につけてから密封して数週間が経つと、渋が抜けて普通に甘く食べられるようになる。
ただし、実が柔らかくなりやすいので、固い実が好みのレイには少し物足りなかったが。
それ以外にも、渋柿のまま皮を剥いて風通しのいいところに紐で縛って吊しておけば、やがて干し柿となる。
どちらもレイにとっては小さい頃から食べ慣れた味だ。
思い出したことで急に食べたくなるも、残念ながら柿はない。
少なくてもギルムやレイが行ったことのある場所にはなかったのは間違いなく、今は諦めるしかなかった。
「レイ? どうしたの?」
干した果実を食べていたニールセンは、自分をじっと見ているレイの姿に気が付き、そう尋ねる。
その言葉で、レイは自分がニールセンをじっと見ていたことに気が付き、何でもないと首を横に振る。
「いや、干した果実には色々な種類があると思ってな。……さて、じゃあ俺はちょっと中庭でセトの相手をしてくる」
「ふーん。まぁ、頑張ってね。あ、そうだ。これ、セトとイエロにも何個か持っていってあげてよ」
「いいのか?」
ニールセンが渡してきた干した果実を受け取り、レイはそう尋ねる。
レイの知っているニールセンなら、それこそ自分が食べているものを他人に渡すといったことはしない。
……餓死しそうになっているような者がいたら、話は別かもしれないが。
「いいのよ。まだ結構あるし」
「分かった。……あ」
「レイ?」
「いや、何でもない」
干した果実を食べさせるというところで、レイはどうせなら今のうちに穢れの関係者の拠点だった洞窟で入手した蝙蝠のモンスターの魔石を食べさせてみたらどうかと思ったのだ。
ニールセンには魔獣術について教える訳にはいかないので、今ここにいるのなら丁度いいタイミングなのは間違いなかった。
恐らくセトはイエロと一緒にいて、エレーナはイエロの記憶を見ることが出来るものの、エレーナは既に魔獣術について知っている以上、そこは気にする必要もない。
判断すると、レイの行動は早い。
ニールセンの言うように幾つか干した果実を持って、中庭に向かう。
エレーナ達はそんなレイをどこか微笑ましいものでも見るかのように眺めるのだった。
「セト、ちょっといいか?」
「グルルゥ?」
イエロと一緒に中庭を走り回っていたセトは、レイの声を聞くと足を止めてどうしたの? と鳴き声を上げる。
そんなセトのすぐ側をイエロが走って追い抜いていったが、少し進んだところでセトが足を止めたのに気が付いたのか、イエロも止まる。
「キュウ?」
セトに続き、イエロもどうしたの? と不思議そうな視線をレイに向けてくる。
そんな二匹にレイは近づき、ミスティリングの中から蝙蝠のモンスターの魔石を取り出す。
「セトにはこれを食べて貰おうと思ってな。……洞窟の中で確保したモンスターの魔石だ。ニールセンから聞いた話によれば、この魔石を持っていた蝙蝠のモンスターは最初見えなかったらしい、つまり……恐らくだけど、光学迷彩のレベルが上がると思う」
「グルゥ!?」
レイの説明に、セトが驚きの声を上げる。
戦闘において……いや、戦闘以外でも光学迷彩というスキルは非常に使い勝手のいいスキルだ。
純粋に攻撃用のスキルという訳ではないが、セトの身体能力を考えると、下手をしたら中途半端な……レベルが五に達していない攻撃用のスキルよりも凶悪な威力を持っているのは間違いない。
何しろ、セトが透明になって見えない場所から攻撃を仕掛けて来るのだ。
普通に考えれば、その時点で詰みだろう。
そしてセトの光学迷彩のレベルが上がれば、それだけ透明になれる時間が増える。
もっとも、現在の光学迷彩はレベル六で、透明になっていられる時間は四百秒。
約七分近くもある。
戦闘の中で七分もの間セトが透明になっているのを考えると、それだけでもう十分なような気がしないでもないレイだったが、それでもこれ以上に強化が出来るのなら、それはそれで構わない。
そう思い、レイは魔石をセトに渡す。
セトはその魔石をクチバシで挟み、飲み込む。
【セトは『光学迷彩 Lv.七』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
蝙蝠のモンスターの能力から、恐らくそうだろうとは思っていたのだが、その予想したスキルを習得したことに手を握り締めて喜ぶレイ。
「グルルルルゥ!」
レイが喜んでいることで、セトも嬉しく思ったのだろう。
上機嫌といった様子で喉を鳴らす。
「後は……こっちだな。さて、どういうスキルを習得出来るか。いや、そもそもスキルを習得出来るのかどうかが疑問だが」
そう言いながら、レイは先程と同じく蝙蝠のモンスターの魔石をもう一つミスティリングから取り出し、続けてデスサイズを取り出す。
そうして魔石を軽く放り投げると、次の瞬間にはデスサイズを一閃。
魔石はあっさりと切断され……
【デスサイズは『飛斬 Lv.六』のスキルを習得した】
先程同様、脳裏に響くアナウンスメッセージ。
しかし、レイはそんなアナウンスメッセージを聞いても、先程と違って納得した様子はない。
セトが魔石を使った時は、光学迷彩のレベルが上がった。
これは蝙蝠のモンスターの能力から容易に予想出来たことだ。
しかし、今回は飛斬。
一体何がどうなって飛斬を習得したのか、レイには分からない。
(いや、もしかしたら蝙蝠のモンスターなんだし、超音波で相手を斬り裂くとか、そういう能力を持っていたのか? けど……その割にはニールセンを追っている時にそういうスキルを使ったとかは聞いてないし。俺達が戦った時もそれは同様だった。だとすれば、使うのに魔力とかそういうのを溜める時間が必要だとか?)
それなら、ニールセンが逃げている中で迂闊に使う訳にいかなかったのも、理解出来る。
レイ達と戦っている時にも同じようなことだったのは少し疑問だったが。
ともあれ、魔石を使ったスキルの習得は完了したので、レイはそれに笑みを浮かべるのだった。
【セト】
『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.四』『毒の爪 Lv.七』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.五』『光学迷彩 Lv.七』『衝撃の魔眼 Lv.三』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.六』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.二』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.三』『翼刃 Lv.三』『地中潜行 Lv.一』『サンダーブレス Lv.一』『霧 Lv.二』『霧の爪牙 Lv.一』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.六』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.二』『パワースラッシュ Lv.五』『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.六』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.五』『飛針 Lv.二』『地中転移斬 Lv.一』『ドラゴンスレイヤー Lv.一』
飛斬:斬撃を飛ばすスキル。威力はそれなりに高いのだが、飛ばせる斬撃は一つのみとなっている。
光学迷彩:使用者の姿を消すことが出来る能力。ただしLv.七の状態では透明になっていられるのは五百秒程であり、一度使うと再使用まで三十分程必要。また、使用者が触れている物も透明に出来るが、人も同時に透明にすると百五十秒程で効果が切れる。




