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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2999/3865

2999話

 長のいる場所から離れたレイは、妖精郷の中でも自分の場所……正確にはいつもマジックテントを張っている場所に向かう。

 ニールセンは当然といった様子でレイと共に移動する。

 夕食にはまだ早いが、万が一にも夕食の時間を逃してはならないと、そう思っての行動だろう。

 ニールセンにしてみれば、倒すのに協力した黒豹の肉を食べる機会を逃す訳にはいかないと、そう思ってのことだろう。

 頭の側を飛んでいるニールセンの考えはレイにも何となく予想出来たが、それでも特に何か言うつもりはない。

 黒豹との戦いでニールセンに協力して貰ったのは間違いでない以上、それは当然の権利だという認識だった。


「それで、レイ。あの肉はどうやって食べるの?」

「どうやってと言われてもな。俺に出来ることとなると……それこそ、さっきみたいに串焼きにして食べるとか、あるいはミスティリングに収納されている料理に追加の具材としてあの肉を使うとか、そんな感じだと思う」


 この時、レイが思い浮かべていたのはスープの類だ。

 野菜がメインのスープに肉が……それも黒豹の肉が入っていれば、多分美味く感じるだろう。

 あるいは魚介系のスープの中に肉を入れても、それはそれで美味くなるかもしれない。


(あ、でも魚介のスープに肉ってどうなんだろうな? ……けど、ラーメンとかでも魚介系と鶏ガラとか豚骨とかのスープを合わせてWスープとかTVで見たことがあるから、大丈夫なのか?)


 そう思うレイだったが、本職が材料を吟味してスープの割合や煮込み時間、それ以外にも多数の手間暇を掛けた上でWスープにするのと、料理の知識が皆無という訳ではないが、とてもではないが料理を得意という訳ではないレイが適当に料理するのとでは、そこには天と地程の差がある。


「ふーん。スープの具ね。それは美味しそうかも。ただ、黒豹の肉は食感とかを考えると火を通しすぎない方がいいんじゃない?」

「……なるほど。言われてみればそうだな」


 サシの類が殆どない赤身肉だけに、火を通しすぎると試食した時よりも固くなる可能性が高かった。

 スープに入れるということは、スープの熱で肉に火が入りすぎる可能性がある。

 これが本職の料理人なら……いや、そこまでいかずとも、マリーナのように料理が得意な者であれば、ある程度火の通り具合を予想して調理するといったことも出来るだろう。

 しかしレイはあくまでも多少は料理が出来るといった程度の腕でしかない。

 黒豹の肉ではなく、もっと別の……大量にある肉なら、多少失敗しても構わないといったように、駄目で元々といった感じで試してみることも出来るのだが。


「そうなると……ん? セトか」


 妖精郷の中を歩いていたレイは、離れた場所からセトが自分の方に向かってやって来ているのに気が付く。


「あら、本当ね。けど、セトだけよ?」

「らしいな。一体何があったのやら。……まぁ、ある意味では丁度いいけど」


 黒豹は結構な大きさだったが、レイやセトといったように大食いの者達にしてみれば、食べる量が多ければ多い程にいい。


「セト!」

「グルルルゥ!」


 レイの声に、歩いて来ていたセトは走ってレイのいる方に向かってくる。

 そのままレイに突撃……はさすがにせず、多少速度を落としてからレイにぶつかってきた。

 もしセトが本気で走ってきてぶつかってきた場合、レイであってもそれを受け止めることは難しいだろう。

 事実、こうして速度を落としたセトが突っ込んで来ても、それを受け止めるのはかなり厳しいのだから。


「ぐ……う……と……ふぅ。セト、喜んでくれるのは嬉しいけど、出来ればもう少し大人しくしてくれると助かる」

「グルゥ? グルゥ……」


 レイの様子から、少しやりすぎたと判断したのだろう。

 ごめんなさいと喉を鳴らすセト。

 そんなセトを撫でながら、レイは話し掛ける。


「次からは気を付けてくれればいいよ。それよりも、狼の子供達やボブ、妖精達はどうしたんだ? さっきちょっと見た時は、昼寝も終わって皆で楽しそうに遊んでいたけど」

「グルルゥ!」

「そうか。なら問題はないな」

「って、ちょっと待って! 今までの会話はいいわ。けど、今の会話は一体どうやって理解出来たのよ!」


 頷いたり、首を横に振ったりといったようなことや、もっと簡単な内容で意思疎通をするのなら、ニールセンにも納得は出来た。

 しかし、今のは明らかに違うだろう。

 短く喉を鳴らしただけで、一体どうやってセトが事情を説明出来たのか。

 ニールセンには全く理解出来ない。

 理解出来ないので、こうして思わず突っ込んでしまったのだ。

 理不尽だと主張するニールセンに対し、レイは不思議そうな視線を向ける。


「分かるだろう? こう……ニュアンス、というのはちょっと分かりにくいか。そうだな。感覚的に」

「分かる訳ないでしょ」


 レイの言葉に納得出来ないといった様子のニールセン。

 そうして少し歩き続け……レイが宿泊場所として使っている場所が見えてきた辺りで、再びレイが口を開く。


「俺はセトをテイムした。だからだろうな」

「……それで分かるの?」

「その辺は人による。それに俺は小さい頃からセトと一緒に育ってきたんだ。だからこそ、セトの言いたいこととかは分かりやすい」


 この辺は当然だが真実ではなく、表向きの設定だ。

 実際にレイがセトの言いたいことや気持ちを何となく分かるのは、レイがセトと魔力によって繋がっている……つまり、魔獣術のおかげだ。

 しかし、魔獣術については当然ながらレイはニールセンに教えるつもりはない。

 ニールセンの性格を考えれば、魔獣術について教えてた次の日には妖精郷に魔獣術についての話が広まっていてもおかしくはないのだから。

 実際にそこまで噂を広げるかどうかというのは、レイにも分からない。

 しかし、それでも万が一というのを考えると、出来れば避けたいと思うのは当然だった。

 ニールセンの性格を知っていれば、よけいに。

 そうこうしているうちに、やがて目的の場所に到着する。

 だが、そこにはレイよりも先に戻ってきているボブの姿があった。


「ボブ? 狼の子供達や妖精達と遊んでいたじゃなかったのか?」

「そのつもりだったんですけどね。そろそろ終わりにしよということになりまして。妖精達も、ずっと一緒の相手と遊んでいるよりは、他の相手とも遊びたいと思っているんでしょうね」


 セトが戻ってきたのも、そういう理由だったのだろう。

 レイはセトと意思疎通出来るものの、それはあくまでも簡単なものであったり、ニュアンス的なものだ。

 詳細な内容については、当然ながらそれを理解するような真似は出来ない。

 そういう意味では、こうしてきちんと事情を話して貰った方が事情は理解出来た。


「妖精も色々とあるんだな。……好奇心の強い種族だし、当然か。とにかく、それで暇になったボブはここに戻ってきたのか。ボブのことだから、妖精郷を見て回ってるのかと思ったけど」


 好奇心の強い妖精だが、それはボブも変わらない。

 でなければ、猟師なのにどこかに定住せず、旅をしながら狩りをするといったようなことはしないだろう。

 そんなボブが妖精郷の中にいるのに見て回らず、こうして宿泊場所に戻ってきたというのは、レイにとっても意外だった。


「別にそこまで何か理由があってということではないですよ。遊ぶのにかなり体力を使ったので、少し休みたいと思っただけで」


 ボブは歩いて旅をするし、林、森、山といった場所で狩りをするために歩き回り、走り回りと、非常に体力はある。

 そんなボブでも、狼の子供達や妖精達と一緒に遊ぶというのは、想像以上に体力を消耗したのだろう。


「なるほど。なら、ちょうどいい時に戻ってきたな。実はニールセンと一緒に妖精郷を出たら、またオークを見つけてな」

「え? またですか? ……さすが辺境ですね。普通の場所でもそれなりにオークを見つけることはありますが、それでも一度倒したらまたすぐにとはいきませんよ」

「だろうな。ただ、そのオークを狩ろうとしたら、ランクBモンスター……正確には分からないが、強さ的に恐らくそのくらいのモンスターが出て来て、瞬く間にオークを殺した」

「ランクBモンスター!?」


 ランクBモンスターという言葉に驚きの声を上げるボブ。

 冒険者でも何でもないボブにしてみれば、ランクBモンスターというのは遭遇したら死を意味するような、そんな強力な相手だ。

 ボブは猟師としての技量は高いものの、あくまでもそれは猟師としてでしかない。

 正面からぶつかった場合、オークを倒すことすら不可能なのだ。

 もしそんなボブがランクBモンスターと遭遇するようなことになったら、どうなるか。

 当然だが、戦って勝利するということはなく、逃げ切れれば生き延びて、それが無理なら殺されてしまうだろう。

 ボブにとってはそんな恐怖の象徴であるランクBモンスターを、あっさりと倒したと言うのだ。

 それに驚くなという方が無理だろう。

 もっとも、驚くと同時に納得もする。

 レイは猟師である自分とは違い、ランクA冒険者なのだから、と。

 だからこそ、レイならば……と納得する。


「凄いですね。けど……妖精郷の近くにランクBモンスターですか……」


 ボブにしてみれば、レイがランクBモンスターを倒したのも凄いが、それ以上に驚くべき、そして怖がるべきなのは、やはり妖精郷のすぐ側にランクBモンスターが出現したということだろう。

 ボブは穢れの影響で妖精郷に入るのを禁じられていた時、食料を集める為に妖精郷周辺のトレントの森で狩りをしていた。

 もしかしたら、ボブがランクBモンスターと遭遇していた可能性も高いのだ。

 ここがボブも知っている場所……辺境以外の森だと思っていたので、今までのように狩りをしていたが、改めて思うとそれはかなり危険なことであり、命懸けの綱渡りだったのだと納得するしかなかった。


「レイさん達と一緒にいたのは、本当に運がよかったんですね」


 しみじみと呟くその言葉に、レイもその言葉の意味を理解していたので、納得の様子を見せる。


「運も実力のうちって言うしな。……次からは気を付ければいい。もっとも、気を付けても俺が倒した黒豹のような高い身体能力を持っているモンスターからは、ちょっと逃げるのは難しいと思うが」


 レイの場合は黒豹と戦って倒すだけの実力があった。

 しかし、それはあくまでもレイの場合だ。

 もしボブが黒豹と遭遇した場合、それこそオークと戦っているのを確認したら即座にその場から逃げ出すといったような手段しかない。

 もしその時に黒豹がオークだけに集中していた場合、もしかしたら逃げられる……より正確には見逃して貰える可能性があった。

 実力ではどうしようもない以上、それこそ運を天に任せるといった真似しか出来ないのだ。


「一人で猟師をやってると、こういう時に厳しいよな。これが冒険者なら、パーティを組んで仲間がいるから、一人だけで対処出来ない相手にも勝つことは出来るだろうけど。……やっぱりボブは冒険者になった方がいいんじゃないか?」


 冒険者になることが出来れば、ボブにとっては悪い話ではない。

 しかし、そんなレイの言葉にボブは首を横に振る。


「いえ、今のところはそんなつもりはありません。冒険者はレイさんの言う通り便利なところもあるでしょう。ですが、冒険者になるとそれはそれで面倒が増えそうですから」

「そこまで気にすることもないと思うけどな、……いやまぁ、以前の話を思えば俺がここでどうこう言っても意味はないんだろうけど」


 冒険者であるレイにしてみれば、冒険者になることのデメリットよりもメリットの方が大きいと思える。

 勿論、それでもデメリットがない訳ではない。

 例えば、ギルドのある村や街にモンスターや盗賊が襲ってきた場合、冒険者であれば強制的に戦力とならなければならなくなる。

 また、これはレイの場合に限るのかもしれないが、ギルドに行った時に外見から他の冒険者に絡まれるといったことが多い。

 レイにとってすぐに思いつく冒険者のデメリットというのはそのくらいだが、それはあくまでも今の状況でレイが思いつくことだ。

 ボブにしてみれば、それ以外にも冒険者になるデメリットは多いのだろう。


(特にボブの場合は、どこか一ヶ所にいるんじゃなくて、好奇心の赴くまま色々な場所に行きたがるしな。そうなると、冒険者になってもパーティを組むのは難しい。もっとも、それ以外でもメリットはあるけど)


 一番分かりやすいメリットは、他の村や街に入る時にギルドカードを見せればいいということだろう。

 村や街に入る時、金が必要になる場所もあるのだが……ギルドカードを見せれば、それが免除されるのだから。

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[一言] 次で3000話か……遠くまで来たものよ……
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