2946話
今年もこのライトノベルがすごい!2022のアンケートの時期がやって来ました。
詳細については、以下をご覧下さい。
https://questant.jp/q/konorano2022
回答期限は9月23日(木)23:59となっています。
是非、レジェンドに投票をお願いします。
レイは若干納得出来なかったものの、それでも話は決まっていよいよオークを倒すべく行動に移ろうとした……その瞬間、レイは鋭く口を開く。
「ちょっと待て」
そんなレイの言葉にセトは即座に反応して止まり、ニールセンは隠れていた茂みから飛び出したものの、それでもすぐに戻ってきた。
ボブは元々隠れている約束だったので、今のレイの声を聞いても問題はなかった。
「レイ、一体……ああ、なるほど」
茂みから飛び出したニールセンだったが、その小ささからオークに見つからずにレイのいる場所まで戻ってくると、何でいきなり止めるのかといった不満を言おうとする。
しかし、その言葉の途中でオークの集団に動きがあったので、何故レイが動きを止めたのかを理解した。
十匹程のオークがいたところに、新たに二匹のオークが姿を現したのだ。
その手には狐の死体がある。
新たに現れたオーク達が狩った獲物なのだろう。
(まだいたのか。とはいえ、二匹程度増えたところで意味はないけど)
それでも戦っている最中にいきなり姿を現すといったような真似をされると面倒なのは間違いない。
それについてを警戒しつつ……数分。
他にオークが姿を現さないのを確認してから、レイは改めて口を開く。
「これ以上は多分敵もいないだろう。……行くぞ」
そう口にし、レイは今度こそ茂みから出る。
これは別に決闘の類でもないのだから、モンスターを前に名乗りを上げたりはせずオークとの間合いを詰めていく。
その手にはミスティリングから取り出したデスサイズと黄昏の槍が握られ、いつものように二槍流の状態だった。
「ブヒイィイイィィ!」
オークの一匹……狐の死体を持っていた個体が、最初にレイの存在に気が付いて声を上げる。
オークの言葉は分からないので、レイはオークが何を言ってるのか分からない。
驚きの言葉を口にしただけか、それとも敵が来たと味方に警戒の声を発したのか。
だが……その声は遅かった。
地を蹴るレイは、オークの叫び声が上がった時には既にオークの集団のすぐ側までやってきていたのだから。
「死ね!」
短く、そして相手を決定的なまでに相手の結末について口にしてデスサイズを振るうレイ。
魔力を込めて放たれたその一撃は、三匹のオークの胴体を上下に切断する。
その一撃を放った反動を使って回転しつつ、黄昏の槍により一匹のオークの頭部を砕く。
瞬く間に四匹のオークを殺したレイは、次の獲物を探す。
しかしその時は、既にセトの前足の一撃によってオーク一匹が死に、クチバシの一撃で頭部を砕かれて一匹が死んでいた。
そして何匹かはニールセンの魔法によって突然地上から伸びてきた草がオークの足に巻き付き、動きを止める。
そうして動きを止めたオークは、レイやセトにとっていい獲物でしかない。
デスサイズや黄昏の槍、あるいは前足やクチバシによって次々とオークの命を奪っていくのだった。
「うわぁ……信じられません……」
戦いというには一方的な、既に一方的な蹂躙という言葉が正しいようなレイ達の行動により、オークは何をするでもなく全滅した。
数が少なかったこともあり、オークの中には逃げようとした個体もいたが、それらはニールセンの魔法によって妨害され、逃げることは出来なかった。
襲ってきたのがレイとセトという一人と一匹で数が少ないということで何とか立ち向かおうとした個体もいたのだが、そのような者は真っ先にレイやセトによって命を奪われた。
そうして戦いが終わったところで、ボブは恐る恐る、もしくは半ば呆然とした様子で姿を現した。
なお、結局ボブは弓で援護をするようなことはなかったが、レイ達にしてみればこの程度の相手には弓の援護があろうとなかろうと、あまり意味はない。
……勿論、援護はあった方がいいのは事実なのだが。
「信じられないって言われてもな。結局この程度のオークの数だぞ? 俺にしてみれば、そう驚くこともでないんだが」
これは大袈裟に言ってるのでも何でもなく、レイにとっては純粋に事実を口にしているだけだ。
今までドラゴンを含めて高ランクモンスターとの戦いを経験してきたレイにしてみれば、オークというのは美味い肉を持つモンスターといった認識しかない。
四方八方に逃げられれば、その全てを倒すことは難しいだろう。
しかし今のように不意打ちをし、更にはセトが一緒に攻撃し、ニールセンの援護によって敵が逃げられないようにした状況で十匹ちょっとのオークを倒すのは余裕だった
「僕がオークと遭遇したら、一匹……それも相手が油断をしている時に不意打ちをすれば何とか勝てるといった程度なんですが……」
弓しか武器を持っていないボブとしては、オークと近接戦闘をやるといったことはまず出来ない。
そして弓も、野生の獣を獲るには十分な威力を持つが、オークのようなモンスターを一撃で殺すといったような強力な弓ではない。
ボブの弓はあくまでも狩猟用の物で、モンスターを殺す為の戦闘用の物ではないのだ。
それでも弓は弓である以上、射った矢がオークの頭部に命中すれば一撃で仕留めることも出来るのだが。
あるいは心臓を貫いても一撃で倒せるだろう。
……もっとも、オークの厚い脂肪と筋肉に包まれた心臓を射抜けるかどうかは別の話だが。
「取りあえずオークの死体は確保しておくか。解体は……長に頼んでみて、駄目なら俺の方でやるけど」
「え? ちょっと、レイ。本気?」
長に解体を頼むというレイの言葉に、ニールセンが本気かといったように驚く。
ニールセンにしてみれば、気軽に長にそんなことを頼むというのはとてもではないが出来ない。
それをあっさりやるというのだから、レイに驚きの視線を向けるのは当然だった。
とはいえ、レイにしてみれば実際にスモッグパンサーを始めとしたモンスターを解体して貰っているのだから、今更の話だろうとしか思えなかったが。
「勿論本気だ。とはいえ、長がこっちの要望を素直に聞くかどうかは分からない。色々と忙しいのは間違いないだろうし」
レイが倒したスモッグパンサーの魔石を使って霧の音を完成させたり、あるいはボブの穢れに対処する為の準備もある。
そういう意味では、何気に長は現在妖精郷で一番忙しいのかもしれない。
そう思いつつも、解体の魔法を使えるのは長だけである以上、解体を頼むのを止めるつもりはなかったが。
(こういう時、解体のマジックアイテムがあると便利なんだけど……まぁ、いつかは出来ると信じておくしかないか)
ミスティリングにあった、色々なモンスターの素材。
それらを結構な量、レイは長に渡した。
その素材を使って解体用のマジックアイテムを作って欲しいと言って。
それ以外にも、妖精の作るマジックアイテムの助けになるのなら、それはそれで問題はないと思う。
ミスティリングに収納されていた素材の中には、錬金術師なら目の色を変えてもおかしくない物も多い。
それこそギルムにいる錬金術師……特にトレントの森の木に魔法防御が高くなるように手を加えている錬金術師達がこのことを知れば、何故自分達にその素材をくれないのかと、責められてもおかしくはなかった。
とはいえ、レイはギルムの錬金術師達にはうんざりしているところもあるので、もしそれらの素材を長にやっていなくても、錬金術師達にやることはなかっただろうが。
「取りあえず目的のオークは倒したし、そろそろ戻るか。いつまでもこうして外にいる訳にもいかないしな」
オークの死体を次々にミスティリングに収納しながら、レイはそう告げる。
そんな異様な光景にボブは何かを言いたそうだったが、今はそんなことを言っても意味はないだろうと、黙り込むのだった。
「見えました!」
時は戻り、レイがセトの案内でオークの拠点を探していた頃。
馬車で辺境に向かって移動中の男達……そんな中、目を瞑っていた男が不意に叫ぶ。
この男達は、レイを……正確にはボブを襲った者達だ。
いきなりボブとの視界の繋がりが切れたので、空を飛んで移動したボブがどこにいるのかは全く分からなかったのだが、レイが一緒にいたということで辺境のギルムに向かったのだろうと判断し。現在こうして移動中だったのだが……そんな中で、不意に視界の繋がりが戻ってきたのだ。
その言葉に、馬車の中にいた者達がざわめく。
当初は何らかの手段で視界の繋がりが完全に絶たれたのではないか。
そんな最悪の予想もあったのだが、幸いなことにそれが外れた形だ。
実際、そんなことが出来るとは多くの者が思っていなかった。
しかし、それでも実際に視界の繋がりが絶たれていたのは間違いない以上、万が一ということも考えていたのだが。
「ふぅ、そうか。繋がりはまだ残っていたか」
リーダーもその言葉を聞いて安堵する。
しかし、そうした安堵も一瞬のこと。
すぐに現在のボブの状況を尋ねる。
「それで、奴は現在どこにいる?」
「森の中……でしょうか。深紅やグリフォン、それに……この前の妖精も一緒にいます!」
目を瞑ったまま、喜びの声を上げる男。
ボブを殺すこともそうだが、同時に男達にしてみれば妖精の心臓も欲していた。
だからこそ、ここで視界の繋がりが回復し、その姿を確認出来たことは非常に有益だった。
「森の中か。やはり辺境のギルムの近くと考えるべきか? だが、問題なのはどこの森かということか」
リーダーが悩みながら言う。
ギルムの周辺には、林や森が幾つも存在している。
そうである場合、一体自分達はどこに行けばいいのか。
複数あるだけに、このまま辺境に到着してもレイ達がいない全く見当違いの場所を探す……といったようなことになってもおかしくはないのだ。
あるいはレイ達のいる場所が辺境でも何でもなく、普通の森であるのならそれでもいいだろう。
だが辺境の森となると、そこには辺境であるが故の未知のモンスターがいる可能性は十分にあった。
ここにる男達は誰もがそれなりに腕に自信はあるものの、それでもあくまでもそれなりでしかない。
辺境に存在する高ランクモンスターを相手に戦って勝てるかと言われれば、その答えは否だ。
「辺境の森……やはり情報こそが全てを決めるな。とにかくまずはレイ達のいる場所をしっかりと見つけなければ」
レイ達がどこにいるのか分かれば、選択肢は複数ある。
マジックアイテムは複数持ってきているので、以前のように蝋燭を使って自分達の存在を消して近付くといった真似も不可能ではないだろう。
もっともそうなった場合は、またセトに見つかる可能性があるのでその対策は必須となるが。
「あ……どうやらボブ……いえ、レイ達はオークを狙っているようです」
ボブと視界が繋がっていた男がそう言う。
現在その視線の先ではオークの集まっている場所を見つけたレイが武器を構え、突っ込む……ところで、不意に動きを止める。
新たなオークが姿を現したからだというのが、見ている者には分かった。
そして再びオークの群れに突入し……
「うわ……」
そのあまりの蹂躙ぶりに、ボブと視界の繋がっている男の口からはそんな声が漏れる。
そんな声を聞いて、気になるのは当然のように周囲の男達だ。
「どうした? 何があったんだ?」
「その……深紅のレイがオークを虐殺している」
その言葉を本人が聞けば、人聞きが悪いと不満に思ってもおかしくはない。
だが実際にボブの視界から見える光景は、虐殺という表現が相応しい状況だったのだ。
恐らくその光景を見た者の多くは自分と同じ感想を抱くだろうと、ボブの視界と繋がっている男は思う。
とはいえ、虐殺されているのはオークである以上、それを不満に思う者はそう多くはないだろうが。
世の中にはモンスターも生きている以上は、殺すのは駄目だと主張する者もいる。
だが、そのような者も実際には普通にモンスターの肉を食べているのだ。
結局のところ、モンスターすら殺せば駄目だと主張する者の大半は、そうすることによって何らかの利益を得る者なのだろう。
勿論、中には本当に慈愛の心を持ち、自分はモンスターの肉を食べないという者もいるが。
代わりに野生動物の肉は食べていたり、魚を食べていたりするが、本人的には問題ないのだろう。
あるいは植物しか食べていなくても、その植物は生きているのでは? という言葉に対しては自分達だけが納得出来る理屈をつけて問題なしとしている。
もっとも、オークの虐殺を見ている者にとってはその辺りについては全く何の興味もなかったが。
「あれがアイテムボックス……」
レイがオークの死体を次々とミスティリングに入れていくのを見て、男がそう呟く。
実際には今まで何度もレイがミスティリングを使う光景を見てはいるのだが、それでもこうして驚くのは、それだけミスティリングが珍しいことの証拠だろう。
そうしてレイ達の様子を見ていた男だったが……レイ達が妖精郷に近付いて霧が発生すると、再び視界が途切れるのだった。