2945話
今年もこのライトノベルがすごい!2022のアンケートの時期がやって来ました。
詳細については、以下をご覧下さい。
https://questant.jp/q/konorano2022
回答期限は9月23日(木)23:59となっています。
是非、レジェンドに投票をお願いします。
「この辺ですね」
ボブがそう言ったのは、妖精郷……正確には妖精郷の外側の霧が発生している場所から二十分程歩いた場所だった。
特にこれといって特別な何かがある訳でもない場所。
とはいえ、ここはオークが拠点にしているような場所ではなく、あくまでもボブが森の中でオークと遭遇した場所でしかない。
そういう意味では、ここに何かがある訳でもないのは当然だった。
「うわ、結構近いじゃない。こんな場所までオークがやって来てるの? これ……長に知らせた方がいいかしら」
ニールセンにしてみれば、自分の住処である妖精郷からそう離れていない場所にオークがいたのは、思うところがあったのだろう。
もっとも、危険を感じはしているものの、そこまで切羽詰まった様子はない。
妖精郷の周囲には霧があり、その霧を突破するのは簡単ではない。
それこそレイやセトのような強者ならともかく、ただのオーク風情にどうにか出来る訳がなかった。
霧の中には狼達もいて、もしオークが霧の中に入ってくればその狼達が襲うだろう。
もしそれらをどうにかし、奇跡的な偶然によって霧を突破出来たとしても、妖精郷には複数の妖精がいる。
妖精は物理攻撃という意味ではかなり弱いものの、魔法となると相応に強い。
それこそただのオークが対抗するのは難しいだろうくらいには。
その上で、妖精郷にはまだ長がいるのだ。
何重にも守られている妖精郷は、強固な要塞と言ってもいい。
……もっともその要塞の中にいる妖精はそのようなことは考えず、自分の好奇心が赴くままに行動しているのだが。
「オークの件は別に知らせる必要はないだろ。今日俺達に滅ぼされるんだし。……セト、いいか?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは任せてと喉を鳴らしてから数歩前に出る。そして……
「グルルルルルゥ!」
嗅覚上昇のスキルを使い、その場に残っている臭いを追う。
レベルが六になって強化された嗅覚上昇は、それこそあっさりと自分達の行くべき場所を示す。
「グルルルルゥ」
レイに向かってこっちだよと喉を鳴らすセト。
そんなセトにレイは素直に従う。
「どうやら向こうらしいな。行くぞ」
「え? 今ので本当に分かったんですか?」
ボブにしてみれば、セトのスキルが一体どのくらいの威力を持っているのかは分からない。
勿論、グリフォンである以上は自分がセトの力を全てを察するような真似は出来ないと思っているが、それでも今ので本当にオークのいる場所まで行けるのか? といった疑問を抱いてしまう。
「大丈夫よ、セトなんだから」
ボブにそう声を掛けてたのは、ニールセン。
レイやセトとの付き合いはボブより長いので、今の状況はボブよりも理解出来たのだろう。
そして妖精に対して好意的なボブは、ニールセンのその言葉を聞いて納得する。
「分かりました。セトだからということで納得すればいいんですね。……だとすれば、レイさんの場合はレイさんだからで納得すればいいんでしょうか?」
「おい」
ボブの言葉に思わず突っ込むレイだったが、実際にレイだからということで色々と納得されることが多いのは事実なのだ。
そうである以上、レイとしてはボブに突っ込みはしたものの、それ以上その件について突っ込んだ話をするのは止めておく。
「とにかく、セトに任せておけば大丈夫だ。ほら、行くぞ。……セト、頼む」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは軽く鳴き声を上げてからオークの臭いの濃い方に向かう。
オークの臭い……体臭は、決して愉快なものではない。
それでもセトが特に気にした様子がなかったのは、ゾンビのようなアンデッドと比べればオークの体臭の方が我慢出来るものだったからだろう。
そうしてトレントの森の中を進みながら、レイは少しだけ心配になる。
もしこうして歩いている中で、誰か……モンスターではなく、冒険者や樵といった面々と遭遇したらどうすればいいのか、と。
普通に考えれば、妖精郷のあるような場所の近くで冒険者や樵と遭遇することはない。
樵はあくまでもトレントの森の外側から木を切っているのだし、冒険者もそんな樵の護衛であったり、あるいは生誕の塔や湖の警備としているのだから。
だが……世の中には、抜け駆けをして他人より儲けたいと思う者がいる。
樵はともかく、冒険者にしてみればこのトレントの森は色々な意味で特殊な場所である以上、何か高く売れる物がないかと森の奥深くまで入ってきたりしかねない。
当然のように、それは冒険者の仕事から外れた行為なのだが……樵が道に迷い、それを捜しに来たといったような内容や、あるいは樵が良質な木材になる木を探しているうちに迷い込んだといったようなことになったと言い訳をした場合、レイとしては対処に困る。
実際にそのような真似をする者がいるのかどうかは、分からない。
一応トレントの森関連については、ギルムの方で信用出来る冒険者を選んで依頼をしている筈だった。
しかし、人は誘惑に弱い。
商人や研究者、魔法使い、錬金術師、貴族。
このトレントの森に興味を抱いている者は数多いのだから。
そういう者達が何かを狙ってトレントの森の奥までやってこないとは限らない。
……とはいえ、現在のトレントの森は色々な動物やモンスターがいる。
中には高ランクモンスターがいてもおかしくはなく、そういう意味ではハイリスクハイリターン……場合によってはハイリスクローリターンとなる可能性も否定は出来なかった。
(前もって何を入手するのか決めておいて、しかもそれが結構な報酬でないと……正直、無理をする価値はないと思うけどな)
当然ながら、そんな勝手な真似をしているのがダスカーやギルドに知られれば、冒険者は大きなペナルティを受けることになる。
場合によっては賞金首になってもおかしくはないくらいに。
そこまでする価値があるのか? そう思わないこともなかったが、その辺は人によるのだろう。
自分が関係する訳ではない以上、その辺について詳しく考えても意味はないだろうと判断し、レイはオークのいる場所を探して進むセトを追う。
「ねぇ、レイ。オークの集落が大きかったらどうするの? 場合によってはそれぞれに逃げられるんじゃない?」
黙っているのがつまらなかったのが、ニールセンがレイに向かってそう聞いてくる。
ニールセンも妖精郷に住んでいる以上、このトレントの森に限らず、他の場所でもオークを見ることが多かったのだろう。
だからこそ、オークの厄介さをある程度は理解している。
オークはそれなりに頭がいい。
もし襲ってきたのが自分達では絶対に勝てない相手だと判断すれば、それぞれが好き勝手に逃げるといった真似をしてもおかしくはなかった。
整然と逃げるのではなく、それぞれが好きな方向に向かって好き勝手に逃げる。
それは一見すればみっともないのだが……軍隊のように整然と撤退するよりも実は生き延びられる可能性が高いと、これまでの経験から理解しているのだろう。
実際、レイやセトにとってはそれが一番やられると嫌なことだった。
相手が個として強い敵……オークの上位種や希少種といった存在なら、その敵を逃がさないように戦えばいい。
レイやセトなら、オークの上位種や希少種と戦っても負けることはまずないのだから。
だが、レイやセト……もっと具体的にはセトを見た瞬間に逃げ出すといったような真似をされた場合、レイやセトはそれぞれでオークを追って攻撃をするしかない。
レイもセトも一撃でオークを殺せるだけの実力を持ってはいるが、それでも攻撃をする際に一瞬とはいえ時間が掛かるのは間違いないのだ。
そうしてオークの一匹を殺している間に他のオークは逃げていく。
勿論、そうなればオークもそれぞれ個別に行動することになり、場合によってはトレントの森に存在する他のモンスターに襲われる可能性は十分にあった。
「とはいえ、正直なところそこまでのことになるとは思ってないけどな。多分……本当に多分だが、ボブが見たオークの群れはかなり小さいと思う。それこそ、場合によっては数匹かもしれない」
「何でそう思うの?」
ニールセンにしてみれば、オークというのは多数の集団だと思っているのだろう。
ましてや、オークは繁殖力が高いのだから余計に。
「トレントの森の現状からだな。まだこのトレントの森はそれぞれのモンスターや動物が縄張り争いをしている。そんな場所だけにオークだけがいきなり大きな群れになるとは思えない」
「別にこの森の中で大きな群れにならなくても、それこそ大きな群れでこの森に来たりとかするかもしれないじゃない?」
「それはない……とは言い切れないけど、可能性はかなり低いな」
生誕の塔、異世界の湖、トレントの森、他にも異世界へと繋がる空間。
このようにトレントの森は公に出来ないことが多数ある。
そうである以上、当然ながら誰かが勝手にトレントの森に入らないように、兵士や騎士、冒険者を見張りとして置いている。
それだけに数匹のモンスターならともかく、見て分かる程の大きなオークの集団といった者達がトレントの森に入ろうとすれば、当然ながらすぐに分かるだろう。
そう説明すると、ニールセンは少しだけ不思議そうな様子を見せる。
「でも、私達がこの森にやって来た時は見つからなかったわよ?」
「それは……長が何らかの妖精魔法を使ったのか、あるいは空を飛んでいるから見つかりにくかったのか、それとももっと他の理由があるのか。ちょっとその辺は分からないけど、妖精だからと言えば納得してしまいそうになるな」
妖精だからで納得するという言葉に、ニールセンは何故か嬉しそうな様子を見せる。
ニールセンにしてみれば、自分達の能力について褒めているのが嬉しいと思えたのだろう。
「グルゥ!」
話をしながら進んでいたレイだったが、不意にセトの鳴き声で足を止める。
足を止めているセトの視線を追うと、レイにも森の中にいるオークの姿を見つけることに成功した。
その数は十匹程度。
これで全てなのかどうかはレイにも分からなかったが、それでも恐らくはこれがほぼ全てで、他にいても数匹程度だろうと判断する。
(やっぱりこの程度か)
予想が当たっていたことに喜ぶレイ。
その辺の冒険者なら十匹のオークというのはちょっと一人では手を出しにくい相手だ。
しかし、レイのような腕利きにしてみれば十匹程度のオークを倒すのはそう難しいことではない。
ましてや、今ここにいるのはレイだけではなく相棒のセトもいるし、補助魔法が得意なニールセンもいるし、遠距離から攻撃出来る弓を持つボブもいる。
……もっとも、ボブはあまりやる気を見せてはいなかったが。
自分の実力を理解しているボブは、オークと戦いたいとは思わない。
これが猪や鹿なら、喜んで矢を射るのだが。
あるいはオークが一匹程度なら、まだボブでも何とかなりそうな気がする。
しかし、相手は十匹。
とてもではないがボブの手には負えない相手だ。
「どうするんです? 一旦退きますか?」
は? と、レイはボブが一体何を言ってるのか、最初理解出来なかった。
レイにしてみれば、何故この状況で退くという選択肢が出て来るのか分からない。
そしてボブにしてみれば、何故この状況で退くという選択肢に疑問を抱くのか分からない。
双方共に、お互いの実力をしっかりと理解出来ていないからこそ、今のような状況になってしまったのだろう。
「退くつもりはない。オークの十匹や二十匹、俺やセトにとっては強敵でも何でもないしな。ただ……そうだな。ボブが猟師だというのは忘れていた。これは俺の失敗だな」
もしボブが冒険者なら、レイの言葉を素直に信じることが出来ただろう。
だが、ボブは冒険者ではない。あくまでも猟師なのだ。
そうである以上、ここでレイの行動を理解出来なくても仕方がなかった。
「だから、ボブは離れた場所で隠れていろ。それなら安心だろう?」
「本気で戦おうとしてるんですか? あの数ですよ?」
「あの程度の数なら問題ない。……とにかく、見ていれば分かると思うから心配するな」
そう言うレイの言葉に、ボブは心配そうな表情を浮かべる。
これでボブが相手の強さを理解出来るだけの力を持っているのなら、レイの言葉も真実だと信用出来たのだろう。
だが、残念ながらボブにそんな力はない。
結果としてレイの言葉を信じていいのかどうか迷っているところで……
「ボブ、心配いらないわ。何かあったら私がレイ達を守るから」
ニールセンがそう言うと、それならとボブも納得する。
自分の言葉は信じないのに、何故? と若干レイは不満だったが。




