2944話
今年もこのライトノベルがすごい!2022のアンケートの時期がやって来ました。
詳細については、以下をご覧下さい。
https://questant.jp/q/konorano2022
回答期限は9月23日(木)23:59となっています。
是非、レジェンドに投票をお願いします。
朝食を終えると、レイはセトとニールセンと共にボブのいる場所に向かう。
二匹の狼の子供達は、長から言い聞かされているのか、それとも本能からか、妖精郷から出るレイ達と一緒に行動するようなことはせず、料理を食べ終えるとどこかに走っていった。
途中で何人かの妖精を見つけたが、まだ朝だからか、それともそういう気分ではないのか、もしくは長から何か言われたのか……理由はともあれ、レイに向かってお菓子をちょうだいとやって来ることはなかったのでスムーズに妖精郷から出ることに成功する。
そうして妖精郷から出ると、霧に包まれた空間には肉を焼く匂いが漂っている。
誰がそれをやっているのか。
それは考えるまでもなく明らかだろう。
そもそもの話、霧のある場所にいるのはボブだけなのだから。
「ボブ、どうやら今日はそれなりに狩りの成果はあったみたいだな」
「あ、レイさん。それにニールセンさんも、一体、どうしたんです? こんな場所に」
「ちょっとボブ、こんな場所っていうのはちょっとどうかと思うわよ?」
少しだけ不満そう……というよりは、からかうといった様子を見せながら、ニールセンが告げる。
実際ここは妖精郷のすぐ外なのだ。
そうである以上、こんな場所というのは妖精郷を軽く見ているようにも思える。
暗にそう告げるニールセンに、ボブは困った様子で頭を掻く。
「いえ、別にそんなつもりはなかったんですけど……えっと、その……僕のいる場所ということにしておいて下さい」
「今日はそれで勘弁してあげる。それより……鳥? 結構大きいわね」
ニールセンが興味を示した鳥は、鴉程の大きさを持つ鳥だ。
羽毛を全て毟られ、下処理をした上で焼かれている状態での大きさなのを考えると、羽毛があった時は鴉よりも大きかったのは間違いない。
生憎と、その鳥はレイが知ってる鳥なのかどうかは分からなかったが。
羽毛は毟られ、頭部は切断されて焼かれている状態なのだから当然だろう。
「焼き鳥か」
「え? まぁ、鳥を焼いてるので、そういう料理名でもいいですけど」
レイの口から出た呟きに、ボブは不思議そうな表情を浮かべつつ、そう告げる。
ボブにとってはどうでもいいことだったが、焼かれている鳥を見ながら、レイは不意に焼き鳥について思い浮かべていた。
普通焼き鳥と言えば、思い浮かぶのは木の串に鶏肉を刺して焼いた料理だろう。
あるいは長ネギが間に入っていたりもする。
塩かタレか。あるいは串に刺したまま食べるか、串から外して箸で食べるか。
唐揚げにレモンを掛けるどうか、あるいは目玉焼きに何を掛けるのかといったのと同じように論争になりやすい料理だったが、レイが思い浮かべていたのは少し違う。
焼き鳥という料理は、本来なら木の串に鶏肉を刺して焼くのではなく、羽毛を毟った雀をそのまま丸ごと焼いて食べるというのが、焼き鳥の源流とでも言うべきものだった、ということだ。
普通の焼き鳥とは全く違うその雀の丸焼きは、骨ごと丸囓りするような料理だ。
とはいえ、レイもその知識はあくまでも漫画で手に入れたもので、実際に雀を食べたことはないのだが。
「それにしても、昨夜は楽しい夜でした」
鳥を焼きながら、ボブはそんな風に言う。
もしかして皮肉か何かを言ってるのか?
そう思ったレイだったが、ボブの様子を見る限り決して皮肉を言ってるようには思えない。
それこそ、本当に心の底からそう思っているのは明らかだ。
「楽しい夜って一体何があったんだ? ……もしかして、妖精が来たのか?」
「はい。何人か夜に様子を見に来たので、一緒に食事をしたりしましたよ。それと狼も」
なるほど、と。
ボブの口から出たその言葉は、レイを納得させるには十分だった。
妖精達がボブと友好的に接している以上、狼にとってボブは敵ではない。
あるいはボブが無理にでも妖精郷の中に入ろうとしたりしていれば、狼達もそれを止めようとしたりしたのかもしれないが……幸いなことに、ボブは無理に妖精郷に入ろうとはしなかった。
狼達もそれが分かっているだけに、多少なりともボブに気を許したのだろう。
猟師のボブにしてみれば、狼というのはある意味で競争相手に近い。
そんな関係ではあったが、妖精や妖精郷という共通点のおかげで、特に諍いの類は起こっていなかった。
それどころか、妖精達と友好的な関係を築いているボブだけに、狼達は妖精達からボブの面倒を見ておくようにとも言われている。
勿論、狼達にしてみれば、そこまで話を聞く必要がある訳でもないのだが……それでも、妖精達からの頼みということもあって断ることも出来ない。
結局は全身全霊で何があってもボブを守る……とまではいかないが、ちょっと注意しておくといった程度のことはやっていた。
おかげでという訳でもないのだろうが、ボブは野営をする時にそこまで周囲の状況を警戒する必要はない。
野営を……それも初めて来る場所での野営と考えると、ボブにとってはかなりやりやすいような場所だろう。
「なら、もう一晩くらいの野営は平気だよな? 昨日長に聞いたところによると、やっぱり穢れをどうにかする準備を整えるには二日くらい掛かるって話だったし」
正確には、昨日の長の言葉を聞く限りでは上手くいけば今日中にはどうにか出来るかもしれないといったニュアンスもあったのだが、そんな長の言葉からするとやはり実際には二日は必要となるだろうというのがレイの予想だった。
「そうですね。まぁ、十日とかそのくらい野営をしろと言われると困りますけど、もう一日くらいなら。……ただ、ここってやっぱり色々と危険そうなところなんですね。今朝も獲物を探して歩き回っていたら、オークがいましたよ」
「へぇ……それはまた。具体的にはどこだ?」
ボブの口から出たオークという言葉に、レイは笑みを浮かべる。
オークは繁殖力が高く、ゴブリン程ではないにしろ辺境以外の場所でも姿を現すことは多い。
また、ゴブリンとは違った個でも集団でも相応の実力を持つ。
そういう意味では、オークは非常に厄介なモンスターなのだが……同時に、オークの肉はランク以上の味を持つと知られている。
実際、ギルムで食べられている肉の中でも少しお高めの肉といった感じでオークの肉は流通していた。
勿論、そこまで定期的にオークの肉を食べることが出来るのは、辺境にあるギルムだからこそなのだが。
オークが辺境以外の場所に出没するにしても、当然ながらその数は辺境とは比べものにならないくらいに少ない。
そしてレイもまた、オークの肉は豚肉感覚で食べているので、その肉の在庫はあればあっただけいいのは間違いなかった。
「どこと言われても、森の中を移動中に遭遇しただけですから。その時の場所を説明することは出来ますけど、だからといって今からそこに行ってもオークはいないと思いますよ?」
レイにしてみれば、オークは手強い訳でもなく、手頃な敵といった存在でしかない。
だが、ボブは弓の腕こそ相応に高いものの、別に冒険者のように鍛えている訳ではないのだ。
そんなボブにしてみれば、オークというのは決して戦ってはいけない相手だった。
そんなオークを追っていくといったような真似をするのは、自殺行為でしかない。
もしボブがオークに見つかれば、それは死に等しいことなのだから。
「移動の途中でも、そのオークの拠点は近くにある可能性が高い」
レイがそう断言したのは、現在のトレントの森の状況を考えればオークの集団がいるという可能性は低いからだ。
以前……それこそレイがこの世界に来てからまだそんなに時間が経っていない頃、オークの集落を潰すという依頼を受けたことがある。
その時の規模と同じくらいのオークがいれば、それこそ増築工事で忙しい今でもオークの集落の討伐依頼が出ていてもおかしくはなかった。
いや、寧ろ今だからこそ即座に依頼が出ていてもおかしくはない。
増築工事の影響もあって、多くの者達が現在ギルムに来ている。
増築工事前にはとてもではないがギルムに来ることが出来なかったような者達も、だ。
そんな者達の中には当然のように女もおり、オークにとって女というのは自分達の子孫を残す為に必須の存在だった。
そうなると、当然ながらギルムに来る者達が襲われることになる。
増築工事を行っているギルムにとって、各種物資を運び、人材を連れてくるそのような者達は必須である以上、もしオークの集落があるのなら、即座に討伐依頼を出してもおかしくはない。
(とはいえ、トレントの森だというのがちょっとな)
生誕の塔や異世界の湖、妖精郷……色々な意味で現在のトレントの森は、非常に重要な場所となっている。
そんな場所に向かわせるとなれば、当然ながら信用の出来る冒険者となるだろう。
「オークの拠点ですか。ぞっとしませんけど……本当に行くんですか?」
「ああ。オークの肉は幾らあっても困ることはないしな。それに、オークがこの森で繁殖するのは、俺としても面白くはない。それに妖精郷にとってもオークの存在は問題だろうし」
勿論、他のモンスターなら問題がないのかと言えば、その答えは否だ。
モンスターという時点で危険な存在が多いのは間違いないのだから。
「そうなんですか? ……分かりました。では食事が終わったら案内しますね」
妖精郷にとってもオークの存在は問題という一言がボブに与えた影響は大きい。
先程までは渋っていたのに、あっさりと言葉を翻す。
そんなボブに若干思うところがあるレイだったが、それでもボブのおかげでオークのいた場所まで案内して貰えることになったのだから、何も言わないでおく。
「でも、僕がオークを見つけた場所まで行って、そこからどうするんですか? 何度も言いますが、僕が見たのはあくまでも移動中のオーク達です。どこに拠点があるのかは分かりませんよ?」
「その辺は心配するな。セトがいるし。なぁ、セト?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは任せて! と喉を鳴らす。
グリフォンのセトは、ただでさえ嗅覚を含めた五感が非常に鋭い。
その上、スキルもある。
セトの持つスキル、嗅覚上昇はその名の通り嗅覚が普段よりも強化されるというものだ。
しかも、そのレベルは六。
魔獣術で習得出来るスキルは、基本的に五になることで飛躍的に強化される。
つまり嗅覚上昇のスキルもレベル四以下の時と比べると、明らかに強化されている筈なのだ。
……問題なのは、具体的にどのくらい強化されているのかが分からないところだが。
元々のセトの嗅覚が鋭いので、わざわざ嗅覚上昇のスキルを使わずとも不便はない。
そういう意味では、何気に今回のオークの拠点を探すのが嗅覚上昇の初めての使用ではあった。
(俺が知らない場所でセトが嗅覚上昇のスキルを使っている可能性はあるけどな)
レイは出来るだけセトと一緒にいるようにしているが、それでも常に一緒にいる訳ではない。
レイとセトが別行動をしている時に、セトが嗅覚上昇のスキルを使っていてもおかしくはなかった。
レイは別にそれを責めるつもりはないものの、具体的に嗅覚上昇がどのような能力を持っているのかは分からなかったが。
話をしている間にも、ボブは朝食として鳥の丸焼きを食べ終わる。
……何気にニールセンもボブから肉を貰っていたが。
そうして食事の後片付けを終えると、ボブがレイを見る。
「さて、こっちの準備はいいですけど、どうします? すぐに行きますか?」
「ああ、そうしてくれ。……ちなみに聞くまでもないけど、ニールセンも一緒に行くのか? 今回の敵はオークだけど」
「勿論行くわ! オークがどうなるのか、ちょっと興味深いしね」
ニールセンは一瞬の躊躇もなくそう告げる。
ニールセンにしてみれば、ここで自分がオークの討伐に行かないという選択肢はないのだろう。
ニールセンの性格を知っているレイにしてみれば、この返事は予想出来るものだった。
その為、特に反対を口にしたりはしない。
ニールセンはそれなりに魔法が得意で、戦いの援護をするという点では十分に期待出来るのだから。
……とはいえ、オークを相手にしてニールセンの援護がいるかと言われれば、レイとしては即座に首を横に振るだろうが。
ただのオークではなくオークキング辺りなら、レイも決して油断出来るような相手ではない。
しかし現在のトレントの森の状況を考えれば、オークキングのような高ランクモンスターがいるとは思えなかった。
魔獣術的な意味で、レイとしてはオークキングの魔石を欲しいとは思っていたが。
何しろ以前レイが倒したオークキングは一匹だけなのだ。
そして魔獣術を使えるのは、セトとデスサイズがある。
だとすれば、レイがオークキングの魔石をもう一つ欲しいと思うのは当然の話だった。