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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2893/3865

2893話

好きラノ2021年上期が始まりました。

レジェンドは16巻が対象になっていますので、投票の方よろしくお願いします。


URLは以下となります。

https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/


締め切りは7月24日となっています。

 妖精の長に、霧の音について手伝って欲しいと言われたレイは戸惑った表情を浮かべる。

 まさかそのようなことを言われるとは、思っていなかったのだ。

 一体何がどうなってそのようなことになったのか、レイは疑問の視線を長に向ける。


「どういう意味だ? 霧の音はそっちに任せておけばよかったって話じゃなかったのか? なのに、何で俺に助けて欲しいといったようなことを?」

「お恥ずかしい話ですが、霧の音を作る……正確にはそちらから要望のあった霧を涼しくするという効果を付与するのに必要な素材が足りないのです。……少し前までは問題がなかったのですが、このトレントの森にやって来たことによって予想以上に素材の消費が激しくなってしまい……」


 トレントの森に来た事で、一体何故素材の消費が激しくなる?

 そんな疑問を抱くレイだったが、そもそも妖精という存在が色々と特殊な相手だけに、そういうものだと言われれば納得するしか出来ないのも事実。

 これ以上下手に突っ込んで聞いた場合、それは自分にとってマイナスになりかねない。

 そう判断したレイは、ここで詳しい話を聞くよりも具体的にどうすれば霧の音が完成するのかを考える。

 霧の音を貰うというのは、長からの報酬という形になっていた。

 それはつまり、本来なら無理をして……それこそこの妖精郷を守っている霧の音を欲しいと言っても、おかしくはない。

 とはいえ、そのような真似をすれば当然ながら妖精達から恨まれることになる。

 折角妖精達と友好的な関係を築けているのだから、レイも現在の関係を維持したい。

 また、霧の音は最初に設定をすることが出来るのだが、この妖精郷を覆っている霧は普通の霧で、レイが希望したように周辺を涼しくするといったような効果はない。


「つまり、霧の音を作るには素材が足りない訳か。……分かった。具体的にどんな素材が足りないんだ? それが分かれば、俺が取ってくるけど」


 自分に対するお礼の品……あるいは報酬を作る為に自分でその素材を取りに行く。

 そのことに若干の疑問を抱きつつも、霧の音というマジックアイテムの有用性を考えると、それは是非欲しい。

 何よりも妖精の作ったマジックアイテムは非常に数が少なく、それを入手する機会というのは殆どない。

 それを入手出来るのだから、レイとしては多少の苦労を気にするつもりはなかった。


「いいのですか?」


 長はレイの言葉に少しだけ驚いた様子を見せる。

 話の流れから、長としてもレイに素材を取りに行って貰いたいとは思っていた。

 だが、レイに渡すマジックアイテムの素材をレイに取りに行って貰うというのは、長にとってもやはり思うところがあったのだろう。

 だからこそ、最終的にレイに頼もうというつもりはあったものの、それでもこうもあっさりとレイが引き受けてくれるというのは予想外だったのだ。


「構わない。霧の音は俺にとっても是非欲しいマジックアイテムだ。それを入手する為なら、多少の苦労くらいは全く問題はない」

「……ありがとうございます」


 そう言い、頭を下げる長。

 長としては神妙に頭を下げたつもりだったのだろうが、何らかの手段で浮かべていたドワの実も長が頭を下げるのと合わせるように動いたその様子は、どこかユーモラスを感じさせた。

 だからといって、今のこの状況で笑うような真似をする訳にはいかなかったが。


「気にするな。何度も繰り返すようだが、妖精が作るマジックアイテムというだけで希少価値があって、霧の音はその希少価値以外にも十分に使える効果がある。それを入手するのに、多少の苦労は何の問題もない。……それで、一体何が足りないんだ?」

「はい。スモッグパンサーというモンスターの魔石が必要なのです」

「スモッグパンサー? パンサーってことは、豹系のモンスターか」


 これまでレイは色々なモンスターを倒してきたが、スモッグパンサーというモンスターは倒したことがない。


(というか、そもそも狼や虎、獅子といった動物系のモンスターと戦った事はあったけど、豹系のモンスターと戦ったことは……あったか?)


 具体的に戦ったかどうかは覚えていない。

 それはつまり、それだけ豹系のモンスターが少ないということの証だろう。

 それだけに、元々霧の音を入手する為にやる気に満ちていたレイだったが、今まで以上にスモッグパンサーというモンスターと戦うつもりになっていた。

 何しろ、まだレイが戦ったことのないモンスターなのだ。

 それはつまり、レイやセト……正確にはレイの持つデスサイズとセトにとっては、魔獣術で新たなスキルを習得する機会ということでもある。


「スモッグパンサーか。そのモンスターの魔石が必要だということだが、スモッグパンサーはどういう生態をしている? 具体的には、一匹で活動しているのか、それとも家族や仲間と行動を共にしているのか」


 突然やる気を見せたレイの様子に、長は少しだけ不思議そうな様子を見せる。

 何故レイがここまでやる気を見せてるのか、分からない。

 とはいえ、長にとってレイがスモッグパンサーの魔石を入手してくれるのなら、それに越したことはないので、素直にスモッグパンサーについての情報を話す。


「スモッグパンサーというのは、基本的には単独で行動しています。ですが、少し変わったところとしては、正確には単独で活動しているスモッグパンサーがある程度の区域内に集まっている……という、奇妙な習性があります」

「なるほど、それは確かに妙だな」


 これが、例えば普通に群れを作って行動していたり、あるいは単独で行動しているのなら、レイにとっても分かりやすい。

 だが、長から聞いた話によると、スモッグパンサーはそのどちらでもなく、そしてどちらでもあるかのような……そんな妙な習性を持っていることになる。


(いやまぁ、スモッグパンサーもモンスターなんだから、こっちに理解出来ないような行動をしていてもおかしくはないけど)


 これが動物なら習性の予想が出来たりするものの、相手はモンスターだ。

 動物がベースのモンスターの場合、ある程度ベースになった動物の習性を引き継ぐことは知られているが、逆に全くベースになった動物とは違う習性を持っていたりもする。

 結局のところ、ベースになった動物の習性はあくまでも参考程度にしか出来ないということを意味していた。


「話は分かった。なら、スモッグパンサーの魔石は余分に入手して俺達が貰っても構わないか?」

「はい。問題ありませんが、出来れば私達も幾らか余分に欲しいところではあります」

「だろうな。だとすれば……そうだな。俺は二つ余分に貰う。それ以上は全てお前達に渡すということでどうだ?」

「それは……嬉しいですが、いいのですか?」

「構わない。妖精とは友好的な関係を築いておきたいしな。それに……渡すのは魔石だけでいいんだろう? それ以外の素材は俺の方で貰っても構わないということでいいんだよな?」

「それについては問題ありません。……とはいえ、スモッグパンサーは倒すのは簡単ではないですよ?」


 そう言い、長はスモッグパンサーについての情報をレイに話す。

 曰く、スモッグパンサーは身体を霧に出来る。その際、魔石も含めて全てが霧へと変化しており、物理攻撃に対しては無敵になる。

 曰く、スモッグパンサーは霧になった状態のまま、爪や牙の一部だけを物質化させることによって、相手を攻撃することが出来る。


「それは……厄介だな」


 長から聞いたスモッグパンサーの厄介さは、レイにとってかなり面倒な代物だった。

 それこそ、倒すだけなら霧へと変化したスモッグパンサーを丸ごと焼いてしまうという手段もある。

 つまり、殺すだけなら簡単なのだが……この場合、問題なの魔石も霧となっているので、焼き殺すといったような真似をした場合、その魔石も使い物にならなくなるということだろう。


「そうなると……どうやって倒せばいいのか迷うな。いや、スモッグパンサーは別にいつも霧に変化してる訳じゃないんだろ? なら、霧になっていない時に一気に首を落とすとかして倒せばいいのか」

「そうですね。それが一番確実な方法でしょう。ですが、スモッグパンサーは危険を感じるとすぐに霧になります。つまり攻撃するには、相手に気が付かれる前に不意打ちで一気に倒す必要があるということですね」


 その言葉は、レイにとっても納得出来るものだ。

 相手に気が付かれる前に攻撃するのだから、不意打ちが一番確実だろう。

 あるいは相手に気が付かれても霧になる前に一気に殺すといったように。

 幸いなことに、レイには槍の投擲のように遠距離から一気に相手を殺すことが出来る攻撃方法がある。

 もしくは霧になったスモッグパンサーを魔法で倒すのではなく、霧になる前のスモッグパンサーを魔法で倒すといった手段もあった。


「話を聞いた限りだと、俺なら何とかなりそうだ。けど……俺がいなかった時は、一体どうやってそんなモンスターを倒して魔石を入手してたんだ?」


 それはレイにとって純粋な疑問だった。

 長からの説明を聞いた限りでは、スモッグパンサーというのはかなり厄介そうな相手なのは間違いない。

 特に霧になってしまうというのは、戦う方にしてみれば非常に厄介な相手だろう。

 レイならそのような相手を倒す攻撃方法はあるものの、妖精の場合はどうしていたのか。

 妖精は魔法が得意な種族ではあるが、それでもスモッグパンサーのような高ランクモンスターと思しき相手を楽に倒せるとは、レイには思えない。


「魔法を使ってですよ。勿論、楽に倒せるという訳ではないので、かなり危険ですが」


 だが、長はあっさりとそう言ってくる。

 その答えはある意味でレイの予想通りではあるものの、完全に納得出来るのかと言われれば、その答えは否だ。

 妖精が魔法を得意としているのは事実だが、攻撃魔法という点ではそこまで特化している訳ではない。

 ましてや、霧となったスモッグパンサーを魔法で攻撃した場合、魔石にもダメージがあるのだ。

 それはつまり霧になる前に一気に倒しているということになるのだが……


「いや、その辺については詳しく聞かない方がいいか。言いたくない……言えないこととかも当然のようにあるだろうし」


 レイの言葉に、長は笑みを浮かべるだけだ。

 実際に何かを言う様子はなかったが、その沈黙こそが答えのように思えた。

 妖精と友好的な関係をこれからも続けるのなら、余計なことは聞かない方がいい。

 この先、長が必要になると思えば、その辺りの事情についても教えてくれるのは、間違いないのだから。


「その件はもういいとして、次の問題としてそのスモッグパンサーがどこにいるのかということだな。俺がそいつを倒せるとしても、具体的にどこにいるのか分からないとどうしようもないぞ」


 一応、セトがいるので移動に困ることはない。

 だが、まさかこの広いエルジィンをスモッグパンサーのいる場所を探してセトと一緒に虱潰しにして探していく……といったような真似が出来る筈もなかった。

 そんなことをしていれば、それこそいつまで経ってもスモッグパンサーを見つけることは出来ないだろう。

 当然ながら、長もそれについては理解している。


「ええ。ですからニールセンを一緒に行かせます」

「……ニールセンを?」


 その疑わしい口調をもしニールセンが聞いていれば、間違いなく怒っただろう。

 とはいえ、レイがそんな態度をとったのは、ニールセンに性格的な問題というのもあるが、それ以外にも理由がある。

 それは、ニールセンは言ってみれば妖精郷の使者……もしくは外交要員とでも呼ぶべき立場にいる為だ。

 今日はこうして妖精郷にいたが、もし何らかの理由でギルムに行ってればいなかった可能性もあった。


「何かあった時にギルムに向かわせるのは、別の者にしましょう」

「いいのか? いやまぁ、こっちの都合を優先してくれるのは助かるけど」

「ええ。霧の音に機能を追加する為の魔石というのは、何かあった時に必要になりますから。そういう意味では、これはレイさんの為だけではなく、私達の為であるのも事実なのですよ」


 長のその言葉は、レイを納得させるのに十分だった。

 なら……と、そう言おうとしたレイは、自分に近付いて来る二頭の狼の子供に気が付く。

 その二頭の狼の子供は、レイにも見覚えがあった。

 最初にこの妖精郷を守る役目を負っていた狼の群れを率いていた狼の子供だったのだから。


「ワウ! ワウワウ!」

「アオオオオオン!」


 嬉しそうに鳴き声を上げ、身体を擦りつけてくる二頭の狼の子供を見たレイは、以前見た時と比べると大きくなっている……それでいてまだ子供の二頭に笑みを浮かべるのだった。

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