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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2709/3865

2709話

「頑張れよ」


 三十本近い斧を持ち、よろめきながら歩いてく二人のチンピラの背に向け、レイはそう声をかける。

 斧は一本でも数キロの重量があり、それを二人で分けているとはいえ、三十本近く。

 その重量は相当なものになるのは間違いなかった。

 この先、あの二人がどうなるのかは、レイにも分からない。

 レイが言ったように、斧を売った金を元手にしてエグジニスを出るのか、あるいはその金を酒や女に使ってまたスラム街に戻ってくるのか。

 もっとも、取りあえずスラム街に戻ってくるようなことはないだろうなというのが、レイの予想だ。

 何しろ、暗殺者ギルドがどこにあるのかといった情報をレイに漏らしたのだ。

 そうである以上、もしあのチンピラ二人が心配していたように、レイが暗殺者ギルドを消滅させても生き残りがいた場合、二人が狙われる可能性は十分にあった。

 当然、レイはそんな手抜かりをするつもりはない。

 だが、あの二人のチンピラはレイの実力を知らないし、またレイは暗殺者ギルドを潰すつもりだが、現在何らかの理由でアジトにいない者はどうしようもない。

 そういう意味では、偶然アジトにおらず生き残った暗殺者が、レイに情報を教えた先程のチンピラ二人を殺しにいく可能性は皆無ではなかった。


「グルルルゥ」


 早く行こう、と。

 そうセトが喉を鳴らしてレイに顔を擦りつける。

 そんなセトの様子に、レイは笑みを浮かべて頭を撫でてからスラム街を進む。

 ……そんなレイとセトを見ているスラム街の住人もいるのだが、先程のやり取りを見ていれば、とてもではないがレイに手を出すといったような真似は出来なかった。

 ましてや、レイの側にはセトがいるのだ。

 先程のチンピラ二人は、レイについて全く知らなかったようだったが、スラム街の中には当然ながらレイが深紅の異名を持っている冒険者であると知っている者もいる。

 それでも、ランクA冒険者であるというのは知らないだろうが。

 そんな訳で、レイはセトと共に特に絡まれたりするようなことはなく、スラム街を進む。

 進んでいたのだが、不意に足を止めて口を開く。


「これなら楽を出来る……と、そう思ってたんだけどな」

「グルゥ」


 レイの言葉に、同意するように喉を鳴らすセト。

 自分に向けられている殺気にレイが気が付いたのだから、レイよりも鋭いセトが殺気に気が付かない筈がない。

 それでもレイは特に驚いた様子はなかった。

 現在のレイは、暗殺者に狙われている身だ。

 そのような状況でレイがスラム街に……暗殺者ギルドのアジトがある、言ってみれば向こうのホームグラウンドにやって来れば、当然ながらそれは暗殺者にとって絶好の襲撃の機会となる。

 寧ろ、レイは半ばそうなることを望んでスラム街にやってきた一面もあった。

 暗殺者と戦う以上、当然だが敵の本拠地で多数を相手に戦うよりは、そこに到着するまでに各個撃破する必要がある。

 そういう意味では、既にレイと暗殺者ギルドの戦いは始まっていた。


(とはいえ、この暗殺者やさっき聞いたアジトが本当に俺を狙っている暗殺者ギルドとは限らないけど)


 エグジニスに複数の暗殺者ギルドがあるというのは、レイも理解している。

 これからレイが乗り込もうと考えている暗殺者ギルドが、レイを狙ってきている相手なのかどうかはレイにも分からない。

 そしてこうして現在レイを狙っている暗殺者の所属するギルドも、また当然これからレイが向かおうとしている暗殺者ギルドなのかどうかも分からない。

 しかし、はっきり言えばレイにとってはその暗殺者ギルドが自分を狙っている暗殺者ギルドかどうかというのはどうでもよかった。

 今回レイが暗殺者ギルドを襲撃するのは、あくまでもレイが自分に手を出せばこうなるという、牽制の意味合いが強いのだから。

 そのような理由で潰されるのだから、暗殺者ギルドにとってレイは疫病神でしかないだろう。

 これが表の組織であれば、警備兵に訴えることも出来る。

 だが、暗殺者ギルドは当然だが違法な組織だ。

 まさかレイに狙われたからといって、警備兵に訴えることは出来ない。

 とはいえ、警備兵は無理でもエグジニスを動かしている者達に訴えることは出来る。

 そのような者達は当然ながら厄介な相手がいた場合、暗殺者ギルドに頼るといったこともあるのだから。

 そういう意味では、やはり暗殺者ギルドに時間を与えず、今夜のうちに潰す必要がある。


「そんな訳で、殺気を出してる以上は騙し討ちとか奇襲は考えてないんだろ? なら、さっさと出て来てくれないか?」


 スラム街に響くレイの声に、ガシャリ、という金属音と共に誰かが建物の陰から姿を現す。

 その金属音を聞き、レイは少し意外に思う。

 普通、暗殺者というのは相手に見つからないようにする為であったり、少しでも素早く動く必要がある為に、鎧の類は装備しない。

 あるいは装備しても、音が出たりしにくく、重さも金属鎧よりも軽いモンスターや動物の革を使った物が大半だ。

 そういう意味では、こうして音が鳴るような金属鎧を身に着けた暗殺者というのは非常に珍しい。 少しだけ興味深い思いをしているレイの視線の先に姿を現したのは、予想通り金属鎧を着ている二十代後半といった感じの男。

 その手には長剣を持ち、とてもではないが暗殺者というより冒険者……もしくは騎士といった様子だ。


「一人か?」

「そうだ。深紅のレイ。その命を貰いに来た」


 長剣を構え、いつでもレイに斬りかかれる体勢で暗殺者はそう告げる。


「その台詞を聞いた後でこうして聞くのもなんだが、それでも一応聞かせてくれ。お前は本当に暗殺者なのか?」

「お前の命を狙っているのだ。そうである以上、考えるまでもなく明らかだと思うが?」


 そんな様子を見せる男だったが、レイは呆れと共に口を開く。


「そんな様子で暗殺者だと言われても、信じろって方が無理だと思うが? 暗殺者なら暗殺者らしく、黒装束の類でも着てきたらどうだ?」

「そう言われてもな。俺にはこれが一番性に合っている。それより、構えろ」


 そう言ってくることからも、この男が暗殺者に相応しくないことは明らかだった。

 相手を殺すのが目的である以上、相手の隙を突くなりなんなりして、相手を殺してしまえばいい。

 そうせず、わざわざ相手に構えろといったようなことを口にする辺り、レイから見ても男は暗殺者には向いていない。

 向いてはいないが……それでもこの状況で武器を構えろと言われ、それで武器を構えないような真似はレイもしない。

 暗殺者らしくないのは事実だが、それでも向こうが自分と戦おうとしているのは明らかなのだから。


「一応言っておくが、お前じゃ俺には勝てないぞ? 見たところ、ランクB冒険者って程度の実力だろう?」


 そう言いながら、レイはいつものようにデスサイズと黄昏の槍を取り出し、構える。

 レイが口にしたように、見たところ男はランクB冒険者程度の実力を持っているように思えた。

 勿論それはあくまでもレイが男を見た限りでそのように思っただけだが。

 もしかしたら実力を隠しており、それをレイが見抜けていないだけという可能性もある。


「グルルゥ?」


 一緒に戦う? と喉を鳴らすセトだったが、レイは武器を構えたままで首を横に振る。


「いや、セトは周囲の様子を確認していてくれ。もしかしたら、この男以外がこちらの隙を窺っている可能性もあるし、あるいは戦いに集中したところで乱入してくる可能性も否定出来ない」

「グルゥ!」


 レイの指示に分かった! と喉を鳴らすセト。

 そんな一人と一匹の様子を見て、そのような真似はしないと不本意そうな様子を見せる男。

 それでも男は自分が暗殺者であるというのは理解しているので、ここで何を言っても意味はないと考えていたが。


「では、そちらの準備も整ったようだな。……行くぞ!」


 その言葉と共に、男は長剣を構えたままレイに向かって走り始めた。

 金属鎧を身に着けているのだが、それなりの速さ。

 だが、レイは今までこれより素早い敵の相手を何度もしてきたし、人が相手ということであればもっと強い相手との戦いの経験もある。

 それだけに、一般的に見れば十分強者の枠に入るのだろう男の攻撃であっても、この程度ではとてもではないがレイにとって脅威には思えなかった。

 自分に向かって振り下ろされる長剣の一撃を黄昏の槍を横薙ぎに振るうことで弾く。

 男はそんな一撃にあっさりと長剣の軌道を変化させられ、バランスを崩し……そうしてバランスを崩したところに、レイはデスサイズによる横薙ぎの一撃を放つ。

 相手を生け捕りにして情報収集をしようなどとは全く考えておらず、胴体を上半身と下半身の真っ二つにするべく放たれた、そんな一撃。

 これで倒した。

 そう思ったレイだったが……デスサイズの刃が男の金属鎧を切断しようとした瞬間、一瞬何かにぶつかる。

 当然それは金属鎧ではなく、もっと別の何か……具体的には結界、もしくはバリアといったものによる防御。

 その感触に一瞬驚きつつも、そのようなものがあるのならそういうものだと理解して一撃を振るえばいいと判断し、デスサイズを持つ手に力を込めようとしたのだが、その一瞬の隙を突き、男は後方に下がる。

 弱い相手であれば、そのままデスサイズによって胴体を上下に切断されていただろう。

 だが、相手はランクB冒険者程度の技量を持つ相手だ。

 レイが戸惑った一瞬の隙を逃さず、後方に下がったのだろう。

 もっとも、そこで後方に下がる辺りがランクB冒険者並の実力の限界といったところか。

 もしランクA冒険者相当の実力を持つのなら、レイが戸惑った一瞬の隙は回避ではなく攻撃に回した筈だ。

 その攻撃が実際にレイに効果があるのかどうかというのは、また別の話だが。

 レイを前にして、攻撃ではなく回避を選ぶというのは下策でしかない。

 勿論、完全にそれが下策という訳ではないのだが、それでも今の状況では下策なのは間違いなかった。


「そこで下がってどうする? もっとも、それで俺が攻撃を止めるつもりはないけどな!」


 鋭く叫び、レイはデスサイズと黄昏の槍を手に前に出る。

 双方共に、武器に魔力を流している。

 先程デスサイズの攻撃を止めたのが、一体何だったのかはレイも分からない。

 男のスキルか、何らかのマジックアイテムを持っているのか、それとも鎧そのものがマジックアイテムなのか。

 ともあれ、何らかの結界やバリアの類があるのは間違いない以上、レイはそれに対処する必要がある。

 そして魔力を流したデスサイズと黄昏の槍であれば、そのような防御方法を持つ相手であっても、対処するのは難しい話ではない。


「ぐっ!」


 レイの様子から、もう二度と同じ防御方法は出来ないと判断したのだろう。

 男は呻き声を上げつつ……だが、それでも撤退するような真似はせず、レイを待ち受ける。

 この辺も暗殺者らしくないだろう。

 もし暗殺者なら、それこそ自分に勝ち目がないと判断すれば即座に逃げ出していてもおかしくはないのだから。

 そんな相手に、レイは惜しいと思う。

 一体何があってこの男が暗殺者として活動しているのかは、レイには分からない。

 分からないが、冒険者として活動していた場合、その実力からランクB冒険者にまで上り詰めることが出来るのは間違いない。

 わざわざ暗殺者のような危険な仕事につかなくても、安定した……とは冒険者の場合は決して言えないが、それでも暗殺者のように後ろめたいことがなく、表立って活動出来るのは大きい。

 そのような真似が出来ない理由が、何かこの男にはあるのか。

 そんな疑問を抱きつつも、レイと男の間合いは縮まり……そして向こうも死中に活を求める為か、レイに向かって思い切り長剣を振るう。

 命中すれば、普通なら一刀両断……そこまでいかなくても、致命傷に近いダメージを受けてもおかしくはないような、そんな攻撃。

 その一撃を、レイは黄昏の槍の穂先で受け流す。

 長剣の刃が黄昏の槍の穂先を滑り、柄の部分まで滑り……レイが手首の動きだけで柄の半ばまで到達した長剣を弾き、その動きに男の体勢が崩れたところでデスサイズを振るう。

 その一撃は、先程の一撃とほぼ同じ。

 唯一違うのは、デスサイズと黄昏の槍には魔力が込められており、先程と同じく何らかの手段で攻撃を防ごうとしたものの、結界やバリアの類は何の効果を発揮する事もなく、次の瞬間には金属鎧の胴体を上下真っ二つに切断し、そして結果として男はレイの一撃によって死ぬ事になる。


「何で暗殺者なんて真似をしてたのかは分からないけど、馬鹿な真似をしたな」


 デスサイズと黄昏の槍を手に、レイは死体となった男を見てそう告げるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 見どころありそうだから、草原の狼に引っ張れば良かったのに。
[良い点] 飽きが来ないです。 [気になる点] 文章が回りくどく、しつこい 〜である。 しかし、〜でもあるが。 もちろん〜である。 などなど、否定の否定と言った少しスッキリしない文章が見受けられる。 …
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