シンデレラの憂鬱・4
微妙に破廉恥かもしれません。
ヴィーに魔法使いかと訊ねれば、脱力された。
残念ながら魔法使いではないらしい。そしてこの先も魔法使いにはならない予定だとか。
……魔法使いにならないとはどういう事なのか。まるでなれそうな口振りが気になるので今度聞いてみようか。
そんなやり取りをしつつ、夜には図書館に通う日々がもう十日になろうとしていた。
「それにしても、セイラは本当に呑み込みが早いね。これならもう、絵本くらいは読めるんじゃないかな?」
「本当? 嬉しい!!」
にこっと笑ったセイラ。毎日昼間にこつこつと練習をしたかいがあり、もう簡単な単語や文章であれば読み書きができるレベルとなっていた。
そのご褒美にとヴィーが奥の棚から持って来てくれたのは、彩色が鮮やかな美しい一冊の絵本で。
「ええと、『あかずきん』?」
「そうだね。話は知ってる?」
「もちろん!!」
満面の笑みで頷くセイラにヴィーも微笑みかけて。
「無知な女の子が悪い狼さんに騙されて森の奥の人目につかない家でベッドに引きずり込まれて美味しく頂かれちゃう話でしょう?」
「……うん?」
何故だろう、間違っていないようで何かを激しく誤解してる気がしてならない言い方なのだが。
「えーと……うん、最初からゆっくり説明してくれる?」
「え、だから、赤い頭巾が大好きな女の子のあかずきんちゃんがいて」
「うん」
「森の中で狼さんに会って」
「うん」
「お花畑に案内されて」
「うんうん」
「すっかりほだされたあかずきんは言われるままに森の奥の小屋に連れて行かれて」
「う、うん?」
「『くくく……こんな人気のない場所までノコノコついて来るとは』『いやっお兄ちゃん何するの!?』『決まってんだろ、男と女が二人きりで邪魔が入らないとなれば』」
「はいはいはい、そこまで!!」
バッと口を手で塞がれてきょとんと目を瞬くセイラに対し、ヴィーは酷く疲れたように肩を落とした。
「というか、えええええ……」
頭を抱えるヴィーにオロオロと視線をさ迷わせるが、どうしてこんなにも変な反応をされるのかわからない。
困り果てていると少し気を取り直したらしいヴィーが顔を上げた。
「ねぇ、その『あかずきん』ってどこで知ったの?」
「え? シスターが寝る前のお話として昔から」
「おい駄目だろ聖職者」
「だいたいは『こんな風に卑劣な真似をする男が世の中にはウジャウジャいますから、ええ第三王子みたいな。ですから、女子は自ら身を守る術を身につけておかなくてはなりませんよ』って締めくくって、翌日に護身術を習います」
「どうしようツッコミどころが有りすぎてどこからツッコめばいいのかわからない」
真顔でそう言われて、セイラは本気で困惑した。
「だって第三王子がダメダメなの、みんな知ってるよ? 他の王子達もだけど」
「……そう、なのか?」
「うん。第一王子は頭固いし、第二王子はそもそも顔もわからないし、第三王子はアレだし、第四王子は戦う事にしか興味なさそうだし。みんな、王女様が次の王様になってくれたらって言ってるんだよ」
もちろんそんな事が王家の耳に入ったら大変だから、みんな言わないけど。
そう言ってセイラは唇に指を当てて見せる。
「ヴィーに言ったのも、内緒だからね?」
「ああ……」
そう頷いたヴィーの瞳は、酷く考え込むように色を深くしていた。
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