キィマ
ダークエルフは長きにわたり、ハイエルフとの間で終わらない戦争を続けていた。
キィマは施設で魔法の使い方、弓の扱い方などを教わっていた。
同時にぼんやりと、自分もいつ終わるか分からないこの戦争に身を投じ、いつか戦争の中で命を落とすのだろうと思っていた。
――下らない。
キィマは子供心にそう感じた。
まだ親が存命の頃、両親が彼を連れて僻地を移動していた時、行軍していたハイエルフと遭遇してしまった。
両親とハイエルフは凄まじい戦いを繰り広げたが、キィマは両親が目の前で惨殺された時も無表情だった。
さらに彼は、自分を殺そうとするハイエルフの群れを見て笑った。
――『下らない』と。
彼は幼い頃から親に、憎きハイエルフを一人でも多く殺す手段を叩き込まれた。
誰も、ダークエルフとハイエルフが激しく憎み合うきっかけが分からない。
四桁に届く長寿の者も『忘れてしまった』と言っていた。
なのに両者は、戦争をする事、殺し合う事を当たり前とし、お互いの存在理由とした。
両親が殺されたあと、ハイエルフたちは幼いキィマも亡き者にしようとした。
が、彼は無感動に彼らを返り討ちにした。
正当防衛と言うにはやり過ぎとも言える、惨殺だった。
キィマ以外に誰もいなくなったその場で、彼は親とハイエルフが持っていた食料を少しずつ食べ、しばらくその場で過ごしていた。
死体を前に、幼い彼が何を感じていたのかは誰にも分からない。
その後、どれだけ時間が経ったのか分からなくなった頃、木の上で足をぶらつかせていた彼を発見したのは、ダークエルフの群れだった。
彼を見た瞬間、ダークエルフの群れは恐怖を感じた時に発する言葉を口にした。
それが、「キィマ」。
恐怖に息を呑む形容や、恐怖に意識を乗っ取られた時の感覚を表す言葉である。
それが彼の名前になった。
ダークエルフたちが彼に名前を訊いても、キィマは金色の目でじっと相手を見つめ返しつつ、決して親から与えられた名を口にする事はなかった。
なので、群れは彼をそう呼ぶようになった。
キィマはその巨大な魔力や、圧倒的な戦闘センスから、すぐに大人たちと肩を並べて前線に立つようになった。
施設にいた同年代の少年少女は、そんなキィマを英雄視していた。
キィマは驕らず、謙遜せず、ひたすら戦い続けた。
戦う以外は最低限の食事をし、眠り、残った時間は魔導書の解読を続けていた。
そうやって、キィマはめきめきと強くなってゆく。
年月が経ち、彼の周りには〝いつものメンバー〟ができていた。
好戦的で人をからかうのが好きなゼス、寡黙で知識が豊富、魔法の知識ではキィマと並ぶ博識ぶりを見せるタル、どこか冷めた目で世を見つつ、時にズバッと確信を突く少女、リタ。
人間の歳にすれば十七、十八歳ぐらいの時には、四人はハイエルフにとって大きな脅威となっていた。
タルとキィマが新しい魔法を開発し、それを実行するのはゼスとリタ。
キィマは攻撃にも参加するが、戦闘に没入するというより、戦いながら魔法の実験をし、試行錯誤をしている。
命のやり取りをする場でも、キィマにとっては実験場なのだ。
そのようにして四人は名を馳せ、強くなっていった。
「里を出る」
夕食の席でキィマは干し肉を齧りつつ魔導書を読み、散歩にでも行くと言うような口ぶりでとんでもない事を口にした。
「ふーん」
鹿肉の香草焼きに齧り付いていたゼスは上の空で返事をし、リタも「ふーん」と言ったあとお茶を噴き出した。タルは固まったままだ。
「はぁっ?」
リタは口元から滴るお茶を片手で乱暴に拭い、木製の椅子をひっくり返して立ち上がる。
「どした、リタ」
食事に没頭していたゼスは、鹿肉を頬張ったまま、びっくりして尋ねる。
「聞いてなかったの? あんた」
「何を?」
ゼスは常々、『俺は行動するほうが得意だから』と、考える係をキィマとタルに任せている。
だから四人で集まって話をする時も、あまり人の言う事を聞いていない。
「もうっ!」
リタは話にならないと首を横に振り、固まったままのタルを見る。
タルは普段から寡黙な男だが、今は置物のように固まったまま瞬きすらしていない。




