第10章 組長との面会
お屋敷の中は広く、暫く歩いて奥の間に案内された。ここ迄ざっと数えて配下の者は35名程。そこにはメガネをかけ、杖をついてパジャマ姿のゴージャスなソファに座ったおじいさんがいた。そんなに怖いという印象は感じられなかった。
「この人が組長か?」
わざわざここまで来て頂いてありがとう。私がこの組の主の裕だ。何でもウチの者がお宅に迷惑をかけたとかで。私は今体が不自由なのでここで失礼する。
あなた何を飲みますか? まだ名前を聞いていなかった。
「私はケンです。」
「ケン、コーヒーでいい?」
「おい、コーヒーお持ちしろ。」
「実はねケン、あなたに暴力振るったのはカツトシという奴で昔ホームレスに因縁つけてボコボコにして捕まった事がある。何でもホームレスに恨みを抱いてるみたいで。」
「元々は格闘家だった。血の気が多くてわしも手を焼いている。」
「おい、カツトシをここに連れて来いっ。」
「オマエはリュウが注意したのに問題起こしやがって。わしの顔にも泥を塗った。ここで落とし前はつけてもらうぞ。ケンさん、あなたにこいつの何本でも差し上げます。」
「それと、これは取っておいてくれ、100万円ある。」
「どうだろ? 実はあなたにうちの仲間になってほしい。倒したいクソどもが沢山いる。ただ安心してくれ、私は堅気の方を傷つけた事は無い。私は他の組の弱みを握り奴等の稼いだお金を奪い取る。大抗争になる時は看板も頂く。だから強い手下が必要なんだ。これは一般から横領するよりも儲けがでかい。ただ余計に狙われるがな。」
いきなり本音がきた。私は答えた。
「金は要らない。カツトシの件はリュウさんの顔を立てたいから、不問にします。その代わり1つ約束をしてほしい。」
「そこのリュウさんを私が引き取りたい。」
「その代わりにあなたの不自由な体を治して差し上げます。」
「あなた方は悪が悪を倒す珍しい方々だ。これからは人助けを私としませんか?」
反社やくざからすれば何を言ってんだこいつは! ここにいる皆んなが思った筈だ。
「今を捨てて、罪を償えばあなた方の力になる。まあ、これは余談だったですかね、でも今の状態で私は力を貸せません。」
そう答えた。
「私がここに来たのは、組長さん、あんたを説得するためだ。俺はあなた方全員と戦うつもりは無い。そうはしたくない。」
「実は裕さん、あなた体を患っているでしょ? ここにリュウさんが私を連れて来たのはあなたの病気を治してほしいからだと思った。」
「どうでしょう? リュウさんを落とし前抜きで引き取りたい。」
「あなた方の様に喧嘩が強いならその力を正しく使いませんか? 例え悪から奪った金でも罪になります。これからは人を守る為の力でありましょう。」
組長の裕が答えた。
「まさか堅気の貴方に我々の生き方を指図されるとは思わなかったよ、和やかに行きたかったけど。我々は失礼をお詫びしたが、あなたは少し土足で我々の事に踏み込み過ぎた様だ。今度はあなたが非礼を謝る番だ。そしたら今のは水に流すよ。」
「あなたは一般人に手を出さない本当は良い方達だ。それでも反社である以上、これ以上は褒められない。」
その瞬間、幹部の奴らがいきなり銃を発射し、もう1人が後ろからドスで私の体を突いてきた。
「この野郎、てめえごときが組長に取引持ちかけるなんて、10年早いわ、クソたれ。死んでお詫びしろ。説教する為に来たのか? この状況で? いい度胸だ。許さねえっ!!」
一人は銃で私に4か所撃ち込んできた。もう一人は後ろからドスで深く刺してきた。
「あれまー痛い。やられましたー。あははは。なんちゃって。」
「何じゃワレ、不死身か? 気味悪い。確かに命中してる。死ぬだろ普通は。」
「おい、堅気に手を出さないも嘘だったか? これ普通なら死んでいたぞ。」
「組長にモノ言う堅気は別だよ。そんな肝の座った奴は初めてだがな。」
ケンも流石に今のはちょっと腹が立った。その時もう一人舎弟の若頭の次郎が帰ってきた。
「お前ら、物騒なドス、チャカをしまえ。」
「ほう、お前さんがうちの若い衆に迷惑かけられたという爺さんか? 致命傷でも死なねえなんて面白い。話でもしようか。しかし、余り調子に乗らん方が良い。ここの者は皆んな貸元を悪く言う奴は許さねえ。あと、リュウはやれん。早々に引き上げるのが身の為だ。」
「あんたがここの若頭か? 親分を貸元と呼ぶなら、賭博の頭領か? ハハ、聞いた話と随分違うなぁ。」
「バカタレ、堅気相手じゃねえよ、組の賭博だ。」
「若頭、俺は今こいつらに撃たれたし刺されてかなり機嫌が悪い。手下の落とし前つけてもらうぞ。」
その直後、若頭以外のここにいる30数名の組員全員を持ち上げ固めた。金縛りで動けない。まだ良心を残しているリュウだけは残して、どんなに強い武闘派だろうとも奴らの両腕、両足をへし折って、再起不能状態にした。
組長の裕は重病人である事からほっておく事にした。この組にもう立ち上がれる奴はおらんので、事実上組閉鎖、終了だ。
「さあ、残りは若頭、あんただけだ。俺とまだやるか?」
リュウがケンに話した。
「ケン、若頭は他の奴とは違う。脅しても無駄。私が見た中でもダントツに強い。隙を見せたらやられる。注意して。」
「おい、ケン。お前は妖怪か? 随分と面白い事をしてくれるじゃないか。おいリュウ、お前の事を弟の様に可愛がってやったが、こんな風に我らを裏切るつもりか?」
「ケン、こうしよう、こいつがこの俺を倒せたら脱退を認めてやる。でも無理ならお前ら二人とも死んで責任取って貰うぞ。先ずこれは私とリュウの問題だ、お前は黙ってそこで見ていろ。」
そう言うと若頭はリュウの胸ぐらを掴み投げ飛ばしてドスを心臓めがけて投げた。
早すぎてリュウの投げられた瞬間が分からなかったが、ケンはリュウを軽々と投げ飛ばせる若頭のパワーはとてつもないと思った。
しかもドスが心臓に命中し背中を向けて倒れていた。
しかし、リュウは起き上がった。若頭が心臓を狙ってくるのはこれまでの彼の戦いで見極めていた。彼は持っていたハンカチで体を回転させてドスの手元を掴んで難を逃れていたのだ。
「ハハ、リュウ流石だ。俺が見込んだだけの事はある。じゃあ、これはどうかな?」
楽しそうに若頭が次から次にナイフを投げ、何本も持ちながら途轍もないスピードでリュウに攻撃を仕掛けた。しかし突然若頭の攻撃は止まり、そのまま動かなくなった。
親分裕が叫んだ。
「おい、どうした? まさか、お前がやられる訳無いよな? 返事しろ。次郎!」
リュウはあれだけの攻撃を受けても顔色一つ変えず、無傷だった。
ケンがリュウに近寄って行った。
「ねえ、今どうやって制圧出来たの?」
リュウが教えてくれた。
「奴の首筋に私が仕込んであった針を刺しました。でも大丈夫です。少しの間寝て貰っただけです。」
ケンは思った。
「やはり悪人に何を言っても無駄だったか。宇宙スキームでも性格まで変えるのは無理。」
「おい組長、こいつら治療してももう元には戻らん。もうあんたも年だ。組をたたんで引退しろ。リュウは頂いていくぞ。」
「私の負けだ、好きにしなさい。」
ここにいるリュウは連れて帰る事にした。リュウが私に聞いてきた。
「ケンさんはあんなに銃で撃たれて、ドスまで刺さったのにどうして無事なんですか?」
「知りたいか? 私はあなたの様に訓練して卓越した技は何も持っていない。ただ宇宙の力を貰ったんだ。これが私の技、宇宙スキームだ。」
「人間は時間の進む一定方向にしか動けない。だが、私は進む以外に戻る事も他にも色々と自在に動けるから。」
「銃などの凶器で襲われた時の結果は2つある。命中か、かわすか、私はここに来る前から危険がわかっていたので、撃たれたり刺されたりした時の対応を事前に仕込んでいた。つまり本体を他所に移してあって肉体のある幻影が見えている状態だった。」
「今回は即死になる凄い攻撃だったが、危険が無くなった時に撃たれた幻影と私本体が入れ代わり奴らを持ち上げて退治した。幻影はよく出来ていて私が別の世界から喋っていたのを映し出していたんだ。」
「等と言っても理解など出来んよね、ははは。」
「????」
「あなた方悪者がいかに武装しても、高度な知的文明のわしの技には到底勝つことは無理という事じゃ。でもリュウは相当凄いな、これからは正義の為にその力を役立てよう。」
「リュウも、もっと強くなりたいのならまず弱い者を助けろ。お前には未だ務所経験は無いみたいだし、救ってやる。俺は騙す奴が一番嫌いだ。お前も俺も騙されたもんな。気持ちはわかる。悪い事は何をした?」
「私はまだ万引き位です。腹減っていて。スーパーで捕まって。出禁にはなりましたが、お金を支払ったら初めてだったので許してくれました。これまで暴力で人は傷つけていません。」
「なぜ、こんな悪の道に入ったんだ?」
「人に騙され続けて、人の為に動いても騙されて良い事なんか無くどうにでもなれって思った。でもあんたに出会ってもう一度やり直せるならやり直したい。そう思えるようになったんだ。」
リュウは周りに対する情も持っているみたいだし、壊れてはいない。周りの環境が良くなればきっとやり直せる。頭の良い男だ。そう思った。
我々2人は、昨日会った若い口内炎のタケ達3人に会う為この場を後にした。




