第40話:春の光と、二人だけのジンガ
数週間後。村の外れにある、荒れ果てた古い民家に二人の姿があった。
村の行事からも、学校の賑わいからも隔絶された、静かすぎる日常。畑仕事も自分たちだけで行わなければならず、都会育ちの佐藤には過酷な日々だったが、その表情にはかつてないほどの充実感が漂っていた。
「……佐藤くん。キャベツ、少し大きくなったね」
ワカハが、都会から持ってきた古いスピーカーで小さな音楽を流しながら、縁側でステップを踏んでいる。彼女の体からはあの朱色の紋様が消え、代わりに佐藤が刻んだいくつもの愛の痕跡が、春の柔らかな光に照らされて美しく輝いていた。
「……ワカハさん、これからのこと、不安じゃない?」
「……ううん。私、今が一番、自分のジンガを踊れてる気がする。……誰のためでもない、佐藤くんだけが見てくれる、私のステップ」
ワカハは佐藤の元へ歩み寄り、その首に腕を回した。狭い縁側で、二人の肉体は磁石のように吸い寄せられる。誰の目も気にせず、誰にお礼をする必要もない。ただ、愛する者だけを満足させるための、濃密で、それでいて穏やかな営み。
村の連中は、遠巻きに彼らを「呪われた二人」と呼んで忌み嫌う。だが、その声はもう届かない。
「里の灯を 背に受けて歩む 道なれど 君と奏でん 二人のジンガ」
春の風が吹き抜け、キャベツの海がざわめく。
都会から来た少年と、村の聖女だった少女。二人の「共有」を捨てた「独占」の物語は、この村という名の檻の中で、美しくも歪な花を咲かせ始めたのである。




