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悪女の称号を承り感謝いたします  作者: 悠木 源基


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第4章

【 この話に出てくるカップル 】


・オランテ侯爵令嬢シャロンと、第二王子のフェルナン、そして平民聖女ミリア


・伯爵令嬢のエリザベスと、宰相の次男伯爵令息マッサル、そして平民聖女ミリア


・侯爵令嬢キャローナと、大司教の次男伯爵令息ロバーツ、そして平民聖女ミリア


・辺境伯令嬢のリリスと、騎士団長の三男で自身も騎士である侯爵令息マードック、そして平民聖女ミリア



 シャロンと友人のエリザベス、キャローナ、リリスの三人はこれまでずっと、婚約者のためにと自己研鑽に励んできた。そして彼らに尽くしてきた。

 だからこそ、聖女ミリアと親密になった婚約者から、放置され、無視され、蔑ろにされるようになって、辛い思いをしてきた。

 何度も話し合いをしようとして場をもうけたが、その度に無視をされた。

 それゆえに、次第に婚約者に対して諦めの気持ちが強くなり、一年経ったころにはすっかり彼らを見限っていた。

 そして彼女達は新たな人生設計を立て始めていた。


 ところが、キャローナだけは最近まで婚約者と接触を図ろうとしていた。キャローナは婚約者のことを本当に愛していたからだ。

 そのことを知っていたシャロンは、涙を堪えて思いの丈を語った彼女を立派だと思った。

 そして、ロバーツを、そして他の三人の裏切り者を許せないと思った。


「うふふ。皆様は『聖女』の定義をご存知ないのですか? 本当に無知なのですね。

 以前はそれなりに賢い方々だと思っていましたのに、学園に入ってからは何故か退化されてしまったようですね。

 脳内にお花を一杯咲かせてしまったので、栄養がそちらに奪われてしまったのでしょうか?


 そもそも本物の聖女様とは 、汚れのない神聖な方で、徳の高い方のことを呼ぶのですよ。

 間違っても婚約者のいる男性と親密な関係になんてなりませんわ。

 ですから、近ごろでは、『聖女』とは淫乱で教養のない女性のことを指し、『悪女』とは、男性の悪の支配下から脱して、逞しく独り立ちできる女性を意味する言葉になったのですよ。

 貴方方は見たいものだけ、都合の良い話だけを耳にしているからご存知ないかもしれませんが。

 ですから、悪女とは私達にとって最高の称号なのです。

 それをフェルナン殿下からわざわざ授与していただけたことに私達は深く感謝します」


 にこやかな笑顔のまま、辛辣な言葉を吐いた婚約者を目の前にして、フェルナン第二王子は唖然としていた。

 しかし、話についていっていない聖女に腕を引かれて、彼はようやく我に返った。


「王家主催のパーティーでよくも王族である私をそこまで侮辱できたものだな。

 侯爵令嬢の身分を剥奪して、国外追放してやるつもりであったが、それではどうやら甘過ぎるようだな。

 不敬罪で投獄してやる。

 近衛、この女を捕縛して地下牢へ連行しろ!」

 

 フェルナンがそう命じると、彼の背後にいた近衛騎士が動こうとした。

 しかし、それよりも前に、屈強そうな体躯 をした辺境伯家の騎士と、シャロンの兄二人、そしてフェルナンによく似た風貌の金髪碧眼の貴公子が、シャロンの前に庇うように立った。

 そのために近衛騎士達は戸惑って足を止めた。

 というのも、その貴公子が、王弟の嫡男であるまさしく本物の公子であるジョシュアだったからだ。


「ジョシュア、何の真似だ!」


 フェルナンがムッとして目の前の貴公子に向かって叫んだ。

 すると、さっきまで怯えた振りをしていた聖女ミリアがパッと顔を輝かせた。


「フェルナン様、あの方はどなたなの?  初めてお見かけしますけれど」


「一つ年上の従兄弟のジョシュアだ。五年前に隣国に留学していたのだが、先月帰国したんだ」


「もしかして、お顔が綺麗で頭が良くて、強くて格好いいと評判の公子さまですか?

 きゃー、素敵!

 初めましてジョシュアさま、私聖女のミリアですぅ〜」

 

 聖女はジョシュアに飛びつこうとしたが、近衛騎士にそれを阻止されて、泣き顔に戻った。


「何をするのですか! 離してください。ジョシュアさまにご挨拶したいだけなのですから」


 そんな聖女を呆れたように見ていたジョシュアが、後ろを振り向いてシャロンにこう言った。


「本当にあんなのが聖女認定されたのか?」


「ええ」


「もう少しマシなのはいなかったのか?」


「先ほどの私達の会話をどこかで聞いていらしたのでしょう?

 昨今聖女様の人気は急降下しているので、ほとんどなり手がいなかったみたいなのです」


「大教会も情けないな。王太子殿下のおっしゃるとおり、やはり大掛かりな体制の見直しに着手しないといけなさそうだな。

 手伝ってくれるか?」


「もちろんですわ。私達の友人達も皆協力してくれると思いますわ。ねぇ、皆様?」


「ええ、喜んで」


 エリザベス達だけでなく、「歴史を語ろう会」の他の仲間達も大きく頷いた。その他多くの令息達も。

 シャロンの断罪の場だというのに、なぜか和気あいあいとなってしまったことに、フェルナン第二王子は困惑し焦った。そしてこう呟いた。

  

「おい、なんなんだよ、私を除け者にして。

 お前達は昔からいつもそうだったよな」


「いつ、私達がフェルナン殿下を除け者にしたというのですか? 

 物心ついたときから私は、王妃殿下の命令でずっとお守役をさせられてきたというのに」


 シャロンはフェルナンを睨みつけながら言った。

 そう。シャロン侯爵令嬢はチャール王太子とフェルナン第二王子、そして彼らの従兄弟のジョシュア公子と幼なじみだった。

 そして幼いころから利発でしっかり者だったシャロンは、優秀な兄と比べると頼りない弟を心配した母親の王妃によって、その補佐役を命じられていたのだ。

 そんな彼女を気の毒に思って、自ら同じ補佐役を買って出たのがジョシュアだった。そのため、四人はほとんど一緒に過ごしていたのだ。

 それゆえに彼を除け者にするはずがなかったのだ。


 シャロンとジョシュアは両思いだった。

 それなのに五年前、国王と王妃によって無理やりに引き裂かれた。頼りないフェルナンにはシャロンがどうしても必要だと、王命で婚約させられたのだ。

 王太子や王弟がそれを阻止しようとしたが、優秀過ぎる長男や弟にコンプレックスを抱いていた国王と、可愛げのない長男よりも愛嬌があり甘え上手な次男を溺愛していた王妃は、聞く耳を持たなかった。

 そして目障りだとして、ジョシュアを隣国へ留学させてしまったのだ。

 

(愛する人と引き裂かれた。それでも国のため、フェルナンのためにと努力し、尽くしてきた結果が、浮気されて婚約破棄。

 そして国外追放、いや、最後は投獄だなんて……)


 シャロンは怒りを通り越して呆れてしまっていた。

「王家主催のパーティーで何をしている」とは、こちらが言いたい台詞だと彼女は思った。

 そもそも、国王夫妻が揃って重い病にかかっていて 、この恒例のパーティーには参加できないことはわかっていたのだ。

 ならば本来なら王太子と共に王族として、この場を仕切らなければならない立場だったのだ。

 それなのにこんな真似をするなんて、王子としての自覚があるのか。

 そろそろ何かしでかすかもしれない。

 そんな予感はあったが、いくらなんでもこんな公の場でここまで馬鹿な真似するなんて、長い付き合いのシャロンもさすがに考えてはいなかった。


 とはいえ、これまで我慢していた鬱憤を、仲間と共にきれいさっぱり吐き出すことができたので、結果的に清々しい気分にはなっていたのだが。

 その上フェルナンとは婚約解消ができそうだし、もしそうなれば愛するジョシュアの側にいられるかもしれない。

 彼は未だに誰とも婚約していないのだから。そう思うと期待で胸が膨らんでいた。


 シャロンとジョシュアが、喚いているフェルナンと平民聖女ミリアを無視して見つめ合っていると、王座の後ろにある扉が開いた。

 そして、彼らのもう一人の幼なじみであるチャール王太子が、上気した顔をして颯爽とホールに入って来た。

 そして意気揚々とこう告げた。


「諸君、開演に遅れたことを謝罪する。

 しかし、聞いて欲しい。

 今、我が愛する妃が無事に出産を終えた。

 母子共に健康だ」


「ワーッ!!!

 王太子殿下、おめでとうございます。」


 ホールの中に歓声が沸き起こった。


「殿下、それで王子殿下、王女殿下、どちらだったのでしょうか?」


 宰相が訊ねると、チャールはにっこりと微笑んだ。そして誇らしげにこう言ったのだ。


「二人とも元気な王子だ。一度に二人の王子を産み、世継ぎ問題を一気に解決してくれた妃には感謝しかない」


 双子の王子誕生と聞いて、さらにホールの中は祝福の嵐となった。

 そんな中で、チャールは弟のフェルナンに向かってこう告げた。


「後継者問題はこれで解決した。お前はもう無理をして王族でいる必要はない。

 臣籍降下していいぞ。

 私に後継者ができてもお前が王族として残るための条件は、シャロン嬢と結婚することだった。

 しかし、お前は自ら彼女との婚約を破棄したそうだから、それは王族に残るつもりはないという意思表示なのだろう?

 国王陛下と王妃殿下に先ほどそれを報告したら、さすがにお前を王族に残すことは諦めたぞ。

 偽聖女であるミリアを王家に入れるわけにはいかないからと」


「なっ! ミリアが偽聖女だなんて、なんてことを言うのですか!」


「あれを本物の聖女だと思っているのは、実情を知らされていない平民と、愚かな貴族くらいだ。今さら何を言っているのだ」


「そんな! 

 それに、私が王族でなくなる? そんな馬鹿な。私はこれからどうすればいいのですか?」


「陛下がお前に相応しい一代限りの爵位を授けてくださるだろう。

 しかし、そこの偽聖女と結婚したいのであれば、平民になっても構わないぞ。お前の好きにさせてやる」


 それを聞いたフェルナンはズルズルと床に座り込んだ。

 彼は聖女との恋に夢中になっていたので、シャロンとの婚約の経緯などすっかり頭から抜け落ちていたのだ。


「どういうこと? 私、王子様のお妃さまになれるんじゃないの? ねぇ、フェルナンさまあ!」


 相変わらず隣で喚いている聖女を無視して、フェルナンは昔のようにシャロンに助けてもらおうと彼女に目を向けた。

 しかしシャロンは彼を見ようともせず、ジョシュアとしっかり手を繋ぎ、仲間達と共に王子誕生を喜び合っていたのだった。


 フェルナン第二王子は学園卒業後に一代限りの伯爵位を授与されて、臣籍降下した。


 マッサル、ロバーツ、マードックは廃嫡こそされなかったが、騒動を起こした上にx無知を晒してしまい、決まっていた仕事には就けなくなった。

 それゆえに、フェルナンの下で共に伯爵領を経営することになった。

 彼らは全員元婚約者に慰謝料を支払わなければならなかったので、生まれ変わったかのように、必死に働いた。

 そして、その合間に、元婚約者が愛読していた歴史書を読み漁りながら涙をこぼした。


 聖女ミリアは多くの貴族の恨みを買ったため、その身の保全名目で、王都から遠い地にある修道院に身を寄せることになった。

 そこは誰も彼女を崇め、讃え、褒めてはくれなかった。

 そのために何度も脱走しようとしたので、ついには独房に閉じ込められた。


 そして無事婚約解消できた四人の令嬢達は、新たに結んだ婚約者との仲を深めつつ、歴史物の芝居の脚本制作に励んでいた。

 元婚約者達が侮蔑していた、人気の歴史物の芝居の脚本、それは彼女達の共作によるものだったのだ。



 読んでくださってありがとうございました。




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