次男の大学受験 −4
「ダメだった。全然ダメ。っていうか、ホテルで全然寝れなかった。緊張で。」
前期日程で東大受験のため東京に行っていた次男が帰ってきて「ただいま」の後に言ったのがコレ。
受験に向けて手続き的なこととかは長男の時とほぼ同じだし、次男はいつも通りガリガリ勉強しているし、共通テストも特に何事もなく過ぎて(もちろん次男的には色々大変だったのだろうが共有されていないので)事前の盛り上がりはイマイチ。 長男と違って次男は高校に入って間も無くスマホを使っていたので迷子の心配もないし、前日東京入りしてホテルにチェックインした後の試験会場の下見には夫が長男に連絡して付き合うよう頼んでいたので安心だ。そんな訳で、私の中で次男の大学受験そのものの印象は「ダメだった」から始まる感じ。
いや、そういえば一つ強烈に印象に残ったことがあった。
「ただいま」と帰ってくる前。その日の午後、バイト中の私に夫から連絡が入った。曰く、次男の宿泊先のホテルから「チェックアウトがされていない」と電話が来た。と。私も夫も特に何の注意もしていないが、常識的に朝チェックアウトして(荷物は預かってもらうかコインロッカー利用で)から試験を受けて帰ってくるものと思っていた。これは何かあったのではと大慌てだったのだが、結果的にはただチェックアウトしてなかっただけ。
試験終了後ホテルに戻ってチェックアウト。予約時にカード決済はしているが、本来12時のチェックアウトを夕方にしたらその部屋はもう使えない。1泊追加料金掛かっちゃうのでは?お金持ってるかなと心配していたが、そんな事もなく、(眠れないし、試験はダメだったという事以外は)何事もなかった様な顔で帰ってきた。
次男の言い分はこうだ。
「僕もおかしいなと思ったけど、『チャックアウト午後0時まで』って書いてあった。」
「うん。朝ゆっくりでいいよ、って親切なホテルだね。で、昼にできないんだから当然朝出る前にしなきゃでしょ。」
「いやいやいや、午後0時は夜の12時でしょ。」
ママ何言ってんの、みたいな顔で言われた衝撃。え、何言ってんのコイツ。
「午後0時は昼の12時だろ。『午』は昼。昼の前の0時は夜中の12時。そこからスタートして『午』を境に午後。午前11時59分59秒から12時になる瞬間までが午前で12時ジャストから午後。それが午後0時。」
なんかちょっと自分が何言ってるのかよく分からなくなってきたところで次男も言い返してくる。
「昼の後は夜でしょ。午後0時って夜だって。」
教え諭すみたいな口調やめろ。自信満々な態度に『え、もしかして私間違ってるのか?』と不安になって切り口を変えることにする。ズルい大人バンザイ。
「チェックアウトが夜中の12時って、それもう2泊じゃん。ニーニーさ、15時にチャックインしたでしょ?大体朝10時〜12時にチェックアウトでお客さん出して、お部屋クリーニングしたり整えて15時から次のお客が入れる様にして回してるわけよね。夜中チェックアウトして、その部屋どうすんの?専従のスタッフも必要になっちゃうよね?常識的に考えてもおかしいだろ。」
「いや、おかしいとはちょっと思ったけど。でも書いてあったし。」
「おかしいと思ったら確認するべきだろ。現にトラブルになってるんだからさ。これ追加料金取られても文句言えない事案だよ。子どもだから優しくしてくれたんだよ。感謝して学びな。」
次男は全く納得いきません、という顔をしていたがとりあえず沈黙。ふぅ、勝った。子どもとの口喧嘩(お説教)では絶対に負けないと決めている。そう遠くないうちに勝ちを譲られる日が来るんだろうな。
と、まあ試験と直接関係無いところでちょっとした盛り上がりがあった。
絶対不合格、と言われても一応準備はしなくてはならない。入寮申請のアレですよ。作文。
長男みたいな無駄に壮大な文は書かないけれど、まあ苦手。「どうせ使わないのになー」とか呟きながら、でもサラッと書いていた。多分読ませて貰ったけれど、何の印象も残ってない、そんな感じの文章。ええ、覚えてないです。
必要なことを済ませたらもういつも通りの次男で、そのまま合格発表で「不合格」を知ってもこれといった変化を見せなかった。これはこれでリアクションに困るというか。何となくしょんぼりして見えるのもきっと気のせいよね、と何か慰めっぽいことを言いそうになるのをグッと堪えて意識を後期の東北大に向ける。合格発表の二日後には後期日程、つまり「東大不合格」を知った翌日には仙台に向けて出発だ。ガッカリに浸る時間が無いのは良いな。
翌日、私は朝からバイトだったので出がけに起きてきた次男に気をつけて、とだけ声をかけて家を出た。
東北大学は仙台にある。
東北も青森や秋田・岩手は流石に遠過ぎだが、山形・福島・宮城は転勤で住んだことがあったり、「ちょっと遠出のドライブ」の範囲だったりして、新潟県人には割と身近なイメージだ。しかし次男一人での移動だとちょっと話が変わってくる。
新潟駅ー仙台駅間の距離は165キロ。結構近い。と、思ったら。新潟県を走る上越新幹線は首都圏を目指しているので逆方向にしか向かっていない。ではどうするか。
新潟駅から上越新幹線で大宮(埼玉)まで行き、東北新幹線に乗り換えて仙台に行く、何と625キロ。およそ3時間半20,000円前後の旅だ。殆ど7時間弱かかる6,000円弱の在来線があるが、受験にこれは非現実的。
試験には次男の負担を減らすため新幹線(JRと宿泊とセットでお得だった)を予約したが、合格した暁には高速バスを使ってもらおう。高速バスだと3時間半でだいたい6,000円。若いから平気なはず。
東京に行く時と違って大宮で乗り換えがあるのが少々不安だが、そういえば次男は東北大のオープンキャンパスに新幹線で行って経験済みだった。一安心。
高校からのオープンキャンパス参加申し込みのお手紙を見て是非行って来いと薦めた時は行かなくていいと言い、直前でやっぱり行きたいと言い出して個人で新幹線で行ったのだった。高速バスでは時間が合わなかったから。
「高校から行ってればバスで無料だったのに」と悔しい思いをしたものだ。
その日のバイト中も、やはり夫から逐一メッセージが送られてきた。休憩時間にしか見ないのに「新幹線乗れたかな?」「乗り換え大丈夫かな」と私が慣れない旅行中かと思うような内容で、重めの愛情が溢れている。本人に送れよ。と思ったが、次男はどうせ見ない。意識的にチェックするよう言ってあるが、多分無駄。
だがしかし、以外にも今回はホテルにチェックインしたという連絡があった。こんな事で成長を感じるとは。
夜少し電話で話して、早く休むようにと伝えて終えた。「チェックアウトをしてから出るように」と言わなかった自分を褒めてやりたい。




