勇者処刑
ナギはポケットから、アイカが閉じ込められている牢屋の鍵を出した。
ナギ「……これで、出られるよ」
カチャン、と静かな音を立てて牢屋の扉が開く。
続けて、ナギはアイカの手錠も外した。
アイカ「よく、鍵を見つけられたね」
その背後から、メイメイがひょこっと顔を出す。
メイメイ「僕のおかげだよ」
アイカは驚いて目を見開いた。
アイカ「お前……メイメイか」
メイメイは少し照れたように肩をすくめる。
メイメイ「僕の能力で、牢屋の番人の記憶を読んだのさぁ。 どこに鍵をしまったか、全部わかった」
アイカは納得したように息を吐く。
メイメイ「アイカ……ごめんよ。裏切って」
メイメイはしょんぼりとうつむいた。
アイカは首を横に振る。
アイカ「お前が魔王に脅されていたことは、サクナから聞いている。 ……もういい。許すよ」
メイメイの目が少し潤んだ。
メイメイ「ありがとう……アイカ」
そのとき、メイメイは牢屋の奥を指さした。
メイメイ「おい、ここが君の新しい部屋だよ」
その言葉に反応するように、牢屋の入口に影が立った。
アイカに化けた魔王。
魔王は、無表情のまま牢屋に入ってくる。
魔王「そうなのですか」
アイカは息を呑んだ。
アイカ「ドッペルゲンガー……!!」
次の日。
アイカに化けた魔王は、国民の前に設置された死刑台で体を固定されていた。
両腕は重い鉄枷で拘束され、首の上には冷たい刃――ギロチン。
アイカに化けた魔王は、ぼんやりと空を見上げた。
魔王(……私は記憶がない。 最初の記憶は、あのメイメイという男が放った言葉だ)
魔王(魔王様)
魔王(……自分は魔王なのか? いや、こんなイケメンが魔王なわけないだろ)
※魔王である。
処刑場に響く国民の声。
「勇者様がそんなことするわけない!」
「なにかの間違いだ!」
魔王は眉をひそめた。
魔王(……どうやら俺は“勇者”らしいな)
魔王(まぁ、見た目が勇者っぽいしな。うん)
※勇者ではない。
魔王は急に思い出したように言った。
魔王「よくよく考えると……あのメイメイとかいう男は胡散臭い。 ぜひ、親の顔を見てみたいものだ。 ろくな親ではないだろう」
※自分が産みの親である。
処刑場のざわめきはさらに大きくなる。
国民が叫ぶ。
「勇者様は魔王から姫様を救い出したんだぞ!」
「死刑は厳しすぎないか!」
魔王(……俺は姫様を魔王から救い出したのか。 ……ざまぁみろ、魔王)
※自分が魔王です。
王国の衛兵が怒鳴る。
衛兵「だまれ、だまれ!! この男は城で暴れ、伝統的な宝物を壊し、暴れまわったんだ! 王にまで手をあげた! これは立派な犯罪だ!」
国民「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
魔王は困惑したように眉をひそめた。
魔王(……おれは、いったいなんてことをしたんだ)
記憶がないので、衛兵の言葉をそのまま信じる。
そして、魔王は突然、何かを“理解した気”になった。
魔王(あ、わかった)
魔王(魔王から姫を救い出した俺に嫉妬した王が…… 俺を陥れようとしているんだ)
魔王(だから俺を処刑しようとしている……そういうことか!)
処刑人が前に進み、声を張り上げた。
処刑人「みなのもの、鎮まれ!!!」
処刑人「これより、この勇者を処刑する!」
国民「やめろぉぉぉぉ!!」
処刑人「勇者よ。最後に言い残す言葉はあるか」
魔王はぽかんとした顔で言った。
魔王「え? 死にたくないよ」
処刑場「いやそりゃそうだろ!!」
処刑人「じゃあ、なぜ城で暴れたんだ」
魔王「ごめん。おれ暴れた記憶ないんだ」
処刑人「なんて見苦しい言い訳を」
国民「どういうこと?」
衛兵が怒鳴る。
衛兵「黙れ! こいつは王に暴行した大罪人だ!」
魔王(……まてよ。おれが王に暴行。 そうか、この国の王は暴君なんだ)
魔王(それで、おれは正義を貫いたんだ)
魔王(納得できた。おれが悪いことするわけない)
※悪いことしかしてこなかった。
処刑人はギロチンの刃を確認し、声を張り上げた。
処刑人「処刑を開始する!!」
国民「やめろぉぉぉぉ!!」
魔王「ちょっと待って! 本当に死にたくないんだって!」
処刑人「黙れ! 罪人!」
魔王「罪人じゃない! 俺は勇者なんだろ!? 姫を助けたんだろ!? なんで死ななきゃいけないんだよ!」
国民「勇者様ぁぁぁぁ!!」
処刑人が刃を持ち上げる。
魔王 (もうだめだ)
刃が落ちる、その瞬間。
「まった!!!!!!」
空気が裂けるような声が響いた。
処刑場の全員が一斉に振り返る。
そこに現れた3人組。
金髪碧眼の美しい女性。
国民「姫様ぁぁぁぁぁ!!」
小柄な少女。
国民「聖女様!?」
杖を持った少年。
国民「誰!?」
国民「誰!?」
国民「あの子誰!?」
バイオレット「俺だよぉぉぉぉ!!」
国民「知らねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
処刑場は混乱の渦に包まれた。
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