5.冒険の準備
ワクワク王国の美しき姫、サクナ姫が突如として魔王軍に誘拐された――!
王国中に緊張が走り、人々のざわめきが城中に響き渡る中、勇者アイカは、ワクワクール王からの切実な願いを受け取った。
(我が娘、サクナを――助けてほしい)
その祈りにも似た言葉が、アイカの胸に深く刻まれる。
翌朝――勇者アイカと、不運続きでどこか憎めない少女ナギは、王国のお城の広間で、冒険の準備を進めていた。
大理石の床に足音が反響し、朝日が窓から差し込む中、二人の間には決意の空気が漂っていた。
ナギ「アイカ君!! 食べ物や飲み物は、しっかり持ってきたよ!!」
ナギのリュックは、まるで小さな商店のように飲食物でパンパンに膨らんでいる。
ナギは誇らしげに胸を張り、満面の笑みでアイカを見つめた。
一方、アイカは剣を握りしめ、柄を確かめるように指を動かす。
アイカ「この剣……!! かっこいい……!!」
アイカ「ふ……なつかしい……」
ナギはそんなアイカをじっと見つめ、少し苦笑した。
この世界に来る前、アイカの元いた世界では剣の所持は厳しく制限されていたことを、ナギはアイカから聞いている。
だから、アイカは剣を扱ったことがないだろうし、その剣の良し悪しを理解できていないだろう。
ナギ「防具はどうするの?」
アイカは肩をすくめ、軽く笑った。
アイカ「ああ、俺、この世界に召喚されたときに頑丈な体を手に入れたから、別にいらない」
ナギ「そうなんだ……」
ナギは笑顔を絶やさずリュックを担ごうとしたが、予想以上に重くて持ち上がらない。
アイカはそれを見て、くすりと笑った。
アイカ「じゃあ半分に分けて、半分は俺が持つよ!!」
ふとアイカは視線を逸らし、表情を引き締めた。
アイカ「……話、変わるんだけど」
ナギは一瞬、息をのんだ。
アイカ「ナギは……未来の記憶があるんだよね?」
ナギ「うん」
アイカはゆっくりと剣を握り直し、低い声で続けた。
アイカ「本当の歴史では、サクナ王女と俺で魔王を倒すんだよな」
ナギ「うん……」
アイカ「そして……俺は、その戦いの後遺症で、数日後に死ぬんだよね」
ナギは首をかしげ、静かに言葉を選ぶ。
ナギ「病気じゃない。私は、後遺症だと思う」
アイカ「そっか……呪いとか、そういうものかなぁ」
ナギ「おそらく……」
静寂の中、アイカは剣の先を見つめ、決意を固めるように視線を前方に向けた。
アイカ「……魔王軍について、知っている情報をくれ」
ナギは深く息をつき、リュックを整えながら頷いた。
ナギ「うん……教えるね」
ナギ「魔王城には強力な結界が張られていて、侵入は不可能なの」
ナギ「その結界を解除するには、魔王軍の四天王を全員倒さないといけない」
ナギ「四天王はそれぞれ、魔王から強力な能力を授かっているんだ」
ナギは顔を少し曇らせ、言葉を選ぶように続けた。
ナギ「まず、サクナ姫を誘拐した魔物……ハラヤ!
ハラヤを視認した人間は、過去のトラウマが蘇って動けなくなるの」
アイカは剣を握りしめ、眉をひそめながらうなずいた。
アイカ「あいつか……なるほどな。だから、騎士たちは動けなかったのか」
アイカは一瞬、目を細め、思考を巡らせる。
アイカ「で、ほかの三人は?」
ナギは深く息を吸い、次の言葉をゆっくりと選んだ。
ナギ「めいめい。かわいい名前だけど、能力は触れた生き物の記憶を改ざんする」
ナギ「ユウキュ。能力は憑依。相手の体を乗っ取って心理戦で攻めてくる」
ナギ「リョウキ。能力は回復……しかも、噂では5メートルを超える巨大な魔物なんだ」
アイカは思わず冷や汗を垂らし、剣を握る手に力が入る。
アイカ「な、なんだよ……強すぎるだろ……」
ナギはゆっくり頷き、優しい笑みを浮かべた。
ナギ「大丈夫。私たちには仲間もいるから」
ナギは胸を張りながら、仲間の名前を次々と告げた。
ナギ「マンマミーア村にいる少年――大魔術師バイオレット!!」
ナギ「どんな傷でも癒す、教会の大聖女マイマイ」
ナギ「それに、ドワーフの国にある勇者の剣を抜いて強化された、サクナ姫」
アイカは少し感心してうなずいた。
アイカ「なるほど……魔術師にヒーラーか」
心の中で、アイカはふと思った。
(RPGの定番の役職……これでパーティもバランスが取れてるな……)
ナギは少し肩を落とし、俯き気味に呟いた。
ナギ「……でも、サクナ姫がいないと、勇者の剣をどうするかって問題があるんだよね」
アイカは肩をすくめ、にやりと笑った。
アイカ「まあ……なんとかなるだろ」
ナギはその楽観的な返事に少し呆れながらも、心の奥で安心したように息をついた。
ナギ「……ほんとに、アイカ君って頼もしいね」
アイカは剣を軽く握り直し、真剣な目でナギを見つめる。
アイカ「まずは、どうする?」
ナギは少し考え込みながらも、しっかりと答えた。
ナギ「本来の歴史では、まずはじめに、ワクワク王国の隣――ラララー王国にいる魔王軍四天王のめいめいを倒しに行くことになってる」
アイカの目がキラリと輝く。
アイカ「よし! じゃあ、めいめいをまず倒すか!!」
ナギは少し笑みを浮かべ、希望に満ちた声で答えた。
ナギ「うん……行こう、アイカ君。いよいよ、冒険の始まりだね」
ナギはアイカを見つめて、
ナギの胸に、強い想いが芽生える。
(――今度こそ、あなたを死なせない……!)
小さな息を整え、ナギは微かに口角を上げた。
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