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41.絶望

ロウナ王国の城下町。

夕暮れの光が石畳を赤く染め、家々の影が長く伸びていた。


その美しさを味わう余裕など、アイカとサクナにはなかった。


二人は息を切らしながら走っていた。

胸の奥にあるのは、ナギを見つけるという願い。


昼からずっと、ロウナの民に聞き込みを続けていた。

「ナギらしき人を見た」という噂を頼りに、城下町を何度も巡り、路地を覗き、店を回り、影を追った。


だが、手がかりはどれも薄い。


そして、夕陽が沈みかけた頃。


サクナがついに声を荒げた。


サクナ「アイカ、こんなに探して見つからないんだ。あきらめよう。」


アイカは立ち止まらない。

その瞳は、どこか壊れそうなほど必死だった。


アイカ「……ナギがいるかもしれない。お願いだ、あとすこしだけ」


震える声。

サクナはその震えの意味を知っていた。


サクナはアイカを見つめ、静かに言った。


サクナ「わかった。本当に好きなんだね。ナギちゃんのこと」


アイカは短く息を吸い、答えた。


アイカ「ああ。おれの……大切な人だ」


その瞬間だった。

角を曲がった先、 夕陽の中に、ナギが立っていた。


買い物袋を抱え、柔らかく微笑んでいる。

その隣には、魔王がいた。


アイカの足が止まった。 心臓が、音を忘れた。


アイカ「……ナギ」


ナギがゆっくり振り向く。

アイカの表情がぱっと明るくなる。


アイカ「……見つけた」


ナギもアイカを見つめる。

数秒の沈黙。

アイカは安心したように笑った。


アイカ「ナギ」


ナギは首をかしげる。


ナギ「……どなたですか?」


世界が崩れ落ちた。

ナギは本当に、心の底から“知らない人”を見る目をしていた。


魔王はナギの肩に手を置き、優しく微笑む。

その仕草は、まるで恋人を守るようだった。


魔王「ナギ、危ないぞ。知らない人に近づくな」


ナギはこくりと頷き


ナギ「うん。アイカ君」


その呼び名が、アイカの胸をえぐった。

ナギは魔王を“アイカ”と呼んだ。 自分の名前を、魔王に向けて。


アイカ「ナギ……俺だよ。アイカだよ」

アイカの声はかすれ、震え、壊れかけていた。


ナギは困ったように眉を寄せた。


ナギ「……ごめんなさい。あなたのこと、本当に知らないんです」

アイカの視界が揺れた。

夕陽が滲み、石畳が歪む。


魔王は満足そうに笑った。

その笑みは、奪った記憶を誇る者の笑みだった。


サクナが駆け寄る。


サクナ「ナギちゃん! 私のことは覚えてる?」


ナギははっとしたようにサクナを見た。


ナギ「……サクナさん。どうしてここに……?」


ナギは小さく呟く。


ナギ「……あれ、わたしは、さらわれて……」


魔王の顔から血の気が引いた。


魔王(そうか……ナギの記憶のアイカを私に置き換えたが、サクナ姫はそのままだから)


魔王(記憶が揺らいでいる)


魔王(長く話させれば危険だ)


魔王はナギの手を握った。


魔王「ナギ、帰ろう」


ナギは戸惑いながらも、魔王の手を握り返そうとする。


その瞬間


アイカ「ナギに触れるな……!」


アイカの叫びが響いた。


震える声。

怒りと悲しみが混ざり、剥き出しの感情となっていた。


アイカは魔王に駆け寄り、拳を叩きつけた。

魔王の身体が石畳に転がる。


アイカ「ナギは……ナギは俺と生きてきたんだ!  一緒に笑って、一緒に泣いて……!  お前なんかじゃない……!」


ナギは怯えたように一歩下がった。


ナギ「やめてください……アイカ君にひどいことしないで……!」


アイカの心臓が止まりそうになった。


ナギは魔王の腕を掴む。


ナギ「アイカ君は……私を助けてくれた人なんです。  私の大切な人なんです」


ナギは苦しそうにアイカを見る。


胸が痛む。

理由は分からない。

それでも。


ナギ「あなたなんて……大嫌いです」


その言葉は、アイカの膝を砕いた。

崩れ落ちるように地面に手をつく。


魔王は勝ち誇ったようにナギの肩を抱いた。


魔王「行こう、ナギ」


ナギ「うん、アイカ君」


ナギが微笑む。


アイカは顔を地面から上げて、その光景をみて。


アイカは絶望の顔を浮かべた。


サクナは剣を抜いた。


サクナ「待て、魔王」


魔王が振り向く。


サクナ「ナギちゃんを返せ」


怒りが剣先に宿っていた。


サクナは魔王に切りかかった。


魔王は軽く避け、逆に一撃を加える。


サクナがうずくまり、血が石畳に落ちる。


魔王はサクナとアイカを見て。

そして、ナギを見つめて言った。


魔王「お前たち、選べ」


夕陽が完全に沈む直前。

魔王の声は、夜の始まりのように冷たかった。


魔王「今、ここで死ぬか。もう二度と俺とナギに関わらないように生きるか」


アイカの喉が震え、サクナの剣が揺れ、ナギの瞳が揺れた。


アイカは答えられなかった。


夕陽が沈む。


空から、最後の光が消え。


アイカの世界からも、光が消えた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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